国家魔法使い(3)
その後、迅速に五芒星の会議が執り行われた。議題はもちろんルイについてだ。
ルイは別室にてぬいぐるみたちとお昼寝中。優しい女性魔法使いと男性魔法使い一人ずつが代表して彼を見てくれている。
「ひとまずルイを国家魔法使いとして認める。だが、公表しないという形でいいな」
ローガンの言葉に皆頷くも、ひとりタリアだけは首を傾げていた。
「うーん、でもさルイが魔法使っているのを見たらいずれ問題になるでしょ。だったら初めから国家魔法使いって肩書与えておいた方がいいんじゃないの?」
「ほう。たしかにな」
白髪にところどころ赤いメッシュの入った男が机に手を乗せながら同意を示す。彼は火属性の魔法使いだ。
「では、公表はしないけれどマントを与えるというのはどう?」
豊満な胸の上に手を乗せ提案をしたのは、榛摺色の髪に金糸雀色の瞳の女性。こちらは土属性。
「姉さん、いいアイデア。天才!」
タリアは女性に両手で投げキッスを飛ばすが手で簡単に払われてしまう。
「住処はどうするよ。ここで育てるわけにもいかないだろう?」
髪から足先まですべてが黒い男が不満げに零す。病弱のように真っ白な肌を極力見せないためらしい。最後は闇属性。
「僕のところでもいいよー」
「お前のところはゴミ屋敷だからダメだ。こどもが死ぬ」
「ちゃんと片づけるもん」
「それもどうせ三日で終わんだよ、どうせ」
「終わらないもん!」
「三日坊主はみんな最初は威勢がいいんだよな」
言い合うタリアと闇属性の男。だがこれもいつものようで止める者は誰一人いない。
「……ひとつ進言してもよろしいでしょうか?」
話し合いに強制的に参加させられていたリュカが控えめに手をあげる。言い合いをしていた二人も口を閉じ彼を見つめた。
リュカにはひとつ懸念点があったのだ。
「リュカさん、魔法使いになったらリュカさんと一緒に過ごせなくなりますか? 戦いに出ないといけませんか?」
「……ルイ」
「みなさんを困らせたいわけではないんです。でも、魔法で誰かを傷つけたくない……。僕は、この魔法で誰かを救いたいんです」
この会議に参加する前に別室でルイが不安の滲む顔で言っていたこと。懸念点、それは大人の都合であの子の自由を奪ってしまうのではないかということだ。
「あの子の好きなことができる家を与えてもらえないでしょうか。どうか、ご検討を」
リュカは深く頭を下げた。
「そうだな。あの小僧が何も知らずにただ自由に伸び伸びと過ごせるよう守っていくのが五芒星の仕事だろう」
そのローガンの言葉にリュカは胸を撫で下ろし顔を上げる。
「ただし、お前が傍で守ること。これが条件だ」
「私が、ですか? でも……」
「うん、いいね! ルイルイだってそれを望んでそうだし。光の高位精霊が傍にいてくれるなら僕たちとしても安心だしね」
タリアは下手くそなウインクをリュカに飛ばす。
全身黒の男は「え、マジ? こいつ精霊なの? はえー」と、身を乗り出しリュカを上から下まで見ると「あんま人と変わんないな」と一転して興味をなくし再び椅子に身を沈めた。
「よし。こちらで住処は用意しよう。ルイくんにどんな家にしたいかを聞いて理想の家にしてあげようね」
「僕、設計図かくよ!」
「木なら私が調達するわ。神聖なものがあるの」
「隠れ家的な方がいいよな。闇魔法でちょっと眩ませるか」
やいのやいのと盛り上がりを見せる五芒星。突然できた弟のようなルイに尽くしてあげたいのだろう。
それとも、五芒星である彼らが必然的にルイを可愛がるよう神が仕向けているのか……。
会議から3日後、ルイは証であるケープを国王から秘密裏に授与され、最年少の国家魔法使いとなった。
――――――
そして、五芒星の協力を得てこのアトリエは出来上がったのだ。ルイの望んでいた、リュカと一緒に開く“人を助けることのできるお店”として。
「あぁ、ありましたね、そんなことも」
リュカは苦い笑みを浮かべる。
「そんな小僧がもうこんな大きくなってな。立派なもんだよ」
ローガンはルイに我が子を見るような眼差しを向けた。
「いえ、先生のおかげです」
自分の手のひらを見つめながらはにかむルイ。夜空色のミドルケープを握り締め顔を隠しながら、でも嬉しそうに足を揺らす。
彼に魔法の使い方を教えたのはローガンだ。故にルイは彼のことを先生と呼んでいる。
「それじゃあ俺はここらで――」
――カラン、カラン
開かれたアトリエの扉。
「……いや、可愛い弟子の成長を存分に見てからにしようか」
立ち上がったローガンは再びソファーに深く腰を下ろした。
本日のアトリエには、ひとりでに動く物たち、光の精霊、小さな魔法使いの他に大人の魔法使いもいるようだ。
「ルイの邪魔はしないでよ」
「ああ」
「家主は僕らなんだから」
「お前らも居候みたいなもんだろうが」
ローガンの傍で騒ぐぬいぐるみたち。だが彼は笑いつつ適当にあしらっている。
立ち上がったルイは透明な瓶から金平糖を一粒取って口の中に放り、国家魔法使いの証であるミドルケープを整えると扉の前に立った。
おずおずと入ってきた少年に、小さな魔法使いルイは花が綻ぶように微笑んで手を伸ばす。
「ようこそ。“忘れ物探偵事務所”『記憶のアトリエ』へ」
国家魔法使い ―完―
ご高覧いただき感謝の至りでございます。
ルイは6歳にして国家魔法使いになりました。
お次は、アトリエに入ってきた少年の記憶の物語が始まります。
次回『灰かむりの瞳』




