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10.戦場の番犬はスキル持ち

 無事砦に戻ってきた私達は、傷口の泥を落とした後、改めて手当てをし直した。


 ラドルファス様の脇腹の傷は既に半分くらい塞がりつつあった。

 彼の言っていた言葉が事実だとするならば、今夜ぐっすり眠れば翌朝には完治してしまうだろう。いやしかし流石にそのような事は──……。


「……そういや、よく俺がいる場所がわかったな」


 手当てしながら心の中で唸る私に、彼が問いかけてきた。


「あ、いえ、途中でどちらの道に行こうか迷ったりもしたんですよ? でも、何故か急にラドルファス様のいらっしゃる方角がピンときたんです。……まるで何かに導かれるみたいに」


「! ……へえ」


「それとですね、ラドルファス様を背負って歩く際、『どうか私にラドルファス様を助ける為の力をお貸しください』ってお祈りしたんです。そうしたら不思議と力がみなぎってくるのを感じたんですよ」


 あの時、私は神でも精霊でも悪魔でも構わないと願った。私に力を貸してくれたのは彼らの内の誰かだったのだろうか……?


「何かが私に力を貸してくれたのなら、願いを叶えた代償をこれから要求されたりするんですかね……?」


 対価に魂や残りの寿命を要求されたらどうしよう……。


「……ま、大丈夫だろ。多分そいつ、そんな危険な奴じゃねーと思うぞ」


 そう言ったラドルファス様の表情はどこか穏やかというか──何だか嬉しそうだった。


「……何か心当たりでもあるんですか?」


「あー……まあ……実は、な……」


 ラドルファス様は森で起こった出来事について語った。


 精霊人……噂には聞いた事がある。

 精霊は万物に宿る自然界の化身であり、それが人に転生した存在が精霊人である。

 彼らが死した際、その魂は再び精霊に戻るという。


 つまりあの森で命を落としたという、かつての番犬仲間──アルベルト様が私とラドルファス様を助けてくれたのだろうか……?


 アルベルト様は強化の補助魔法が得意だったという。

 ならばあの時、私に身体能力強化の魔法を掛けてくれたのかもしれない。それにラドルファス様はマンティコアと戦っている時にほとんど疲れを感じなかったという。もしかしたらそれもアルベルト様のおかげだったのかも……。


 今度アルベルト様のお墓にお礼を言いに行こう。

 彼に届くかどうかはわからないけれども……。


 なお、精霊人には性別というものが存在しないらしい。

 ギルドとて流石に男だけの巣窟に()を一人で放り込むような真似はしなかったようで、男二人が私に不埒な真似をせぬよう、アルベルト様が目を光らせてくれるとギルド側は踏んだのだろう。


 ……結局、アルベルト様は私と出会う前に戦死し、不穏台詞の人こと、もう一人の番犬──テオ様とおっしゃるらしい──はこの砦を去ってしまい、ラドルファス様と二人きりとなってしまった訳だけれども。


 まあ、口は悪いが徳は高いラドルファス様ゆえ、男女が一つ屋根の下でも何かが起こるはずもなく。

 とはいえ全く意識されないのもそれはそれでちょっぴり切ない。我ながら複雑な乙女心である──……。



 そして夜が明け。

 昨夜の内に再び雲が垂れ込み、今日は朝から雨だった。

 魔物も毛皮が濡れるのを嫌うのか、あまり雨の日には現れない。大怪我を負ったラドルファス様には正直助かる──などと思っていたら。


「──怪我、治っていますね……」


 ぐっすりと熟睡した彼の傷口は完全に塞がっていた。皮はまだ再生しきっておらず、肉が剥き出しの状態ではあるが、恐らくもう一晩眠れば傷痕一つ残ってはいまい。


 「な? 俺の言った通りだったろ?」とラドルファス様は得意気に胸を張っている。


 ……ラドルファス様のこの驚異的な回復力の正体、一つだけ思い当たる節がある。


「……もしかしたら、ラドルファス様はかなりの魔力量の持ち主なのかもしれません」


「はあ? 俺に魔力だぁ? 俺ぁ魔法なんざまるっきり使えねーんだぞ?」


 何を馬鹿げた事を、とでも言いたげな表情の彼に、私は大真面目に答える。


「自分に魔力がある事を自覚していない人は世の中に大勢います。ラドルファス様は魔力測定というものをお受けになられた事はございますか?」


「……いや、多分ねーけどよ……」


 この国では小児検診の項目の一つに魔力測定がある為、国民のほとんどは幼少期に自分の潜在魔力を把握する事が出来る。

 だがそういった制度を導入している国は少なく、ましてや幼い頃から冒険者として諸国を転々としてきたラドルファス様が魔力測定を受けた事がないのは当然と言えよう。


「強大な魔力を持つ者は特殊な体質や技能を持って生まれてくる事があり、それらは【スキル】と呼ばれています。恐らく、ラドルファス様は治癒力に秀でたスキルをお持ちなのかと……」


「な、なんかよくわかんねーけど、俺には魔力がすげー沢山あるから傷がすげー治りやすいって事でいいのか……?」


「はい、要はそういう事です」


 相変わらずの語彙力の乏しさだが、話の内容は理解してくれているようで何よりである。


「ですが、それ程の魔力を持つ者はそうそういません。もしかしたらラドルファス様は高位の魔法使いか、もしくは貴族や王族に連なる血を引いていらっしゃるのかもしれませんね」


 ラドルファス様がスキルというものを知らなかったように、我々平民にとって、スキル持ちというのはめったにお目にかかれない存在である。


 だがしかし、いわゆる上流階級の者達においてはその限りではない。


 政略結婚で重視される点は国によって様々であるが、万国共通で重視されるもの、それは。


 家柄。

 器量。

 魔力量。


 主にこの三つである。


 まず家柄は言わずもがなだし、社交の場に出るのであればやはり見目麗しいに越した事はないだろう。

 そして魔力。強力な魔法を使えるというだけで他国への牽制になり、また民を支配するのにも役立つ。


 ゆえに権力者である程、美形、かつスキル持ちとして生まれてくる可能性が高いのである。


 ラドルファス様がやんごとない身分の血筋を引いているとするならば、あの超回復力と端正なお顔立ちにも説明がつくのである。


「ハッ、別にどこの誰の血を引いてたってどうだっていいけどな。血の繋がりがあろうがなかろうが、俺の家族は兄貴達だけだ」


 赤ん坊の頃に自分を捨てた顔も知らぬ両親より、自分にめいっぱいの愛情を注いで育ててくれた義兄弟のほうを家族と見なすのは、まあ当然と言えば当然であろう。


「ま、この血のおかげでちょっとくれー無茶が出来るっつーはありがてえけどよ」


「もう、あまり危険な事はしちゃ駄目ですよ? 治癒力が高いと言っても、怪我が一瞬で治る訳じゃないんですから。今だっていつまた傷口が開くかわからないんですし……」


「わーってるって。だから今日はこうやって砦ん中でゴロゴロしてんだろうが。──ったく、暇だし体がなまっちまうぜ」


 普段は隙あらば体を動かしまくっているラドルファス様だが、今日くらいはゆっくりと静養してくださるようで何よりである。


 ……などと思っていたのに、結局ラドルファス様は剣の手入れをしたり筋トレをしたりと、じっとしてはいられないご様子。


 まあ砦内にいるだけまだマシか。


 また、私もまだ右手の傷が癒えてはいないが、動かせない程ではない。ちょっとした仕事くらいは出来る。


 と言う事で、私は燃やせるゴミと燃やせないゴミの分別をする事にした。

 ゴミは基本的に砦の裏手にある焼却炉で焼却処分しているのだが、魔物の肉を解体した際に出る骨などは燃やす事が出来ない。

 しかしこういった物も砦の周囲に撒いておくと、【死神鳥】と呼ばれる魔物が綺麗さっぱり食べてくれる。


 死神鳥はカラスに似た魔物であり、群れで行動し、魔物の死骸を食らう。名前こそ禍々しいが、人を襲う事はない。砦の結界も人に敵意のない魔物には反応しないようになっている為、彼らが砦に近づいても警報音が鳴る事はない。

 どこの魔境にも生息しているごくポピュラーな魔物であり、冒険者にとっては見慣れた存在である。

 死神鳥もまた人間を恐れず、それどころか、おこぼれ目当てに冒険者の後をついてくる事さえあるという。

 

 現にラドルファス様が戦いに出ると、いつもどこからともなく死神鳥達がやってくる。

 どうやら死神鳥界隈にとってもラドルファス様はカリスマ冒険者として認知されているらしい。

 もはやその姿は冒険者というより、魔鳥の群れを率いし魔の国の王。

 ……これを言うとまた彼に頬をつねられそうなので、口には出さないけれども。


 ともあれ、ラドルファス様が惨殺──もとい退治した魔物達の死骸が常にそこかしこに転がっている為、それらを跡形もなく処理してくれるのはこちらとしても非常に助かるのである。

 

 分別を終え、リビングに戻って来ると。


「おい、食糧庫の魔法陣になんか届いてたぞ」


 ラドルファス様が封書を二通持って立っていた。


 一通は一般的な業務用の封筒であるが、ギルドの紋章が刻まれた封蝋印が押されている。

 もう一通は花柄に縁取られた可愛らしい封筒であり、母がよく愛用しているものである。封蝋印も私の実家のものだ。


「あ、お手紙持ってきてくださったんですね、ありがとうございます」


 ギルドは郵便事業も手掛けている為、郵便物も食糧庫の魔法陣を通して送られてくるのである。


「ふーん、これが手紙ってやつか。初めて見るな」


 ラドルファス様は二通の封書をまじまじと見つめた。


 基本的に、冒険者というものは常に旅をし続けており、一ヶ所に定住する事がない。

 つまり住所というものがないのである。

 手紙とは無縁の生活を送ってきたとしても不思議ではないのだ。


 いつもは私が手紙の回収をしているのだが、どうやら今日は砦内でトレーニングをしていたラドルファス様がたまたま食糧庫の前を通り掛かった際に見つけ、お持ちくださったようだ。


「で、これどうすんだ? 二つともあんたに渡せばいいのか?」


「あ、そちらのギルドからの封筒はラドルファス樣宛てみたいですね。もう片方は私宛てですが」


「……なんでそんな事わかんだ?」


「なんでって……宛名を見ればわかるじゃないですか。ほら、そちらにはラドルファス様のお名前が、こちらには私の名前が書かれているでしょう?」


 私はそれぞれの封筒の表書きを指差した。

 ギルドからの封筒にはラドルファス様の名前が、花柄の封筒には私の名前が書かれている。

 彼の名前には名字が書かれていないようだが、名字のない家なんていくらでもある。特段気にする事ではなかろう。


「……ふーん。で、手紙にはなんて書いてあんだ? ちょっと読んでみてくれよ」


「あ、はい、少々お待ちくださいね」


 ラドルファス様の反応にどことなく違和感を覚えながらも、私は彼宛ての封書を受け取った。そして封を切り、中の手紙を取り出す。紙は二枚入っており、まず一枚目にざっと目を通す。


「えーと、どうやらまだお受け取りになっていない分のお給金をそろそろ取りに来てほしい、との通達のようですね」


 砦勤めの者は月給制である。給料は原則、月に一度、本人が直接受け取りに行かなければならない事になっている。

 私は街に行った際についでにギルドで受け取りを済ませているが……。


「そうは言ってもよー、俺ぁここから離れられないんだぜ?」


 そう、ラドルファス様はお一人でこの砦を守っているのだ。砦をほったらかしにして市街地に行く訳にはいかないのである。


「つーかそんな紙切れだけ魔法陣使って寄越すくれーならよ、直接金を送ってくれりゃいいじゃねーかよ!?」


「あー、それがですね、残念ながらユタシアでは転移魔法陣を使ってお金を運ぶ事は法律で禁じられているんですよ」


 我が国の『転移魔法陣法』において、現金又は貴重品は転移魔法を使用して送付してはならないと規定されている。これは転移魔法陣の誤作動による紛失を防ぐ為なのだとか。

 ちなみに人体及びその他生物全般の転移も同様に禁止されている。転移に失敗すれば最悪、行方不明事件へと発展しかねないからである。


「んだよめんどくせーな! んじゃどうしろっつーんだよ!」


 ラドルファス様がギャンギャン吠える。まあ吠えたくなる気持ちもわかる。


 何とかならないものかと通知の隅々まで読み込む。

 すると一番下の行に、委任者本人のギルド登録証、及び同封の委任状を持参すれば代理人が給与を受け取る事が出来る旨が記載されていた。

 二枚目の用紙を見ると、そこには確かに『委任状』と書かれており、委任者及び代理人の名前を書く欄が設けられている。

 また欄外には「代理人欄も含め、全て委任者本人がご記入ください」と書かれていた。


「どうやらラドルファス様のギルド登録証と委任状があれば他の人が受け取りに行っても良いみたいですよ」


「登録証はあるけどよ……人情? 人助けでもしろっつーのか?」


「人情じゃなくて委任状(・・・)ですよ。例えば、私が代わりに受け取りに行く事をラドルファス様ご本人から許可取ってますよ、って伝える為のお手紙の事です。用紙も一緒に入ってましたので、あとはラドルファス様のお名前と私の名前を書いて提出すれば良いみたいです」


「ふーん、じゃあそのイニンジョーっての、あんたのほうで書いておいてくれよ」


「いえ、残念ながらこれはラドルファス様ご本人がお書きになる必要がございます」


「はぁ!? マジかよ!? めんどくせえルール作りやがって……!」


「いえ、名前を書くだけなのですから全然面倒じゃないはずなのですが。……なんでそんなに嫌がるんですか?」


「うっ……! それは……そのだな……」


 何故かラドルファス様は言葉を詰まらせた。


 そういえば、二通の封書を持って来られた際、彼はそれぞれ誰宛ての手紙なのかわかっていなかった。表書きを見せてもなんだか反応が薄かった気がする。

 もしや彼は……。


「あの、ラドルファス様はもしかして……文字の読み書きが出来ないのですか?」


 ラドルファス様の肩がピクリと動いた。いや、ギクリという表現のほうが正しかろう。どうやら図星のようだ。


「な、なんだよ、わりーのかよ!?」


「いえ、別に悪くはありませんが……。そういったお方はそれなりにいらっしゃいますし」


 文盲の冒険者は少なくない。ゆえにギルドではそういった者達に対し、絵や図を用いながらの口頭説明、及びギルド職員による代筆などを用いて手続きが進められているくらいである。

 しかし第三者を通じての金銭の授受ともなると流石にそうはいかないらしく、正式な書類への本人自筆のサインが必要となるようだ。


「とりあえず、この宛名の名前を見ながら真似して書いてみてはいかがですか?」


「! 成る程な、それなら俺にも出来そうだ!」


 少しだけ表情が明るくなったラドルファス様に、早速羽ペンとインクをお持ちする。


 その後はまあ大変だった。


 インク壺にペン先を深く突っ込みすぎたり、力みすぎて羽ペンをポキリと折ったり、宛名の『様』部分まで書きそうになって私が慌てて阻止したりと、とにかく色々あったが、それでもなんとか書き終える事が出来た。

 完成したサインはミミズがのたうったどころか、のたうち回って転げ回って干からびたようであったが、サインはサインである。きっと大丈夫だろう。うん、多分。


 ──だがそれはそうと、だ。


「……あの、やはりある程度の読み書きは学んでおいたほうが良いと思います。宜しければ私がお教え致しましょうか?」


 私が提案すると、途端にラドルファス様は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「……べ、別に必要ねーよそんなの! 俺ぁ今まで不便に感じた事なんざねーんだし!」


「たった今不便な状況に陥っていたじゃないですか。それに読み書きが出来ればコミュニケーションの幅が広がります。口では言いにくい事も文章でだったら伝えられるようになるかもしれませんよ?」


 照れ隠しについ憎まれ口を叩いてしまう彼だからこそ、手紙でのやり取りならば本音を伝える事が出来るのではあるまいか。


「い、いいって別に! 俺は机に向かってお勉強ってのが大嫌いなんだよ! ……そ、それよりこっちの手紙はあんた宛てなんだろ? 読まなくていいのかよ!?」


 すっごい露骨に話題を変えてきた。どんだけ勉強が嫌なんだ。

 ……まあ本人にやる気がない以上、無理強いしたところで無駄であろう。


「全くもう、仕方のないご主人様なんですから……。それではお言葉に甘えて読ませていただきますけど……」


 私はしぶしぶこの話題を終え、私宛ての手紙の封を切った。


 見慣れた母の字。

 簡単な挨拶から近況報告に移り変わる、いつも通りの流れ。


 ……そう、途中までは。


「え」


 思わず声が出た。無理もない。だって──


『そんな所にいたんじゃいつまで経っても出会いがないんじゃない? お見合いでもしたら? 今度こっちで良い人がいないか探しておこうか?』


 などと書かれていたのだから。


 ……私はかつて、冒険者になりたかった。それを母は知っている。

 ──そして手に職をつける為に仕方なく砦勤めの使用人になった事も。


 嫌な職場で働き続けるくらいならば、いっその事婚活に力を注ぎ、早々に寿退社を果たしたほうが賢明だろうと母は判断したのだろう。


 確かに初めは仕方なくこの仕事に就いた。


 けれど今は違う。


 私はこの仕事が好きだ。

 ──正確に言えば、ラドルファス様にお仕えするのが、だけれども。


 惚れた男の役に立ちたいのである。


 ……だが正直に言うと、お見合いに全く興味がない訳ではなかった。


 どうせ私のこの恋は実らないのだ。

 ならば母の言う通り、お見合いでもして新しい恋に生きるほうが建設的な気がする。


 ……けれどももし私がお嫁に行ったら、もうここで働く事は出来なくなってしまうだろう。

 そうしたらラドルファス様はまた一人ぼっちになってしまう。

 砦勤務の仕事はとにかく不人気職である。簡単に後任が見つかるとは思えない。


 それに貴族のご令嬢とは違い、我々平民はさほど結婚を急ぐ必要はない。

 ならばせめて、この砦にもっと人が増えるまではここで働き続けたいと思う……。


「……おい、なんかまずい事でも書いてあったのか? 家族の誰かが怪我でもしたのか……!?」


 神妙な面持ちで手紙を見つめながら黙り込んでしまった私に、ラドルファス様が心配そうに声を掛ける。

 真っ先に私の家族の安否を気にしてくれる彼は相変わらず優しい。そういうところが好きなんだけどなぁ……。


「あ、いえ、家族は全員元気みたいです。ただ、えっと……母にお見合いを勧められたものでして……」


 「オミアイ?」とラドルファス様は首を傾げた。


「オミアイってなんだ?」


「うーん、そうですね……」


 なんと説明すれば良いやら。

 俯きながらしばし考え。


「簡単に申し上げますと……結婚相手を探している者同士でお会いする事、でしょうか」


 この説明ならばラドルファス様にもご理解いただけるだろう、と彼の顔をぱっと見上げると。



「……………………は…………? 結婚…………?」



 たっぷりと間を置いて呟いたその顔は、まるで目の前のおやつを取り上げられた飼い犬のように驚きと虚無に染まっていた──……。

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