始まる前に。
「もーぅこんな時間…」
昼下がりの、日が暖かく、地もぽかぽかに温められた時。この時間までずっとだらだらしていたせいで、体がとても重たい。
その重たい体をぶっ叩くように、声が響いた。
「こらぁ、もうこんな時間っ。大人なんだし少しはしっかりしなさいよ」
「動きたくなぁい……」
「やりたくなくてもやらなきゃいけないことがたくさんあるんだよ!ほらっ、起きろっ」
お母さんでもお父さんでもない、おばあちゃんでもおじいちゃんでもない。
その声は、ご先祖さまって呼ぶくらい昔の人の声だ。簡単に言うと、幽霊の声。
「やだーぁ……今日くらい、いいじゃん…」
私は幽霊が見える。昔から見えた。頭が痛いのかなって思って、病院に行ったこともあるけど、見える人もたまにはいるらしい。
だから、取り敢えず私は正常だった。
「その言葉もう何年目だと思うの?!六年目だよ!あなたが高校に入ってすぐの頃からずーっっと言ってるの。今日くらい、じゃないのよ!」
私は正常だから、こうやってなにもない日はだらだらするのも正常なのだ。だってやることないし。
大学は卒業したし、仕事は……まだ、探してるけど…なにもせず遊んでるわけではない……から。
ないのかな…
遊んでるみたいだけど……
まぁいっか。
「人生、進むばかりじゃ転んでしまう事なのだかららこうして進むのも戻るのもせん時が必要なのだー」
「せめてゲームでも始めなさいよっ。そうやって部屋にこもって、なんにもせずだらだら寝ることだけやると後で人と話す事が難しくなるじゃない。あなたコミュ障になりたいの?」
「おせっかいやだー」
「あなたのために言ってるんだから、ちゃんと聞けっ!」
幽霊なんだから、物理力を行使する事は出来ないので。どれだけ先祖さまがいらいらしても私に被害はない。
「もーぉ…あなたのお父さんはもっとしっかりしてたっていうのに……」
「お父さんはお父さん。私は私。同じなのは半分だけだもん。違うのが半分だよ?」
「遺伝子の話じゃない!」
だからこうして、先祖さまとだらだら過ごすのが、ここ数ヶ月の日常になっていた。
私が寝て、起きて、また寝て。先祖さまが起こして、叱って、疲れて、一緒に寝て。
そんな、ちょっとだけ心地よい日常が永遠に続いたらなぁーって思った。
「なにまた寝ようとするの!起きろっつってんだろうがよ!おい!」
「おやすみー…」




