七色キーボ君
「矢野はこっちの緑な。名前はミーボ君だ」
「……」
「下山はこっちの赤。名前はアーボ君だ」
「……」
俺の声明に、二人が微妙な顔をして、そいつらを見つめた。
「なあ、安住よ」
「なんだ?」
「これ、俺達が入るのか?」
「そうだが、なにか?」
下山がアーボと自分の背丈を比べている。
「心配するな。うちのキーボ達は、中の人の身長にある程度の対応が可能だ」
どういう仕組みになっているのか、さっぱりわからないが。
「そういうことじゃなくて、俺達が中の人をするのか?って質問だよ」
「当然だろ。なんでお前達を呼んだと思ってるんだ。任務だって言ったろ」
「任務ってなあ……」
「正月早々に呼び出すから何事かと思ったら、これかよ」
矢野が、ミーボの後ろをのぞき込みながら溜め息をつく。
「心配するな。お前達の嫁公認だ。あとで皆で遊びに来るらしいぞ」
「マジか」
今日は商店街の初売りイベントの日。それまで休みだった店も一斉に開店し、新年の売り出しを開始する日だ。そして商店街のイベントには、やはりキーボが出てこないと始まらない。
「しかし七体もそろえるとはな。金かかったろ」
「と思うんだけどな。作ること自体はもめなかったらしい。問題になったのは値段より保管場所だとさ」
自治会の話し合いで一番時間をとられたのは、キーボ君を作ることよりも、活動していない時に保管する場所についてだった。1号2号だけなら黒猫さんとうちの寺で問題なかったが、これがあと5体も増えるとなると、さすがに個人宅では難しい。
「で、見つかったのか? 保管場所」
「ああ。裏に空き地があったろ? あこに倉庫を作ることにしたらしい」
「お前んとこの商店街、金、もってるなー」
下山が感心したように言う。
「金があるって言うより、商店街周辺の人口が増えて、自治会の収入が増えたんだよ」
「それでキーボ君も増えたのか? だが5匹増員とか、やりすぎだろ」
下山はアーボの背中のチャックをおろし、中をのぞきこみながら言った。
「5匹とか動物みたいに言うな」
「匹以外でとうやって数えるんだよ」
「こいつらは妖精さんなんだぞ? 体もダメだ。5人と言え」
「妖怪の間違いじゃ?」
「妖精だ」
微妙な顔をしている二人。いつもの青い1号と2号。そして赤、オレンジ、黄色、緑、紫。こうやって並んで立たせると、なかなかカラフルで可愛い妖精だ。そして色のせいか、それぞれの顔つきが違うようにも見える。
「さて、そろそろ準備しないとな」
ここは商店街の北側、あのね医院さんの駐車場。今日は休診日なので、キーボ初仕事の準備場所として、場所を提供してもらっていた。
「なあ、安住。まさかと思うが、7匹、じゃなくて7人が出るたびに、俺達は駆り出されるのか?」
二人が思いっ切りイヤそうな顔をして、俺の顔を見る。
「今回はたまたまだよ。いつも中の人をしている学生君達が、正月休みで帰省中なんだ」
「それって、正月のたびに駆り出される可能性が、大ってことじゃないか」
「来年からは早めに募集をかけるから心配ない。多分」
「「多分かよ」」
と言っても、間違いなく俺は来年も駆り出されるだろう。せっかくの正月休みが潰される腹いせに、俺が矢野と下山を巻き込む可能性は、無いとは言えない。もちろん、そんなことを本人達に言うつもりはないが。
イベント開始の時間が近くなってきて、残りの色違いのキーボ達に入るバイト達がやってきた。近くの大学の学生課から、単発のバイトとして紹介してもらった、地元住みの学生達だ。
「あ、2号さん。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
その中のリーダー格の学生が、俺を見てあいさつをする。
「こちらこそ。今年もよろしく頼みます。人数が足りない分はこっちから人員を出すので」
そう言いながら、矢野と下山を指さした。
「ご迷惑をおかけしまして」
「いやいや、お気になさらず。これも仕事ですから」
二人とも俺に対しては不満げな顔をしていたが、さすがに民間人の学生達に対しては模範的な態度だった。
「さて、中の人になる前にトイレは行っておけよ? 途中で行きたくなっても、こんだけいると派出所に緊急避難はできないからな」
「まずは昼までだよな?」
「心配するな。昼飯はうまいものが出る」
「なら良い」
二人はあきらめたように、それぞれのキーボの中に入った。
「視界せまっ、足元が見えねえ」
「お前、よくこんなんでバック転したりダッシュしたりできるな」
「そりゃまあ、俺はキーボ歴がそれなりにあるからな」
俺も2号の中に入る。それぞれ一人では着られないので、その場で待機していた自治会の人達に手伝ってもらった。
「いやいや、これ、経験がどうのこうのの問題じゃないだろ」
「ダッシュはともかく、バック転は無理だろ」
「この足の短さ、ダッシュも無理だろ」
初めての窮屈さに、二人が不満げな声をあげている。
「俺はできるぞ。それにだ。重装備で山を歩き回るのを考えたら、楽なもんだろ、こんなの」
「あれとこれとじゃ、ぜんぜん違うだろ」
「そうか?」
「お前、本当は宇宙人だろ」
「失礼なヤツだな」
準備が完了すると、その場で準備運動がわりのジャンプを軽くする。
「よしよし。今日も異常なしだな」
「そこで飛び跳ねるな」
「なに言ってるんだ。ちゃんとフィットしてるか確認しないとダメだろ。二人も飛べよ」
俺に言われて、二人はその場で恐る恐るといった感じでジャンプした。
「なんだよ、そのへっぴり腰は~~」
「うるさいな」
「初めてなんだ、しかたないだろ」
二人はそう言って、今度はやけくそ気味にジャンプする。
「なかなか似合ってるぞ」
「顔みえねーだろ」
「うれしくねえ……」
「なあ、これ、うちの駐屯地のイベントに出張させられないかな」
「俺はイヤだからな、中に入るの」
「次は若いヤツに声かけろよ」
準備が完了した俺達7人は、縦一列に並ぶと、そのまま中央広場に向かって行進を開始した。




