24:すれ違い(2)
「……ぼく、あの人たち嫌いだな」
千聖くんや春川さんから充分に離れたところで、優夜くんは不満げに呟いた。
私は無言で木下さんに押された腕を見下ろした。
「…………」
実は私もそう思う、なんて。
波風の立たない、平穏な学校生活を望んでいる私には、言えるわけがなかった。
春川さんたちはスクールカーストのトップにいる人たちだ。
あの人たちを敵に回す勇気なんて、ないよ。
「愛理ちゃんはいいの? 春川さんっていう人、どう見てもお兄ちゃんのことが好きだよね? このままじゃお兄ちゃん、取られちゃうかもしれないよ?」
「取られちゃうって……そんな。千聖くんは私のものとかじゃないし。私と千聖くんはただの幼馴染なんだし……」
私は俯いて、スカートの裾を握った。
シンデレラに立候補した私は、笑われたけど。
ドレスを着た春川さんは、色んな人から可愛い、綺麗って、もてはやされていた。
千聖くんがシンデレラと結ばれる王子様役に立候補したって、文句を言う人なんているわけない。
みんな素敵、お似合いだって、言うに決まってる。
「じゃあ、春川さんとお兄ちゃんが付き合ってもいいの? 嫌じゃないの?」
優夜くんは眼鏡のレンズの向こうから、じっと私を見つめた。
優夜くんは菜摘ちゃんと同じようなことを言う。
菜摘ちゃんもよく言うんだ。
私に向かって、本当にそれでいいの? って。
千聖くんと私は、ただの幼馴染。
ねえ、本当にそれでいいの?……
「……それは、千聖くんが決めることだから。私がどうこう言うようなことじゃないよ」
並んで立つ二人を想像すると、何故か胸がチクチク痛む。
「それに、もし。もしもだよ? 私が千聖くんと付き合う、なんてことになったら皆から笑われちゃうよ。私と千聖くんじゃ釣り合わないって――」
「何それ。皆って、具体的に誰? 誰がそんなこと言うの?」
優夜くんは俯いた私の言葉を遮り、怖い顔で距離を詰めてきた。
「釣り合わないなんて言う人がいたらぼくが怒る。愛理ちゃんはこの前、ぼくのために田沼くんに怒ってくれたでしょう? だから、今度はぼくが愛理ちゃんのために怒るよ」
「えっ。なんで知ってるの?」
驚いて顔を上げると、優夜くんは目を合わせて微笑んだ。
「田沼くんから聞いたんだ。あれだけぼくにちょっかいを出してきたのに、急におとなしくなったから、お兄ちゃんが何かしたのかなって思ってた。でも、実際に動いてくれたのは愛理ちゃんだったんだね。ぼくが幼稚園児のときだってそう。ぼくが本当のお父さんに連れて行かれないように、一生懸命戦ってくれた。これまで何度もぼくを守ってくれてありがとう」
優夜くんは手を伸ばし、私の右手を両手で包んだ。
「ぼく、愛理ちゃんのこと大好きなんだ。愛理ちゃんには幸せになってほしい。だから、愛理ちゃんを傷つける奴は絶対に許さない。自分じゃお兄ちゃんと釣り合わないなんて言わないでよ。そんなふうに自分を悪く言わないで。それは愛理ちゃんのことが好きな人みんなを悲しませる言葉だよ」
ぎゅっ、と。優夜くんは私の手を包む両手に力を込めた。
「ぼくの大好きな愛理ちゃんを傷つける人は、愛理ちゃんでも許さないからね。また言ったら怒るよ?」
「うん……わかった。気を付ける」
「わかってくれたらいいんだ。もっと自信を持ってよ。誰が何と言おうと、ぼくにとって愛理ちゃんは誰よりも素敵な女の子なんだから」
「ありがとう……」
まっすぐな眼差しに、思いやりに溢れた言葉に、胸の奥が温かくなった。
本当に優夜くんは優しい、良い子だ。なんだか泣きそうになってしまった。
私が目元を擦っている間に、優夜くんは手を離した。
「――本当にもう。元はと言えばお兄ちゃんが悪いんだ。好きなら早く告白すればいいのに、意気地なし」
「?」
優夜くんはため息交じりに何か言ったけれど、声が小さすぎて聞き取れなかった。




