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姉妹、ポケモ○トレーナーになる 2

初代ポケモンはエアプです。

 ○


 妹はポケモンにハマった。ドハまりした。

 自分が『あかねちゃんに勝ちたいから協力してくれ』なんて依頼したのが理由だとは思う。元々知識や戦略がものをいうゲームは得意な緑子だし、ポケモンのソフトと姉の為という目的を与えれば、こうなることは予想できたはずではあった。楽しそうだし良いんだけれど、のめり込みすぎるのはお姉ちゃんちょっと心配である。

 パーティメンバー六匹も結局は緑子が一人で考えたようなもんだ。これを入れたいと紫子が主張すればどんなに的外れな意見でも反映されただろうが、地頭にこうも差があるなら任せてしまった方が良い。向こうの言うことは正直半分も分からないが、緑子が選んだ六匹ならきっと強いんだろう。

 夕方から夜は紫子がプレイするのを後ろから緑子が眺めていて、深夜は寝ている紫子の傍で懐中電灯を壁にガムテープで貼った緑子がプレイした。夜通しのプレイは流石に止めようかと思ったが、楽しそうにしているし茜と対戦するまでの数日間のことなので、『寝れそうな時は寝ぇよ』というに留めた。朝起きてみるとレベル20だったビリリダマがレベル85のマルマインになっていてビビったりした。

 流石に寝不足だったので勝負の前日は眠剤飲ませた。代わりに紫子が根性で十一時まで起きて最後の仕上げをし、妹の隣で泥のように眠り……そして。

 いよいよ、勝負の日を迎えた。


 ×


 「私です!」

 昼過ぎに茜がやって来た。その手にはもちろんゲームボーイが握られている。

 「おーう」「はーい」

 薬で八時間寝たので緑子はコンディション良好。最後にミュウツーのレベルを上げられるだけ上げるつもりだったところ、紫子に寝るように言われて薬を飲んだ。

 あんまりゲームしすぎて心配かけてたらしい。寝ていた緑子の代わりに姉はミュウツーをかなりのレベルまで上げてくれていて、お陰で最高の布陣を姉妹は用意できていた。これならきっと茜にも負けない。

 「それで、どちらが先に相手をしてくださるのですか? 私の予想では手ごわいのは緑子ちゃんの方ですが……」

 「それなんやけどな、あかねちゃん」紫子は不敵に笑い、緑子の肩を抱く。「ウチ妹と組んだねん。あんたに勝つ為に共同戦線張った。一つのソフトを二人でプレイして二人で育てたんよ。やけんどっちからとかないで」

 「ふむ……あなた達のことですからコンビで来ることは既定路線ですけど……」茜は首を傾げる。「それやるなら別々にプレイして、それぞれ三匹ずつ育てた方が効率良かったんじゃないですか?」

 「「あ」」姉妹は顔を見合わせた。

 「え? 気付かなかったんですか?」

 「途中でそっちでも良かったかなとは思ったけど……」「ま、まあウチ一人やと多分五日じゃミュウツーまでいかんしな」「それと二人で一緒のゲームボーイ覗いてた方が楽しいし」「そうそう。だからこれで正解や! 正解!」

 「でもミュウツー二枚ですよ? そっちの方が絶対強いと思うんですが」

 「違うもんこれで良かったもん」緑子は歯噛みして言った。猶予が五日ならストーリー攻略を急いだ方が効率良いし、二人のソフトがどちらも中途半端になるくらいならこれで良かったはずだ。きっとそうだ、絶対そうだ。

 「へぇ。緑子ちゃんにしてはムキになるんですね」茜は少し嬉しそうに笑う。「これは楽しめそうです。早速プレイしましょうか」

 「ようし。がんばってお姉ちゃん!」

 「しゃっ! 任しとけ!」

 紫子は赤版の電源を入れる。操作するのが紫子の方なのは話し合うまでもなく決まっている。自分達の役割分担はいつもこうだ。紫子が矢面に立ち、隣で緑子が支える。

 ポケモンセンターの対戦スペースに二人の主人公が集結し、ポケモンバトルが始まった。


 ×


 ポケモンにおける対戦形式は色々あるが、今回姉妹と茜が戦うのはあらゆる制限を取っ払ったフルバトルだ。レベルも無制限に限界まで上げて良く、たいていのルールでは強すぎて禁止されているミュウツーも使用可能だ。

 ポケモンバトルはターン性で行われる。六匹の手持ちポケモンの中から一匹ずつ繰り出して、一匹に付き四つ所持している技からターンごとに一つを選択して打ちあい、相手を全滅させることを目的とする。1ターン消費するがポケモンの交代も許され、ポケモンごとの相性の支配する対戦において重要な行動とされていた。

 『ポケモントレーナーのアカネが勝負を仕掛けて来た』

 ボールを六つ持ったトレーナーが、西浦姉妹の前に立ちはだかる。ちなみにこちらの主人公の名前は『ゆかりこ』だ。

 姉妹の先鋒はマルマインだ。最高の素早さと強力な自爆技を持つ。敵がいきなりミュウツーを出してきても、先手から『だいばくはつ』で大打撃を与えられる点を評価されての抜擢だ。

 「こちらは最初から最強です」茜は頬に笑みを浮かべる。「行きなさいミュウツー」

 レベル100のミュウツーを茜こと『アカネ』は繰り出して来た。これには姉妹も度肝を抜かれる。ミュウツーを使って来ないはずはないが、最高レベルまで上げきっているとは予想外だった。こちらのマルマインは85止まりだ。

 「予定通り『だいばくはつ』でええやろか?」「うんとね。種族としてのすばやさはこちらが上だけど、これだけレベル差があったら向こうが早いかも」「え? やとしたらやばない? こいつタフネフは皆無やから一撃で死ぬで?」「それでも『だいばくはつ』で切るしかないと思う。交代してもどうにもならないから。このマルマインは倒してもらって、ルージュラ出して一発耐えて眠らせよう」

 いきなり戦略が瓦解したが焦りは禁物だ。『だいばくはつ』を指示するが、案の定向こうのミュウツーの『サイコキネシス』が先制し、マルマインは何もできずにきぜつした。

 「『丸い』『地雷マイン』で『マルマイン』……初代のネーミングの中でも特に秀逸ですよね」茜は楽しそうに言う。「さあ次は誰が遊んでくれるんですか?」

 「行けルージュラ!」

 姉妹はレベル78のルージュラを繰り出した。南国の踊り子をモチーフにした人型モンスターで、『こおり』と『エスパー』の強力な二つの属性を併せ持つ。ミュウツー他多くのポケモンが主力としている『サイコキネシス』『ふぶき』の二つの技を半減できる点が採用理由だ。

 「ふむ……厄介なのが来ましたね。このミュウツー『10まんボルト』ないからルージュラは一発では倒せないんですよね。削れるだけ削っておきましょうか」

 「なんや交代せんのか? ウチら容赦なく眠らすで?」

 「誰に代えても『同じこと』ですよ。ほら『サイコキネシス』!」

 「『あくまのキッス』!」

 敵の攻撃を耐えて得意技で反撃するルージュラ。『あくまのキッス』は相手を『ねむり』にして数ターンに渡って行動不能にできる技で、催眠攻撃の中でも高い成功率を誇る。非常に強力だ。

 「か、ら、の……『ふぶき』!」

 眠らせたミュウツーに四発の『ふぶき』を打ち込んで撃破する。姉妹は快哉をあげた。相手の最大の戦力を打破したのだ。勝利は近い。

 しかし……緑子は首を傾げる。ミュウツーは最大戦力だ、これ一匹の扱いが勝負を分けると言って良い。それをこんな序盤に切ってしまうだなんて、茜がそんなヘマを何故したのだろう?

 「あかねちゃん、なんで交代しなかったの?」と緑子。

 「せや。『あくまのキッス』来るん分っとったんやから、ミュウツー逃がした方が絶対良かった」と紫子。

 「……ミュウツーを逃がす、ねぇ」あかねはやれやれと首を傾げる。「言ったでしょう? 逃したところで、『同じこと』だと」

 姉妹は二人して首を傾げる。

 「私は常に目的のために最大の行動をとります。ポケモンバトルにおいてもそう。勝利の為に手段を選ぶのは愚かです」

 「何が言いたい?」と紫子。

 「このゲームにおいて最高の戦力はミュウツー。これに勝る手札は存在しない。完全な対策法もない、強いてミュウツー対策をあげるならこちらもミュウツーを出すことです。ならば……このゲームにおける最高のパーティがどういうものになるのかは、はっきりした話ですよね?」

 眉を顰める紫子、困惑する緑子。他愛もない二人の表情をじっくりと眺めた後で、茜は三流の悪役のように呵々大笑したかと思ったら、力強くゲームボーイを操作した。

 「見なさい……これが『絶望』です!」

 茜の次手が繰り出される。姉妹は、驚愕の表情を浮かべた。

 「二体目の……ミュウツー?」

 しかもレベル100だ。緑子は困惑する。何故? 茜はソフトを一本しか持っていなかったはずだ。

 「お、おかしいよ。あかねちゃん友達いないのに、なんでソフトごとに一匹しか手に入らないミュウツーを、二匹も……」

 「……ええ、いませんとも友達なんてあなた達くらいしか」悪意なく言った緑子に、茜は少し堪えた表情をした。「ですが、通信ケーブルとサブロムとサブのゲームボーイをこちらで用意することはできます。あの時あなた達に青版とゲームボーイを代わりに購入させたのは、ミスディレクションだったのですよ」

 「そんな……」

 「倒してみなさい。二匹目のミュウツーを……ね」

 ルージュラは『10まんボルト』で倒されてしまった。残るポケモンの内、ケンタロス、フリーザー、ゲンガーの三匹は、このミュウツーには絶対に適わない。今こちらの手持ちでミュウツーに対抗できるのはミュウツーだけだ。

 「行けミュウツー!」姉妹のミュウツーがフィールドに繰り出された。レベルは94、昨日緑子が寝た後で、紫子が九つもレベルを上げてくれていたのだ。これならある程度対抗し得るはずだ。

 「『ドわすれ』でステータス上げてみるか? レベルの差を埋めれるかもしれん」「うんとねお姉ちゃん。それは良くないと思うの」「え? どして?」「向こうも同じことをするからだよ。レベル差があって先手を取るのが向こうな以上、ド忘れを積み合っても最後にやられるのはこっちでしょ。そしたら向こうには『ドわすれ』で『とくしゅ』の上がったミュウツーが残って、手が付けられなくなっちゃうの」「でもふつうに攻撃しても勝てへんのちゃうか?」「『ふぶき』でこおり状態にしよう。それしか勝ち目ないと思う」

 『ふぶき』は高威力な上三割の確率で相手を『こおり』状態にできる壊れ技だ。何が強いって一度『こおり』にしてしまえば相手は半永久的に行動不能になる。これを成功させれば目の前のミュウツーは倒したも同然の氷像になるのだ。

 茜は案の定『ドわすれ』を打って来た。ミュウツーのただでさえ最高のとくしゅ能力がさらに上昇する。これでこのミュウツーの攻撃を耐える者はいなくなった。ここで倒せなければこのミュウツーによる無双が始まるに違いない。

 だがこちらのミュウツーが選択した『ふぶき』はきゅうしょにあたった。ダメージ二倍のクリティカルヒット判定により、相手のミュウツーを葬り去ることに成功した。

 「げげっ! ここで急所ですか。二匹も倒されることになるとは……まあ」茜は焦った表情を浮かべてみせ、しかし、すぐに不敵な表情に戻った。「どの道勝つのは私ですけどね」

 茜は三匹目のミュウツーを繰り出した。当然のようにレベル100。

 無慈悲かつ極悪非道な三匹目に、流石に姉妹はブーイングを浴びせた。

 「あかねちゃんそれはひどいよぅ」「これ六匹全部ミュウツーやろ。卑怯やわ」「五日でこんなにミュウツー揃えられるはずないよ」「そうやそうや。元々育て取った奴やろそいつら。ズルやろ」

 「あなた達を相手にそんなこすっからい手は使いませんよ」やれやれと茜は首を横に振る。「ポケスタ買ってドードリオモード(三倍速でゲームを進められるモード)でストーリー六周しただけのことですよ? 高校サボりまくった所為で1科目落とすの決定してお父さんに連絡が行ってしこたま怒られました……」

 「アホやんけ」紫子は言った。

 しかし本気出したアホに適う人間はいない。自分達のミュウツーに『ふぶき』を指示するがこおり状態にすることは適わず、『ドわすれ』を積んだ茜のミュウツーに残りの手持ちを全て蹂躙されてしまい、姉妹は敗北したのだった。

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