丹呉
さすがに壊れた砦で、大勢の兵が夜を過ごす訳にはいかないので、最低限の見張りを残し、庭先城で夜を過ごすことにする。
続々と庭先城内に入ってくる水穂兵。
多分、三川辺りなら他国の征服にも慣れているのであろうが、悲しいかな、水穂はここ暫く他国を征服したという経験がない。
結果、庭坂の人達にどう接したら良いか、戸惑っている感じだ。
怖いのは、慣れていないが故に、程度を知らず、浮かれて羽目を外す者が出ることだが、幸いそういう感じはない。
やはり、直接城を落としたのが、俺達わずか100名ばかりで、それが今一信じられないというのもあるのであろう。
話を聞いても本当かと思っていたのが、今実際に自分たちが庭先城に入場することになっても今一信じられないというところだろうか。
今まで殆ど属国のような扱いしか受けてきておらず、他国に命令されるだけだった立場から、その逆になったこともあり、どうしたら良いかわからないということもあるのかもしれない。
朝になると俺は旧三川兵だけでなく、戦わなくて良い(戦場にいるだけで良い)と言う条件で、庭先の兵も連れて行くことにした。
泰然と上総は山頂の砦に向かう。
咲は庭坂領民を率いて遺体の回収に向かう。
これについては、昨夜にうちに、泰然達にも話はしたが、皆基本的に異存はなかった。やはり、近くに死体が置かれたままになっているのはいやだというのが本音であろう。
慎介は、庭先領内の警護と領内の把握を行うことになった。
旧庭坂兵をどれだけ、どういう条件で登用していくかは、大きな問題で、最終的には父親の認可をもらわなければならない。
ただ、その前にある程度整理をしておかなければならないので、慎介には荒木算造を紹介しておいた。
泰然はどう考えてもこういう仕事は向いていないし、上総は、俺の落とした城の後始末等はしたくないであろうから、結果として慎介しかいないというところだった。
昼前には丹呉に着いた。
庭坂より更に奥まったところにある関係で、当初聞いていた話では、庭先を一回り小さくした感じのところという話だったが、まさにそのとおりだった。
村の回りには柵があり、少し小高いところに砦と言っても良いような、丹呉城があった。
そして、俺たちが近づくと、柵の中からは鎌を持った農民たちが半分困惑、半分恐怖の色を浮かべた顔をしながら俺たちを見ていた。
どこかで見た光景と一緒だ。
同じことをするのも芸がないが、下手に正面突破するのはもっと芸がないからどうするかな等と考えていた。
まあ、せっかくだし、絶対丹呉のやつらは庭先の兵を知っているだろうから、連れてきた兵を使者にでも出すか等と思っていたら、村の中に白旗が掲げられた。
そして皆鎌を捨てて柵の門が開けられた。
年老いた如何にも村長という感じの人が前に出てくる。
「庭先が落ちた以上、我々に先はないことは分かっていました。」
「ただ、正直自分たちがどのような取り扱いを受けるのか不安で、柵の中に閉じこもって様子を見ておりましたが、後ろにいる庭先の兵たちの様子を見て、これならと思って降伏することにした次第です。」と言ってきた。
何でも、知り合いの庭先の兵が何の違和感もなく、俺たちの兵に入っているのを見て、これなら、無駄に命をとられることもないだろうと思って降伏することを決めたそうだ。
ま、もともと俺の直属の兵などは、岩影と旧三川兵しかいないわけで、どちらもより集めだ。
それに兵の数もせいぜい100名程度に過ぎない。
やっとここまで増やしたのだ、当然それなりに気を使っているし、大事にもする。
略奪などは三川のようなしっかりした領地があるから可能な話であり、旧三川兵の中には、かつてはそうしたことを行っていた者もいるかもしれないが、既に過去の話だ。
皆、今はあの馬鹿にしていた水穂の居候として、冷や飯食いの生活をしている。
何としても自分の基盤となる領地がなくてはならない。
そのためには、今回の戦で何とか領地を獲得しなければならず、この信夫こそが自分たちの領地だとはじめから皆、心底割り切っている。
だったら、当然、領民や旧庭先兵ともうまくやっていこうというするしかなく、結構気を使っているのは俺でもよくわかる。
所詮俺たちは信夫の民からしてみれば、よそ者だ、しかし、この地で生きていかねばならぬ。
ならば、その土地の人とうまくやっていこうというするのは当然のことだと思うのだが、中にはそう考えない者もいる。
実際、三川は攻略した信夫の国を次の信夫攻略のための足がかりにしか考えておらず、平気で旧信夫兵を前線に投入し、近隣の者どうし殺し合いをさせた。
確かに自国の兵を減らさないという意味では効果的な手法かもしれないが、当然恨みはかうわけで、だからこそ、何かあるとすぐ寝返りがおこり、三川も信夫には手を焼いているという側面があると思っている。
ま、とりあえず、思ったより簡単に丹呉攻略が成功したので、50名の兵と十蔵をそこに残し、庭先にひきあげることにした。




