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自作小説倶楽部 第15冊/2017年下半期(第85-90集)  作者: 自作小説倶楽部
第86集(2017年8月)/「氷」&「城」
12/38

06 E.Grey 著  城 『黒谷御前1 公設秘書・少佐』

  //概要//

衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。そして、空き時間をみては、遠距離恋愛をしている婚約者・三輪明菜とデートを楽しむのだった。

挿絵(By みてみん)

素材《足成》



    01 黒谷夏帆

.

 代議士は、公設秘書と私設秘書とを置いている。公設秘書は国家公務員で資格がいる。対して、私設秘書は代議士の個人的裁量で選ばれる。だいたい代議士は、国会議事堂のある東京邸と、選挙地盤のある地元邸とがあるものだ。選挙区地元民の陳情を受け付け、要望を聞きつつ、国会の有力党派に所属し、利益を誘導するのだ。

 佐伯祐は東京在住で、地元選出の代議士・島村センセイの公設秘書をやっている。身長180センチ。はっきりいっていい男だ。それが私の婚約者だ。

 そういう、私・三輪明菜は長野県月ノ輪村役場の事務職員だ。

          ☆

 役場前はバス停で、道路を挟んだ向こう側には駐在所があった。退官間近な駐在所の巡査部長は真田さんという人だ。退勤時間になり、帰宅しようとして、路線バスを待っているとき、ときどき、駐在さんのご夫婦に誘われてお茶を御馳走になることがあった。

 するとだ。田舎ではまだ珍しかった一台の軽自動車が、土埃を巻き上げて、こっちに向かって来たではないか。

 東京オリンピックが近づいていた1960年代初頭のころだった。名神高速道路は開通していたのだけど、東名高速道路は開通していなかった。東京ナンバーだから、下道を通って、はるばる長野の山村までやって来たことになる。

 スバル360。1955年以降に生産が開始された国産車。1970年まで生産されていた。テントウムシの愛称があるツードア四人乗りの小型車である。そのスバルが、平屋になった駐在所横に泊まった。

 クーラーがなく、扇風機で満足していた時代だ。扉や窓は全開にしてあった。そこに、容赦なく土埃が上がったのだ。

 運転していたのは若い女性だった。

 サングラスに、ワンピース、スカーフを巻いている。真田さんにいわせると、モダンガールなのだそうだ。

 そのモダンガールが扉を下りて来た。

 倒されていた助手席がパカンと跳ね上がった。

 若い女の連れは何と佐伯だったのだ。

「あら、真田さん、お久し振りですね」

「黒谷御前のお嬢様……」

 サングラスをとった女は黒谷夏帆だ。その夏帆が私のところへつかつかと歩み寄ってきて、私の顔をじっと見てから声をかけた。

「やあ、明菜。佐伯さん、譲って貰うわよ」

 私もしばらく夏帆の顔をじっと見返した。

 それから……。

「何言ってんの!」

 しかし私の空手チョップを、夏帆は、真剣白刃取りで受け止めた。

「仲がいいのか悪いのか……。昔から二人はこうじゃった」

 真田さんが当惑した顔で、私の婚約者である、佐伯の顔を見やった。

 その佐伯の腕に、ピョンと退いた夏帆が甘えたように抱き着き、私に向かって、赤んべーをやったのだ。

 殺人の動機としてはこれで十分だ。男を盗られた複数の女達によって、刺されまくってもおかしくない。しかし、性悪な夏帆は、ふてぶてしい。例え日本に核ミサイルが落ちても、この女一人だけは生き残っているに違いない。そういう奴が私の幼馴染の一人にいる。

 私は、思わず、身震いした。

 白髪頭の駐在さんが、その、夏帆に言った。

「村長から事情は聞いている。黒谷御前も大変ですね」

 黒谷御前は、月ノ輪村を含めた数か村を所領にしていた豪族だ。集落から外れたところに、一軒家を構えている。一軒家とはいっても土塁やら濠やらがあって、屋敷の中に使用人たちの長屋がある、大きな屋敷だった。ちょうど、『遠野物語』に出て来る迷い家みたいなところだった。

 夏帆は黒谷御前の孫娘だ。御前は夏帆を溺愛し、東京に一軒家を買い取り、乳母を付けてやった。そして、そこから大学に通わせていたのだ。佐伯が雇われている島村センセイの姪でもあった。バリバリのお嬢様だ。いや、大学卒女性が少なかったご時世で、お嬢様というよりはお姫様といっても過言ではない。

「――本題を言うわよ。実は、うちの御じいちゃまって、若いとき、けっこうなワルで、たくさんの人に恨みを買っているの。昔は気にしなかったんだけど、最近は老け込んで、カミソリを封筒で送られた程度で、ビビっちゃってるのよ」

 なるほど、親戚から相談を受けた島村センセイが、渋々、探偵趣味の佐伯をこっちによこしたってわけか。

 しかし列車とバスを乗り継いできたほうが早いじゃないか。

 その間、二人は、あの狭い自家用車密室に籠っていたことになる。夏帆のことだ。ワンピースの裾をちらちらめくってみたり、胸元のボタンをはずして、さりげなく胸の谷間を佐伯にみせて誘惑していたかもしれない。いや、きっとそうに違いない。

 キキー!

「明菜キック!」

 流水の構えで、夏帆はすっと、かわした。

     つづく

  //登場人物//

.

【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。

.

【事件関係者】

黒谷御前……地方名家で島村センセイの縁者。

黒谷夏帆……黒谷御前の孫娘で女子大生。現在は東京在住。明菜の幼馴染にしてライバル。

.

*全10話程度の予定です。

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