第147話-2 そして、護衛の依頼を手に入れる
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、クリスマスの日、世界が石化するという現象が起き、石化されなかった瑠璃、李章、礼奈は異世界からやってきたギーランによって、異世界へと送られるのだった。そして、魔術師ローの話により、世界を石化させたのはベルグの可能性があり、彼を探すために異世界の冒険に出ることになるのだった。そんな中で、クローナを仲間に加え、アンバイドを一時的な協力関係を結ぶことになり、リースへとたどり着く。
そこでは、ベルグの部下で幹部の一人であるランシュが仕掛けたゲームに参加することになるが、そこで、リース王族の一人であるセルティーと知り合うこととなり、チームを組んでランシュのゲームの中で最終的にはランシュを倒すのだった。それを利用したかつてのリース王国の権力者側であったラーンドル一派の野望は、それを知っていた王族でセルティーの母親であるリーンウルネによって防がれることになる。
詳しくは本編を読み進めて欲しい。
そして、リースは王族とランシュの共同体制ということで決着することになる。
一方で、ベルグの部下の一人であり、ランシュと同等の地位にあるフェーナがベルグの命により、ベルグの目的達成のために、その部下ラナを使って瑠璃のいる場所を襲うが失敗。その時に、サンバリア側の刺客であることがバレて、瑠璃、李章、礼奈、それに加え、クローナ、ミランとともに、サンバリアへと向かうのだった。これは陽動作戦であり、ローもそのことを知っていて、瑠璃たちを成長させるために敢えて、乗るのであった。
そして、瑠璃たちは、セルティー、ローらと別れ、船の乗り、サンバリアを目指すのだった。
(…………………。)
李章に敵だという認識はなかった。
そして、アイビックサソリの方は人間への復讐の気持ちはまだ切れていなかった。
だが、今、動くのは相当に危険であることを本能的に認識していた。
そう、まだ、李章はかなり余力を残しているのだから―…。
それをすぐに理解したのだ。
ゆえに、動かなかった。
一方で、李章の方でも油断する気はなかった。
「おい、逃げろ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
アイビックサソリに近づいていった者達の隊商のトップ以外の全員が距離をとって離れる。
アイビックサソリが襲って来ることは分かっているのだから、距離を取らなければ、自分の命が奪われる可能性が高いということが分かっているのだから、そのような行動をとるのは当たり前のことだ。
恐怖は時に、思考を一方的な偏屈な、そして視野狭窄のようなものにしてしまう。
恐怖は印象が強い。
生存本能を刺激してしまうために―…。
その生存本能の刺激によって、見失ってしまうことがあり、そのことによって命を奪われることだって十分にあり得る。
だからこそ、落ち着くことも大事なのかもしれないが、生きるために抗うなら、必死に何も考えずに抵抗することも重要である場合もあるから、そうなってくると、選択や状況次第では、何が正解かは後になってみないと分からないということは往々にしてあり得るのだということになる。
そうだと考えると、生き残るという行為は、かなり大変なことになるし、運の要素もあるということになるのだろう。
そして、李章は動くことなく、言葉を発する。
「人の言葉を理解できるのなら、ラナトールを襲うことを止めた方が良いです。そして、人を襲ったとしても、襲うようになった原因となったものが解決されるわけでもありません。なので、どうかどこかへ行って、平穏に暮らしてください。」
と、李章は頭を下げるのだった。
アイビックサソリに対して―…。
この行動を理解できる者は、この今の場にいる者達には理解できないであろう。
理解できるはずもない。
人の言っていることが理解できる?
モンスター相手にそのようなことが成り立つ?
そんなわけがない。
この異世界における常識では、モンスターと会話や意思疎通ができるはずがないというのが、常識となっているのだから―…。
現実には違うのであるが、人はモンスターという存在に恐怖するからこそ、そのような判断をしているわけであり、そこを疑うという人間は数が少ない。
モンスターが会話や意思疎通ができないわけではないと思っている人間ほど、人を襲うモンスターの被害に遭っているのも事実なので、どうしても以上のようなモンスターに対して会話や意思疎通ができないと判断する方が正しいと思われがちなのだ。
皮肉なものであるし、人は正確に物事を把握することができるかどうかと尋ねられれば、そうではないと言った方が良いだろうし、完璧に把握できないわけではない、ということも付け加えて言う必要があるだろう。
そうしないと、二元論的な解答にしかならないし、その間に存在するものを無視することになる。曖昧というか、例外というか、そのようなものだ。
それを無視して良い理由が人の生きる世界において、存在するはずがない。
可能性はどこに眠っているのかは分からないのだから―…。
さて、モンスターに関することが少しだけ理解できた人はいるかもしれないが、常識というものだと認められているものが実は往々にして間違っていることはあるが、それと同時に、その間違いの認識からの脱却はかなり難しいものでしかない。
なぜなら、当たり前だと思っていたことを崩されることは、別の意味での当たり前を構築するというかなり難しいことをほぼ一からしないといけないので、そんなキツいことを望む人間などほとんどいない。当たり前だと確定させていた方が物事を判断するのに、困ることはないし、余計な思考の時間を確保しなくて済むのだから―…。
この世の中に、そんな楽で済ませてくれることはあまり存在しないので、思考することから逃れるような楽をするようなことは考えない方が良い。ほどほどにしておく程度の節約にするぐらいにしておいた方が良い。
人生とは、素晴らしい選択であったとしても、時と場合によってはその逆の結果をもたらすことは十分にあり得るのだから―…。
そして、李章の頭を下げた理由を完全に理解できないわけではないが、モンスターとの会話や意思疎通は不可能だという常識のせいで、彼らには李章のしていることを理解できないし、理解しようとすることから遠ざかってしまうのだった。
その結果、どんなセリフが出るかというのはある程度予想がつくというものだ。
細かいセリフを当てることができるというのではなく、どんな内容になるか、そんなことを―…。
「何を言っているんだ、君は!!! アイビックサソリにそんなことは通じないんだ!!!」
と、李章と会話をしている隊商のトップの人が言う。
この異世界における常識というものから考えれば、この隊商のトップの人が言っていることは間違いではない。
そして、周囲にいる人達も李章とこの隊商のトップの人のことの言っていることを比較すれば、どちらに頷くのかと言えば、隊商のトップの人の今の言葉であろうし、彼の望むアイビックサソリに始末であろう。
そうすることで、アイビックサソリからの脅威から逃れることができるのだから―…。そんな未来の方がよっぽど素晴らしいとさえ感じている。
感じないわけがない。
そうである以上、隊商の関係者にとって、李章のしていることはおかしなことでしかないし、アイビックサソリを倒せるほどの実力者がそんなことをするのだから、変な人、おかしな人としか思えないのだ。
だからこそ、隊商のトップの人は、自身の隊商を守るために―…。
「アイビックサソリを殺してくれ!!!」
そういう本音を―…。
だからこそ、アイビックサソリも自分がどうなるのかを理解しようとする。
この隊商のトップはきっと自分の命を狙ってくるだろう。
いや、彼ら程度なら、簡単に殺すこともできるだろうと思っているし、人への復讐の一つを達成させられるだろう。
だけど、今、自分を攻撃したと思われる少年が、隊商のトップの言葉を受け入れた場合はアイビックサソリにとって危険なことでしかない。
危険を排除するのは本能から自身の安全を確保するために必要なことなのだから―…。
だからこそ、実行する必要が―…。
そう思うと、李章は頭を上げてきて―…。
「あなたが思っている恐怖こそが、むしろ恐怖を実現させて、最悪の結果を導き出しているのではないのですか?」
と、李章は言う。
李章からしたら、最悪の結果というのは、彼らの気持ちが周囲へと伝播しているからこそ起こっているのではないか。
恐怖の原因は何で、それはどうやっているのかをどうやってさることができるのかというのを一辺倒的な解答だけで済まそうとしていることによるのではないか。
モンスターは意思疎通ができる。
人の言葉を理解する能力を持ち合わせている。
この異世界におけるモンスターにおける事実だ。
モンスターにもそれぞれ性格というものがあり、個性というものがある。それは人と変わらない。
そして、どんな性格かという面での違いが存在する。
具体的なことを言う暇はないだろうが、人それぞれ、モンスターそれぞれなのであり、そのことを理解した上で、モンスターにも好戦的に人を襲ったり、食べるようなものもいるが、逆に、人と一緒にいたいとか、パートナーであると認めるものもいる。
そうだと考えると、ケースバイケースという考えが重要であることが分かるだろう。
だけど、そのようなことができる人間は少ないであろうし、そのようにできることも少ないであろう。パターン化した方が楽であり、無駄な浪費しなくて済むので、そっちの方を選ぶ人は多いだろうが、現実、人が創り出す、いや、理解するパターンは全てに適用できるとは限らないので、どうしても例外というものが発生する。その発生した時の対策のために、普段からそういうケースを考えることも大切にしておく必要がある。
そして、李章の言葉を指摘された隊商のトップの人からしてみれば、真剣に言っていることは分かるのだが、どうしてもこの異世界におけるモンスターに対する偏見というか、常識となっているもののせいで、おかしなことになっているし、おかしな人と判断するしかなくなっているのだ。
「いや、君の言っていることはおかし―……。」
と、隊商の人が言おうとした時、アイビックサソリは向きを変え、砂漠の方へと進み始めるのだった。
アイビックサソリの行動に理解できなかったのだ。
どうしてそんな行動を選ぶのか?
李章からしたら、何となく感じることがあったのだろうか。
(これは一時的なことかもしれません。敵わないからということもありましょうが、少しでも人を襲うようなことを止めていただければ良いですが―…。)
と、李章は心の中で思う。
李章からしてみれば、アイビックサソリは何かしらの理由で、人を襲うようになったモンスターでしかなく、元々、悪さをしようとしているわけではないだろう。
だからこそ、砂漠の方へと向かって行ったことに対して、一時的なことなのかもしれないが、安心の気持ちを抱くのだった。
それと同時に、これが根本的な解決策ではないだろうということも分かるのだった。
そして、隊商のトップの人も―…。
(アイビックサソリが帰って行った―…。どうなっているんだ。分からん。)
と。
この人物にとっても、アイビックサソリが人を襲うことを知っているが、このように撤退するのは徹底的にダメージを与えるか、やり過ごすしか方法はないのだ。
そうである以上、李章という少年にはアイビックサソリを撤退させるだけの力があるということの証明を目の前で見せられたのであり、そうだとすると、彼がキャラバンの護衛でいてくれるのなら、かなり安全を保障されるのではないだろうか、ということを頭の中で考え始めるのだった。
だけど、それは自分勝手なことに過ぎないが、それでも、隊商の人々の生活を考えれば、この選択は間違いではなく、隊商のトップとして必要なことである。
安全を守ることが、彼らの生活を守ることが、自分を生き残らせるためにも、関わっている人達の繁栄にも必要なことであり、それを実践できる者や成功させる者が、重要なことを知っているし、成功させ続けないといけない。
なので、我が儘であると自覚していたとしても、聞かないといけなくなる。
「アイビックサソリを追い出すことができる。だからこそ、我々の―…。」
と、隊商のトップが言おうとしている時に―…。
周囲がアイビックサソリが砂漠の方へと向かって、ラナトールから離れていくのを見た結果、暫くの間、思考が止まっていたが、一人が思考を取り戻し―…。
「アイビックサソリを追い出せたぞぉ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
と、叫び出すと、周囲の人々もまた―…。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。』
と、大歓声のような感じの声を出すのだった。
ラナトールの人々には、アイビックサソリへの勝利に映ったのだった。
第147話-3 そして、護衛の依頼を手に入れる に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正もしくは加筆していくと思います。
アイビックサソリは、李章の実力を理解して逃げたという感じで認識していただけると助かります。
文章に本当は追加すべきだとは思いますが、まだ、そこまでの改編は難しそうです。
では―…。