姉妹、ポケモ○トレーナーになる 1
後編も割とヘビーなんで間に箸休め的に。
しかし色々伏字にせず描いちゃったけど大丈夫なんだろうか。
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「ポケモンって昔流行ったやんな」
イオンモールのスーパーで買い物中に、姉がそんなことを切り出したので、緑子はちょんと頷いた。
「うん。でも今も流行ってるんじゃない? あかねちゃん毎日やってるよね、ポケモンGOとか言って。スマートホンで実際にポケモン探す奴」
「言われてみればそうやな。一時テレビニュースずっとそれやった」
「サンとムーンって新作も出たらしいね。わたしたまにアニメ見るよ。絵柄変わったね」
「知っとる知っとる」紫子は頷いた。まあ一緒にいない時間の方が少ないので当たり前だが。「ウチらもポケモンやってみぃへん?」
「え? スマホ買うの? それとも3DS?」大蔵省の緑子は通帳の数字を思い浮かべる。どちらもやや厳しいが姉が欲しがるならなんとかしたい。内職と経理をがんばれば……。
「ちゃうちゃう。それは贅沢品や。あれや、ゲームボーイの方」
「ゲームボーイ?」
「うん。こないだな、バイトの帰りにここの中古屋寄ってみたんよ。そしたらな、携帯ゲーム機で一番型の古いゲームボーイと、それで遊べる初代ポケモンが抱き売りで千五百円とかやったねん。二人で買っても三千円や」
「それなら全然平気だよ。でもそんな古いのでいいの?」
「むしろそれがやりたい。小さい頃ホンマのパパの部屋にあったポケモンスタジアム、よう二人で遊んだやん? ミニゲームとかおもろかったねんな」
「たくさん遊んだよね。夜とか遅くまでやって怒られたなぁ」
「ポケモンの名前はそれで覚えた。ピカチュウ、カイリュウ、ミュウツー……今も言えるで。でもポケスタは対戦とミニゲームメインで、旅してモンスター集める奴ちゃうかったからな。一回やってみたかったねん」
「そっか。わたし達の知ってるポケモンってそれだもんね」
緑子は合点が言った。十六歳の自分達は世代でいうとダイヤモンド・パールあたりだが、しかし実際に自分達の知っているポケモンは『初代スタジアム』に登場する151匹だ。紫子が興味を抱くのもきっと赤、緑のはずだ。
姉の中で密かにポケモンが熱かったのは知っている。ポケモンGOのニュースとか興味深そうに見てたし、ピカチュウのイラストとかチラシの裏に描いていた。絵は二人とも上手だが生物の動きを立体的にとらえる能力に紫子は長け、モンスターを生き生きと描写する力では緑子を上回る。緑子はせがんでドガースとかコイルとか好きなポケモン描いてもらったりした。
「でもお姉ちゃん。本当はポケモンGOやりたいんじゃないの? あかねちゃんがやってるの羨ましそうに見てるじゃない。がんばったらスマホくらい……」
「やりたいけどでもあれ外探索して遊ぶ奴やろ? おまえにゃキツいんとちゃう?」
「わたしは良いよ」脚悪いし外は怖いので一人で外出できない。紫子がやってるのを後ろから覗いてるのが一番楽しい。
「ウチはおまえと遊ばんとおもんない。ゲームボーイの奴一緒にプレイせんか? なあ?」
「お姉ちゃんがやるものをわたしもやるよ」緑子はほほ笑んだ。昔からずっとそうだしそれが自然だ。一番楽しい遊び仲間はいつだってお互いだ。
そんな訳で買い物の後で中古屋へ寄る。『かつてのポケモントレーナーへ』というPOPで赤と緑が売られていた。確かに千五百円だ。
「確かソフトによって出るポケモンが違うんだよね」「せやな。それで交換してポケモンそろえるのが大込みや」「通信ケーブルも買わなくちゃね」「緑子どっちにする?」「お姉ちゃんと一緒の!」「えぇ……」
話し合って紫子は赤、緑子は緑を買った。姉が赤で妹が緑というのはなんだかしっくり来る。
ゲームボーイはガラスケースに入っていた。店員に声をかけなければ手に入らない。
「店員さんに声かけるの怖いよね。面倒がられたり怒られたりしたら嫌だなぁ……」
「アハハっ。それが仕事やで。大丈夫ウチがこきつかったるわ。さぁて、どっか近くに店員は……」
紫子が店員を探そうと振り返ると、制服を着て腰に手を当てて仁王立ちする女が真後ろにいた。
「私です!」茜だった。バイトの制服着て胸に『研修中』の名札付けている。
「「わわわっ」」姉妹は身を寄せ合って驚く。
「HAHAHA。お客様ポケモンですか? 最近流行ってますよねそうですよね。ん? 姉妹でプレイなさるんですねいやぁ仲良しでよろしいことです。私なんかフーディンもゲンガーも手に入らず最終的には本体を二つ買って一人で通信を……」
「あ、あんた、その背後に立つんやめろ言うたやろ?」紫子は緑子の頭を撫でて落ち着かせてくれながら言う。「つかなんや、バイトか自分。パパから結構な額の仕送りもろとんとちゃうかったんか?」
「いやまあ旧裏面のポケモンカード集めて転売して稼いでたんですが、途中から何枚か自分でも持っておきたくなりまして。『イマクニ?』の無限回集とかしてたらいくらか焦げ付いてしまい、生活費稼いでいる次第なのです」
「アホ。つかあかねちゃんでも働けるんやな」
「舐めてます?」
「ごめんごめん。有能なんは知っとるけど、性格的に下働き向かん気がしてな」
「まあ今週一杯でクビなんですけどね」
「そりゃ残念やったな。なんかやらかしたん?」
「テストプレイコーナーにある犬育てるゲームの犬の名前を、店長の本名にしたのがいけなかった気がします」
「アハハっ、そら怒るわ。でもそんだけでクビ? もっと他にあるやろ?」
「POPに縦読みで店長の住所仕込んだり、漫画本に宝の地図と暗号挟んでゴール地点を店長の家にしたり、店長の顔写真入りオリジナルカードをトレカのストレージに何枚か隠したり……」
「店長が何をした!?」
「勤務初日に私のケツ撫でて来たので」
「偉い愉快な仕返しにしたな!?」
「色々暴いてエリマネにチクって今店長の処分が検討されている段階なんです。ですけど、何故かそっちより先に私の試用期間満了での雇い停めが決まったんですよね。まあ店長の浮気相手との通話を録音して店内放送したのは、ちょっとやりすぎだったとは思うんですけど……」
「やりすぎというか犯罪やんけ……」紫子は身を退いて言った。
「あ、あかねちゃん。腹が立ったのは分かるけど……そんなイジメみたいな仕返しは良くないよ」緑子は控えめに言った。
「そうは言いますけど、でも緑子ちゃん。例えばお姉さんのケツがバイト先の店長に触られたらあなたどうします? ノーリスクでどんな天誅でも可能とします。どこまでやりますか?」
「それは殺すけど……」
「殺すっておま!?」さらりと言った妹に、紫子は目を剥いた。
「お姉ちゃんをいじめる人はいなくなってほしいからもちろん殺すけど、でも仕返しの為にいじめるとかはしてもしょうがないと思う」
姉を傷つける人間は叶うならこの世からいなくなって欲しい。でもそれ以上のことは緑子は望まない。姉が報復を望むなら気が済むまでして欲しいけど、でもあんまり行き過ぎるならお願いしてやめてもらうとも思う。緑子は優しい子だった。小学校の通信簿にもそう書いてある。
「……デンジャーというかサイコパスというか」茜の表情は少し引きつっていた。「まあ確かにケツ触って来る店長が鬱陶しかっただけなら、大げさに悲鳴あげて店長が消す前にカメラの映像を確保してれば良かった話ですからね。途中から仕返し考えるのが楽しくなったというのが本音です」
「あかねちゃんやられたことは十倍で返す人やしなー。敵に回した人が気の毒やで」紫子は言った。
「わたし達には優しいけどね」緑子は頷く。「店長さんいなくなるなら良かったね。あ、でもバイトなくなっちゃうのか……」
「今月乗り切るくらいの給料は稼ぎましたよ。試用期間でもある程度出るので。……さて」茜はポケットから鍵を取り出す。「こちら、お買い上げですね。いやぁこの抱き売り買ったのあなた達が最初ですよ。店長ったら商売のセンスもないんですから……」
「あ、ちょっと待ってあかねちゃん、ウチら買うの赤と緑だけやで。本体も二つやし……」
「青版は私がプレイします」あかねはあっけらかんと言った。「後でお金出すので買っといてください。今週末あなた方暇ですか?」
「え? えっと、どうやっけ?」紫子は妹の方を見る。
「日曜はお姉ちゃんバイトないよ」姉のスケジュールを緑子は完璧に把握・管理している。「わたしの造花も終わってると思う」
「じゃあ対戦しましょうよ。その日までにそれぞれポケモンを育てておくのです。ゼロからのスタートで条件は同じ。誰が一番強い手持ちを育てられるかというレースですね」
こういう計画を伴った遊びを茜は好きだ。深く考えることの苦手な紫子や競争心に欠ける緑子では、思いつかないようなことをいつも提案してくれる。
「おもろそうやな」紫子は乗っかった。「ギタギタにしたるで」
「……ふふ。サン・ムーンのネット対戦では高レートの持ち主の私です。そう簡単に勝てるとは思わないことですね」
「初代は初代や。その鼻っ面圧し折ったるで」
「勝てると思っているんですね。べそをかかせてやりますよ」
ガラスケースの傍で客とトラッシュトークを繰り広げる茜の首根っこを、今の店の責任者らしき人物が引っ張ってレジへと連れて行った。
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帰宅して買い物を片付け早速封を開けた。
緑子が説明書をスタッフ欄まで熟読している最中、紫子がたどたどしい操作で赤版を起動する。不思議な生き物ポケットモンスターについて解説するオーキド博士に頷きながら、紫子は緑子に声をかけた。
「なぁ緑子」
「なぁにお姉ちゃん」緑子は説明書から顔をあげた。こういう説明書きみたいなものは端から端まで読まないと我慢ならない。
「共同戦線とかどうや?」
「共同戦線?」
「せや。二人で一本のソフトをプレイするんや」
「どういうこと?」
「あかねちゃんは遊びに本気や。きっと高校サボってポケモン育てて来るで。でもウチらはそこまで時間を作れる訳やない。ウチはバイトがあるしおまえかて炊事洗濯掃除に内職あってまあまあ忙しい。ようけ時間かけて育てた方が強いに決まっとるのに、これは不利や。だったらお互いの許す時間を一本のソフトに注いだ方が絶対に強い」
「な、なるほど。お姉ちゃんがバイトしてる間にわたしがポケモン、わたしが家事してる間にお姉ちゃんがポケモン、お姉ちゃんが寝てる間にわたしがポケモン……ってする訳だね」
「まあそういうことやな。ただ夜はできるだけ寝ぇよ?」紫子はたしなめるように言ってから、はっとした表情を浮かべる。「あ、でもおまえそんな勝負事必死こくタイプちゃうか。自分のペースでゆっくりやりたいかもな。せやったら……」
「お姉ちゃんと一緒にやりたい!」緑子は迷わず言った。「きっと二人ならあかねちゃんに勝てるもんね。一緒にやろ。たくさん強いポケモン育てようね」
「ふふ。頼もしい妹やで」紫子は不敵な笑みを浮かべた。「ほんなら作戦を練らんとな。まず最初に三匹から選ぶやろ? どれにするかやな。あかねちゃんが何選ぶかやけど……」
「最初の三匹の相性は三すくみだからね。青版買ったあかねちゃんがゼニガメを選ぶと素直に読むならフシギダネだけど……」
ポケットモンスターというゲームにおいて、最初のパートナー候補となる『御三家』と呼ばれるポケモンがいる。火属性のトカゲ型モンスター『ヒトカゲ』、草属性のカエル型モンスター『フシギダネ』、水属性の亀形モンスター『ゼニガメ』の三匹だ。
火は草に、草は水に、水は火に強い。その他にも複数の属性があり、その相性のぶつけ合いがゲームの醍醐味の一つである。本気で戦うなら属性ごとの相性をまずはアタマに入れなければならないが、そのあたりの最低限度の知識はポケスタをプレイした姉妹はクリアしていた。
「エスパーは入れたいよね?」「強いしな。ミュウツーまで行くかな?」「初プレイだからどこで出るのか分からないよ」「なんか情報欲しいよな。あかねちゃんはその辺調べて来るやろうしきっとミュウツー出して来るで」「詳しい友達に聞こうにも、その『詳しい友達』がわたし達の場合あかねちゃんだもんね」「下手すりゃ嘘教えて来るからなあん人」「攻略本とか本屋にないかな」「うーん。古いソフトやしなぁ」「ならブックオフで探してみるとかどう?」「お、冴えとるやん」
チャリ二ケツで近所のブックオフへ向かい、子供向けのストーリーの攻略本と大人向けの対戦向けのデータ本を探し出す。一冊百円のそれらを購入し帰宅し、改めて作戦を練った。
「ミュウツーは絶対いるな」「うん、圧倒的に強いもん」「がんばってななしの洞窟まで行かんとな」「そうだね。ストーリー終わった後だけど、五日しかないからがんばらないと」
姉妹は身をぺたりとくっ付け合って攻略本を覗き込み、議論を重ねる。
「ミュウツー以外の五匹をどうするかだよね?」「ミュウは幻のポケモンで手に入らんのよな」「映画のイベントでゲットできるけど、それは終わってるみたい」「逆にミュウツー以外でミュウツーに勝てる奴っておるんやろか?」「勝てはしないけど、対策になるとしたらマルマインくらいかな」「え? このまるっこいんで勝てるん?」「ミュウツーより先に動けて、だいばくはつが強い」「自爆やん!」「でもマルマインで相打ちにとってこっちだけミュウツー使ったら絶対強いよ」「ああなるほど。でもあかねちゃんもこれは使ってくるやろな」「じゃあ、相手のマルマインとこっちのミュウツーが対面したらゲンガーに退こうか。マルマインが自爆しても、ゴーストタイプのゲンガーには効かないから、一方的に相手のマルマインを落とせるよ」「ずるいこと考えるなおまえ」
ミュウツー、マルマイン、ゲンガーは決まった。ゲンガーはソフト間の通信によって一つ前の姿から進化するポケモンなので、ソフトとハードを二本持つこちらにしか使えないのもポイントだ。出会うのに友達の必要なポケモンなのである。
「他三匹どうする?」「ケンタロスは必要だよね。ミュウツーの次に強いくらいに思って良いと思う」「伝説の鳥ポケモンからも選んでええんとちゃう?」「サンダーは『でんき』タイプはマルマインで良いし、ファイヤーは『ほのお』タイプ自体があんまり必要じゃなさそう」「ほんならフリーザーか?」「『ふぶき』が強いもんね。良いと思うよ」「そしたらあと一匹やな。なんにしょ」「迷うけどルージュラどう? 『サイコキネシス』にも『ふぶき』にも強いし、『あくまのキッス』で催眠攻撃もできるんだ」「おう。なんちゅうか、あれやな。おまえこういうん考えるんムッチャ得意やもんな。お姉ちゃんアホやけん、うん、任すわ」
ミュウツー、マルマイン、ゲンガー、ケンタロス、フリーザー、ルージュラの六匹にパーティは決まった。後はこれを目指してゲームを進めるだけである。
最初は紫子のプレイを緑子が後ろでのぞき込む形で始まった。マサラタウンにさよならばいばいしてピカチュウではなくフシギダネで旅に出た。
フシギダネを選んだのは序盤のボスと相性が良いからである。最初はこのフシギダネに経験値を集中させて、途中でフリーザーを入手したらそちらにバトンタッチする。早めにストーリーをクリアしすべての場所にいけるようにし、目当てのポケモンを確保した後、個々のレベルを最高の効率であげる。本当なら『努力値』というのを獲得するための独特なレベルの上げ方をするべきなのだが、時間がないのでそれはやめておく。
以上が緑子の編み出した作戦である。攻略本を熟読しチラシの裏を何枚も使ってチャートを描いた。その集中力と綿密さに紫子は若干退いていた。
姉を勝たせる為なら緑子は全力を出す。全力を出したらRPGの早解きはちょっと得意な緑子だ。単純作業も得意だし夜寝ないことにも慣れている。それに何より姉と一緒だ。きっととても強いパーティを用意できる。
茜だってゲームが得意だがきっと自分達が勝つ。緑子はすっかり楽しくなって、隣で寝ている紫子の隣で、大量の単三電池を用意しながら血眼でゲームボーイをプレイした。
夜はまだ長い、今日中にセキエイまで行く。




