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水穂戦記  作者: 江川 凛
第3章 跡目
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対立

 俺は当面、水穂の国については十蔵に全てまかせることにした。

 人質の身である俺が、今直ぐここを離れるわけにはいかないし、何より三川の国でやるべきことがある。


 葬儀の時の家臣団の動揺がそのまま町に伝わり、城下はかなり緊張が走っていた。

 当然、その中で最大の関心は何故新右衛門が突然克二を支持したかということであるが、これについてはある意味当然としか言いようがなかったが、西の方と新右衛門がよりを戻したという下種な話が噂の中心を占めていた。

 この噂については俺にも責任の一端があるが、大衆はわかりやすい説明を求める。

 すると、やはりこの理由が一番通りがよく、十蔵がどうこうするまでもなく、遅かれ早かれこの噂は広まったことだろう。


 正直、喧嘩というか、争い事は傍から見ている分には面白い。

 特に下々の者にとって上流階級の争いというのは恰好の話題になる。

 更に、三川きっての2大勢力、秋山家と青柳家どちらが強いかというのは以前から皆の関心事であり、それだけに今回のできごとが、人々の強い関心をひいたのは当然と言える。


 ただ、同時に町民にとって無視できないことがあった、それは秋山家と青柳兼の対立がどこまで行くかという事である。

 話し合いでかたがつけば、それはそれで面白くないが、無難である。

 その一方、万が一にでも、内戦となると、皆ただではすまない。

 喧嘩はただ見ている分には楽しいか、そのまきぞいが自分にまで降りかかるようではたまらないというのが皆の正直な意見であった。


 当然こうした雰囲気は家臣団にも伝わる。

 武士は気位が高く、馬鹿にされたらお仕舞と思っているところがあるので、秋山家ゆかりの者、青柳家ゆかりの者は日々火花を散らしていた。

 特に秋山家ゆかりの者は、西の方と新右衛門の噂を積極的に流し、青柳家の怒りをあおっていた。


 そうした中、新右衛門の乗った駕籠が弓矢で射られるという事件が起こった。

 犯人は捕まらない(本当の犯人は言うまでもないと思うが)。

 しかし、こうした状況下であれば当然、犯人として噂になるのは北の方だ。

 特に、西の方などは、人目もはばからず、「信三のみならず、新右衛門まで。」と堂々と話をしていた

そうである。


 その翌日、更にもう1つ、不幸な事件が起こった。

 青柳家の家臣の1人に仕える小間使いが町まで買い物に出かけた。

 買い物を終わって帰ろうとした時に、秋山家の家臣の秋月何某というものにぶつかったとして、無礼打ちにされてしまったのだ。


 無礼打ちは全くないことではない。

 基本的に、年に数件あるかないかのものだが、今回は、おそらく領内の緊張にいらだった者が、これ幸いと八つ当たりをしたというところだろう。

 それがたまたま対立相手ゆかりの者であったのが不幸であった。、


 普段なら、単なる無礼打ちとして青柳家もそれほど問題にしなかったであろう。

 ところが、これだけ対立が続いていると、双方面子の問題が出てくる。

 青柳陣営としても、「このまま黙っているのか。」という声を無視できなくなる。

 仕方なく、抗議を行うこととなるが、当然秋山家はそんなことを聞くことはできないから、そっけない態度をとることとなるが、これが更に怒りを生むこととなる。


 青柳家の家臣の中には、当然、やられたらやりかえずまでだと考えるものが出てくる。

 結果、くだらない理由を見つけて、家臣どうしの喧嘩が起こることになるわけだが、こうした喧嘩は1回起こってしまうと、後は簡単だ。

 そこかしこで、何かしらくだらない理由を見つけては、いざこざが続いた。


 城内では、当然葛川隆明の後継者を誰にするかという話会いが持たれていたが、一向に結論はでない。

 領主は1人しかなれないのだから当然だが、これ以上争っても仕方がないので、何か妥協点はないかと探り始めたところに、こうしたいざこざが次々と報告されてくる。

 問題は、こうしたいざこざが引き起こす怒りまでもが簡単に伝わってしまうことだ。

 家臣がやられて、気持ちのよい当主がどこにいよう、その場で当主同士の言い荒いが始まる。

 

 葬儀から10日も経つと、ついに話し合いの機会すら持たれなくなってしまった。

 家臣団の喧嘩もかなり激しくなってきている。

 抑えようとしても抑えきれるものではないことは誰の目にも明らかになってきた。

 当主として下手に妥協すれば、家臣から「腰抜け」呼ばわりされかねない状況にすらあった。


 それに、秋山家、青柳家双方共に、信夫地方への遠征の準備をしていたから、ある程度の戦争の準備はできていた。

 目の前に武器があり、にくい敵がいる。

 否が負うでも、対立は深まっていった。 

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