EP.7 「おかえりなさい♡ アナタ♡」
「信じられないけど、ホントに変わったのね……」
「演技かもしれないよ?」
「アハハ、面白いこと言うわね射音は。私がそれを見抜けないわけがないでしょう? そもそもの話、元の貴方なら、例えその場しのぎの演技だったとしても、謝罪は、ましてや土下座なんて絶対にありえなかったわ。その時点で貴方は変わっている」
まあ、確かに彼女の言う通りだ。
そりゃあそっか。
前の僕なら間違いなく逆ギレする。
100%する。
というか土下座するところも見てたんだ?
全く気付かなかったよ。
間に割って入るまで、気配が全く感じれなかったから。
「私たちは不可能だと諦めていたのに……いい出会いがあったのね」
「ああ、とても素敵な人達だよ」
僕が改心したのは前世の記憶のお陰ではあるけど、それだけじゃない。
あの時、真々子さんに拾われなければ、彼女が僕の話を聞いてくれていなければ……。
僕は改心そのものはしていただろうけど、今よりはかなりクズになっていただろう。
まあ、酒癖はどうにかして欲しいけど。
酔っぱらってたとはいえ未成年に強引に酒飲ますのはヤバいと思う。
「それで、何をしに図書館に?」
「魔力や経験値に関する本と魔導工学について学ぼうかなって」
「それなら私が案内するわ……貴女も来る?」
「うえっ!? え、えっと、はいぃ……」
姉さんが来てから狼秘は萎縮してすっかり黙り込んでいた。
美人で成績優秀で有名人だからね。
確か姉さんのファンクラブなんかもあるらしい。
燕ちゃんのファンクラブの次に会員が多いとか。
「じゃあ着くまでの間、ちょっとした解説をしましょうか。生物は何で構成されているかは知ってるわよね?」
「は、はい。肉体、精神、魂の三位一体です」
姉さんの質問に、狼秘が答える。
「そうだね。例外として、天使や悪魔、精霊や妖精のような種族、そしてアンデッドの中でも死霊系の霊的存在である魔物は精神と魂だけで構成されているよ」
精神生命体は魔力で構成されてるから、現世に顕現できる時間に制限がある。
ダンジョン内では魔力に満ちているから問題ないけど、ダンジョン外では受肉するか、誰かと契約して魔力のパスを繋がないと消滅してしまう。
アンデッドだと負の感情を吸収して生存できるから問題ないんだけどね。
肉体はある意味、この世界に繋ぎ止める楔のようなものなのだ。
「あら、詳しいのね。授業なんて今まで碌に聞いてなかったでしょ?」
まあね。
僕、天才だし。
大抵の本は一度読めば内容は理解出来る。
「後は、神霊の類は魂だけでも存在出来るよ」
普段は精神と魂で構成されてるけど、最悪精神を捨てても問題はない。
なんなら魂が砕けても、時間をかければ再生できるし。
魂は基本不滅だからね。
「神霊? ……まあいいわ。それで、魔力は精神に宿り、経験値は魂に宿るの。所謂レベルアップと呼ばれる現象は、経験値のエネルギーによって魂の位階を昇華させていると言われてるわね」
「な、なら、肉体にも何か宿るのですか……?」
「……あぁ、そういうことか。多分、いわゆる闘気や生命力と呼ばれているものがそれじゃない?」
生命力はゲームで言うHP。
無くなれば死ぬが、逆に言えば生命力が残っている限り、何があろうと死ぬことはない。
何らかの手段で生命力を1でも残す事ができれば、例えサイコロステーキになっていようが生きていられる。
「闘気……は知らないけれど、生命力は貴方の言う通りね。主に生贄魔術で使うわ」
まあ闘気は物語終盤にならないと発見されないからね。
それに生命力と大して違いはないし。
生命力を魔力みたいに操れるように精製したものが闘気だから。
「そういえば、今日は司書さんはいないんだね」
「う、うん。な、何か用事があるとかで……初めて出かけてるところを見ました……」
一体何があったんだろうか。
彼女がこの図書館を出るなんて、余程のことがないとあり得ないんだけど。
「し、司書さんに何か用ですか?」
「いや、ここ数百年引きこもってたのに」
「数百年? 何言ってるの?」
「ま、まるで司書さんが人間じゃないみたいに言ってますね」
「そうだよ? だって彼女、人間じゃないし」
「へ……?」
「に、人間じゃない?」
「神霊そのものではないけど、それに近い存在だよ」
そう。
原作じゃ出番はほとんどなかったけど、かなり重要人物だ。
モブだと思われてたけど、設定資料集で裏で活躍してることが判明したのだ。
「彼女は所謂本の虫、と言うやつでね。学園長と契約をしたんだ。人類の味方になる代わりに、この図書館で自由に書物を読む権利を得た。この図書館でどれだけ暴れようと本に傷一つつかないのは、彼女のお陰だよ」
彼女の権能は知識や書物に関するものだ。
とある天使をベースに、数多の神霊が融合した存在。
複数の神霊が融合してる割には戦う力は他の神霊に比べると劣る。
けれど、権能の対象範囲であればラスボスの齎す滅びにすら抗える保護が可能らしい。
「い、いえ、そもそも魔力が現れたのは約1世紀前ですよ!?」
「確かにそうだ。でも、その昔にも存在していたことはあったんだ」
神代、中世、現代で何回かね。
全部が全部というわけではないけど、神話や伝説のいくらかは実際に起きた出来事らしい。
ただまあ、神秘の存在する世界になる度に、ラスボスに全部消されてなかったことにされているけど。
彼女は数少ない例外の1つだ。
「なんかサラッと言ってるけどとんでもないこと言ってるわね。星見家の情報網でも知らないんだけれど?」
「他にもいろいろ知ってるよ? 例えば、生徒会長は未だにおねしょが……」
「アーアアー! それバラすのやーめれー!」
「せ、生徒会長!? そ、そうなんですか……?」
「まあそれは置いといて」
「置いとかないで!?」
普段の気高さの欠片もないね。
完全にキャラ崩壊しちゃってる。
これを見て生徒会長だと思う人いないんじゃない?
「ふぅ……着いたわよ。この辺りの本は魔導工学。あの向こうの棚は経験値に関する研究が纏められてるわ」
おお、切り替えが爆速。
さっきまでの動揺っぷりは何処行った。
狼秘も思わずジト目だ。
「ありがとう、生徒会長」
「……どういたしまして」
突然、彼女は僕をギュッと抱きしめ、優しく慈しむように頭を撫でた。
「生徒会長!?」
いきなり何を……!
「ねぇ、射音。もう貴方が家に戻ってくることは出来ない。けれど、何かあったなら私を頼りなさい。貴方は私の弟なんだから」
ああもう。
ホントにみんな甘いんだから。
姉さんも、燕ちゃんも、朱音も。
僕みたいなクズにそんな優しくする価値ないのに。
でも……。
「うん。分かったよ、姉さん。ありがとう」
「じゃあ、またね」
姉さんは去っていった。
「あ、あの!」
……あ。
狼秘のこと忘れてた。
「わ、私のこと忘れて2人でシリアスな雰囲気醸し出すのやめてくれません? す、すごく気まずかったんですけど」
「ホントにごめん」
─────
それから僕は本を読み耽った。
狼秘は僕が悪い事をしないか見張るといい、横で本を読んでいる。
ぶっちゃけ、彼女はもう監視の名目とか完全に忘れている。
彼女はかなりの読書好きであの図太いメカクレ陰キャ女子とも仲がいい。
流石に司書さんには負けるけど。
なにせ司書さんは読書中はセクハラされても気づかない程だ。
なんなら自分がイってることにすら気づかない。
そんなこんなで数時間後、僕は魔導工学の基礎を習得した。
思っていたよりは簡単そうだ。
簡単な魔導具くらいなら僕にも創れるだろう。
より高度な技術は何となくは理解できるけど、流石に練習しないと無理だ。
「ねえ、狼秘」
彼女の肩をポンポンと叩いた。
何回か叩き、ようやく彼女は気づき振り向く。
「僕はそろそろ帰るけど、狼秘はどうする?」
「わ、私は友達と帰ります」
「そっか……分かったよ。じゃあね」
学校を出て、しばらく歩いていると、燕ちゃんと朱音を見つけた。
「やあ、燕ちゃん。朱音も」
「あっ! 射音くん!」
「射音……!」
「朱音、楽しかったかい? 凄かったろう? 燕ちゃんのテクは」
「くっ……! 燕に私を抱かせて、何のつもり!?」
「いやぁ、せめてものお詫びだよ。今までやらかした分のね」
嘘は言ってない。
まあぶっちゃけると、色々言って慰めるより快楽で吹き飛ばす方が手っ取り早いと思ったってのもあるけど。
燕ちゃんは朱音を抱けてラッキー、朱音は燕ちゃんのものになれてラッキー、おまけに絆パワーで強くなれてラッキー。
まさにWin-Winの関係だ。
「そうそう。今日、うちに朱音泊まるから」
「オッケー。……雪華に知られたら面倒そうだね」
僕と一緒にいただけでアレだったのに、他の子とお泊り会なんてしたら……。
そういえば今日、雪華来なかったね。
燕ちゃんの人気具合を考えれば、僕が燕ちゃんと同棲してることなんてすぐに伝わりそうなものだけど。
「あー、うん。雪華は私が同棲してることを知って脳破壊されちゃったから……」
「ショックで固まっちゃってたわ! 何しても反応がないからすっかりクラスメイトのオモチャになってたわね! 明日那先生にお尻ペンペンされても無反応だったらしいわ!」
かわいそ。
そこまでダメージ受けちゃってたかー。
今度慰めてあげるか。
「夜ちょっとうるさいかもしれないけど、我慢してくれるかな?」
「何かあるの!?」
「ここ最近、夜になると獣の声が響くから」
声は声でも嬌声だけどね。
「獣って、こんな町中で!?」
「こんな町中で」
「あはは……」
真実を知ってる燕ちゃんは苦笑してしまっている。
まあ正直誤魔化す理由なんてないけど。
だって実際ヤったら流石にバレる。
あの喘ぎ声聞かれて誤魔化せるわけないし。
強いて言うなら直前まで隠すことでビックリさせれるくらいだ。
「っと、着いたね。ようこそ我が家へ、ってね」
「アンタの家じゃないでしょ!」
「ただい……ま?」
扉を開けると、衝撃の光景が広がっていた。
驚きのあまり、思わず声が尻すぼみになっていく。
「おかえりなさい♡ アナタ♡ ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た……えっ、あっ……」
僕達を出迎えたのは、裸エプロンでお尻を振りながらこちらを誘惑する真々子さんだった。




