第六話「チェンジでお願いします」
―――――――リーデ:湖近くの屋敷
さて、自分の処遇が決まって、今日から住むことになる家に来ている。
家は城に向かう途中で見た民家よりも大きく、少し高級感があり、湖の眺めも最高だ。とても普通の人が住める物件ではないとわかる。そこに二人の人物、キルシェと謎の人物がお辞儀をして挨拶をして待っていた。
見た感じはエルフの男性だ。目は細く、スーツみたいな格好をしている。彼は自分の世話係と言ったからこの格好は俗に言う執事服だろう。それでもキルシェと同じ位背が高く顔も良い。まぁエルフはどいつもこいつも顔が良いから基準がわからん。おっと、あのデブは除く。
「初めまして。レイヴンと申します。以後よろしくお願い致します」
「あ、どうも初めまして。宮國竜一です。よろしくお願いします」
改めて挨拶された。挨拶されても嫌だな。正直な話。てっきりキルシェと二人っきりで暮らすかエルフのメイドさん等の美女が仕えてくれると期待していた。
ぶっちゃけた話だが、趣味は置いといて、こいつはイケメンだ。男としてこんな奴に世話をされるのは何か嫌と思ってしまう。
自分が女性だったら嬉しいのかもしれないが、比較されてる感じがして落ち着かない。こんな事を思ってしまう時点で負けてると思っているが。
だからと言って文句なんて言える訳もなく、とりあえずは帰る方法が見つかるまではこの三人で仲良くするしかないと思った。だが、
「そうだ、これを渡しておこう」
キルシェが小袋を懐から出して自分に渡した。手に取って見てみると中身はコインだった。
キルシェはしばらくはこれで問題なく暮らせると言ったので、このコインは貨幣なのだろう。また、必要な物はこれで調達等をして欲しいと言った。
「足りなくなったら言ってくれ。わからないことがあればレイヴンに聞くと良い。それと…いや、何でもない」
「?あ、ありがとう」
何かを言いたげだがやめて顔を背けた。というか、ここに来てから顔が優れていない。目も合わせてもバツが悪そうというか悲痛な感じだ。何かあったのだろうか?
心配して聞いてみようかと思ったがこの感じでは喋ってくれることはないだろうと思った。
他人の気持ちに下手に踏み入るのも失礼なのでここは知らないフリをしておこう。せめて、自分に関わることだけはやめてほしいものだが、この感じは自分絡みだと思った。
「では、私はこれで。頑張るんだぞ」
「え!嘘!どこ行くの?」
「私は城に戻る。色々とやることがあるんだ。時々様子を見に来るさ」
「え!?なら俺は?二人きりで生活?」
(俺は眼帯したショタじゃねーんだぞ!)
「大丈夫。こう見えてレイヴンは・・・・・・役に立つぞ。では、また」
「ちょっ!何だ?その間は!おい、待って!お願い!戻ってきて~」
颯爽とキルシェは馬に乗って自分を送ってきた兵士と一緒に城の方に戻っていった。
なんて事だ。この世界で出会った中で唯一信頼と守ってくれそうな人が一緒に居てくれないなんて。しかもよく知らん男と二人っきり暮らすだと?余計に憂鬱になる。
改めて自分の世話係の執事、レイヴンを見た。はたして上手くやっていけるのだろうかという不安でいっぱいだ。というかさっきからニコニコとしすぎだこいつ。
「さて、では、始めますか。服を脱いでください」
「え!?」
と唐突にスーツを脱ぎ始めてとんでもない事を言った。 会ってすぐにこんな事を言い出すとはこいつはヤバイんじゃないかと身の危険を感じてドン引いた。
「洗濯しますから、早く脱いでください」
「へ?・・・」
(あ!そういう事か。良かった!)
心底安心した。変な疑りをしてしまったので心で謝った。でも、何でいきなり洗濯をするのかと、スーツを脱いだのかを聞いてみた。
理由は簡単だった。
「洗濯をするのにスーツではやりにくいでしょう?」
「だよね」
彼は説明しながら、シャツの袖を腕まくりして、屋敷の鍵を開けてドアを開いた。
開いた瞬間に屋敷から埃が舞った。しばらく人は住んでなく使われなくなってからはろくに掃除もしていなっかたそうだ。
そんな場所に自分を連れてきたと思うとちょっと腹が立つ。
いや、いきなりの訪問だから仕方がないと思うのだが、せめて待っている間に掃除してくれても良かったと思う。たとえキルシェでもここら辺が平民と王族の隔たりというか扱いが違うんだなと思わなくもない。
自分の服は、この世界に来てから色々とあって所々汚れている。その為自分を含めて少し臭っているから洗いたいそうだ。無論風呂を沸かすから入ってくれとのことだ。
しかし、今からこの広い屋敷を一人で掃除をするのかと聞いたらレイヴンは不思議そうに、
「そうですよ。終わりましたら呼びますので待っていて下さい」
などと平然に言った。まぁ執事だからこういう事は一人で行うのだなと思った。というかそんな人雇ったことが無いので何とも言えないが。むしろ仕事上やる側だった。利用者の居室を。
自分は彼に、
「一人じゃ大変でしょう?俺も手伝いますよ」
意外そうな顔をされて一回は、
「大丈夫ですよ」
と断られたが、現在携帯は繋がらない、PCも無い。昼寝しようにもさっきうたた寝したから今は眠たくもない。
「いや~さっき、眠ちゃってて、ぶっちゃけ暇なんですよ。何かしないと落ち着かなくて」
「・・・そうですか。・・・では、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「じゃあ、ちょっと着替えてきます」
自分はとりあえず屋敷の隅に移動して見えないよう服を脱いでジャージに着替えた。元々これも洗濯する為に持っていたが今の服よりかは汚れていない。臭いは多少我慢してもらうしかない。
また掃除ならこっちの服が作業しやすい。自分は着ていた服を渡して代りに箒を渡された。
今回は時間も時間だから全部はしなくて良いそうだ。寝室、食事処、風呂場、玄関等これらだけで今日の掃除は終了らしい。残りの部屋等は明日行うと説明を受けた。
彼は木のバケツを持って湖から水を汲みに行った。自分はその間に部屋のゴミを箒で集めていく。この手の事は生活や仕事上で行うため割と得意である。
しかし、箒とはまた原始的で時間がかかる。利用者の居室を掃除をする時はやはり文明の利器である掃除機等を使うから時間内に終わらせることが可能だ。それともそれに頼りすぎて自分が遅いのかどちらかであるかだ。おそらく後者だと思う。
そう思ってしまうのは、水汲みを終えて、自分の服を洗濯して干した後、レイヴンは部屋の掃除をテキパキと早く丁寧にこなしているからだ。流石執事侮れない。
などと思っていたがどうも先ほどのキルシェの顔が気にかかって集中できない。考えて見れば謁見の時大半の人達からあまり良い印象はもらえていない様子だった。
それなのにこんな優秀な執事をつけてくれるなんてのはおかしい。だいたいこういう場合は漫画とかでは自分を監視するか何かしらの裏があると相場が決まっている。
何かある。自分は確かめるためにコミュニケーションと兼ねてちょっとカマをかける事を決めて質問をしてみた。
「なぁ、レイヴンさん。自分を監視しろって誰からか言われました?」
出来るだけさり気なく冗談半分のように笑顔で質問をした。これでどう反応するか見てみたい。
もし違うにしても何かしらの反応を示すはずだからだ。が、彼が言ったのは自分の予想と違った。
「流石話を聞いた通り頭の良い方のようだ。ええ、そうですよ。場合によっては殺せと命じられてますよ」
「…はい?」
「それから、私の事はレイヴンで結構ですし、丁寧に喋らなくても宜しいですよ」
あっけらかんと笑顔で返されて逆に反応に困って一瞬硬直してしまった。
普通こういうのは否定とか話を逸らす反応なのにはっきりと肯定されてしまった。
しかも殺すと公言されてしまったらどうしたらいいかわからない。ただ、今全力でここから逃げ出したいことと、
(嫌だ~!何?この執事~!?チェンジ~!メイドにチェ~ンジ~!!)
繰り返していた。
だが、彼の話はまだ続いている。
自分を殺す条件は敵国の間者であった場合かこの国に害を与えた場合であるらしい。
それまでは何もせず、むしろ守ってくれるそうだ。しかもこの命令を出したのは姉王女のミーネと答えた。キルシェは最後まで反対したそうだ。
(全っ然安全じゃ無いじゃないか!ふざけんなよキルシェ!あと、姉!)
浮かない顔の理由がわかった。
案の定自分を励ました時の間の不安が的中してしまい、あまつさえ自分を殺す相手と暮らせとか冗談では済まない。来るんじゃなかったと激しく後悔する。
だが、普通こんな事をペラペラと執事が喋って良いのだろうか?しかも命令を出したのが王女なら尚更だ。そのことを訪ねてみた。
「い、いいの?普通執事がそんなペラペラとバラしてさ。ぶっちゃけそれ、勅命というやつじゃないの?」
「私は・・・ちょっと特別でして誰にも仕えていないのです。だから別にミーネ様の執事という訳ではないのです。それに、黙っていろなんて命じられていませんからね」
ますますわからん。でも、殺される条件は絶対に満たさないので一応は守られていると思えばいいのか?
彼曰く、
「貴方がそんな事をしないなら大丈夫です。安心して下さいね」
と言われた。複雑な気持ちだ。殺すと言われながら守ると言われているのだからな。
ため息を吐きながら今は掃除を続けた。
掃除が終わったのはもう夕刻前で湖が紅色に染まっていた。やはり景色だけは最高だ。それと同時に屋敷の方から声がして振り向くとレイヴンが風呂の用意が出来ましたよと呼んだ。
ついでに着ているジャージも洗うから全部出してくれとのことだ。言われた通り風呂場で着ていた物全部を脱いで渡した。
さて、風呂は昔の江戸時代みたいな薪で沸かすタイプで湯船にはなんかの葉っぱが浮いて、それがいい香りを放っている。温度はちょうど適温で身体にかけるといい匂いが漂う。そうして身体や髪を洗って湯に入った。
仕事後の風呂は格別だ。しかもここまで入ってなかったから余計に気持ちいい。香りがいい具合にリラックスさせてくれるから落ち着いていられる。最高の気分です。
風呂から上がって用意された服を着て食事処へ向かう。着て思ったが用意されていた服はサイズがピッタリだ。しかもパンツまで。いつ測ったのかと思わずツッコミを入れたかった。
扉を開けてリビングに着いた時はビックリしてしまった。
そこには美味そうな夕食が待っていた。
柔らかそうなパンに瑞々しい野菜のサラダと温かく湯気がたっているスープ、いい具合に焼き上がった肉のステーキとその上に漂うソースの匂い。
夕食にしてはなんと豪華で、空腹に響くこの匂いの良さ。これを風呂に入っている間に仕上げるとはなんという有能さ。さすが執事。
椅子を引いてもらい座ってワインを注いでもらうが、テーブルの夕食は一人分で、当の作った奴は自分の横に立っている。
高級レストランではないが、見た感じでもう美味いことはわかる。だが、自分は普通の人間だ。
そんな風にしてもらっても落ち着くわけがないし食いづらい。
「あの、作ってくれてこんな事を言うのは大変失礼なんすがね、そう、横に立って食うのを見られると、すんごい食いづらいの。だからさ、あの、一緒に食べない?」
という事を伝えて提案をした。
レイヴンは、え?と意外な顔をしてとまどった。変なことを言ったとは思っていないが悪いことだったか?と聞いたら、
「通常、執事は一緒に食事は致しません。それは無礼に値するのです」
むしろそんな事を言う自分が初めてで珍しいと言われてしまった。そうなんだと執事の知識を知ってしまった。
「あ、そう。でも、俺別に主じゃないんだろ?だったら別に良いじゃん。むしろ、そうしてくれた方が助かるんだけど」
んで結果は、
「・・・・・・・たとえ主でなくても、私は執事です。・・・わかりました。命令として承ります」
「命令じゃないんだけど。ま、ありがとう」
本当は堅苦しいのが嫌だっただけでなく色々聞きたかったこともあったし、こいつとコミュニケーションを取っておこうと思ったからだ。
そうしたら万が一命令が下った時は情が沸いて見逃してもらうかも知れないからと少しゲスな事を考えた。
飯は案の定むちゃくちゃ上手い!
村で食べた物なんかと比較にすらならない。しかもこの肉、すごく柔らかく焼き加減もちょうど良くソースともベストマッチしている。パンもフワフワだ。野菜もシャキシャキと瑞々しくてそのままでも味が出て美味しい。
スープは味わいが深くコクも十分。どういうダシをとっているのか是非レシピを聞いてみたい。
ただ、ワインは酒なので一杯だけで充分でした。自分はそこまで酒に強くないからだ。最後に食後のデザートは一口サイズに切られた知らない果物が出てきた。これまた瑞々しくて甘くて美味い。
さて、食事に満足したところでここからが本題だ。
まずは何から聞いたらいいか色々と迷うが、まずはこの国の事を聞くことにした。
出発地点を知らなければ目的地、すなわち日本に帰ることが出来ないからだ。それについてはレイヴンはお茶を入れて語ってくれた。
まず歴史を軽く聞いた。
この国、リーデは大昔に偉大なる王様に仕えたエルフの騎士が元々大森林しかなかった場所を領地として与えられ、その地に一族やなんやらで移り住み、開拓してこの国ができたと伝承に記されている。
しかし、国としてちゃんと立ち上げたのはその王様が死んで数年経ってかららしい。さらに言えばこのリーデという名前は元々その騎士の名前で、首都は奥さんが由来だそうだ。だからこの国はエルフが作り上げたと言っても過言ではない。
「あれ?でも何でドワーフや人間、獣人も住んでいる?エルフが立ち上げた国だろ?」
と質問をした。
それは、かつて騎士リーデの軍には数多くの種族がいたらしく特にこだわりはなかったらしい。
また、そのためこの国にはそういった種族間の主義等は特に無く自由に住んでも可能とのこと。
だが、獣人達は国ができたその後の戦争の影響で国によって人間等の人に近い種族から迫害や差別される事があり、あまり人里には近寄らず森にひっそりと暮らしている者が多いらしい。
そして、現在は今の王、バーンズとミーネ、キルシェがこの国を治めている。ここでまた自分は質問をした。
「王と姉の王女・・・ミーネ様だっけか?この二人とキルシェは家族だろ?でも、二人はエルフだが、キルシェは違うのか?」
「キルシェ様はハーフエルフなのです。現王の後妃の遺児で、ミーネ様とは腹違いの姉妹なのですよ。人間に近いのは妃様の血の影響でしょう」
つまりキルシェが人間の外見に近いのは母親の血が濃いからあまりエルフらしく見えないのだそうだ。
びっくりしたのはキルシェと姉の年齢の差が100歳近く離れていることだ。あのロリ体型なのに100歳以上とはエルフ恐るべし。余談だがレイヴンは姉と同じ年齢だとのこと。
と、話の途中だがさすがに夜も更け風呂も入ったので眠気が出てきて欠伸も出た。
今日はこの辺と言うことで寝室に案内されてベッドに入る。シーツも干されて太陽の匂いというかいい具合に気持ちいい。ベッドに入ってからすぐに眠ってしまった。
―――――――朝
気持ちよく熟睡していた所に、
「起きて下さいご主人様」
と揺さぶられながら起こされた。ぶっちゃけまだ、クソ眠たい。
普段規則正しい時間に起きていないので半ば寝ぼけている。というか自分の体内時計はぶっ壊れている。
介護の仕事は夜勤、早勤、日勤と時間がバラバラの出勤が多く、規則正しいなんてことが出来ない。つまり、その日が夜勤ならば夜勤対応の身体に仕上げなければやっていけないのだ。その為徐々に身体を壊すことも多々ある。
それともう一つ。起こす時や呼ぶ際にご主人様と言わないで欲しい。メイドさんならまだしも男から言われると複雑だ。それに、彼曰く自分は今回限りの仮の主人だそうだ。だから別に主人じゃないから普通に呼べばいいと思う。
その事を言ったら、
「では、次からはミヤグニ様と呼びましょう」
などと笑顔で返された。正直「様」も呼ばれ慣れていないのでいらないが。
ともあれ朝食が出来たから起こしてもらい、顔を洗って昨日洗濯された自分の服に着替えて食事処に向かう。
向かう途中で気づいたが身体が軽いと感じた。昨日の風呂の葉っぱが効いたのか分からないが、普段よりは清々しい。
んで、これまた朝から豪勢な食事が用意されていた。
パンとジャムに目玉焼き、サラダに牛乳と魚のムニエル。どこぞのブルジョワか?
昨日と同じく二人で食べたが案の定やはり美味い。まぁ、一緒に食べてくれるとは学習が早いことで。食べてる最中に、
「今日はどうなされますか?」
と質問をされてどうしようかと考えた。
話の続きをしてもらいたいが、リーデ国の歴史はわかった。かと言って、歴史に触れたからといって帰る方法が思いつかない。
だから考えつくまでは、
「とりあえず、今はやることが無いし、食べたら掃除の続きをする」
「かしこまりました」
「あ、そうだ。これ、渡しとくな」
レイヴンに昨日渡されたお金の入った袋を渡した。
自分にはこの世界の貨幣価値がよくわからないから、ここは有能な執事であるレイヴンに管理を頼むことにした。
彼はそれを了承してもらい食べ終わって昨日の続きを開始した。昨日は部屋の大部分を終えたので、残りの客室等を清掃を行った。掃除が終わったのは昼前だった。
朝から掃除をして気分がさっぱりになっている所で、話の続きをお願いした。どこから聞けばいいかわからないから、まずはレイヴンに任せた。
「では、軽く常識の話を致しましょう」
彼が語ったのはお金の話だった。袋からコインを出して説明を受けた。
コインは金、銀、銅と三種類に分けられており、当然上から価値が高くなる。価値的には金貨一枚でおよそ10~15日位生活が可能とのこと。
現在袋の中身は金10、銀30、銅40と合計80枚入っているのでしばらくは大丈夫と思われる。
「この後昼食と夕食の買出しに出かけるので一緒に来て、どういうものか見てみるのはいかがでしょうか?市場を見て回るのも良い気分転換になると思いますが?」
「いいねぇ。是非お供させてもらいたいねぇ」
当然答えはYESだ。直に市場に出て国を見て、感じることは聞くよりも価値があるからだ。
そうと決まれば善は急げ。早速準備をして町へ向かう。いや楽しみだ。
調査の名目もあるが、町を見たのは城に向かうだけだから純粋に見てひやかす事は素直に面白そうだからだ。
向かう途中に城を横切るのだが、ここであの城壁に設置してあった鉄の傘と上を向いたボウガンが見えた。気になって指を差して質問をした。
「なぁ、来る時に気になったんだが、あの鉄傘はなんだ?」
「あぁ、あれですか」
まず、あの鉄傘は空からの攻撃に対する防御だそうだ。鳥人族のような空を飛べる種族は一気にこの城まで侵入してくる。近づいて剣などの接近戦をしてくれれば問題ないのだが、空にいる時は手が出せないそうだ。
そして、彼らは空中から弓を撃ってくるから、その防御の為に設置型の鉄傘を置いているらしい。そして、空中にいる彼らや極々希に来る鳥型のモンスターを撃退するために上を向いたボウガンを使うとのことだ。ただし、ここ最近モンスター以外あのボウガン等を使っていないそうだ。しかも、1年以上。しかしだ、
「なるほどね。色々と考えてんだねぇ」
「まぁ、鳥人族達は本来争いを好まない種族ですからそうそう使われることは無いのですよ。ただし、国によっては兵として所属している者もいます」
話を聞きながら町へと再度出発する。
町に着いたのは屋敷から約40分位の距離だった。
昼が近いのか活気に満ち溢れ多種族も多く往来している。自分は周りをキョロキョロ見渡しながらレイヴンについて行く。その様はまるで子供がはしゃいでいる様に見えただろう。そのせいか自分達二人にも注目が集まってくる。
自分に関しては相変わらずこの服が目立つのか、誰?とか、キルシェ様と一緒にいた変な人、等物珍しい眼差しだ。んで、レイヴンはと言うと女性からの視線が多い。
やはり顔が良いのか笑顔で手を振りながら挨拶するからキャーと時折声がする。
(失敗した)
だからイケメンと一緒に歩きたくないと思う。さながらイケメン主人が珍獣の散歩といったところか。チクショウ。
(まぁ、一人じゃこうやって自由に歩けないだろうしな~)
でも、やはり良いな。こういうファンタジーな町を歩いていると心から見て良かったと思えてくる。
まぁ、買い物をしている際に執事を従えている貴族と間違われたのはご勘弁願いたい。
自分はそんな身分ではありませんからと何度言って誤解を解いたことか。その際にレイヴンは口を抑えて笑っていたのはちょっとムカついた。なんか、こいつの性格が少しわかった気がする。
とまぁ、楽しい買い出しを終えて、屋敷に戻って昼食の準備をする。
これまた暇なので自分も野菜を切ったりと軽い手伝いをしようとしたがやはり、
「大丈夫ですよ。ゆるりとお待ち下さい」
と断れたが無理を言ってやらせてもらった。と言ってもほとんどはレイヴンが一人で調理し終えていた。ちなみに昼食はファンタジー式魚のブイヤベース。とても味が濃く深みがあって、とても美味しゅう御座いました。
お茶を飲みながら次はどの話をしようかと考えていたが、今度はレイヴンが自分の話を聞きたいと言ってきた。自分の世界は姉王女から聞いたので、自分自身の事に興味があるらしい。
(よっしゃ!良い傾向だ)
このままコミュニケーションをとっていけば希望が見えてくると半ばお気楽な状態で、話をしようとするが、困ったことに自分の事をどう説明すれば良いのか改めて考えると言葉に詰まる。
ここは当たり障りのない自分の生活等を適当に話した。
親が死んで、高校を卒業した時に最後の肉親であった祖父も死んだ後、天涯孤独に生活をして気づいたらこんな所に来てしまった事をレイヴンは静かに聞いていた。
話の途中でオタクとは何か?アニメとは何か?そこら辺の質問は、簡単にザックリと説明した。何て答えればいいかわからないのと詳しく説明しても混乱させてしまうと思ったからだ。ただ、そういった文化があると言ったら、
「なるほど、業の深い御国のようですね」
と何を想像したのかそんな事を言われてしまった。確かにある意味そうだけど。そういった事に凄く発展した国だけれでも。ちょっと違う気がする。
今度は自分もレイヴン個人について聞きたいことがあったから質問をしてみた。それは、
「どうして、そんなに有能なのに誰にも仕えていないんだ?」
不思議だった。いくら特別でも、こんなに出来る執事が誰にも仕えないなんて勿体なさすぎる。その事が頭から消えなくて疑問だった。
勿論答えにくいなら無理に答えなくてもいいよと差し支えない程度にだ。
すると彼は軽く鼻で笑って、
「単純に私が仕えるべきお方がいないだけです」
と軽く言った。
当然貴族からも誘いがあったらしいが全て断っているらしい。でも、普通王族からの誘いも断るのかと聞いたら、はい。と迷いなしに断言した。彼の求める主の理想像がよくわからん。
だから、彼は求める主人が見つかるまではなんでも屋みたいな執事をやっているらしく王女の命令もそんな感じで引き受けたらしい。
話が終わって、食器も片付けた後は本当にやることが無くなってしまったので、今度は彼にこの世界の文字を教えてもらうことにした。
一度本を読んでみたが何書いているかサッパリ理解不能で、絵も書いてないからイメージも出来ない。ということで屋敷の外で文字の勉強をすることになった。
なんで外かというと、外の砂ならいくら書いても紙が減らないだそうです。自分に使う紙が勿体無いのかとツッコミを入れたかった。
と、なんやかんや思いながら教えてもらう。
「この文字はこうです」
と木の枝を持って地面に文字を書いて消して書いての反復練習を繰り返す。
書いてて思ったのは昔こういう砂鉄で文字を書いて横にスライドして消す子供の玩具を思い出した。そういえば電子式のボタンを押したら声が出る玩具も持っていたなと懐かしんだ。
今は、どうだ。何度も書いているが覚えられる自信がないのと、漢字の影響か飛び跳ねない所なのにやってしまう。はっきり言えば英語並みに難しい。これを何度も1時間半位やっていたら手が痛くなってしまったので一時休憩を取ることにした。
ずっと地面に座り込んでいたので気分転換に湖の周りを軽く散歩することにしてみた。
一人で散歩したいのにきっちり後ろからついてくるあたりちゃんと仕事しているなと、鬱陶しくレイヴンがついてくる。監視と考えず、守ってくれていると思えば苦にならないのだが。
しかし、近くで見るとやはりでかい湖だ。大きさはわからないけど。でも、透き通ていて、鏡のように景色を反射している。確かにこの国の自慢のスポットだけはある。そんな所に自分はあるものに気がついた。
「え!?嘘!あ、あれは!」
それはごく当たり前に見かけるものだが、この世界には存在しないものだと思っていたものだった。