第148話-5 略奪者
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
「ほお~、護衛を雇っているのか。」
と、長が言う。
すでに、長は二日前に瑠璃たちのいる隊商を見つけており、後をつけていた。
イスドラークで過去に購入した遠くまで見える双眼鏡を使いながら、彼らを見失わないようにして―…。
この双眼鏡によって、かなりの襲撃を成功させることができているのだから、幸運の掘り出し物。
そして、長の近くにいるのは、ラーグラだ。
「隊商の方ばかりを見るなよ。あいつら三人組がいるのは確認できているんだろうなぁ~。」
と、ラーグラは言う。
ラーグラからしてみれば、このような双眼鏡はサンバリアでは安く買うことができるが、サンバリアにおいては一部の職種以外ではそこまで重宝されていない。
なぜなら、遠くを眺める必要がない生活を送っている人間が多いし、遠くを監視することができるシステムを軍事技術の発展の過程で、しっかりと手に入れることができているのだから―…。
なので、そこまでの需要はないが、遠方への需要があるから、少しだけ生産をして、高く売っているというわけだ。
そのことをラーグラは知っているからこそ、長が幸運のアイテムだと思っているのにはどうも違和感というものを感じずにはいられなかった。
そんなことを口にする気はないし、三人組を始末してもらう方が一番重要なことなのだから―…。
「ああ、できているさ。お前が依頼を受けた後で言った、三人組以外の仲間らしき人間もいるだろうし、そいつらの方も始末するべきなのか。あんまり殺しは、こっちとしては最低限にしておかないといけないのだが―…。」
と、長は言う。
殺害に関しては、なるべく必要最小限にしておく必要がある。
なぜなら、隊商が途絶えてしまえば、自分達の方が飢えてしまうので、なるべく隊商をおこなえるような状況にしておいて、すべての隊商を襲うのではなく、定期的に一部の隊商を襲って、そこから自分達の利益や欲しい物を奪い、自分達が襲った人間がいない街や都市で売り捌く。そうすれば、自分達の生計や命を繋ぐことができる。
自分達も自らの命を失いたくはないのだから、誰かから奪うしかないのだ。生産すると言っても、狩猟すると言っても、このような砂漠ではそれすら難しいことが多いのだから―…。
物を奪うのは自分達の中でも最悪の選択肢であるし、そうしないと生きられないと頭の中では思い浮かばないということである以上、そうするしかない。
善意を言うことは可能だが、道徳も倫理も衣食などの生存できる環境が満たされることによって、守られるための土台に立つことができるのであり、その土台が崩れかけ、ほとんどないような状態であれば、道徳も倫理も、頭の中に浮かべるようなことなどありはしないのだから―…。
このような生きるために誰かからでも奪わないといけない状態で、道徳とか倫理とかを唱えているのは、どこかしらそのような満たされる場所で過ごしていて、その習慣が抜けないからである。
ここで大事なのは、その生活の保障、物を奪うことなく生きのびられることが満たされることがつくられることでしかなく、それをしっかりと提供することだ。
そうだと考えると、道徳も倫理も、命の安全が保障され、かつ、その状態を維持するための方法だということが認知されるような場でないと、守られることもないし、そこからの社会の発展を望むことができるような状態にはならないということだ。
なので、彼らを責めるようなことをしたとしても、責めただけで終わらせずに、どうすれば良いのかという解決案を考え、閃くことが重要なのだ。そのために、いろんなことを学び、相手の立場を完全ではないにしろ、ある程度理解できるようにするのだ。
そのことを忘れてはならない。
そして、長から言わせれば、この砂漠においては、命を奪われるようなことがあるのであれば、その敵を殺さないといけないし、それを罪だという認識はない。街や村、砂漠でない場所、都市でやれば、犯罪であるという認識はしっかりと持っている。
時と場合によって、罪であるかそうでないかというのは、変わるのであるから―…。
「確認できているのであれば、構わないのだが―…。」
ラーグラからしてみれば、三人組を殺すことができれば、それでよいと思っているし、三人組さえ殺すことができれば、上司から褒められるのは分かっている。
見張りだけで良いと言われているが、それだけで満足することはできず、自分の存在意義を示そうとしているようだ。
出過ぎる行動は自分の身を危険に晒すということは十分にあり得るのだが、ラーグラがそのことを理解できていないわけではないが、この場ではそのようなことだとは考えている様子はない。
「さて、お前が言ったが三人組以外にも二人ほどいるなぁ~。それに、目の前にいるのは、知り合いかぁ~。まあ、知り合いは殺さないようにしてやって、三人組の命を奪えば良いか。」
と、長は言う。
長からしたら、知り合いを殺したいという気持ちはないだろうし、それが甘えであるという認識もしっかりしている。
それでも、感情と合理性にどうしても、時に乖離というものが見えたりするのだ。常にというわけではないし、常にそうならないということでもない。
そういう意味で、違いがあるもののと共通性を双方に持ち合わせているということに対する物事の判断には、一辺倒に偏った判断ができるという機会を与えてはくれない。
そして、長の今の言葉をラーグラから言わせれば―…。
(甘ちゃんだな。だが、理解できないわけでもねぇ~。俺だって、大切な家族がいるのだから、その家族と戦わないといけなくなれば、その家族を殺すような真似なんてできねぇ~。)
と、心の中で言う。
そう思うからこそ、ラーグラは長のことを批判することができなかった。
そして、自分は目的を達成させることができれば良いと、割り切って―…。
「そうだ。サンバリアに到達する前に、殺してやる。」
と、ラーグラは言う。
そこには、まるで、自分の出世のための獲物を見る目だと感じられたとしても、おかしくはないほどだ。
長はそのように感じながら―…。
(サンバリアに対して、何をしたんだ。あの少年少女たちは―…。まあ、この理由を聞くのは危険であるから、聞かなかったが―…。さて、そろそろ始めるとしようか。)
と、長は心の中で思いながらも、実行に移そうとする。
ゆえに―…。
「分かっているだろうな。このサンバリアの使者からもたらされた情報から考えて、あの隊商の中にターゲットがいる。ターゲットは殺せ。それ以外は、必要に応じて、危険な場合にのみ限り、命を奪うことを許可する。これが依頼であることを忘れていないよなぁ~。」
と、長は言う。
これは挑発を感じさせるような言い方ではあるが、いつもこんな感じなので、長の部下と思われる人物たちは慣れている。
長が部下思いであることも知っている。
なので―…。
「何を言っているんだ、長~。俺たちがそんなことを忘れるわけがないだろ。」
一人が少しだけ歩きながら、長の挑発に感じる言葉を平然と返す。
この人物からしてみれば、依頼の内容を忘れるような愚かなことを自分はしないという意思表示でもある。
「そう、うちらの領土拡張―……、いや、サンバリアを使ってでも帰らないといけないからねぇ~。権力の座へと―…。あいつらのせいで、ラナトールは疲弊し始めているのだからねぇ~。」
この人物からすれば、今のラナトールが良くないことは当たり前のことであり、ここでの帰るとは、ただラナトールに帰るのではなく、権力の座を奪うという意味にでも解釈することができよう。
そのように思うのは、私欲という面もないわけではないが、ラナトールという街を愛し、その街がより良くなるためには自分達が権力の上にいないといけないと認識しているのだ。
それが傲慢なものではないということだけはいえるだろうが、結果として良いことになるかと言われれば、分からないという感じなろう。
同じことをすれば、同じ結果になるとは限らない。なる場合もあるし、そうでないこともある。条件が違ったりするが、その条件が同じ結果になるための重要な条件であるかどうかの全てを検証することは困難であるし、それを全ておこなったと本当の意味で確かめる方法は存在しないのだから―…。
そして、ラナトールを牛耳っている連中にとっては、今、ラナトールの疲弊に気づいていたとしても、自分の権益を損なうことを嫌がって、何もしないだろう。
そんなふうに感じる。
いや、正しくは、何かしらの変化を起こすことによって、それに失敗した場合に自分の地位や危ぶまれる、さらには、自分達の基盤を脅かされるようなことになってしまってはマズイし、そのようになる場合に、今まで自分達が得られてきた利益が失われるのではないか。
そう、人は何かを失うことを極端に恐れるし、もう二度と、同じ利益を手に入れることができないのではないか、そんな不安が現状へと留めさせてしまうのだ。
それが悪いこともあれば、良い場合もあるのだが、それを判断するのは難しいことであるし、変化しない社会など存在しない以上、どうしても何かしらの変化をしていく必要があるということ、その変化に適応していくことを実践していかないといけない。そうでないと、ただ衰退していく未来しかないだろうし、その適応できなかった結末は悲惨なことにしかならない。希望は同時に絶望と隣り合わせのものであるが、何もしなくなることを絶望と言うのであれば、それは、隣を見ることのできなくなった哀れな存在でしかないのだ。
それをもたらしたものは、罪を犯した罪人のような存在であるかもしれない。
ここで大事なのは、視野を広げるということと、いろんな可能性があり、主観的な正義感で成功するとは限らないということを認識することである。
そして、少しだけ進みながら、もう一人が―…。
「何かを為すために、悪をしなければならないのであれば、その罪は自分らが背負うしかねぇ~。平穏に暮らしている人々を汚さねぇために―…。」
この人物は、善悪の判断はしっかりとしている。
だけど、時に悪と言われててもおかしくないことをしないといけないことがある。
それが罪のない誰かにやらせるのなら、自分がその汚れ役を受ける、そのような信念のもとに―…。
これを良い人の判断だと思うのは、愚かなことでしかないし、そう思っている人間が自分も同じ立場に立てば、そのような判断を下せる人間はかなり少ないと言えるし、ほとんどは誰かが請け負ってくれるのを待っているだけの臆病者でしかない。
彼らを批判されるのは、自分ができないことを称賛しながらも、自分が免れたと安心している気持ちが明け透けに見えてしまうからだ。自身を善人ぶるのは止めた方が良い。
大事なのは、その汚れ役を受けた人間のことを忘れずに、その人間の真意をある程度理解した上で、その人間を人間のままに評価し、周囲に言わないといけなくなった場合に、そのことを言うことであるし、汚れ役になった人間のことを完全悪であるという認識を抱く者達の認識を改めさせることであり、それ以外にもあるかもしれないが、まだ、分かっていないことなので、省略させていただく。
力不足であり、思考不足であることを否めないが―…。
そして、今の言葉を言っている人物は、何も知らないわけではないだろうが、平和に暮らしている人々が残酷な出来事を嫌うし、彼らには平穏のままに暮らして欲しいし、彼らが幸せな日々を過ごしていることを望む。
ゆえに、自分は影で汚れをやったとしても、彼らの幸せな、そして、平穏な日々を保障しないといけない。
ただし、ここに主観性というものを完全に排除することができない以上、使い方を間違えるようなことは十分に起こり得るし、最悪の結果、悪いことになるのは十分にあり得ることに注意しないといけない。自分が思っていることを常に、正しいと思う事勿れ。
この人物の使命感というものであろうし、その使命感を彼という人間の意志を強くする。そして、精神的にも―…。
「ふう~、言葉を出すのは構わないが、そういう信念なことを言って略奪を生業にしている集団にいるのはどうかと、矛盾に気づくだろうに―…。まあ、良い。ということで、いくぞ。出陣!!!」
長の言葉で、ここにいる全員ではないが、六人ほどが、キャラバンの方へと向けて移動を開始するのだった。
そのことに、まだ、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、ミランは気づいていない。
略奪を生業としている者、瑠璃たち三人組の命を狙うラーグラと、キャラバンを護衛しながらの戦いが幕を開ける。
第148話-6 略奪者 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆していくと思います。
では―…。