第148話-3 略奪者
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
長からしてみれば知っておかないといけない。
瑠璃、李章、礼奈の三人組の動向を―…。
そうじゃないと、襲うにしても、運良く偶然に突発的に鉢合わせるよりも、しっかりと想定した襲撃の方が上手くいく可能性が高い。
それは、長の経験から出てきているものだ。
その経験論は、決して軽んじて良いわけではない。
そして、三人組の動向を知っておくだけで、こちらが優位になることは十分にあり得るのだから―…。
相手の実力を把握しておくことも含めて―…。
長は、ラーグラを睨みつけるように威圧的に見ながらも、冷静さを失うことはない。感情的な判断が良い結果を導くのは人によりけりであったとしても、傾向的には良い方向へと向かわないものだ。
情報に対して、客観性を高くして見ることに欠けるからであろう。
そして、ラーグラは長の質問に対して、答える。
「ここまで来るのに数日ほどかかっているから、詳細の把握は難しいだろうが、三人組はラナトールにおり、そこからイスドラーク、そして、サンバリアへと向かうことは確かだ。サンバリアを狙っているのは分かり切っているからなぁ~。」
と、震える感じもあるが、それでも、自分が上だという姿勢でラーグラは言う。
ラーグラからしたら、どんな自分よりも実力がある相手であったとしても、自分の後ろ盾になっているのはサンバリアであり、サンバリアはアウリア大陸の中でかなりの軍事力を誇る軍事大国である。
つまり、ラーグラに危害を加える人間は、サンバリアが放っておかないぞ、ということを理解しているからこそ、自分より実力が上の相手であったとしても、弱い態度をとるようなことを選択する必要はないし、脅して、サンバリアから何かしらの利益を得ようとすることをさせないようにするために、傲慢だと思われても仕方ない態度をしているだけなのだ。
そうである以上、化けの皮が剝がれないようにしないと、自分の身を守ることができなくなる。そういうことを無意識的に知っているのだ。
そういう想像がはたらくと言っても差し支えない。
そして、ラーグラはここにやってくるのに、三日ほどはかかっており、瑠璃たちはその間、ラナトールにいるであろうが、どこかでサンバリアへと向けて、動き出すのが分かっている以上、サンバリアへの道を考えて、陸路で向かうのであれば、イスドラークを通るのが安全だし、距離にしても近い。
だけど、イスドラークには不穏な動きがあるのはラーグラも知っているが、アウリア大陸に対する土地勘というものが瑠璃たちには少ない以上、安全だと思われるイスドラークコースを選択することは予想できる。
さらに、陸路であると予想できるのは、リースからサンバリアへの直接海路における航路というものが存在しており、海路ならそっちを選択する。
だけど、ラナトールで降りている以上、陸路で行くと判断するのが正解だ。
ラーグラは知らないのであるが、瑠璃たちは、イスドラーク辺りでミランの方が、「人に創られし人」の一族を探す予定となっている。
なぜなら、サンバリアに五人で行ったとしても、返り討ちもしくは、話し合いにもならないであろうし、サンバリア側が瑠璃を襲わなくなるようなことはない。
そうだと考えると、しっかりと実力を示す上でも、「人に創られし人」の一族を味方につけることは必要なことである。
「人に創られし人」の一族は、天成獣の宿っている武器を扱うことができる者が多く、数多くの実力者を輩出しており、サンバリアの軍事力に対抗できるのはアウリア大陸の中では、その一族しかいないのだ。
ならば、彼らの後ろ盾は、瑠璃たちにとっても重要なことであるが、それと同時に、あまり良くないところに触れる可能性もあり、ミランからしたら会いたいとは思わない。
彼らの存在意義というものがどういうものかを知っているからだ。
そうであったとしても、サンバリアに対抗するためには必要なことなので、結局、嫌な気持ちがあったとしても会わないといけなくなるのだ。悲しいことに―…。
さて、話を戻し、ラーグラは数日、三人組から目を離している以上、どうやっても、どのような行動をとるのかというかなりな正確性の面では、粗に近いものが出てくる。
三日という期間があれば、瑠璃たちはイスドラークに向かって出発していてもおかしくはないのだから―…。
そうだと思うと、今、長に依頼しているのはもう遅いと思われてもおかしくはない。
一方で、長は考える。
(こいつの狙っている三人組とやら、サンバリアへと向かっていること、その途中にイスドラークに向かっているということになる。ここまでは、ラナトールから三日から遅くても四日はかかる。そうだと考えるなら、三日から四日前までの行動と考えるのが妥当だな。そして、ラナトールからイスドラークまでは安全に向かうためには隊商と一緒に行動するのが一番良い。そうしないと砂漠越えはかなり危険だし、土地勘というものがないと難しい。そして、こいつは一人でそれをやってのけた。そういう意味では、有能だが、実力が伴っていない。特に、戦闘能力の面で―…。運が良いということでもあろう。サンバリアの使者がそういう人間を見捨てないのは良い選択だな。運のよい奴は周りにも波及する場合があるのだからなぁ~。さて、ラナトールからイスドラークまで隊商で向かうと考えた場合、三週間ほどはかかるであろう。そうなると、今は砂漠の中、葬り去るのには困らないな。まあ、俺たちは隊商を襲ったとしても、ラナトール近くまで逃がす予定だし、荷物に関しては、有難く、イスドラークへと俺らの利益で売らせてもらうけどな。さて、報酬を聞かないといけないな。)
と、長は心の中で考える。
長は、ラーグラがここまでたどり着くのに、三日から四日かかることは経験上から知っているし、そこに間違いはないと思っているのだ。
何度も何度も、行き来しているのだから、分からない方がおかしいというものだ。
長は、この周辺の砂漠における土地勘や、ラナトールからイスドラークへと向かう行き来は普段からどのようになされているのかを、しっかりと知っている。
過去には、そういう商売ではないが、役所仕事をしていたことがあるのだから―…。
ここは、仮の拠点でしかないのだから―…。
そして、瑠璃たちが出発したのが、ラーグラがラナトールからこちらへと向かって来た時と同じであったとしても、瑠璃たちが砂漠の中にいるのは間違いない。
ラナトールからイスドラークまでの距離は三週間ほどであり、隊商の護衛という形で砂漠の中を進んでいる可能性が高い。
そうだと考えるのは、一人で砂漠越えをするような人間は、よっぽどの自信があるか、何かしらの伝手や方法をもたないとほぼ無理なものであり、ここに三日で到着することができたラーグラに関して、長としては感心することができる。
なぜなら、それだけの運の良さを持ち合わせているのだから―…。
ラーグラの人生が悲惨なものであったとしても、こういう良きかどうかは分からないが、それでも、食に困るようなことになっていない以上、運の良さというものはあるのだろう。そういう意味では、ラーグラの運の良さというものを利用したいという気持ちにならなくもないが―…。
だけど、それをするには、ここで生き残るためには、実力というのが圧倒的に足りない。そう、戦闘における面で―…。
ラーグラは、サンバリアの中で、天成獣の宿っている武器を扱うことができる者達の中で最下層と言われてもおかしくはないほどに、弱いのだから―…。
どうしてそこまで弱いのかということに関しては、現時点では説明を省略させていただくが、ラーグラが天成獣と会話をできていたとしても、まだ、その意図を理解できていないところが大きいものであろう。
どんな天成獣の宿っている武器であったとしても、理解し、そこから自分なりの解釈をして、扱わないと、強くなるのは難しい。
手にした時点で、一般人よりも強い身体能力になるとしても、全ての人に勝てるというわけではないのだから―…。グルゼンという天成獣の宿っている武器を扱うことができなくても、天成獣の宿っている武器を扱うことができる者を倒すことができる存在が少し過去に存在しているのだから―…。
そうである以上、日々、実力を磨き上げることを怠るようなことはできない。天成獣の宿っている武器を扱うということは、そういうことなのだ。
そして、長は三人組が砂漠の中にいるということを理解してしまえば、葬り去ることには困らない。隊商はラナトールへと自分達が荷物を奪って、それをイスドラークで売り、自分達の利益にすれば良い。そのように考えている。
ラナトールからイスドラークへと運ばれていく商品をラナトールで売ったとしても、利益は出ないだろうし、足を辿られる可能性がある以上、そのようなことは避けないといけない。それに、イスドラークで売れば、そこまで怪しまれることはないし、足を辿られる可能性も低い。
イスドラークの領主は、このようなイスドラークの支配層にとっては些末なことに関わっている暇はない。イスドラークの領主が望んでいるのは、美しい街であり、そのためには薄汚いスラム街は排除しないといけない。彼らにとっては綺麗にする行為でしかなく、当たり前のことだという認識に立っている。
ゆえに、虐げられる、排除される側の気持ちを汲み取ろうということは一切しないし、耳を傾けることさえない。
むしろ、彼らの言葉を邪魔だと思い、自身の思いを余計に強くするのだ。要は、逆効果にしかなっていないということなのである。悲しいことに―…。
それでも、訴えなければそのままつき進められてしまうのだから、言葉にして、声にして、言うしかない。どんな無理ゲーをさせられているのだと、現実世界の人間から見えるかもしれないだろうが、諦めるようなことはできないのだ。
スラムに住む者達にとっては、そこで暮らせないと思っているし、そこでしかできない絆に近いものが存在しているのだから―…。繋がりと言った方が良いのかもしれないが―…。
そして、長の方は、イスドラークの方がどうなったところで、その領主に対して、味方する気持ちにはなれない。人なくして、街なし、村なし、である以上、人を大事にしない者の未来というのは暗いとしか言いようがない。
イスドラークのことは割り切って、ラーグラの依頼を受けるかどうかの決断を決める。
「なるほど、サンバリアへと向かっている三人組を排除しろ、ということだな。面白い。報酬はどんな感じだ。教えろ。」
と、長は言う。
利益は十分にあるのであるが、それでも、いただけるかもしれない報酬はしっかりと確認および、聞いておかないといけない。そういうのを口約束にしないように文書にもしておく必要はあろう。
サンバリアへの貸しもしっかりと確保しておく。
後々、自分にとって都合が良いことにしておかないといけないと考え―…。
引き際も考慮しながら―…。
(まあ、そうなるよなぁ~。そのことも考えている。こいつの望みも―…。)
と、ラーグラは心の中で言う。
ラーグラも分かっているのだ。
自分が何を言うべきなのかを―…。
「じゃあ、三人組が何かしらの金銭になる物を持っている場合は、その分を長側に、そして、長が欲しているラナトールにおけるトップの地位を手に入れるための襲撃に対して、サンバリア側が協力する。それで、どうだ?」
と、ラーグラは提案する。
これが報酬だ。
ラナトールにも天成獣の宿っている武器を扱うことができる者はいるが、その数はサンバリアの十分の一にも満たない。
そうである以上、実力者を派遣すれば、確実に、長をラナトールのトップの地位へと就かせることなど簡単にできる。
その後、この長を利用して、ラナトールをサンバリアにとって都合が良い街、都市の一つにしてしまえば良いと、ラーグラは心の奥底で考えるのだった。
長の方も馬鹿ではないが、自分の欲しいものが手に入るかもしれないと判断し―…。
「ああ、契約成立だ。」
と、長は満面な笑みで、獰猛さを見せながら言うのだった。
こうして、瑠璃、李章、礼奈の三人組を狙う略奪者とラーグラとが手を組むのであった。
第148話-4 略奪者 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆していくと思います。
では―…。