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水穂戦記  作者: 江川 凛
第5章 信夫攻略1
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 さて俺たちが夕方、丹呉から庭先に戻ると、いろいろトンデモナイ話を聞かされることとなった。

 いきなり他の信夫諸国が攻めてきたというのだ。

 幸い、砦の雪の書き出しもある程度終了しており、それなりの兵を配置できるようになっていたので、事なきをえたものの、そうでなければ危ないところだったという。


 何でも敵は、2000近くの数を揃えており、本気で庭先奪還を考えていたようだったが、雪の中の攻撃なので、こちらは砦に閉じ籠もって矢をいていればよかったので、何とかなかったとのことであった。

 ただ、それもこちらが500近い兵力をそこに投入していたから可能だったのであり、もし兵力差が大きければ、敵も消耗戦をかけてきて砦を奪っていたかもしれなかった。


 更に驚いたのが、死体の回収だけを行う手はずであった、咲が自ら率先して前線に立ったというのである。

 今回は基本的に弓矢での攻防だったので、なぎなた使いの彼女の出番はなかったわけだが、彼女の姿を見た敵兵には明らかに動揺が走っていたとのことであった。

 それは当然だろう、信夫地方は兵の貸し借りが一般的なので、咲のことを見知った者も多いはずだ。

 彼女の国を「解放」するために来てくれた信夫兵に対し、その仲間である庭先の城主の娘が歯向かうというのだから、衝撃は大きかったであろう。

 それも砦を守る要因になったというのが皆の意見であった。


 俺はそれを聞いて、直ぐに咲に会いに行った。

 「約束を破らせるようなことになってすまない。」というと、驚いた顔をして、「自分から勝手にしたことですから、大丈夫ですよ。」と言ってくれた。

 「しかし、何故・・・」と聞くと、「もう決めましたから。」と答えてくる。

 今一意味がわからなかったが、下手に詮索するのも野暮なので、「そうか。」とだけ応えて、この話を終わる。


 ついでだったので、あの信義と戦った際に後ろにいた女性について聞いてみる。

 咲がなぎなたを習うことにしたので、ならばということで、それなりの家臣の娘も一緒にということで学んでいた者たちとのことだった。

 なお、あの出血騒ぎをおこした者は、咲の乳母の娘で名を馬目椿というそうだ。

 何でも共に小さい頃から一緒に姉妹の様に暮らしてきたとのことであった。

 更にはなぎなたも咲に劣るとはいえ、かなりの腕であると聞く。


 そこで、その椿の父親はどうなったのか、確認すると、咲は黙って下を向いてしまった。

 だったらと、馬目家の跡目にいて確認すると、彼女の場合一人娘だったそうで、そのうち婿をとってと考えられていたらしい。

 そういうことなら、彼女の意向次第だが、咲と同じ位なぎなたが使えるのなら、そのまま椿を馬目家の跡取りとして召し抱える方向で検討したい旨を伝えておくよう命じる。


 咲が驚いた顔をしているので、「別に今さら女武者が1人2人増えたところでどうということはあるまい。」という話をする。

 「それに咲も練習する際に、1人よりは2人の方が練習しやすいだろうし、2人なら乱戦になった際にも対処の仕様もあるだろう。」と続ける。

 すると咲が「ありがたき幸せ。」と言いながら頭を下げる。そして「私の選択は間違っていなかった。」と、ぼつりとつぶやいた様な気がした。


 次の日も信夫兵は庭先攻略に来るかと思っていたが、もはやなかった。

 やはり、砦に閉じ籠もって守るだけなら、圧倒的に優位ということは相手も承知なのだろう。

 更に雪の影響もあり、ただでさえ、進軍が難しいのだ、これ以上犠牲者を出すのは得策ではないという判断に落ち着いたというところであろう。

 こうなれば、少なくとも冬の間は問題ない。


 あとは、ある種、懸案だが、ある意味では、大変楽しい、俸禄決めだ。

 具体的な話としては、水穂から誰が庭先、丹呉に移り住むようになるという話だ。

 当然慣れ親しんだ土地を離れるわけだから、加増をしたうえでという話になる。

 それに、最後は泰然たちの手を借りたわけだから、こういう形で彼らの部下に報いてやらないと、次からの手助けがない可能性も否定できない。


 前回、水穂が解放された時は、ある意味年貢が免除され、それだけ減らされていた俸禄がもとに戻るだけだったので、俺が何か言うべきことは基本的になかった。

 しかし、今回は俺が落とした2国だし、旧三川兵への配分と、旧庭先・丹呉兵の俸禄をどこまで認めるかという問題がある。

 特に、これらは基本的に俺の直属の様な形になっているので、今回は俺も本気で話し合いに参加しないわけにはいかなかった。

 

 「負けると大変だが、勝っても大変だ。」という言葉が、俺の中に繰り返し浮かんでくる。

 更に雪が融けると、他の信夫地方が、攻勢に出てくる可能性も否定できない。

 これについても早急に手を打たないと、トンデモナイことになりかねない。

 相変わらずやることは山積みだというのが俺の偽らざるところであった。

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