第150話-3 氷をも破る男
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
(さて、誰を相手にする!!!)
と、ポンガルは心の中で言う。
ポンガルからしたら、李章を狙うのが得策だとは思っている。
なぜなら、李章にしっかりと自身の攻撃でダメージを与えることに成功しているのだから、そこを突かないという選択肢はない。
だけど、それで本当に良いのだろうか?
ポンガルもまた、戦いが嫌いなわけではない以上、誰を相手にすれば得かは一つの点で決めるのは愚の骨頂であることを知っている。
ゆえに、複数の選択肢が存在しているのは確かだ。
そして、この場は砂漠。
今は、日の出ている時間―…。
李章は動きがかなり素早い、近接攻撃型のタイプであることは分かっている。
ポンガルはそのような情報を持ちながらも、刀を李章が扱うことを知らないし、それを実際に見ても、聞いてもいない以上、どうしたとしてもそのような結論になるのは仕方ない一面を有している。
ポンガルは、同時に、情報から判断し―…。
狙うは―…。
(お前だ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!)
そう、狙ったのは―…。
「礼奈!!!」
ミランが言う。
ミランはポンガルの狙いに気づいたからだ。
そう、ポンガルは礼奈に狙いを定めるのだった。
その理由は、氷は恐ろしいが、今の熱さと砂漠、時間を考慮に入れれば、凍らされる時間を短くすることもできるだろう。
そのような賭けの要素ではあるが、ポンガルの今の状態から判断すれば、そのようなことになる。
李章にはかわされるという可能性を考慮に入れると―…。
「略…奪…武…力!!!」
それは相手を戦闘不能状態にまで一気に追い込めるほどの威力を右腕から相手に直接放す技。
ポンガルはこの技の威力において、幹部になることができるほどになった者―…。
ゆえに、その威力で礼奈が耐えられる可能性は―…。
(決める!!!)
ポンガルは心の中で思いながら、一気に右腕をパンチ攻撃する時の形にして、一気に礼奈へと攻撃する。
李章も対応しようとするが、明らかにポンガルからさっきの攻撃のダメージもあり、すぐに動くことは難しいと判断する。
それと同時に、礼奈が簡単に相手の攻撃を受けるとは思えない。
何かしらの策があるからだろう―…。
そんな風に思いながら、李章は悔しそうな顔をしないようにする。
そんな演技をしたとしても意味をなさないのだから―…。
「!!!」
礼奈は驚きながらも、まるで、対策すら意味をなさないと相手に感じさせるような表情をする。
まるで、その攻撃が自分の頭の中にはなかったかのような感じで―…。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
そのような音がしてもおかしくはないぐらいに―…。
だけど、ポンガルの表情は、相手を倒したものではなかった。
まるで、自分の攻撃が意味のなかったものだと思わされるような感じのものだった。
ゆえに、ポンガルは歯ぎしりをしながら、どうなっているのかを考え始める。
(後ろに吹き飛びもせず、何もなかったかのように―…。)
そのように思考を整理しようとするのであるが、ここでポンガルは致命的なミスを犯すことになる。自分一人では解決することができないような―…。
そして、これが礼奈の狙いだ。
「凍れ。」
その一言で、ポンガルの右腕と足の先から次第に、凍らされていくのだった。
その氷は次第にその領域を拡大させていく。
礼奈の体ではなく、ポンガルの体の方で―…。
その領域の拡大は、ポンガルにとって急に起こったことであり、二人ほど凍らされているのに、その原因を完全に理解することも、対策を打つこともできず、何かしらの方法を冷静に考えることができないほどに、彼の思考からいろんなものを奪っていく。
それは、ポンガルの中の焦りが余計に、促進させていく。
(これ………………は……………………………………………。)
と、ポンガルは心の中で言う。
ポンガルとしては、これを言いながらも、対策しようと、必死に頭を回転させるが、その意味は皆無。思考は鈍らされており、残る焦りはどんどんポンガルの思考を支配しようとする。
破滅というものを望む自己の焦りという感情―…。解決から遠ざけるその姿勢は、まるで、もがき苦しみ、何かを失わないように振舞う愚か者のそれと同じ。
だけど、その愚か者になることを人という存在は避けて通ることはできない。
完全に回避したと思っている人間の真後ろで虎視眈々と狙っているのに、気づかない、目を背けるのは愚か者と同じであることに気づきもしない人間は数多くおり、我々は逃れられると思い上がって、自分がまるで完璧になれない存在であることを見落とし、傲慢になっていさえする。愚か者と何が変わろうか。
だからこそ、我々は自身の不完全さと完璧ではないということを自覚しながら、自分のミスの可能性を考慮しながらも、諦めずに抵抗していくしかないのだ。抵抗とは考え、行動し続けることだ。抗うこともまた同じである。
そのことを忘れないようにしないといけない。教訓としないといけない。
常に、考え、自らが本当に正しいのか、疑問に思い続けないといけない。
キツイ人生であろうが、楽になり続けることなどできない社会である以上、向き合うしかない。悩むしかない。
それが自分という存在を成長させるかもしれない可能性を持つものであるのだから―…。良きにつけ、悪しきにつけ―…。
ポンガルはこのことに気づかずに、いや、気づかない場合に該当してしまい、抵抗も虚しく全身を凍らされる結果となったのである。
礼奈からすれば、ポンガルばかりに構っている暇はない以上、動きの見えない相手を見ながら―…。
自身は油断していないことを、これまでの行動で示す―…。
目に見えるはそれだけ、人に対して、大きな印象を与える―…。
(……ポンガルの野郎―……。)
ソルは呆れるしかなかった。
感情を見せることなく―…。
それでも、自分達が慎重に行動するのが良いと判断しながらも、自分達がまけるという気持ちはこの場にいる略奪団の中には誰もいなかった。
それだけ、自分の実力に自信があるものが多いことの証左であろう。
そして、少しだけ睨み合いが続くのだった。
同時刻。
長とラーグラのいる場所。
そこでは、ラーグラが今のポンガルの現状を見るのだった。
「あいつ……俺のあの一撃を氷で受け止めていたのか。暗かったから、確証を抱くことはできなかったけど―…。」
と、ラーグラは言う。
ラーグラからしたら、ポンガルが凍らされることはポンガルの行動が迂闊なものであり、慎重さの欠いたものであるので、ふざけるな、という気持ちを抱いたとしても、ポンガルに対して、仲間意識という感情はない。
そもそも、略奪団を利用して、三人組を始末してしまおうとしているし、お互いがこの戦いで弱ることがあれば、それはサンバリアにとって有利なことであり、約束を反故して反抗されたとしても、問題はない。
それに、サンバリアには例の兵器があるのだから、それを使えば、いくら天成獣の宿っている武器を扱う者であったとしても、そう多くを相手にすることはできないし、「人に創られし人」の一族すらも倒すことが可能性であろう。
そのようにラーグラは見ているのであるが、そうであったとしても、それは予測の域を超えないものであって、実際にやってみないと結果は分からないし、その結果自体も永続的に保障されるようなことはない。
世界に競争が存在している以上、優位な存在が一気に不利な存在になることは避けられないのだ。競争をするとはそういうものであり、そういう環境は、経済体制や政治体制によって容易に用意されるものではなく、人々の認識的個人差の中で、相手よりも優位になれるという気持ちがあり、その行動が可能性であるかという環境があり、そのように人々が主観的に判断することによって、成り立つものであり、平等だとか不平等だとかが全部の原因になることはない。
一部の人間の要因にはなろうが―…。
それでも、自らと自らの血の繋がった存在における永劫の優位性を保障しようとして、競争を奪うようなことをするのであろうが、そのようなことは結局、自らと自らの血縁者の破局を迎えるだけでしかないのだから、そのような考えでの行動は結局、意味のない愚かな行動でしかなくなる。
地位を維持したいのであれば、どんな奴も競争して、勝ち続けないといけない。自らの価値観を捨てたとしても―…。捨ててはいけない場合もあるのだが、その判断が難しいし、そこに正解か不正解かは未来のある一地点で分かることでしかない。
よって、お前が競争を放棄しようとすることは一生においてできないし、お前が支配する体制が崩壊しないことは存在しない。永遠に悩み、そのことと戦い続けるのだな。変化しながら―…。
さて、話を戻し、ラーグラは礼奈がポンガルを凍らせた攻撃を見ながら、リースからラナトールの船上での自身が船を壊すほどの威力を放った時、それを防ごうとしたのが氷であることをここで理解するのだった。
氷という可能性があったのは予想できていたが、確信を抱くことができなかったのも事実だ。夜の暗い中での攻撃であり、船上での明るさが少しはあったろうが、透明な色をしている氷だと判断するのはかなり難しいことであり、確定させることはできなかった。
今の礼奈のポンガルを凍らせる攻撃によって、はっきりと確証を抱くことができたのだ。
そして、その氷が自身の最大の攻撃を受け止めたことから、ラーグラの中に何かしらの対抗意識がはっきりと現れるのだった。
それはラーグラの中でも、負けたくないという気持ちを増幅させるものであり、その理由をラーグラはまだ理解することができていないという感じだ。
長の方は―…。
「それがどこかは知らんが、負けたくない気持ちを抱くことができなければ、人は成長できん場合がある。今のお前がまさにそうだ。なら、やるべき事があるだろ。」
と、淡々と言う。
長も戦いの状態にあるので、必要以上に、ラーグラを手助けするつもりはなかったが、今の言葉にはどこかしら、ラーグラの強い本心というものを感じたのだろうか。
それゆえに、柄にもないことをしてしまうのだ。
そういう意味では、略奪団のトップであるが、どこかしらのお人好しな面があるということが窺える。
本人もその自覚はあるのだろうが、その性格を完全に抑えきれることができるわけではない以上、自分が不利にならない程度で、お節介なことをするしかない。それに、このような性格が人を惹きつける魅力なのかもしれない。
そして、ラーグラは立ち上がり、自らの武器である弓を構え―…。
すでに、聞くこともできない天成獣からの力を借り、狙いを済ませる。
(………………あんな氷…………………打ち破ってやる!!!)
ラーグラは心の中でこのように自分の意志を強く持ちながら言い、絶対に、礼奈を凍らせた存在を打ち破ってやろうとするのであった。
二人の凍らされた時に気づいてもおかしくはないが、その時には凍らせるだけだと思ったが、ポンガルが凍らされる時に思い出した以上、ポンガルの方へと狙いを定める。
ポンガルを殺すのではなく、氷を砕くのだ。
ただ、そのために、速く、鋭く、強く―…。
その三つの気持ちを強く抱きながら―…。
シュッ!!!
放つ。
その音は決して大きなものではない。
だけど、その威力は音の大きさとは違うものであり、静かなる強気意志……。
それを象徴するかのように放たれた矢は、速く、鋭く、強く、ポンガルの方へと向かって行く。
誰もラーグラの矢の攻撃を邪魔させないかのように、ラーグラの強い意志は祈りながら―…。
そして―…。
パリッ。
反応できなかった。
まるで、この群衆に誰にも当たることなく、氷を貫き―…。
そこに罅を入れる結果となり―…。
パリン。
と、罅が強くなり、合流して、割れる。
それは、驚きでしかない。
「!!!」
(どこから!!!)
礼奈は驚くしかなかった。
ポンガルが割れないような強度にしたはずなのに、何かしらの放たれたものによる攻撃で、砕かれる結果を導かれてしまったのだから―…。
礼奈以外の味方の側も驚いているだろうが、礼奈の驚きはその比ではない。
言葉にしていないが、その存在がいる限り、自分の攻撃が意味がないと悟るし、同時に、どこかしらから狙われていると感じるのであった。
(狙撃手がいる!!!)
礼奈の頭の中で、思考が駆け巡る。
やらないといけない順序が変わるからだ。
一方で、氷を破壊したポンガルは―…。
「危なかったぁ~。………俺にはまだ運があるようだ―…。」
その言葉は、自身の運の良さへの感謝と同時に、まだまだ戦えるという楽しさがあり、相手を倒すチャンスをもらったという歓喜。
瑠璃たち側の優位はある意味で反撃されつつあった。
【第150話 Fin】
次回、氷を砕かれたとなると―… に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆していくと思います。
ここからは、体調回復後からの執筆です。
では―…。