表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第15冊/2017年下半期(第85-90集)  作者: 自作小説倶楽部
第86集(2017年8月)/「氷」&「城」
13/38

07 らてぃあ 著  氷 『Blue Blood of Night』

挿絵(By みてみん)

素材:足成/かるかんさん/©工藤隆蔵さん




「美夜が帰らないのよ」

 ひさしぶりに顔を合わせた夕食の席で母が切り出した。

「そうですか」

「『そうですか』じゃないわよ。あなたのたった一人の姉よ。わたくしの娘よ。トラブルに巻き込まれたに違いないわ。探して来て頂戴」

「お言葉ですが、美夜のトラブルは99%自業自得ですよ。この前の彼氏も刃傷沙汰だったじゃないですか。計算してみたんですが僕が知っているだけで64%がストーカー化しています」

 嘆かわしいことに僕の双子の姉、美夜は自分の美貌を男心を踏みにじるエサとしか利用していない。有意義な青春について意見を述べると鼻で笑われた。

「お黙んなさい。趣味が悪いのはあなたも同じでしょう。何ですかあの写真の色黒の娘は」

「健康的な小麦色と言ってください。よく食べ、よく運動し、絶対に貧血なんて起こさないことは素晴らしいじゃないですか」

「でも、その彼女は海水浴でお似合いの彼氏をげっとしちゃったのよね」

 母の視線と言葉は僕の失恋の傷をえぐる。

「うっ、……な、夏なんて嫌いだあ!!」

 僕は自分の血脈を呪った。真夏の海なんて僕にとって処刑場に等しい。性格の悪い家族に加えて僕は極度の日光アレルギーをご先祖様から受け継いでしまったからだ。


「マンションの入り口で変な奴に会ったよ。君の弟だと言った」

 男は扉越しに女に話し掛ける。

「もう日が暮れたのに黒いレインコートを着ていたんだ。フードもかぶって。青白い顔が気味悪かったよ。あんなのが君の弟? 知らなかったよ。でも、いいんだ。君がここに居てさえくれれば。誰にも君は渡さない」

 扉に頬擦りして目を開けた男は突然の暗闇に戸惑った。

「停電?!」

 手探りで照明のスイッチを押すが明かりは点かない。すぐに回復すると考えてじっとしていたが時間が虚しく流れるばかりだ。

 どうなっているのか。ベランダに出ると遠くに町明かりが見えた。

「まさか。この辺りだけ?」

 狼狽して部屋に戻る。恐れていたことが起こっていたのに気が付いた。

 女を閉じ込めた扉から水が滴っていた。

 溶けてしまう。そうだ。大学の実験室に冷蔵庫があった。

 男は冷蔵庫を開けて冷たい身体を抱えて立ち上がる。氷が溶けて女の身体は濡れていた。本当なら冷蔵庫ごと運びたいがエレベーターが止まっている状態では不可能だ。

 身体が柔らかくなるのを背中に感じつつ男は暗い非常階段を下りた。と、立ち止まる。

 踊り場に人影があった。

「停電にすれば出てくると思いましたよ。僕の姉を返してもらいましょう」

 数時間前に会った美夜の弟だと気が付く。

 まさか、俺を誘い出したのか。

 最初に会った時、肌の色は白いが日本人だと思ったのに瞳が銀色に輝いていた。音もなく相手は階段を上がる。

「近寄るな! 美夜をここから落とすぞ!!」

「僕にあなたを傷つけるつもりはありませんよ。でも、冷蔵庫に監禁された姉はどうだかわかりませんけどね。ねえ、もう目が覚めただろう」

「何を馬鹿な。美夜は俺が殺し、、」

 言葉は最後まで続かなかった。男の目は笑った唇から覗く尖った牙の光を見ていた。そして男の首には背中に背負った女の牙が喰い込んでいた。

     了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ