姉妹、うんこをする 2
夢中で世界樹5やってました
日付変わって気付きました。
すいません。
〇
ギリ間に合った。何の話かというと妹の膀胱の話だ。
深夜のコンビニのトイレに一緒に入っていくパジャマの娘二人組を見て、店員がどう思ったかは想像したくない。
こんな夜中に一人は心細いという妹が用足しを終えるまで傍でいてやって(こいつほんとポンコツ)、それから店内を少し歩く。明日休みだしこんな夜中にコンビニなんか来るの滅多にないので、冒険心が働いたのだ。
「ふふふ……夜中にコンビニとかまるで不良やな。タバコ買ったろかいな」
「わたしたちじゃ百パーセント買えないよ。ねぇお姉ちゃん、早く帰らないとおまわりさんに怒られちゃうよ」
「んなこというておまえもちょっと楽しいやろ?」
「実はちょっとだけ……」緑子ははにかむ。「でも本物の不良と会ったら怖いよね」
「すぐに出てったらいけるいける。目ぇ覚めたし、明日休みやし、お菓子買って家で食べるくらいの逸脱は良いんとちゃう? 後はジュースやな。ふふ、愉快愉快」
なんて言いながら妹を連れまわしていると、ふと介護用品の扱いがあるのが目に入った。
携帯用の使い捨てトイレがあった。ふと紫子は先ほど妹とした会話と、今自分達がここにいる理由を思い出す。
「これは必要なものちゃうか?」紫子は使い捨てトイレを手に取る。「これ組み立てて気張るんか。あんま恰好の良ぇもんとちゃうが……まあ漏らすより良いしな」
「流石お姉ちゃん。良いの見付けるね」緑子は笑顔になる。「あんまり気は進まないけど、いざという時にあるのとないのじゃ違うもんね」
「ま、まあ『いざ』というか……常備しとこうや。アパートの便所直ったとしても、時にそこまでの外出がままならんおまえにはこれがいる」
「……何も言えません」緑子は顔を両手で覆った。
「……一人でトイレいけんくてもおまえは立派やで緑子。それに元はと言えばトイレ共用の安アパートを契約するのがやっとという稼ぎのお姉ちゃんが悪い。とにかくこれは夜食と一緒に買って行こうそうしよう」
「それは良いと思うけど……お姉ちゃん、お金あるの? 財布どっちも持って来てないじゃない」
「おまえ靴脱いでみ?」
「え? あ? うん」意味不明な要求でも何の疑問もなく従順に従う緑子。律儀に靴を両方脱いで靴下でコンビニの床に立つ。「脱いだよ」
「靴底めくってみ?」
「……千円出て来た」緑子は驚いた顔をした。
「こないだ家の全部の靴に千円ずつ仕込んだんや」紫子は得意満面になる。
「どうしてそんなことを!?」
「あれ言うてへなんだっけ? お姉ちゃん外で財布とかよう失くすやん? 一度に最大三千円しか持ち歩かんから大きな損害を出したことはないけど、電車とか乗ると困ることあるやんな。今通いよう病院がまず家から遠いし。せやから保険としてこうしとるんや。アタマえぇやろ?」
「ねえお姉ちゃん。これって水たまりとか踏んじゃうとまずくない?」
「そこに気付くとはおまえ天才か」
二人の靴底にあった千円札二枚を合わせて二千円で携帯トイレと夜食は買えた。帰ってから靴底の千円は全部回収した。
〇
その後はきの〇の山とたけの〇の里のどちらが美味かというのを真剣に議論したりしつつ、夜食してから歯を磨いて寝た。妹はちょっとはしゃいでいた。普段は寝ている姉の隣で不眠の症状を持て余すだけの退屈な深夜が楽しい夜宴になって嬉しいのだろう。
ただ変な時間に飲み食いした弊害はしっかり出たらしく、翌朝紫子が目を覚ますと早速携帯トイレが一枚使われていた。
順調に消化された携帯トイレはほんの数日で使い切られてしまった。ここで初めて紫子はこの道具の性質に気付く。この携帯トイレは登山中や渋滞中など緊急事態で使用されることを想定されており、後始末が簡単で高性能な分だけ、量と言い値段と言い継続使用を目的とはされていないのだった。
「この枚数で1280円はちょっと高いよね」
「コンビニで買わんかったらマシかもしれんけどなぁ」
「わたしが使い過ぎてるところもあるけど……」
「セーリテキなもんやけんしゃーないわ。節約しようとか思うて我慢する方が体に良くない」
「コストパフォーマンスのことを言えば介護用おむつとかのがまだ良いかもね」
「十六の娘がおむつってんのも、おまえなりに思うとこあるんでない?」
「そういうのを必要とする人は年齢問わず世の中にいるんだし、客観的に言って今のわたしはそうした立場にあると思うの。しょうがないんじゃないかな?」
そう言った緑子の表情にはある種の諦念があった。自分の中で何かしら放棄することに納得している。不憫なもんだ。そりゃもちろん、糞尿のやり方如きで尊厳が保たれたり保たれなかったりするはずはない。だが普通のトイレで普通に用を足したいという気持ちがないはずがないのだ。
「携帯トイレの方がマシでない? 多少金かかるいうたかて絶対必要な出費やろそれは」
「でもいつまでこの状態が続くか分からないし、トイレする度に高いお金払ってたら正直厳しいもん……」緑子は思い詰めた顔だ。
妹はこの問題にかなり苦しんでいるらしい。解決策を一緒に考えてやることが姉としての責務に違いない。ようするにもっと人間らしい、というか十六の娘らしいやり方で排泄できるようにしてやれば良いのだ。
この妹は介助が必要な人間に違いはなくとも、一人で排泄できない類の障害を持っている訳では決してない。つまりふつうのトイレの代わりになるようなものを用意してやれば、介護用おむつなんて憂き目にあわずに済む。
工作なら自分の得意とするところだ。紫子はぽんと胸を叩き、思い詰める妹に向けて言った。
「安心しぃ。お姉ちゃんが良ぇもん作ったる」
「え? ど、どういうこと?」
「ようするにトイレの代わりになるようなものがあればえぇ訳やろ? ふふふ、そういうんはウチ得意や。段ボールと木材を使わせたら右に出るものはいないと言ってえぇで……」
そういうと、妹は期待に満ち溢れた表情を紫子に向ける。紫子の思考はゴミ箱の傍に寝かせてある何枚かの段ボールに向かっていた。
〇
「……できた!」紫子は快哉をあげる。「できたで緑子! 『ブルースカイ1』や!」
段ボールの内側をビニールで覆い新聞紙を敷き詰めたという代物だった。コンビニで買った携帯トイレの弱点『けっこう的が小さい』を克服した大傑作である。
サイズ的には和式便所と同程度で体勢的に無理がない。用を足した後は周囲のビニールを引っ張り、口を縛り、中の新聞紙と共にゴミに出してしまえば良い。ビニールは安いし新聞紙は近所から無限に貰って来られる。もうこれ以上なく完璧な仕上がりだと自画自賛する紫子だ。
「どや緑子! なかなかのもんやろ?」
「うーん。……うーんとね、お姉ちゃん」緑子はとっても困った表情で『ブルースカイ1』を見詰めている。「すごく一生懸命作ってくれたのは嬉しいんだけど、ちょっと色々問題が……」
「お? なんや。ま、どんなものにも改善の余地はある。如何に天才的な発明品やったとしてもや。なんでも言うてくれ」
「まず外観なんだけど」
「うん」
「一言で言うと……『猫用』」
妹の一言に、紫子は得意満面の笑顔のまま凍り付いた。
「後はその……新聞紙じゃあ吸水能力にだいぶ不安が残るよね。うんちだけだったらまだしも絶対におしっこも一緒に出ちゃうし。万一ビニールに穴が空いたら大参事かも」
「ビ、ビニールは二重にすれば……」
「ビニールの問題はひとまずそれで良しとして」緑子は甘々の採点でそれを良しとした。「でも携帯トイレの値段ってほとんど吸水ポリマーの値段だと思うんだよね。それを新聞紙で代用するのは難しいと思うの……」
「りょ、量を増やせばなんとか……」
紫子は思い出す。客が店内で酒の瓶を割った時のことだ。あれを処分しようととりあえず雑巾を持ってきた紫子だったが店長には首を振られ、代わりに用意させられたのは新聞紙だった。大量の新聞紙を液体の上に広げて積み上げ、水気を可能な限り取ってから床を拭くことで痕跡を残さない効果があるというのだ。その出来事から紫子は新聞紙の可能性を学び、今回の発明に活かしたのである。案外何とかなるんじゃないか?
「試してみんと分からんやん何事も。よっしゃ。ウチな実はな、これ作りながらちょっともよおして来とったねん。ここは一つ、どんなもんかウチが試したろ。うんと新聞紙敷き詰めてやな……」
「え? お、お姉ちゃんこれでするの? やめようよ。わたしはしょうがないけどお姉ちゃんまで人間としての尊厳を失う必要ないよ!」
「……ふふ、止めるな妹よ。ウチ自身の発明品や。既に愛着が湧いてしもうとる。ただの一回も役目を果たせずに捨てられるのは、こいつにとってあまりにも不幸やろ……」
「そんな……だったらわたしが……」
などと言い合っていると、唐突にチャイムの音が鳴り響いた。
ぴぽぴぽぴぽぴぽん! とばかりの激しい連打に姉妹は慌てて尻餅を付く。二人は頷き合うと、『ブルースカイ1』をそっと来客から隠すように移動させる妹を尻目に、紫子が対応した。
扉を開けると茜が立っていた。
「トイレ貸してください!」
悲壮な顔の友人に猛烈に胸倉を捕まれた。
「電車ん中で催して慌てて降りて来て! アテにしてた駅のトイレは閉鎖中で! 肛門投手今シーズン二敗目寸前の大ピンチなのです! でも良かったですよあなたらのアパートが近くにあって。さあ、おとなしくあなた方のトイレに私のアトミック・ボムを爆発させるがよろしい! 私の大便を飲み込めてトイレもさぞかし光栄なことでしょう! 早く!」
「あー、えっと。あかねちゃん?」紫子は眉を顰める。「ちょくちょく来るのに気ぃ付いてなかったんか? この部屋トイレとかないで?」
「ああ? マジかよ風呂なしは知ってたけどトイレもなしかよ。じゃああなたらどこでしてんですか? そこ教えて下さいよ」
「アパートの共用トイレがあるんやけど……そっちは故障中で」
「オーマイゴット! ヤバいよヤバいよ。この近くどっか公衆トイレある?」
「コ、コンビニあるけど、まあまあ遠いかな……」
「ね、ねぇあかねちゃん」後ろから、緑子はひょこひょこと歩いてやって来た。「非常事態なんだよね?」
「これ以上なく非常事態ですよ!」茜は顔を青白くして余裕のない口調で言った。
「じゃあ、その、これ」緑子は『ブルースカイ1』をおずおずと茜に向けて掲げた。「……あ、後始末がちょっとアレだけど、トイレとして最低限度の能力はあると思うの」
「あ? なにそれ? 猫のトイレ?」
「ああこれウチが緑子用にこさえた便所やで」紫子はけろりと言った。
「おまえ姉貴に虐待されてねぇ!?」茜は目を剥いて緑子を見た。
「お、お姉ちゃんは真剣にわたしの為を想って……」緑子は震えた声で言う。「あんまり怒鳴らないでよぅあかねちゃぁん」
「あ、いやすいません緑子ちゃん。え、でもちょっと待って。アパートの共用トイレが故障中って本当にこれでしてんですかあなた。しかもそれを私に勧めて来るって……あぁあああまずいまずいここまで来てるぅう」茜は腹を押さえてもだえ始める。「もう一分と持たねぇよ。ヤバいってこれ」
「緑子。ウチらがおったらあかねちゃんもやりにくいやろ」紫子は妹の肩を叩いた。
「うんそうだねお姉ちゃん」緑子は姉に頷き、『ブルースカイ1』を床に置く。
姉妹揃って部屋を出て、茜を玄関から室内へ押し込む。それから最大の友情と優しさを込めた表情を茜に向けると、そっと扉を閉めた。
「終わったらいうてなー」
「ゆっくりねー」
「い、いや待った! マジ? マジの奴? マジで私これ以外選択肢ないの? 人間的尊厳はいったいどこへ? あぁあああでも腹が腹が! ちくっしょぉおおめぇえええ!」
後に、アパートの住人達の間で伝説となるその喚き声を茜が発したところで、この話はおしまい。
分かる人にだけ分かる話をすると、ぼくのやってる世界樹5のギルメンには全部この作品のキャラの名前つけてます。
紫子ちゃんと緑子ちゃんは一週目は支配者ウォロ(紫子)と導師ウォロ(緑子)のコンビで、今やってる二週目では迅雷フェンサー(紫子)と幻影フェンサー(緑子)のコンビです。




