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シムヌテイ骨董店  作者: 藤和
2009年
72/75

72:夢への階段

 すっかり寒くなり、街中がイルミネーションで彩られるようになった頃。シムヌテイ骨董店ではだるまストーブの上に鍋を置き、飲み物を温めていた。今日暖めているのは、バター茶だ。近所のスーパーで羊のミルクが売っていたので、久しぶりに作って見た。茶葉をミルクに入れ、時間を掛けて煮出す。その中に、少しの塩とバターを入れて作る、とても体が温まるお茶だ。

 街中の学校は、今日が終業式だという。それならば、きっと今日は木更と理恵も来るだろう。そう思って、ホットワインでは無くバター茶を作ったというのもあった。

 あのふたりはいつ頃来るだろう。そう思いながらぼんやりと入り口を眺めていたら、静かに扉が開いた。


「いらっしゃいませ」


 真利がそう声を掛けると、入ってきたのは林檎と、ダッフルコートを着込んだ木更、それにピーコートを着込んだ理恵だった。


「真利さんこんちわ!」

「こんにちは」


 そう挨拶をして入ってくる木更と理恵に、真利がにこりと笑って返す。


「今日はいらっしゃると思っていましたよ。

いま倚子をお出ししますので、少々お待ちください」


 そう言って、レジカウンターの裏から木製の折りたたみ椅子を取り出して広げ、それを林檎に勧める。それから、バックヤードにはいりスツールをふたつ出してきて、木更と理恵に勧めた。三人が座ったのを確認して、レジカウンターの裏にある棚からカップを三つ取り出す。萩焼の物と、グリフィンが描かれた物と、ワイルドストロベリーの柄の物だ。

 それぞれにバター茶を注ごうかと真利が萩焼のカップを手に取ると、林檎が懐から箱を取り出して真利に差し出した。


「今日バター茶なら、これが合うでしょ」


 そう言ってにこにこする林檎から箱を受け取り、真利は一旦カップをレジカウンターの上に置く。


「キャラメルですか。では、こちらもご用意いたしますので少々お待ちください」


 手よりも少し大きいその箱を持って、バックヤードへと入る。やはり、バター茶にはこのキャラメルが合うのだ。


 キャラメルとお茶の準備が終わり、四人でたわいの無い話をする。その中で、林檎がこう訊ねた。


「そう言えば、木更さんと理恵さんは受験勉強どう? 上手く行ってる?」


 その問いに、木更がはっとして、こう言った。


「そうだ、それ言おうと思ってたんだ」

「なにか、あったのですか?」


 少し心配そうな顔を真利がすると、理恵がにこりと笑ってこういう。

「私達、推薦で入れることになったんです。だから、もう受験が終わってて」


 それを聞いて、林檎と真利も笑顔になった。


「あら、それは良かった。これでもう安心ね」

「でも、三学期にテストで悪い点を取らないように、気をつけるんですよ」


 まるで自分のことのように喜ぶ林檎と真利。そのふたりに、木更が嬉しそうに話す。


「それで、受験が終わったから、来月から人形教室に通うことになって」

「そうなの? 良かったわね」

「受験早めに終わったから、そのお祝いにってお父さんとお母さんが、通って良いって」

「うふふ、それは楽しみねぇ。木更さんが作るお人形って、気になるわ」


 木更と林檎がそう話している横で、真利も理恵に訊ねた。


「理恵さんも、木更さんと一緒に人形教室に通うのですか?」


 すると、理恵もにっこりと笑って言う。


「はい、そうなんです。

高校生の間はお父さんが月謝を払ってくれるけど、大学に行ってからは自分でバイトして月謝を払うことになってて」

「なるほど。大学に入ってから大変だとは思いますが、これからが楽しみですね」


 これからどんな人形を作りたいか、裁縫の練習を頑張るだとか、木更と理恵は張り切っている。そんな二人を見て、真利はふと、彼方のことを思い出した。彼方も、人形作りを始める時は、この様に喜んでいたのだろうか。彼方を見る限りでは、始めた時の好きという気持ちをずっと持ち続けているようなので、このふたりも、ずっと好きだという気持ちを持ち続けて欲しいと、真利は思う。


「いつか、人形作家になりたいなぁ」


 キャラメルを囓りながらそう言う木更に、林檎が言う。


「それなら、頑張ってお教室通わないとね。でも、学校も疎かにしちゃ駄目だからね」

「もちろんだって」


 これからのことに期待を膨らませる木更を見て、ふと、真利が理恵の方を見る。すると、少し頬を染めてはにかんだ。

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