第余話 運命
知らない天井が、目の前にあった。
いったいここはどこなのか。分からなくて、とりあえずは、動こうとしてみる。けどどういうワケだか、動く度に激痛を覚えて……思ったように動けない。
いったい、自分の身に何が起こったのか。
理解できない状況に混乱して、でもなんとか過去を思い出そうとして……。
お姉さまの婚約者であった、愛しのレイル殿下と、婚約のための手続きをしようとしていた矢先、光に包まれて、それで……。
分からない。
そこから先の記憶がない。
わ、私にいったい何が起こって!?
「ああ、ようやく目覚めたかね。レイラ=ローズベルト嬢……いや、君の家は国家ごと消滅したから、今はただのレイラ君かな?」
すると、その時だった。
視界の片隅から、二十代くらいの青年が。
胸にミーファス教の印がつけられた法衣を着た青年が現れた。
「何があったのか……君にとってはショックだろうが、時間がない。君をこんな目に遭わせた君の姉をすぐに追うためにも……君には全てを知ってほしい」
青年は、悲しげな目をして言った。
っていうか、えっ? なんでお姉さまがここで出てくるの?
「君の姉は、我々の聖遺物を専門に盗む国際窃盗団と通じていた」
ッ!? そ、そんな馬鹿な! お姉さまが……私にとっては嫉妬の対象であっただけのお姉さまが、私という存在をどうでもいいとしか、味方とも、敵とも思っていなかったお姉さまが、そんな大胆な事をしていたなんて……信じられません!
「そして君の姉は、我々が発掘しようとした聖遺物……ミーファス様の分霊が宿るとされている神像をその窃盗団と盗み出し、自分を異端者判定した君の故郷を……神像を復讐に利用して壊滅させた」
ッ!? あ、頭が追いつかないわ。
で、でも全身の、この痛み……もしやこれは、そのお姉さまの復讐と関係があるとでも言うの!?
「ちなみに、君の愛しの殿下を始めとする人達は……君を庇って、全員死んだよ」
ッ!? そ、んな……殿下が……みんなが……私を、庇って……? う、噓だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッッッッ!!!! せっかく、せっかくお姉さまを出し抜いて……お姉さまを犠牲にする事で幸せになれると思ったのに!!!! なんで、なんで私がこんな目に遭わなければいけないの!!!!? なんでここまで来て幸せになれないの!!!!!?
「そこで、だ。ただのレイラ君」
するとそこで、青年はまた口を開いた。
殿下達を喪った悲しみを、お姉さまへの憎しみを覚えているそんな時に。
「あの神像に対抗するには、同じく神像を使用しなければいけない。そして神像は聖なる力を持つ乙女にしか使えないとされている。というワケで、だ。その神像を奪った姉に憎しみを持ち、そしてその姉を超える聖なる力を持つレイラ君――」
しかし……その言葉はとても魅力的で。
私の中の悲しみと憎悪に、指向性を与えてくれて。
「――我々ミーファス教に協力して、一緒に君の姉と戦ってくれませんか?」
私が悲しみ、憎んでいるのに淡々と話す……彼への怒りは消えて。
差し出されたその手に……痛みを堪えて、私は手を伸ばしていた。
つづ……かないッ