EX20-2 ネクスト・ジェネレーション! その2
メルクとシエラは古い朽ちかけの階段を上り、地下施設から脱出した。
その先にあったのは民家で、どうやら家自体が入口のカムフラージュとして利用されていたらしい。
そしてその民家から外に出た途端、
「メルク、シエラっ!」
女性の声が二人の名前を呼んだ。
そして声の主は駆け足で近づいてくる。
「えっ、ママ!?」
「どうしてママがここにいるんです」
驚いた様子のメルクとシエラだが、ママ――つまりフラムもまた、ここに二人がいることに驚いているようだった。
「それはこっちのセリフ! まさかテロリストの動きに巻き込まれて――」
フラムはそこまで言いかけて、メルクの体を見つめる。
そして大胆にも上着をまくり上げた。
「ひゃああぁっ!? ママ、何っ、何事っ!?」
そこには牢屋にて受けた魔法の跡が青く残っていた。
「このアザ――メルク、あんた」
「へ、平気だよ! これぐらいなら道場の稽古でもよくあるし!」
怒られると思ったのか、必死にごまかすメルク。
一方でフラムは唇を噛むと、その目を潤ませた。
「あ、あら……?」
予想外の反応にメルクは戸惑う。
するとフラムはがばっとメルクを抱き寄せると、強く両腕で体をホールドした。
「こんな怪我させるなんて母親失格だよ……遅くなってごめんね。本当はママが真っ先に駆けつけるべきだったね……」
震え声で謝るフラムに、メルクは気まずくて何も言い返せない。
しばしメルクを抱きしめたあと、続けてフラムはシエラのことも抱きしめた。
「シエラもまた捕まったんでしょう? 本当は一度だって許しちゃいけないのに、私の不甲斐なさだよー……」
困り顔で顔を見合わせるメルクとシエラ。
何かと無茶をしがちな二人だが、さすがに母親の涙には弱いのである。
「だから大丈夫だって! 悪いやつはアタシがやっつけたから!」
「私も特に怪我はありません」
「それは結果論だよ! テロリストの動きだって本当なら軍から教わる前に私が気づいておくべきだったんだから。ぬるま湯に浸かりすぎて気が抜けてた、本当にごめんっ!」
そのとき、シエラは気まずさが限界に達したのか、申し訳なさそうに口を開いた。
「……ママ、言いにくいんですけど」
「ん?」
「私はそのテロリストに、わざと捕まったんです」
『えええぇぇぇええっ!?』
フラムだけでなく、メルクものけぞりながら大声をあげる。
親子だけあって、リアクションはそっくりだった。
そんな二人に、シエラはさらにしょんぼりと肩を落としながら語った。
「最近、ずっと付きまとわれていて不愉快だったんです。なので、いっそ中に入り込んで壊滅させようと思いまして」
「そんなの危ないじゃない! どうして母親を頼ってくれなかったの!?」
「あれぐらいなら問題ないと思いましたし、一人で解決すればママの心配事も減るかと思ったんです……」
「じゃ、じゃあメルクもそれを知って?」
メルクはぶんぶんと首を横に振った。
「アタシはシエラが拐われたと思ってたの。だから助けるために、わざと捕まって……あっ」
無自覚に墓穴を掘ってしまうメルク。
フラムの頬がぷくっと膨らみ、表情に不機嫌さが浮かび上がる。
さすがに怒られるか――姉妹は覚悟を決めた。
そしてフラムの両腕が二人の体に伸びると、今度は姉妹を一気に抱き寄せて、その頭をわしゃわしゃと撫でまくる。
「もおぉお、似たもの姉妹ーっ! どうしてそんなとこで似ちゃうかなあ。言ってくれればママが片付けるんだから! ママ強いからっ! 大人ぶりたい気持ちはわかるけど、本当に危ないんだから。今度からちゃんと頼ってよね、いい!?」
「わかりました……」
「はーい……」
さすがに今回は反省したらしく、その後しばらくメルクもシエラもされるがままに抱かれ、撫でられるのだった。
◇◇◇
フラムは軍に伝えることがあるとのことで、現場に残ることになった。
二人で手を繋ぎながら家に帰ったメルクとシエラ。
家は相変わらず西区にあった。
しかし増えた住人に対応するために、増築されて倍ほどの大きさになっている。
まあ、これでも世界を救った英雄が住むには小さすぎる――とコンシリアの民から国王になぜかクレームが入ったりするらしいが。
『ただいまー』
中に入った二人が声を揃えて言うと、小走りの足音が近づいてくる。
現れたのは、メイド服、エプロン姿のミルキットだった。
相変わらず顔は包帯で覆われているが、二十年前より髪は少し長い。
「おかえりなさい。メルク、シエラ」
穏やかな笑顔で娘たちを迎えるミルキット。
すると彼女はおもむろにメルクに顔を近づけると、その首元の匂いを嗅いだ。
「ご主人様の匂いがします。会ったんですか?」
「お母さん、なんつう嗅覚してんの……」
「ふふ、ご主人様のことなら何だってわかりますよ」
「私もメルクの匂いならわかりますっ」
「シエラは張り合わなくていいから! 変なとこで似てるよね、お母さんとシエラって……」
髪の色はフラムに近いのだが、中身はミルキットに近いのがシエラであった。
そしてメルクはその場で、今日あった出来事を母に話した。
するとミルキットは珍しく叱るような口調で告げる。
「また無茶をして……今後は言われた通り、ちゃんとご主人様を頼ってくださいね」
「わかってるって。今回はアタシらが悪かったから」
すると、シエラが何かに気づく。
「……いい匂いがします」
「よくこのタイミングで言えるね……」
叱られた直後だというのに――ミルキットは娘のそんな自由さに頬をほころばせる。
「ふふ、おやつにクッキーを焼いたんです。手を洗ってから食べてくださいね。ホットミルクは飲みますか?」
「はいはいはーい! アタシは飲むー!」
「私はカフェオレがいいです」
「それでは準備しておきますね」
メルクとシエラが手を洗うべく洗面所に向かっていると、階段から誰かが降りてきた。
青髪おかっぱの、メルクたちと同世代の少女――彼女もまた、この家の住人の一人であった。
「おかえりだぞ、二人とも」
「フェリ! 今日は早いじゃん」
少女はフェリシア・リンバウ。
エターナとインクの間に生まれた娘である。
子作りの技術を生み出したのはエターナであるため、数ヶ月ほどシエラより先に生まれた。
だが一番最後に生まれたメルクも含めて、全員学年は同じである。
「わたしは早くない、おてんば姉妹が遅いんだ。どうせまた厄介事に巻き込まれたんだろう」
三人は洗面所に入る。
メルクとシエラが手を洗う間、フェリシアは柱にもたれて二人と言葉を交わした。
「少しテロリストに捕まっていただけです」
「シエラ、わたしはテロリストに少しという装飾が付くのを初めて知ったぞ」
「学びになりましたね」
「言っとくけど、アタシらは平和に生きたいと思ってるんだからね? でもあちらさんが許してくれないの」
「英雄の娘は大変だな」
「他人事みたいに言うじゃん、英雄の娘その3のくせして!」
「メルクの言う通り、フェリちゃんだって王国にとって重要人物ですよ」
「わたしはその3ではなく、ただのゲーム好きの女生徒だぞ。魔法の道を究めるつもりはないんだ」
研究者であるエターナと、その妻であり助手でもあるインク。
二人は名実ともに、王国におけるトップクラスの研究者である。
その娘であるフェリシアには、跡継ぎとしての期待が向けられているのだが、本人には一切その気がないようであった。
「でもこの間、エターナさんに魔法を教わってなかった? シエラも見たよね」
「ええ、涙ぐみながら喜んでましたね」
「あれは魔法がゲーム作りに活かせるんじゃないかと思って勉強してみただけだ……まあ、あんなに喜ばれたのは予想外だったな」
さすがに親が瞳を潤ませてまで喜ぶ姿を見ると、フェリシアにも思うところはあるらしい。
それでも彼女の夢を諦めるつもりはないだろうが。
「結局、ご両親はフェリちゃんの夢についてどう思ってるんですか?」
「応援してくれてるぞ、うちには金もあるからな」
「フェリ、もうちょっとオブラートに包んだほうがいいと思うよ?」
「金銭面の余裕は大事だぞ」
「そりゃそうだけど、もっと可愛げというか」
「誰に可愛げを向けるんだ。メルクと違ってわたしには相手がいないんだ」
「アタシにもいませんケド!?」
「ぽっ」
「シエラっ、そこで頬を赤らめない!」
夫婦漫才を前にやれやれと首を振るフェリシア。
フェリシアとアプリコット姉妹は同じ家で生まれ育ってきた、姉妹同然の関係である。
家でも学校でも一緒に行動しているのだから、フェリシアが二人の関係を知らないはずがなかった。
ひとまず手を洗い終え、三人はリビングへ向かう。
部屋に入った彼女たちは、バスケットに山盛りになったクッキーを前に思わずのけぞった。
「な、何この量……お母さん、キリルさんに対抗してお菓子屋さんでも開くの……?」
メルクのドン引きも何のその、ミルキットはほがらかな笑みを浮かべて両手を広げる。
「さあさあ三人とも、いっぱい作ってしまったので、いーっぱい食べてくださいね」
悪気はなさそうだった。
むしろ誇らしげにすら見える。
「ミルキットさんがああいう顔をしてるときは、だいたいフラムさん絡みだぞ」
フェリシアは席に座りながら、軽くシエラとメルクを睨んだ。
「私をそんな目で見ても、うちの両親の愛は止まりませんよ」
「うんうん、娘が見てる前でも堂々と盛るからねあの二人」
「ふふふ、さすが私たちの娘ですね。よくわかっているじゃないですか」
娘たちから何を言われようと、やはりミルキットは悪びれない。
「今日のクッキーも、ご主人様と二人で作っていたらついつい盛り上がってしまったんですよ」
「……何が盛り上がったらクッキーの量が増えるんだ」
「フェリ、あんま深く考えない方がいいよ」
「あるいは、私とメルクの将来の参考にするためにあえて聞いてみてもいいかもしれませんね」
「何の参考!?」
そう突っ込みつつも、メルクは内心ではかなりビビっていた。
さすがのシエラも、親の前ではメルクへの気持ちを露骨に出したりはしない。
しかしミルキットだけしかいないときは、かなり大胆な行動に出ることがある。
そのたびにメルクは、自分たちの関係がバレやしないかと、緊張で心臓が破裂しそうになるのだった。
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