表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒鳥の住まう国~名前を奪われた姫君と、悪魔と契約した男  作者: 瑞月風花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/16

エピローグ『陛下の見つめる先にあるもの』

 

 晩秋の頃。夕暮れ近くになると急に冷え込むことがある。そんな中、エルバーグリークの王の姿が忽然と消えた。もちろん、失踪や拉致・誘拐の類ではなく。

 時々、あるのだ。

 彼が王冠を脱ぐ時が。

 執務大臣らが、城中を駆け回り『王』を探し回っても、見当たらないということは、このバルコニーにいる。それは、妻の私にとって確信めいていた。臣下から見た彼が、まさか末姫だったジャクリーヌの部屋のバルコニーから、両腕に顔を埋め、落ちる陽を眺めているだなんて、思いもしない。

「陛下、皆が探しておりましたよ」

 私の声に、アレキサンドルが振り向く。


「あぁ、夕焼けを見ていた」

 夕陽を見ていたのではなく、彼はいつも夕焼けを見ている。

 太陽ではなく、その太陽から滲み出される光そのものを。

 重みのある毛布に近い、そんなマントを羽織りながら、金色の髪を黄金風に靡かせる夫。

 絵にはなるな、と思いながら、彼の隣へと歩み寄る。

 アレキサンドルは全く動じず、城下の向こうにあるものを眺め続けている。

「陛下には似合わないご趣味です」

 私は静かに彼の隣で零した。


 アレキサンドル・ダランベール・イル・エルバーグリーク。


 彼が哀愁に耽る姿は、まったく似合わない。

 彼の象徴は、猛禽であり、輝ける太陽なのだから。

 時に獣の血肉を求め滑空し、太陽のごとく焼き尽くす。

 しかし、猛禽も親であり、太陽のごとく何かを温めることもある。

 少しの沈黙のあと、アレキサンドルが膨れた子のように、私を横目で非難した。


「そうか? 俺は意外とロマンチストだと思っているのだぞ」


 膨れた子は、そう言うと背筋を伸ばし、落ちゆく太陽の残光を名残惜しそうに見ていた。それでも威厳はまだ戻らない。いつもは折れそうにないその背が、とても小さく、わずかな軋みで崩れ落ちていきそうな、そんな『陛下』を皆に見せるわけにもいかないだろう。

 だから、私は彼がしていたように、バルコニーに体を預ける。


「ちゃんと知っております。アレクがロマンチストだということは。私もご一緒いたしましょう。后に付き合っていたとでも申せばよろしいでしょう」


 私を見下ろす彼の瞳は、緑の瞳。

 先祖より受け継がれているこの国の象徴の一つであり、猛禽の印とも言われる。

 しかし、それはかつて人々に愛され、担がれ、優しさゆえに自国すら滅ぼしかけた英雄のものなのだ。

 そして、まさか、もう一つの象徴、太陽である桃色の金髪が、衰退しゆく国を盛り返した王妃のものだったとは、今は誰も思ってはいない。


 そう、何代も前の家臣から見れば、ジャクリーヌが恐れた『赤い髪の魔女』は確かにいたのだ。

 そんな彼が自分のマントを少し広げた。


「来るか?」

「えぇ、ではお言葉に甘え」


 もう少しこの時間を楽しむ。

 彼の憩いの時間に付き合える、そんな自負とともに、私は彼の中にある太陽の温かさに包まれた。



このお話にでてきましたジャクリーヌとエヴァンは同じシリーズにあります『ワルキューレ〜死神と呼ばれた王女とエヴァンジルの庭』に登場する主人公です。

もしよろしければ、そちらにもお越しくださるとありがたいです。


最後までお付き合いありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘッダ
総合評価順 レビュー順 ブクマ順 長編 童話 ハイファン 異世界恋愛 ホラー
↓楠木結衣さま作成(折原琴子の詩シリーズに飛びます)↓
inu8gzt82qi69538rakm8af8il6_57a_dw_6y_1kc9.jpg
― 新着の感想 ―
完結、おめでとうございます! アークの一件から歩み寄り始めたカーサスとルシアの心の機微にとても共感できました。 敵国同士だった。でも……いえだからこそ、王の心も互いの心も実は。そこにこの物語の深さを感…
完結おめでとうございます! 最初は暴れるくらい拒否していたルシアが、おだやかな気持ちを得られたことにほっとしました。カーサスが彼女を抱きしめたところ、とてもよかったです。 カーサスは不器用だけど誠実な…
ラストまで読ませていただきました。互いに敵国同士だったカーサスとルシア。戯れるようなアレキサンドル王の命により引き合わされた二人ですが、次第に互いのこと、そして両国のことを知りながら心の距離を縮めてい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ