第9話 ダークマター〜マウ
マウが目覚めたのは、既に9時を回った朝だった。
「ん!?あらら。もしや、俺、起きれなかったのか?!。。。痛っ。それにしも、頭が激しく痛いな。昨日のプレミアムウィスキーが効いたのか。」
いつも規則正しく、朝が早い生活を送っており、只の一度も「寝坊」という経験のないマウだが、今朝は、全く目が覚めず、右の手のひらで、おでこのあたりをコツコツとし、頭を一度、大きくブルンと振って、激しい頭痛を振り払おうと、
「ダーク!」
突然、呪文のような文言を唱え、すぐさま手刀を作り、手の甲を上に向け、親指を胸に当てながら、素早く水平に胸へ、その手をぶつけた。
すると、偏頭痛は治まり、頗る体にエネルギーが漲ってきた。
これはマウの能力「ダークマター」による効果で、呪文を唱えながら手刀を胸に当てることで発動する。
しかし、その能力・ダークマターは「マウの思い通りの事象が起こる」ということ以外、未だ、詳細は分かっていない。
実際、マウ自身、自分の能力を把握出来ず、測り知れない未知の能力を手にいれてしまったと常日頃感じている。
そのダークマターの「思い通りに出来る」能力をどこから聞きつけたのか、ここ最近、マウに擦り寄る人達が明らかに増えている。
この可能性の溢れる能力に、マウが覚醒したのは数年前のこと。
◇
ジンという研究者が、当時、マウが勤めていた会社の社長のところへ、「ドリームメーカー」という、夢を自由に見れる装置の設計図を持ってきた時のことだ。
マウは技術的なアドバイスをするよう、社長に打ち合わせ室へ呼ばれ、その打ち合わせの際、何気に置いてある机の上の図面に目を奪われた。
普通の人なら全く気に留めもしないその図面。
何と、今までマウが長年一心で研究してきたが、未だ成し得なかった「夢を自由に操作出来る真の回路図」を示したもの。
それが、正に、今、自分の目の前に無造作に横たわっていたのだ。
マウはその回路図から片時も目を離さず、ひたすら凝視し、記憶していた。
彼には生まれつき、神懸かり的な記憶力が
備わっており、机に置いている設計図を全て記憶するには十分な時間があった。
そして、マウは全ての図面のインプットを終えると、始めはそのカラクリを見ただけで鳥肌が立ち、ジンの凄さをただ、感動していただけが、次第に、自分のものにしてみたい、「独占欲」が芽生えている自分に驚いた。
結局、人は利益を手にいれたところで、さらに貪欲に、それ以上の欲望をまた欲する生き物なのだ。
マウの歯車は、その日から少しづつ狂い始めていた。
そして、遂に、歯車の箍が外れ、「その日」が訪れる。
マウは記憶した図面を元に、装置を装着した脳へ「マウが全知全能の存在」となる指令を伝達するウィルスプログラムを盛り込んだ。
そればかりか、図書の見た目も、一見、原図と遜色ない偽物に仕上がっており、事前にコトの準備を計画的に進めていた。
そして、ジンの研究室へビジターとして堂々と訪れ、ジンの目を盗み、原図を素早く、レプリカと差し替えたのだ。
その後、マウ独断専行の承認図を元に、誰に気付かれることなく、「マウ仕様」の装置の大量生産が実現出来た。
そして、それを装着した人たちの脳に入り込み、じわじわ脳を浸食していった。
また、夢の中で「自分の思い通りの能力」をもつ超能力者になりきり、まるで神の様になっていた。
更に、物事は重なるもので、思いがけず、ある日、ジンによって、時空を入れ替える強大なパワーによって、夢と現実が入れ替えられる事件が起こる。
その一瞬をマウは逃さなかった。
一気に現実の世界でも、夢で行っている自分の行動を真似てみた。
すると、あろうことか、現実の世界でも思い通りに出来ることに気づき、マウの能力「ダークマター」が生まれた。
それが、今のマウを創った始まりの日だ。
◇
即ち、今のマウを創り上げたのは、紛れもない「ジン」なのだ。
かつてはその才能に尊敬し、マウにとって唯一無二の存在になっていたほどの尊敬する人物。
今のマウを創造した偉大なる人物。
しかし、今、組織の依頼で、彼をこの世から葬り去らなくてはならない。
本来であれば、躊躇する場面なのだろうが、幸か不幸か、今のマウにその感情は持ち合わせていなかった。




