大君
第4話です。よろしくお願いします
晴馬が地下室のような場所で黒い沼のような床に飲まれた先。そこにはモノクロの荒野が広がっていた。
晴馬の見据える先にいたのは、モノクロの岩でできた玉座に座る魔属。
全身黒く、目がなく、反面あげた口角から白い歯が見えた。
「ようこそ、俺の世界へ」
両手を広げて、客を歓迎する王のような魔属。
「.....なるほど。貴方達、魔属のホームグラウンドである裏界に連れ込まれたというわけですか」
「おいおい、魔属って一括りにしてくれんなよ。裏界を持ってんのはごく少数だぜ?」
(確かに、裏界を持っているのはごく少数の高ランクの魔属のみ。そして....)
晴馬の目線の先には、魔属の横に浮かぶ水晶のような物質。その中には眠るように片桐が入っていた。
「なぜ片桐さんを呼んでいたのですか?」
「あ?ここまで来たら、なんとなく想像つかねーか?」
「.....想像したくないものでしてね」
(やはり《受肉》が目的か....。
魔属が人間の身体を乗っ取り、より高い次元の魔属へと昇華する儀式。片桐さんは、この魔属の器だったということでしょう)
晴馬はあらかたの事情を把握しつつ、準備運動を始める。
「へぇ....。アンタ、俺に挑む気か?」
「もちろんです。それが仕事ですから」
律儀に晴馬の準備運動を眺める魔属。晴馬は遠慮せずに、準備運動と優先順位を頭の中で整理していく。
(まず、受肉の阻止はマスト。そのうえで、片桐さんを回収する。簡単ではありませんが、シンプルです)
「ヤミさん」
「ハイッ!」
晴馬の呼びかけに、晴馬の影からヤミが勢いよく飛び出す。
「状況は分かっていますね?」
「もちろんです!結界術の準備もできています!」
「結構。では、骨の折れるお仕事の時間です」
晴馬とヤミが見据える魔属は、退屈そうにあくびをしていた。
「作戦会議は終わったか?」
「ええ。お待たせしました。貴方に勝つ準備が整いました」
「あっそ。じゃ、せいぜい足掻いて見せろよッッ!!!!」
《黒海嘯》!!
魔属の背後より、黒い津波が晴馬に向かって押し寄せる。晴馬は落ち着いて右手で《印》を結び、練術を発動させるための練気を集中させた。
《属性系連術・風 北風》
魔属の術に対し、晴馬は風の練術で対抗。すさまじい轟音があたりに響く。
(このすさまじい術の圧力.....。色々と予想はしてきましたが、まさか魔属の中でも並外れたランク、大君級だとは.....。こんなところでこんなバケモノに遭遇するなんて、運が良いやら悪いやら)
黒い波と風が押し合うが、徐々に押される晴馬の風。ただ、晴馬も黙ってみているわけではない。
自風の出力を調整し、範囲を絞って黒い波の一部分にわずかな亀裂を入れる。
その瞬間、すさまじいスピードでその亀裂に迫る。そこから魔属にインファイトを仕掛けようと画策。
しかし、
「バァ♪」
「!?」
晴馬の正面には、舌を出して拳を振りかぶる魔属の姿。晴馬も咄嗟に拳を繰り出し、両者クロスカウンターの状態で殴り合い、後方へ吹き飛ぶ。
さほど姿勢を崩さず、余裕ある状態で岩の玉座の前へ着地する魔属。対して晴馬はなんとか受け身を取るものの、口から一筋の血が流れ出る。
口の中の気持ちの悪い鉄分の匂いと味をつばと共に吐き捨て、晴馬にしては珍しく眉を潜めて眉間に青筋を立てた。
(どいつもこいつも....)
晴馬は苛立っていた。
晴馬は感情の起伏は激しい方ではない。怒りも同様。しかし、今回はどうにも晴馬の神経を逆なでする事態が多くあった。
まず、自身が魔属の血を継いでいることを黙って晴馬は接触した一般人。
そして、目の前の魔属。
晴馬もろとも裏界へ引きずり込み、嬉々として晴馬との戦闘に応じている。
つまり、仮に自分を討伐しようとする伏魔師を引き入れたとしても、倒せばなんの問題もないということ。
「舐めたマネをしてくれる.....!」
必要以上のプライドは持ち合わせていない。が、翻弄されてやるつもりもない。
再び立ち上がり、口元の血を拭って魔属を見据える。魔属は広角を上げ指で挑発してきた。
晴馬は再び走り出す。魔属は再び黒い波をぶつける。ただ、晴馬も無策ではない。
晴馬は自陣の周囲に風の練術をまとい、そのまま波を弾いて特攻していく。
そのまま肉薄し、両者インファイトの姿勢に。ただ、晴馬はもう一つ仕掛けにかかる。
「ヤミさん!」
「ハイ!」
ヤミは上空から、晴馬と魔属めがけて結界を展開した。
「あ?」
魔属も警戒するが、その間にも晴馬が迫る。晴馬は風をまとった拳で、魔属は水をまとった拳で互いに打ち合う。
格闘の技術は互角。しかし、はやり術の圧力は魔属のほうが上。
(そろそろか.....!)
晴馬は打ち合っていた拳を開き、魔属の両手首をつかむ。そのまま、まるでその場に留めるように踏ん張る。
「なんの真似だ....?」
不気味な状況に、魔属の上がっていた広角が真面目な形へ変化していく。対して、今度は晴馬が広角を上げて、まるで魔属を挑発するように白い歯を見せる。
「.......」
直後、魔属はフリーの右足を振り上げ、晴馬の鳩尾付近に蹴りを打ち込む。
晴馬の全身に電流のような痛みと衝撃が走り、鮮血が広角からあふれ出る。
「オラ、オラオラオラオラァ!」
次々に晴馬の鳩尾に打ち込まれ魔属の蹴り。胃液と血液が混ざあい、口の中の感覚を占めていく。
それでも、魔属の手を離しはしない。
なぜなら、反撃準備が整ったからだ。
「ヤミさん....!」
苦痛な声色で指示を受けるヤミは、結界に意識を集中させる。
《結界術・責鬼共鳴》!
晴馬と魔属を囲う結界内に、凄まじい練気の嵐が吹き荒れる。
晴馬と魔属もその嵐をまともに食らい、かなりのダメージが身体に刻まれた。
「テメェ.....!やりやがったな.....!」
「お味はいかがでした......?」
ヤミの結界術は、結界内で発生した練気と霊気を練気に変換して、結界内にて無差別の攻撃する術。魔属に逃げられないため、晴馬は自分を犠牲にして自分もろとも結界術を食らう作戦を実行していた。
互いに満身創痍の状態で睨みあう。
魔属はダメージを負ったが、それは晴馬も同じ。
ここで晴馬を攻撃すれば倒せると考えるのが普通だ。しかし、魔属は踏み出せなかった。
なにせ、自分を犠牲にしてダメージを与えてくるようなヤツだ。下手に攻撃して罠があれば致命傷になりかねない。
で、あれば.....、
魔属は大きく跳躍し、片桐が入っている水晶の元へ赴く。受肉してしまえば、罠を張っていても下手な小細工に成り下がる。
魔属は片桐が入った水晶に向けて、受肉の為に手を伸ばした。
ありがとうございました。




