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水穂戦記  作者: 江川 凛
第3章 跡目
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鷹狩 1

 俺が三川の国に来てからもうそろそろ1年が経とうとしていた。

 もうすぐ収穫の時期を迎える。

 収穫の時期が終われば、食料が確保できるので、今年も信夫地方への遠征が始まるだろう。

 そうなれば、既に初陣を済ませた克二も遠征に行くことになるだろう。


 領主の葛川隆明が未だに自分の跡目をはっきりと明言しないのは、何か彼なりの思惑があったのかもしれないが、俺には詳しい理由はわからない。

 ただ、彼が自分が元気だということに自信をもっており、跡目争いなどもうしばらくおきそうにないと思っていたいうことが原因の1つだったことは間違いないと考える。


 やはり収穫の時期は活気がある。

 今年はそれなりに豊作だったようで、秋祭りの準備にも力が入っているようだ。

 学校での話題と言えば、この秋祭りと秋祭り後に行われる遠征の話となる。

 最上級生には初陣となる者もいるわけだから、気が気でないのもわかる。

 大半がある程度の身分のある者の子弟だから、最初から危ないところへは配置されることはないであろうが、それでも戦争という死と隣り合わせの場所に初めて行くとなれば、やはりそれなりの感慨はある。

 

 そうなると、その前の秋祭りでバカ騒ぎをして、英気を養っておきたいという気持ちもわからないではない。

 「俺はあれがしたい。」「俺はこれをしようと思う。」などの会話が飛び交っていた。

 そうした中、信義が「お前は、鷹狩りにでるのか?」と聞いてきた。

 話によると、秋から冬に何度か領主主催の鷹狩りが催されるらしい。

 何といっても、秋祭り終了直後に催されるのが最大規模で、かなりの数の家臣や領民が警備などの名目で駆り出されるらしい。


 それ以降も冬にかけて何度か行われるが、規模や回数は信夫遠征の結果をみてからとなるので、毎年異なるらしい。

 ただ、領主の葛川隆明はかなり鷹狩りが好きなような、信義も正確な回数は知らないようだったが、小規模なものを含めて、かなりの回数は行われているようだった。


 俺が三川に来たのは、既に秋祭りが終わった後だったから、こうした催しがあることは知らなかった。

 俺は正直に「初めてきいた。参加させてもらるかどうか五島種臣様に聞いてみる。」と答えた。

 すると信義は「もし本当に参加したいのなら、おまえだったら直接克二様にお願いした方が早いのではないか?」と言ってきた。


 ここいらが居候のやっかいなところが、確かに克二に話をつけた方が早いだろうが、居候先の主人に何もなしでは、面目を潰すことにもなりかねない。

 何にしろ、一回種臣に話をすることにした。

 そしたら、種臣の方から、「私の方から聞いてみても良いが、茜だったら克二様に話をした方が早いのではないか?」と言ってくれた。

 更に「おそらくその方がより良い場所で鷹狩りを見ることができる、」とまで言ってくれた。

 礼を言い、退席した。


 克二に会った際に鷹狩りを見てみたいと話をすると、当然の如くすぐに承諾してくれた。

 毎年かなりの規模で行われ、数百名の領民が動員されるらしい。

 家臣の者も結構きばって新しい服を新調したりして、このハレの日に備えるらしい。

 確かに領民たちにしてみれば、秋祭りがメインだが、下級武士はともかく、上級武士にしてみればこの日が一番の晴れ舞台となる。

 きばるのも当然だろう。


 その中で「今年は、信三も参加できるかもしれない。」という話がでた。

 克二と信三は表向きは未だに喧嘩をしているということになっているから直接話をする機会もないが、信三が大分外に出れるようになってきたという話は俺もしている。

 信三は大分不満のようだが、信三と遊ぶ回数も週に1回位に制限している。

 その埋め合わせにには、西の方の出身の青柳家ゆかりの者で同じくらいの歳の少年を何人か選んでいるらしい。


 ある意味、俺は初めからそうすればよかったのではないかと思っていたのだが、「息子が毒殺」されるかもしれないということで、どうも冷静な判断ができなくなっていたらしい。

 更に信三が外に出られなくなったことから、自分を責めたり、ありとあらゆるものを呪ったりするようになり、益々冷静な判断ができなくなっていったようだ。

 それに「青柳家=勝一=北の方」という図式が頭に浮かんで、青柳家の者全てが疑わしかったという話もきいたことがある。


 それが、信三が外に出れるようになり、落ち着いてみると、青柳家の中にも当然自分に好意を寄せてくれる、親しい者がいることが思いついたというわけらしい。

 こうなったことについて「すべては茜殿のおかげ。」と西の方から礼を言われたが、それは間違いなく裏表のない本心であろう。

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