第156話-1 風と生の戦いの決着
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
少し時を戻す。
略奪団の長を守っていた者達が移動している間の時―…。
「ガドリングとバンダルナ。お前らは、あっちの暇そうにしている女を狙え。俺らは、ソルを倒した奴から始末していく。」
六人の中の一番上だと思われる人物が言う。
この人物は、中年男性のようだが、威圧感のある不格好な感じをさせる人物であり、哀愁を漂わせている。
そして、彼は長に次ぐ実力者である。
その実力者であるがゆえに、長をサポートし、長の行き届かない面での指令を部下たちに出したりするという人物であり、略奪団のナンバーツーとして、戦闘力だけの実力で選ばれたのではなく、それ以外の能力も加味されて、長のからの指令で選ばれたぐらいなのだ。
バンダルナとは、ミランをハンマーで攻撃した女の名前である。
彼女は、脳が筋力でできているのではないかと言われるような人であるが、実際はそこまでではなく、頭の回転もしっかりとしている人である。
「バースデン。本当にあの氷使いの小娘を長と依頼主の奴と戦わせても良いのか。」
ガドリングからしたら当然の疑問である。
長に逆らうようなことは、よっぽどのことがなければできない。
長は、逆らうようなことをしても、理に適っているのであれば、怒るようなことはしないが、そうでなければ苛烈なまでに怒りの感情を露わにする。
理由としては、この砂漠の世界において、分裂するような危機に陥るようなことは何があっても避けないといけない。そうである以上、逆らう人間にはかなり厳しくしないといけない。集団を維持するために厳しい環境からの影響であるように感じられる。
そんな中でも、長への信頼があるのは、しっかりと結果を残してきたことと、長の判断における失敗がほとんどなかったことである。
人は完璧で完全な生き物にはなれない以上、どうしても失敗や判断ミスのような状態から逃れるようなことは一切できない。逃れたと思ったとしても、そのすぐそばに潜んでいる。そして、それを完全に退治できないのだから、上手く付き合っていくしかないし、ミスをしないという思い込みを振り払い、ミスする可能性をも考慮に入れて行動する必要がある。
このように、人は完璧、完全ではないし、そのような存在であると思っているのなら、それはただの思い込みでしかなく、その思い込みのために周囲に災厄を及ぼすことがある存在である。大事なのは、自分が完璧な存在であると、僅かにでも思わないことであり、常に学ぶ姿勢を大事にすることだ。
そうすれば、誰かを簡単に馬鹿にするようなことはなくなるであろうが、完全に誰かを馬鹿にするようなことがなくなるわけではないので、注意する必要がある。
「ああ、長が言っているのだから構わない。それに―…、俺たちを凍らせてきた小娘、俺たちだけで簡単に倒せるような存在じゃない。気づかれずに攻撃を仕掛けたのだ。奴は天才だ。数だけでは、勝てないのは明らかだ。」
バースデンは言う。
長との付き合いが長いし、戦闘経験も豊富である。
ゆえに、礼奈が戦闘における天才であることを見抜き、数が多ければ圧倒できるような相手ではないことだと認識する。
そのように認識するのは、凍らせる方法はいくらでもあるのではないかと思うことと、数が多ければ、それだけ動きが単一化される傾向があり、相手からしても攻撃がしやすくなると判断してのことであろう。
多勢に無勢の逆であろう。
その方がしっくりとくるかもしれない。
だからこそ、バースデンは、長の命令通りの行動をとり、キャラバンの方にいる護衛を襲う方へ加勢するのだった。
危険な相手ではあるのだが―…。
「いくぞ。」
バースデンの言葉に、それぞれの役割を果たそうとするのだった。
【第156話 風と生の戦いの決着】
時は戻る。
ミランは、ガドリングとバンダルナと対峙する。
「二対一、卑怯に感じるわねぇ~。」
ミランは、挑発するかのように正論を吐く。
「卑怯―…、残念ながら、ここは一騎討ちの場でも、ルールのある優しい戦いの場でもない。ここでは、殺されればすべてを奪われるか、という場所。生き残りたければ、私らを殺すことだな!!!」
バンダルナが今、言っている言葉は、この砂漠の中においては間違ったことではない。
正義も悪も時代や環境によって変化するものである。
詳しく言えば、正義と悪はどんな時代や環境でも存在するのであろうが、何が正義で何が悪かの内容は、時代や環境によって変化するものであり、事態によっても変化するというややこしいものであり、簡単に一般論化することは難しいものでしかない。
それは人にとっても異なったりするので、さらに、ややこしいことになる。
だけど、社会において自らの正義や悪が受け入れられるかは、他者の受容性や時代性、社会環境などによって変わってくるので、時と場合によって異なることがあるし、通じる場合もあれば、そうでない場合もある。
悲しいことだが、受け入れるしかないが、それでも、良くしようとして変更することを馬鹿な真似だと思うのも馬鹿げている。
大事なのは、どういうことが原因でその正義もしくは悪という判断がなされているのかを、しっかりと考えられる時に考えないといけず、一方的に押し付けることは良い結果を招くことはない。要は人の話を聞いて、考えることが重要であり、人が思考できる存在なのであれば、悩むことは悪いことではなく、考えることは自らが生き残るために必要なことであり、疎かにして良いことにはならない。
脳の消費を考えないことによって節約することは可能であろうが、それによって、衰えさせるようなことをして良いというわけではない。思考をし、考え、自分の人生の中で得てきた知識や経験を整理し、新たなものを生み出し、それを他者に伝える。決して強要してはいけないことであるが、他者もまた、同様にしたりすることにより、人々はこの世界におけるいろんな事実を少しずつ発見、共有をなしていき、この世界を理解できていることの拡大が人類を生き残らせるのに重要なことになる。
知恵も知識も、経験もこのように世界の中で理解できる範囲を拡大させてきた証拠なのだから―…。それを馬鹿にするようなことをしてはいけない。
馬鹿にする者達にろくなものはいない。
その知恵や知識も実情に合わなくなることがある。その場合は、しっかりと新たな可能性を探る必要があり、それを探ることに終わりというものは存在しない。そのことはしっかりと憶えていて欲しい。
「そう、殺すよりも捕まえた方が後々―……、いや、これは言うまい。」
ミランはそういうと、鞭のようなものを使い、闇を展開し始めるのであった。
一方―…。
瑠璃の方は―…。
(こっちに来る!!!)
瑠璃がそう思っていると―…。
(油断してるな!!!)
長に次ぐ実力があるバースデンは瑠璃へと一気に間合いを詰め、過去にキャラバンから奪った武器の短剣を用いて―…。
(こいつは依頼主が命を奪って欲しいと思っていやがる奴だな。だから―…。)
バースデンであったとしても、子どもを殺すようなことを好き好んでやるような人物ではない。
だが、長が依頼を受けている以上、長の面子を潰さないためにも、自分の気持ちを押し殺した上で、自己の思いに反することであったとしても、しっかりとやり遂げる。
そうすることが、この略奪団で生き残っていくためには必要なことであり、砂漠という過酷な環境において生存していくためには重要なことなのである。
(殺す!!!)
バースデンは心の中で言いながら、瑠璃に切り傷をつけて、恐怖を煽らせようとするが―…。
「!!!」
(消えた!!!)
確かに、短剣が当たったような感じがしたが、感触はなかった。
位置が正確に当たったと判定してもおかしくはないのであるが―…。
だけど、瑠璃はそこにはいなかった。
代わりに―…。
(電気のような―…。)
一瞬、バースデンは疑問に思いながら、気づく。
「征け。」
瑠璃の声がすると、電玉がそこから拡散するように広がっていくのである。
その広がる間に、バースデンはすぐに電玉から距離を取る。
(………雷というが、こいつは光の属性に見られる高速移動の類か!!!)
光の属性の特徴としては、雷のような攻撃は希少の方に分類されるが、移動の速さは天成獣の属性の中でも一番に速いと言われており、その知識をバースデンは有しているからこそ、瑠璃が扱っている属性が光なのではないかという結論に辿り着く。
そう、判断してもおかしくはないし、その判断は間違っているどころか、正しい。
瑠璃の天成獣グリエルの属性は光であり、雷はグリエルの力が強大であるがゆえに、それを制御するために威力を弱めるという意味でのものでしかない。
今の瑠璃なら光を扱うこともできるのであるが、雷の方が慣れてしまっているので、そっちの方がメインとなっているが、光も使えることができるので、戦いにおいてはかなり優位がみられると言っても良いであろう。
そして、瑠璃はバースデンの方を見ながら、次の攻撃を考える。
(あの短剣が天成獣の宿っている武器だとは考えられない。明らかに、まだ、本気を出しているようには感じなかった。ランシュとかいう人のような明らかな実力者とは違うけど、今まで、戦ってきた人の中では、二番目に強い。)
瑠璃がこれまでに戦った人間は少ないが、それでも、ランシュのような化け物じみた力をバースデンが有しているわけではない、というのは分かっている。
アンバイドのような伝説の傭兵と呼ばれる人よりかは遥かに弱いが、それでも、実力はかなりのものであると直感的に理解することができる。
ゆえに、簡単に攻撃をするような真似をすることはできない。
相手の天成獣の属性は何か、武器は何かをしっかりと把握しないといけない。
付け加えることになるが、ランシュの実力は瑠璃よりも強いのであるが、時間稼ぎが必要であったことと、競技場でのゲームという体裁をもっていたため、ランシュが本気を出すにしても、観客をなるべく巻き込まないようにしないといけないから、ランシュ自身も自然に制約を受けていたことになるため、瑠璃は、そういう意味では、ランシュにとって少しの不利なフィールドで、上手く立ち回って勝利したということになる。
さらに、付け加えるなら、ランシュとの戦いの中でも瑠璃は圧倒的な勢いで成長しており、天成獣から借りられる力の量を増やしていたのである。それができるからこそ、ランシュに勝てるようになった要因なのかもしれない。
さて、話が逸れたので、戻すことにしよう。
瑠璃は、バースデンの実力を完全にではないが、ある程度の範囲で把握することができている。
バースデン自身は本気を出していないし、奇襲で素早く決着がつけられるのなら、そうした方が良いとの判断からであろう。連戦の可能性を考えると―…。
「…………………………………………………。」
バースデンは沈黙しながらも、瑠璃のいる方を見つけるとそちらの方を見る。
牽制の意味合いもある。
それと同時に―…。
(土棘。)
心の中で、略奪団の一人が言うと、瑠璃の方に向かって、土色をした棘が生え、伸びる。
それは瑠璃を一突きしようとしていることが周囲から見て分かりきるものであった。
瑠璃も何かしらの嫌な予感に気づきながらも―…。
(あの人から視線を今、外すのは危険。そして、この感覚をどうにかしないといけない。仕方ない。あれを―…。)
瑠璃は秘策を切ろうとするが―…。
「狙わせません。」
李章の声がすると、その声が終わる前に―…。
「ナッ!!!」
「土棘」を発動させた人物が、驚きの声を上げるのだった。
どうしてそのような声を上げるのか?
それは―…。
(斬られた……だと………。)
そう、李章の持っている武器である刀によって、簡単に真っ二つに斬られてしまったのだ。
その動きは、「土棘」を放った相手からは一瞬の出来事であり、驚くなという方が無理な具合のものであった。
そして、「土棘」を放った人物は、李章と対峙するのであった。
「あなたを倒します。」
李章は言う。
その言葉に宿る意志は相当大きなものであり、変わることのない意志と言っても差し支えないものである。
それは、瑠璃が好きだからこそのものであることに間違いない。
「そうかい、かかってこいよ。」
「土棘」を発動させた人物も、ここで自分の技の一つを真っ二つにされたまま、引き下がるような真似は意地でもできなかった。
ゆえに、この二人の戦いが発生しようとするのであった。
第156話-2 風と生の戦いの決着 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆していくと思います。
では―…。