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水穂戦記  作者: 江川 凛
第5章 信夫攻略1
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戦死者

 代わりの兵が来るまで、丹呉への出兵は出来ないので、庭先城内の備蓄の蓄え等を確認する。

 武器は俺たちとの戦で持っていってしまったため、殆ど残っていない。

 多分大半は雪の下で、使い物にならなくなっているだろう。

 ただ、幸い短期決戦と思っていたようで、食料はあまり持っていかなかったので、米は殆ど手付かずで、残っていた。


 また、当所、俺が予想した通り城内に使える井戸はなかった。

 あるにはあるし、以前は水が出たこともあったようだが、城を高いところにある関係で、どうしてもすぐに枯れてしまうとのことだった。

 

 確かにあの雪崩で大半の者は即死だったろうし、生き埋めとなったものもあのままほおっておかれれば、そのまま絶命しただろう。

 ただ、やはりそれでも生き残った者は何名かおり、ぽつりぽつりとひどい恰好で庭先に帰ってきていた。

 今回の戦には領主荒井藤吾と後継ぎも一緒に出陣したが、未だに帰って来ないところをみると、亡くなったと思える。

 他の重臣も同じ状態だろうから、今後の話は誰とするのか、あの姫様と相談するしかないのかと思っていると、財務の責任者である勘定方の荒木算造という男がはたまたま体調を崩し出兵しなかったそうだ。


 ま、勘定方であれば、もともと武芸はあまり得意ではないだろうから、仮病の可能性もある等と思っていたら、本当にかなり体調の悪そうな中年男性がやって来た。

 かなり激しく咳き込むので、ところどころ聞き取りにくいところもあったが、庭先の家臣たちの俸禄について、かなり詳しいことを知ることができた。


 そんなことをしていたら、夕方前にしか着かないと思っていた泰然が、思ったより早く昼過ぎには、指示通り100名の兵を引き連れて、やって来た。

 慎介はあまりに俺との関係が近すぎるといろいろ言われるので、遠慮したのであろう。

 上総は恐らく俺と会いたくないのであろう。

 あの泰然が俺の指示にきちんと従っている。このことは俺のやることがうまくいっている限り大丈夫だということだろう。

 ま、うまくいかなかったら、ついこの間までのように良くて白眼視、下手をすれば、謀反ということになるのであろうが。


 泰然に「言うまでもないことだが。」とことわってから略奪、暴行は厳禁と伝える。

 「旧三川兵だけでなく、何名かは加増の上、水穂からも人を呼ばなくてはならない。」と言う話をすると、泰然は明るい顔で、「むろん。」と頷く。

 また、「その者たちには、庭先に住んでもらい、頂上の砦に通ってもらうことになる。」という話をしたところで、急にその肝心要の砦は使えるのか気になったので、まあり恰好良くないが、とってつけたように泰然に尋ねる。

 すると、「かなり派手に壊れてしまったので、修繕は必要だが、弓矢を防ぐことはできるし、無いよりはまし程度には使える。」とのことだった。

 

 これまた、砦の話で急に思い出したのが、庭先の戦死者のことだった。

 あのままにしておくわけにもいかないし、すぐ近くに死体があるのに、その弔いもさせないのはあんまりだ。

 どうせこれから、丹呉に出兵しても夜になってしまうので、庭先の領民に庭先兵の死体の回収を許可することにする。

 何と言っても、庭先の民とは、うまくやっていかなければならないので、こうした気配りも必要だろう。


 須走を呼び、慎介たちに、これから庭先の領民が死体の回収にいくので、死体からの装備の回収は早々に終了しておくこと、死体をある程度丁寧に扱っておくことを伝えさせた。

 さすがに泰然の兵は城に着いたばかりなので、俺が旧三川兵と庭先の領民を率いて、死体の回収に向かう。

 何とか辺りが薄暗くなる前に、頂上に着くことができた。

 慎介達は、雪のかき出しなど、砦の整備に懸かりっきりになっていた。


 死体はそれなりに、地面に丁寧に、ならんでいたので、ひと安心する。

 死体が持ってきた戸板に乗せて、庭先領内に運ばれていく。

 俺達にとっては、見も知らない他人だし、戦の相手だったわけだし、こうしなければ俺たちが死体になっていたわけだが、庭先のように狭いところでは皆が顔見知りだろう。

 

 自分の知っている者が死んでしまう悲しみは、小夜のことで嫌というほど経験したが、多分彼らも同じ思いかと思う。

 領民たちは、何とも言えない顔をして、黙々と作業を行っている。

 そのさまを見ていると、昼まで感じていた勝利の喜びはどこかに行ってしまった。

 

 庭坂城内に戻ると咲のところに行く。

 何故自害しようとしたのかという話を聞くと、落城の危機を迎え、冷静な判断ができなくなっていたところに、相手に切腹を要求した以上、負けて生き恥をさらすわけにはいかないととっさにあのような行動をしてしまったそうだ。

 ただ、「もう落ち着いたから大丈夫です。」と頭を下げてきたので、一安心する。


 それを見て、俺は、咲に「戦だったのだから、お前の親兄弟を殺したことを詫びることはしないが、死んでいった者たちに罪はない。きちんとした葬儀を開きたいが、あまりに数が多いので、合同葬儀のような形にしたい。」と提案した。

 そして、できればその喪主を咲に努めてもらいたいという話をもちかけていた。

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