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『フェ・・・ン、やめて!』
他人から名前を教わる事態になるくらい記憶を失ったとしても、なんとなく今の行為は分かっているつもりだ。
・・・とても危険だと。
軽いリップ音が深さを増し、意識が朦朧としていく。
しかし自身の頭に手を添え角度を変えられた瞬間を利用して、フィオナは大きくのけ反った。
両手を垂直に突き出し、拒絶の意を表す。
それにパチクリと目を瞬かせたフェンだったが、それも一瞬驚いたのみで、突き出された手を優しく掴み取った。
「抵抗してもダメだよ。」
手を引かれ抱き起こされる状態になり、せっかく開いた2人の距離が再び密着する。
更にフェンの顔が迫って来た時だった。
「えー? 2人っきりでお楽しみだったわけ?」
突然、突風と共に聞き慣れた人物の声が響く。
声がした方角に視線を合わせると、近くの木の枝に綺麗な獣人が腰掛けていた。
銀髪を優雅に掻き上げ、挑発するような目付きでウィンクする。
助かったと安堵したが、次の言葉で一蹴された。
「ねえ、僕も混ぜてよ。」
そう言い終わらぬ内に彼は、小さな旋風と共に姿を眩ます。
次の瞬間には彼女の側に降り立っていた。ものの数秒の出来事に、フィオナは息をする事も忘れていたと気付く。
そして助かるどころか更なる窮地に陥った事にも気付き、どうしようもない絶望感に駆られた。
「ロドフ、どうしてここが分かったの?」
「ふふ、獣人の探索能力を侮ってはいけないよ?
最も僕は、特に優れているけどね。」
ロドフは肩を竦めて見せる。
けれどそんな事よりもと、彼はフェンからフィオナへ視線を移した。
「その表情、僕が先に拝む予定だったのになぁ。」
今度は肩を落とし、困ったように首を傾げた。
瞳には悔いの色が見える。
『・・・表情? ですか?』
「気付いてないの?
今のフィオナ、いつも以上に魅力的だよ。」
片手で顎を持ち上げられ、恍惚とした表情を向けられる。
いつも以上に妖艶さを増した視線はとても危うい。
猛獣に捕えられた小動物になったようで、フィオナは彼から目を離すことが出来なかった。
「もう、邪魔しないでよ。」
その行為にムッとしたフェンは、横抱きにしていた彼女の体を抱きしめた。
ロドフから隠す様に、彼女を覆う。フィオナは必然的に彼の甘い香りを身近に感じてしまい、身じろぎした。
先ほどの行為を思い起こし、自分でも顔に熱が集まるのを感じる。・・・動揺が隠せない。
「ふーん、無欲なフェンがねえ。
・・・でもさ、悪いけど僕も限界なんだよ。」
幾ら面積が広いハンモックだとしても、所詮は足元が覚束無いハンモックだ。
ロドフにじわりと距離を詰められ、後ろからフェンに抱き抱えられている状況では、身動きが取れるはずもなかった。
「本当は独り占めしたかったんだけど、今はレオの邪魔も入らないからね。
こんな絶好な機会を逃す手はないよね?」
ついに前後から彼らに挟まれる。
ロドフは、彼女の前に寝転がり手を伸ばした。




