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 八 別れの儀式

「これで全員?」


「そうだな」


 あたしは土に塗れた手で汗を拭った。


 集落のみんなのお墓を、あたしとキトだけで作った。


 もう、この集落は復活しない。


 イヨ姉さんとマナさんは、山賊にやられたたくさんの、辛かったこと、嫌なこと、苦しいことを思い出すから遠いところでやり直すんだと言っていた。


 あたしたちを忘れて、やり直すのだ、と。


 キトのかあさんは、衰弱していてあの後すぐに亡くなった。


 キトのかあさんを看取ったとき、キトは泣かなかった。ただ、震えていた。


 キトはこうやって、たくさんの里の人を看取っていったんだ、と思った。それは、どれだけ苦しいことだろうか、と思った。


 あたしがかあさんを失って次に目覚めたとき、キトがあたしを抱き締めていた。温かかった。


 だから、あたしもキトを抱き締めた。


 何も言わずに、ただ、そうした。


 キトは少し泣いた。


 でも、キトのかあさんと泣かない約束をしてたみたいで、すぐに泣き止んだ。


 あたしの方が泣いてて、馬鹿みたいだと言ったら、キトは黙ってあたしの頭を撫でた。


 キトのかあさんは、キトのとうさんと思われる遺体と埋めた。あたしのかあさんは、あたしのとうさんと思われる遺体と埋めた。


 そうやって、一人一人丁寧に埋葬した。




 そして、あたしとキトは二人で旅をすることにした。


 今からふもとの街で暮らそうとは思えなかった。


 だってあたしたちの故郷は、ここだけだから。今からどこかに根付くことなんて、これっぽっちも考えられなかった。ううん、考えたくなかったんだ。


 だから、取り敢えず旅に出て、いろんな街を見て、たまにお墓参りに戻ってこようと思ってる。


 唯一生き残ったあたしたちの里の木を、丁寧に植え直す。


 みんなの真ん中に。みんなを守ってくれるように。


 そして、幹に両手をつけて、元気になるように全力を込める。


 力を込め終えて、数歩後ろに下がる。キトの隣に佇んで、見上げるほどの気を見つめた。


 光の粒を纏ったその木はすぐに元気になって、それだけじゃなくてもっと大きくなって、季節外れの紅い花を咲かせた。


 綺麗な小さい花。


 みんなの死を悼むように、優しく優しく咲いた。


 梅、という花だ。

 春に木について咲く花だ。


 梅はあたしの名前の由来の花。


 風があたしたちの頬を撫で、服の裾を揺らした。












 夜の風に乗って梅の花が薫った。













ありがとうございました

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