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水穂戦記  作者: 江川 凛
第3章 跡目
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襲撃

 翌日、十蔵が朝早く俺のところに来た。

 そして「これまで若に対し、失礼なことを申し上げて申し訳ありませんでした。」と謝ったきた。

 「何を急に。」というと、「私はまさか岩影の暗殺が成功するとは思っておらず、馬鹿にしたような態度をとり、大変申し訳ありませんでした。」と言ってきた。


 藪から棒に何が何だかわからなかったが、十蔵が俺にこれほど謝るのは初めてのことだ。

 昨日の玄悟との会談前の様子といい、どうもいつもと様子が違う。

 確かに隆明がどうなるか予断を許さない状況で、これから事態が大きく変わっていくのはわかる。

 しかし、これほど十蔵が緊張しているのは何故か、今一腑に落ちなかった。

 その時、ふと頭をよぎることがあり、気が付くと、俺は「まさか本当に俺が計画したとおりに」とつぶやいていた。

 それを聞いた十蔵は「してみせます。」とはっきりと返事をした。

 そして、「だからこそ、昨日話したとおり、信三殿を外に連れ出して下さい。」と続けた。


 当主隆明が生死の境をさまよっている状態で、信三の元を訪ねるのは気が引けたが、今朝のこともあり訪ねてみることとした。

 すると、西の方が「良いところに来てくれた。信三を見ていてくれ。」と慌てた様子ながらも、俺を歓迎してくれた。

 聞いてみると、どうも、昨日の鷹狩りで隆明が落馬して動かなくなった様子を見て以来、信三の様子が不安定だったらしい。

 西の方にしてみれば、隆明に何があっても良い様にいろいろ準備をしなくてはならないのだが、信三が側を離れず、困っていたということの様だった。


 信三がおびえるのは良くわかる。

 小さい頃から「毒殺」という恐怖を西の方を通じて教え込まれた身であれば、今回の「暗殺」に何か感じるところがあったのかもしれないと勝手に思ったりした。

 皆がいろいろと何かをしており、家の中がばたばたした雰囲気だったので、俺は信三を「庭に出てみましょう。」と誘った。

 そして庭を見たり、たわいのないことを話したりした。


 その時、急に風を切る音が聞こえた。

 一瞬何があったのか理解できなかったが、気が付くと弓矢が地面に刺さっていた。

 わけがわからないまま、あたりを見回すと、信三がガタガタと震えている。

 木の上に誰かがいる。

 どうもそいつが弓で信三を狙ったらしい。

 頭が真っ白になった。怖くて何も考えられなかった。


 とりあえず、信三を何とかしなければと思って動こうとしたが、足が思うように動かない。

 信三の前にかろうじて立とうとしてが、足がもつれてしまい、そのまま信三を抱え込むようにして倒れこんでしまった。

 その時、急に十蔵が信三を外に出すように再三俺に言っていたことが頭をかすめた。

 「えっ」と思ったが、その途端「きゃー」という悲鳴が響き渡った。

 どうやら女中が俺たちの様子に気が付いたらしい。


 館内がざわつき、バタバタと大勢の者が出てきた。

 気が付くと、大勢の者に周りを取り囲まれていた。

 当然木の上にはもはや人影はない。

 西の方が半狂乱になりながら「信三、信三」と叫びながら近寄ってくるのが見える。

 震えている倒れている信三を助け起こし、西の方に渡すと、「信三、大丈夫か、怪我はないか。」と言いながら、抱きかかえる西の方。

 親子共に震えているのがわかる。どちらも、かなり激しく泣いている。

 しばらくして、西の方は、俺の方を向き「よう守ってくれた。ありがとう。」と言いながら、何度も頭を下げてくれた。


 俺はその時どのような表情をしていたか記憶がない。

 無我夢中だったが、さっき、頭をかすめた十蔵の言葉もあり、かなり微妙な表情だったことは間違いないと思う。


 その時、「殿ご逝去」と誰かが館の方から大声で叫ぶのが聞こえた。 

 皆の顔が一瞬にして緊張していくのがわかる。

 これからやるべき多くのことが、頭をかすめているのだろう。

 もしかするとこれからどうするか(すべきか)ということが、それぞれの頭をよぎっているのかもしれない。

 同時に、今起こったことが何を意味するかそれも必死に考えているのだろう。


 西の方が俺に向かって「信三を助けてくれたのに申し訳ないが、ご覧のとおりやるべきことができた。礼は改めてさせてもらう。」というと、信三を抱えて立ちあがると、周りにいる者に指示を出し始めた。

 それを見た俺はこれ以上いては邪魔になると思い、一礼してその場を立ち去った。

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