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水穂戦記  作者: 江川 凛
第5章 信夫攻略1
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増援

 丹呉は信夫地方の北西に位置し、庭先を通らないと他の信夫地方の国々と行き来が出来ない。

 丹呉から北に向かう道もあるが、かなり細く険しい道で、雪が降ってしまうと殆ど使いものにならなかった。

 だからこそ、丹呉にとっては庭先の攻防は他人事でなく、間違いなく、出せる限りの兵力を出していたはずであった。

 結果、今、丹呉本国には殆ど兵がいない状態で、この機会をうまく利用すれば、丹呉も簡単に落とせるのは間違いなかった。


 ただ、そのためにはここ庭先を守る兵力が必用だ。

 何としても慎介には早く兵を出してもらわなければならない。

 何と言っても怖いのは、その前に庭先や丹呉に他の信夫の国々から応援が来ることだ。

 そのため、その夜は、集落の周辺と道沿いに他の見張りを立て、庭先の者が外部と連絡出来ない様にしておいた。

 又、丹呉からの使者らしきものが道を通っていれば、必ず捕まえるよう厳命した。

 ただ、これらは岩影の最も得意とするところだから、あまり心配していない。


 問題は慎介がいつ来るかだけだ。

 そんなことを考えていたら、須走がいつの間にか、俺の目の前にいた。

 須走によると、慎介は、かねてから俺と打ち合わせておいた作戦が、うまくいったことを理解し、筆頭家老の板倉泰然や次席家老の伊藤上総と共にすぐに出陣の用意をし、こちらに向かっているとのことだった。

 1人で来るのではなく、泰然や上総をも連れてくるあたりは、さすがは慎介抜かりはない。

 うまくいけば今日の夜には、国境の麓の集落にたどり着いて、朝出発し、明日の昼には頂上近辺に、夕方前にはこちらに着けるとの報告だった。

 

 玄悟を呼び、他の信夫地方の国々の動きを確認する。

 すると、他の国々は俺たちが100程度の兵で出兵したことを甘くみており、その程度の兵力であれば、庭先と丹呉の兵力で充分だと考えており、まさか庭先が既に落ちているとは夢にも思っていないようであるとのことだった。

 ただ、庭先から未だに結果の報告が来ないので、おかしいとは思っているようであり、それなりの警戒はしている様であるとのことであった。

 

 これらを聞いて、俺は作戦がきれいにあたって、「してやったり。」とうれしくてしかたなかったが、これまで何度調子にのっては痛い目にあっているかわからなかったので、逸る心を抑えて、「まだ何が起こるかわからない。」と、必死で自重した。

 どうも浮かれて確認するのを忘れていたので、須走に慎介の用意した兵力を聞くと「700」という。

 それだけあれば、仮に信夫地方の他の国で動きがあったとしても、何とかなるかと胸を撫で下ろす。


 慎介だから大丈夫だとは思うが、念のため、雪崩の場所とそこでは信夫兵が生き埋めになって、息絶えているから、装備等使えるものは回収しておくよう伝えなければならない。

 他に、主力は頂上近辺に残し、雪崩で壊れた庭先の砦の補修を行い、万が一に備えるようにしておくこと、庭先城に派遣する兵は100名程度にとどめることを須走に伝えるよう命じた。


 一口に「頂上付近」といっても、今回話題にしている頂上付近は、普段人が歩ける場所という意味の頂上付近だ。

 小夜が待機していたのは、それより更に上の、切り立ったところで、普段であればまず人がいかないところだったわけだが、地形もともかく、当然新雪で更に足がとられるので、小夜位の身の軽さがなければ行こうと思っても行けるところではない。


 庭先では頂上付近に簡単な砦みたいなものも造っていたが、それも雪崩で雪の下になってしまっており、使えるかどうかわからない。

 それが使えれば、そのままそこにある程度の駐留も可能かと思える。

 しかし、当然長期間は無理なので、庭先と行ったり来たりしながらということになるが、庭先と丹呉さえ押さえて山頂を取ってしまえば、まずは安泰だ。


 そのためには、旧三川兵は基本的にそのまま庭先と丹呉に駐留することになる。

 というか、彼らの場合、そうしないと俸禄がないという話だ。

 旧信夫兵も当主は死んで亡くなってしまっている者が多いだろうが、後継ぎがいるところもあろう。

 まさか、いきなり全部おとり潰しでは、反感が強すぎる。懐柔できるものはそのまま、抱き込んで兵の補充も図りたい。

 それでも足りないから、加増を条件に水穂からも何人か呼ぶか・・・


 と、ここまで考えて、「いかん、まずは丹呉を落としてからだ。」と急に現実に返る。

 先のことをいろいろ考えるのも良いが、まずは目先のことをしっかりやらなければ、先のことはありえない。

 「とりあえず、明日、慎介たちと合流し、明後日には丹呉を落とす。」、これを心に決めて、眠りについた。

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