第160話-1 イスドラークへ
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
「では、イバラグラ議長がカサブラ議員に暗殺された話の続きをさせていただきます。」
ナバード報道官は、少しだけ間をあけながら、再度言い始める。
「フェーナ議長護衛長からの報告によりますと、イバラグラ議長はカサブラ議員が「人に創られし人」の一族の商人から買ったと思われる天成獣の宿っている武器を使い、フェーナ様に気づかれることなく、暗殺されてしまいました。フェーナ様はイバラグラ議長を救おうとしましたが、カサブラ議員は、何を血迷ったのか爆破装置を使って爆破するという暴挙に出て、フェーナ様は逃げ出すのに必死だったということです。フェーナ様は今、自責の念に囚われているのか、あまり発言することができないような感じになっておられます。これ以上の情報をフェーナ様から聞き出すのは無理でありますし、警察の捜査でも、爆発されたことぐらいは何も分からないという報告が上がってきております。これは、マスコミにプレリリースすることになりますし、これ以上の真実は残念ながら、分かることではないでしょう。現段階では―…。」
ナバード報道官に渡された資料にも、同様のことしか書いていなかった。
そして、ナバード報道官をここで問い詰めたとしても意味はないし、彼ほどの地位にあったとしても、重要なサンバリアの秘密を知るべき人物という扱いにはなっていない。
このナバード報道官の言葉を聞いて、怒りの感情を湧かせている議員もいるだろうが、アラジャがいる以上、彼に殺されたくないと思っている議員ばかりなので、彼の言葉の間、かなり大人しくしており、緊張感のためか、声を出すこともできなくなっていた。
衝撃という感情はしっかりと感じている。
(まあ、嘘しか流さないだろうねぇ~。機械が共和制の立役者で、裏ではお爺様が糸をひいていて、サンバリアがレオランダ王時代によって止められていた侵略行動を再度復活させ、アウリア大陸最強の国家をつくるため、二百年前のあの伝説の帝国を復活させるという悲願のために、動き出した。……だが、今回はベルグ様の実験のために、敢えて、サンバリアを時間稼ぎのための囮に使う。それでも、サンバリアが再度拡大できるだけの軍事力と資源収集能力を有しているとお爺様が判断しているからでしょう。まあ、サンバリア以上の軍事力を持った国などないのだから―…。さて、ここからだな、私の出番は―…。)
ラングはこのように心の中で言いながら、今回の暗殺犯も、どういう狙いでサンバリアがこれから動くのかをすべて知っているため、彼らの愚かさと同時に、ずっと、長期休暇を迎える時の子どもの気持ちのままでいてくれることを望むのだった。
彼らもまた、駒にしかすぎず、これからのことで、多くの人を必要としている以上、議員が率先して犠牲になってくれることが望ましいが、そのようなことはないと考えると、強制的にしないといけないのでは、と思ってしまうのだったが、それを判断するのはアラジャ自身ではなく、フェーナやアラジャの祖父の側にあるのだから、口を出すような真似はしない。
そして、自分の役割が分かっているからこそ、ナバード報道官の説明が終わると、自分が今度は壇上へと向かうのだった。
「ナバード様、説明するのは大変でしたが、良く頑張りました。私もあなたのような素晴らしい議員の背中を見ることができ、将来、私が議員になるのであれば、あなたのような報道官としての職務を全うしつつ、お父様の後を継いで、立派に国を運用したいものです。」
アラジャにとっては、サンバリアという国には一切の興味はない。
サンバリアがなぜ建国されたのかは、アラジャの祖父に聞かされているので本当の意味で分かっているのだが、そうであったとしても、建国方針については興味すら持てなかった。
なので、ここで言っているのはお世辞と言っても良いが、ナバードの苦悩を理解できないわけではない。
そうであったとしても、ナバードは自分の意志を持たない人間にしか感じないし、周囲に対して、強気になれない、弱い人間だと思っている。
だけど、同時に、自分と同じだと理解しているので、強気な言葉でナバードを批判することはできない。強気な言葉に憧れるだけの人間でしかない、とアラジャは自身をそう評価し、自分の言葉と考えを持つことができないことにもどかしい気持ちを抱き、時々、自身に対する嫌悪感を抱くのだった。
そのような感情を上手く隠しながら、ナバードに代わって言わないといけないことを言うための気持ちをさらに固めるのだった。
「ありがとうございます。今のサンバリアにはあなたの言葉を必要としています。」
(父親に比べて、感じが聡明だ。だけど―……。)
ナバードからしたら、どこかしら、アラジャに対して、親近感を感じるのだった。同じ人間なのではないか、と思えるぐらいに―…。
そうであったとしても、そのようなことをイバラグラの息子であるアラジャに向かって、言うことなどできやしない。
ナバードとアラジャでは、家の格式が違いすぎるのだ。サンバリアにおいて―…。
サンバリアが共和制であったとしても、サンバリアを真の意味で支配する一族とそうでない者における地位の格差という隔絶なほどにあり、誰もが平等という憲法があったとしても、その差を埋めることはできない。そんな実態があるのだ。
ゆえに、ナバードの言葉なんかよりもアラジャの言葉の方が、サンバリアの人間の誰もが聞くことができるのだ。
いや、正確に言えば、アラジャには誰もが聞いてしまうぐらいの圧、王者の圧と言った方が良いのかもしれないものを持ち合わせているのだ。
サンバリアにはもう王はいないだろうが、真の支配者がサンバリアの実質上の王族と言っても過言ではないのかもしれない。
悲しきかな、共和制になろうとも、トップを必要としている時点で、その地位を巡る争いが発生し、そこには権力というものが登場する以上、誰かに対する命令権というものが発生し、結果として、上下という関係がどうしても発生するのだ。誰もが平等と表面上で言われながらも、実態として、そのような上下関係というものがあって、それが国家というものを成り立たせているのだ。
だが、ここで忘れてはいけないのが、一つの権力がずっとある人物や一族に留まり続けるようなことはなく、実態においてさえ、この国で一番の権力者は誰かというのは変遷を続けていくのである。人は自らの命を終えるという性質を持ち合わせていることと、衰えるということ、判断を間違うこと、完全に物事を把握することができないということ、完全不変な永遠の力を手に入れることができないなどのような特質を有してしまっている以上、交代劇から逃れるようなことはできない。
たとえ、永遠の普遍を望んだとしても、不滅なものに人はなれない。
それが人類が生き残るために必要なことであり、変化する、変容することによるメリットと言えるものであろう。デメリットは存在するだろうが、逸れて長くなってしまったので、省略することにする。
ナバードは大人しく、議会堂から出て行くのであった。
あんな自分に批判ばかりしてくる奴らと長く同じ空気を吸いたいとは思えなかったからだ。
そんななかで、アラジャはまるで、この議会堂の空気を支配するかのようにしながら、静かに、議会堂にいるすべての者が話を止める段階になるまで、言葉を発さなかった。
それは数分の時間であるが、その時間が、誰からも「あれ?」と思わせることになり、徐々に静かになるのだった。
静かになったのを確認すると、アラジャは静かに決して大きな声ではないが言い始める。
「私がここに来たのは、私の父であり、サンバリアの共和制の建国者であるラング=イバラグラがカサブラ議員……………、いや、カサブラ=ハッター=アルグレイティという不届き者によって暗殺されたことを聞き、サンバリアが混乱するのではないかと思い、サンバリアに来て、無理を言って、この場での発言をさせていただきたいとお願いし、許可を貰い、この場にやってきました。父は、このサンバリアの王政はすでに腐敗をしており、産業も衰退し、他の周辺諸国から攻められるのを懸念して、二年前にレオランダ王を倒し、自らが議長になることによって、サンバリアの実権を手に入れました。父によって、この二年間、サンバリアの産業は息を吹き返し、周辺諸国よりも圧倒的な実力を示すことができ、アウリア大陸で一番の国家に再度、なることができました。そんななかでの今回の事件です。サンバリアは、父であるラング=イバラグラを失ったことにより、混乱する可能性があり、その混乱は周辺諸国にとって、サンバリアを支配するための好機にしかなりません。なので、皆様には、若い私がサンバリアを継ぐことができる年齢になるまで、議員の皆様、官僚の皆様、財界の皆様、それぞれ各界の協力によって何とか、サンバリアという偉大な国を維持して欲しいのです。その間、私は世界を旅して、いろんな見聞を広め、サンバリアに舞い戻ってきましょう。そして、あなたがたが協力して維持したサンバリアを、私の力でさらに、さらに、発展させてみせましょう。なので、暫くの間、議長という職を置かず、議長代理という職を置き、その職には、彼にやってもらいます。入ってきてください。」
アラジャの言葉は長いが、言っていることを簡単に纏めると、サンバリアの議長の職を自分が世界中を旅して戻ってくるまでの間、置くことはせず、議長代理の職を新設し、その職にアラジャが任命した人物が就任するということになるのだ。
その人物は―…。
「アラジャ様。」
と、言いながら、議会堂に入ってくるのであった。
その人物はカサブラを若くした人間であるが、そんな雰囲気を思わせないようにするため、髪型をいじっており、オールバックにし、顔も小綺麗になっており、イケメンの雰囲気を纏わせた二十代後半だと思われる男性が一人、檀上の近くへと向かうのだった。
その男性が止まると、アラジャは紹介する。
「彼は、アンベン=バダン=マルーシャ。サンバリアの議員の皆さんは初めての方ばかりだと思いますが、彼は北の別の大陸で、大国を率いたことのあるほどの統治に長けた人物であり、私がいない間のサンバリアも、きっと、しっかりと中心となって統治してくれるでしょう。そして、彼は戦闘力に関しては、私と引けを取らないほどの実力を有しており、サンバリアの守護者としてもしっかりと仕事してくれるでしょうし、議長護衛の長でもあるフェーナの心身に受けているショックで職務続行が不可能になっても、戦力としての問題は十分に埋めることができるでしょう。」
アラジャからの紹介は長いが、それぐらいのことを言わないと、サンバリアの有力者からは受け入れられないということが分かっているからだ。
アンベンはアラジャの招聘によってやってきたばかりの人物という設定である。
このようにしないと、カサブラの若い頃に似ていると気づいた一部の財界の人間が、人喰い兵器だと気づかれる可能性があるからだ。財界にも秘密しないといけないことなのだから―…。
そして、サンバリアにやってきたばかりの人間なので、本当に大丈夫かと思われる人もいるので、過去に何かしらの国を統治したことを敢えて、言っているのだ。立派な経歴詐称なのだが、この異世界のサンバリアにおいても、サンバリアの外の経歴を調べられることができるのは限られた条件を満たした時以外にはできず、北の別の大陸の経歴なんて調べようがない。
そうである以上、この設定が経歴詐称であることに気づける者は、サンバリアの中にはいない、ということになる。アルタフがいれば、少しは変わったであろうが、いない以上、無理なことであるが―…。
「最後に、サンバリアは繁栄します。そのためには、皆様の協力が、再度言いますが、必要です。お願いいたします。…………サンバリアに繁栄を!!!」
最後の「サンバリアに繁栄を」は頭を下げて、再度上げた後、に強く言うのだった。
その強さに蹴落とされたのか、いや、勢いづけられたのか。
『サンバリアに繁栄を!!! サンバリアに繁栄を!!! サンバリアに繁栄を!!! サンバリアに繁栄を!!! サンバリアに繁栄を!!! サンバリアに繁栄を!!! サンバリアに繁栄を!!! サンバリアに繁栄を!!!』
議員達は合掌する。
それは、まるで、議会には一つの意思以外は存在しないかのように示す者であり、自分達が大事な役割を担い、再度、利権を安心してもらえるのではないかと思わせるような、そのような檄を感じたのだろう。
そこに空虚というものがあったとしても―…。
その空虚は、サンバリアという自我が過去を完全に再現しようとしているかのように―…。
【第160話 イスドラークへ】




