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水穂戦記  作者: 江川 凛
第3章 跡目
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信夫地方

 ここで三川の国を取り巻く状況について説明しておこう。

 俺の国水穂は、三川の北西部にある。

 三川の東隣りには、峯藤家が治める東郷の国がある。かなりの大国だ。

 はっきり言って、この東郷の国と三川の国の2国がここいらの二大強国と言ってよいだろう。


 すれば当然この2国が争わない。

 何も無理をして強国同士が消耗戦をする必要はないからだ。

 結果、不可侵協約を結び互いに三川は西へ、東郷は東へと攻め込み、その過程で俺の国は属国とされてしまったわけだ。

 北の信夫地方にもいくつかの小国が控えているが、山岳地帯であるため、なかなか侵攻が難しいのが現状であった。


 まず、地形がやっかいだ。

 山岳地帯なので、そこかしこに罠をしかけて、上から岩を落とすなどの攻撃ができる。

 ただでさえ不慣れな土地に攻め込む上に、そうした罠を攻略しながらとなると、そう簡単にはいかない。

 信夫地方の領主もそれがわかっているから容易に従おうとしない。

 それでも葛川家は数を頼みに農閑期等を利用して攻め込み、年に1つか2つの国を攻め滅ぼしていた。

 実際、勝一の初陣もその1つであった。


 信夫地方の人たちの気持ちもわからないではない。

 徹底抗戦の道ではなく、従うという選択肢を選んでも、我が国と同じようになるだけだ。

 信夫地方は、山岳地帯で、我が国程、米は採れないであろうから、実際主に課せられるのは兵役となるだろう。

 そうなると、葛川家が信夫地方に攻め込む際の先兵にされることは目に見ている。

 つまりこれまでの自分たちの隣国、おそらくはかなり親しい関係にあったであろう国々に攻め込む際の捨て駒にされかねないわけだ。


 戦って滅ぼされたとしても、全滅するわけではない。

 領主などは、隣国に逃げればそれなりの暮らしは保障されていた。

 実際、いつ自分の国が滅ぼされるかわからないわけだから、信夫地方の国々は協定を結び、ある国が滅ぼされた際には、その国の軍を各国が分担して受け入れることにしていた。

 確かに山国で豊かなところではなかったので、受け入れてもらえるといってもかなりひどい待遇になることは容易に想像できた。


 それが嫌なら戦って死ぬか、三川軍の捕虜になるかどちらかしかない。

 ただ、実際、三川に連れていかれて、どのような取り扱いをうけるかわからない以上、まだ見知った信夫地方の隣国の方がましというのが本音だったようである。

 だからこそ信夫地方の連帯は強く、三川がどこか一国を攻撃するということは、必ず隣国の応援があると思って良く、そういう意味でも攻略の難易度は高かった。


 かといって、三川にしても北をそのままにして西に臨むわけにはいかなかった。

 もし、西に全勢力を傾けるようなことがあれば、これまで苦労して攻略した信夫地方を奪い返されることは、目に見えている。

 もうお分かりと思うが、ある意味、水穂の国が属国で済んでいるのは、信夫地方のおかげだ。


 水穂を併合するとなると、やはりそれなりの軍を出さなくてはならないだろうし、時間もかかる。

 西に派遣した大軍を北に戻すのはかなりの手間だ。

 その間にいくつの国が奪い返されてしまうことになるだろう。

 

 だからこそ、俺にとって三川の信夫攻略は他人事ではない。

 それが終わってしまえば、俺の国も本当に併合されかねないのだ。

 まだ信夫地方には10の国がある。

 だからあと10年は大丈夫などと思ってはいけない。


 1年に2つ滅ぼされる時もある。すると5年だ。

 10あれば、滅んだ国の軍の受け入れも可能だろう。

 ただ、実際のこり2,3国となった場合にどれだけの軍を受け入れることが可能だろうか。

 それに最後は逃げる場所がないとなれば、我先に三川に投降するものが出てくるだろうから、当然仲間割れも起こるであろう。


 そう考えると俺には時間があまりないことは明らかだった。

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