後夜祭
第19話です。
新星祭の色んな後始末的な回となっております。
色々なキャラの一面だったり、戦闘以外での一面が見られるかと思います。
……そうなってたらいいな。テヘ。
第19話 いってらっしゃい。
新星祭が行われている闘技場、その医務室。正確には、より重症と思しき患者を診る為の臨時の集中治療室のような場所。
その診察台に横になり、裸の身体に様々な機器を取り付けられ、意識を失っている片桐。その傍らで額に汗を滲ませ、機器が表す数値とにらめっこをする葉乙女。
つい1時間前、片桐は新星祭の最終戦の相手である、第三支部の三神新波との戦闘を終えた。結果は片桐の敗北。しかし今、葉乙女が機器とにらめっこしているのは、なにも単純な勝敗が起因するものではない。
三神との最後の攻防に入る直前、片桐の身体に生じた違和感。それは、片桐がこれまで保有している量を遥かに超える、膨大な練気が突如として発生したこと。
練気というのは通常、時間をかけて鍛錬などによって量や質を高めていく。練術の種類によって一時的に増加することもなくはないが、あくまで自身のポテンシャルの範疇。
対して片桐の増加した練気は、まさしく常識では考えられない量。概算で100倍に近い。無論、突如としたそんな増加量はあり得ない。
当然と言えば当然だが、そんな身体の急激な変化が起これば身体はエラーを起こす。それが片桐の意識がない理由だ。
あらかたの処置を施し、機器が片桐の身体がひとまず安定したことを告げると、葉乙女は大きく息を吐いて治療室を後にする。治療室を囲うガラス張りの向こう側には、表情の険しい晴馬が備え付けの椅子に座して待っていた。
その晴馬に、葉乙女は少し微笑んで自身の汗をぬぐう。
「ひとまず、容体は安定したよ。ただ、念のため僕の病院に送るから、後夜祭とかは欠席だね」
「……ありがとうございます」
新星祭には後夜祭がある。互いに健闘を労ったり、豪華な料理と共に表彰式も行われる。だが、現在の片桐の状態では参加は難しい。また、容体は安定しているとはいえ懸念や不安も残る晴馬。その理由を葉乙女も分かっていた。
「いやぁ、想像はしてたけど、懸念材料がそろってたねぇ。《大君級の魔属の姿をした巨人》か……」
苦笑いを浮かべガウンや使い捨ての医療用の手袋を捨て、晴馬が座していたソファの隣に座る葉乙女。かの大君級の魔属が水の術を使用していたことは晴馬から事前に聞いており、あの水の巨人が魔属の姿をしていることを先ほど耳にした。
「……ええ。才能という点で言えば素晴らしいですが、出所が不気味です。あの水の巨人には、少なからず霊気も混じっていたわけですし」
「その点についてなんだけどね、ちょっと面白い調査結果がでたから見せとくね」
実際に片桐の現状を考えた際に「面白い」が適切かどうかは分からないが、少なくとも晴馬から葉乙女に言い方に文句をつける理由はない。
葉乙女が持ってきたのはタブレット。画面には片桐のレントゲン写真が写っていた。練気を使用した少し特殊な機器を使用しており、体内の練気の情報などが分かるようになっている。
「ココ、見て」
葉乙女が液晶の画面を拡大して示したのは、片桐の身体の心臓部にあるひし形の物質。それは、大君級の魔属の一部であり魂の半分。晴馬がそこに着目すると、これまでにない変化が見て取れた。
「ヒビが入っている……?」
「そ。多分、異常な練気の増加もこれが原因だと思うよ。多分、三神君の拳を心臓部で受けた時にダメージが入った感じかな?」
まるで宝石にヒビが入るように、ひし形の少し下側に亀裂が入っていた。無論、三神に一切罪はない。そもそも防御や回避もしようと思えばできな状態で、学習のためにわざと受けた片桐の責任だ。
「先に言っておくと、特に追加の異常はない。片桐君の身体も、あくまで異常な練気の増加による一時的な疲労に近いね。魔属の受肉云々も兆候は見られない」
ひとまず、最も懸念されている魔属の復活や片桐の身体への影響も、現時点では最悪の事態ではない。まだまだ分からないという点では、不気味さはぬぐえないが。
「なぜ、異常な練気の増加につながったんでしょうか」
やはり気になる、異常な練気量の増加のカラクリ。
「それなんだけど、この亀裂から少しづつ練気が漏れ出てるみたいなんだよね」
「練気が……?」
「あくまで僕の仮説だけど、この魔属の一部には練気を格納、貯蔵する機能があるんじゃないかなって」
「なるほど。亀裂が入ったことにより、貯蔵していた練気があふれ出たと。しかし、なぜ魔属の一部に練気が……?」
「これまた僕の仮説になるんだけどね。多分、魔属本体が残した念のようなものに従って動いているんじゃないかってさ」
「まさか……、受肉?」
「多分ね。受肉の為に必要な練気を本能的に貯蔵していると考えれば、辻褄が合うかなって思ってさ。もちろん、魔属の本体と接触をしなければ、受肉再開ってことにはならないと思う。まるで主の命を自動で全うする悲しきマシーン、いや、もはや怨念だね。
晴馬君が感じた霊気に関しては、亀裂が入ったときの魔属の一部のカケラが練気中に流れ出たってところかな」
「どちらにせよ、進展はさほどないってところですか……」
残念そうに天井を仰ぐ晴馬。その姿に、少し思うところがある葉乙女。
「……一応、朗報で言えば、魔属の一部が起因する霊気が片桐君の身体に影響を与えるかって点においては、現時点で霊気は練気を貯蔵するための箱みたいなものに代えているから、悪さをしないって意味で心配ない。ただ、今回はあくまで亀裂が少し入ったことによる一時的なイレギュラーだ。これを積極的に壊そうとしたら、どうなるか分かったもんじゃない。
それはそれとして、確かに進展で言えば微々たるものかもしれないけどさ、片桐君の身が無事だったのならそれが一番じゃない?」
「……そうですね。そう思うことにします」
完全に納得して受け入れたというより、致し方なくというニュアンスが多いだろう。
晴馬からすれば、早々に片桐の身体に宿る魔属の脅威を消し、ある意味で片桐との因縁を断ち切りたいという思いがあるのだろう。教師を続けるかどうかは別として、片桐を巻き込んだ責任を果たしたいといったところだ。
(真面目だねぇ)
という葉乙女の評価が適している。ただ、現状はやはり、片桐に身が安全というのを収穫にするのが精神衛生上も楽だろう。
「それにしても、片桐君の戦闘は面白かったねー。あの三神君にあそこまで食い下がるなんてさ」
若干暗い雰囲気だったが、葉乙女から分かりやすい話題転換が入る。ちょうど、晴馬もその戦闘で葉乙女に意見を仰ぎたかったこともあった。
「……片桐さんの戦法を見てどう思われましたか?」
「……言いたいことはなんとなくわかるよ。自分の身体を犠牲に使うような戦法でしょ?」
「……はい」
第一戦目の中田の時、自分の初使用の水の練術の使用感を確かめるために中田の風の練術をわざと受けたり、それこそ最終戦では三神の練術を学習するために三神の拳を心臓部でわざと受けたりと、前科が満載だ。
「褒められた話ではないのは確かだね。一応、目が覚めたら僕から釘は刺すつもりだよ」
「お手数をおかけします」
「ただ、その戦い方で打開策を見出したことも確かだけどね。だからこそ、医療方面の僕が言うのはまだしも、結果重視でやっている晴馬君から言うのは思うところがあるってところ?」
「……はい」
「……考え方は分かるけど、それはホラ、ケースバイケースってことで釘刺す方針でいいんじゃない?
確かに場合によっては自分をある程度犠牲にするやり方も必要だし、痛みを伴わない成長は伸び幅が小さいってね。でも、自分を犠牲にすることを前提とするのは違うじゃない?ってさ。
多分、片桐君もその辺がわからないほど融通の効かない子じゃないだろうし」
葉乙女の意見に、天井を仰いでいた晴馬は姿勢を正面に戻す。
「そうですね。そうします」
少し晴馬の自己犠牲に関しても釘を刺しているつもりの葉乙女だったが、その辺に関して晴馬はノータッチの模様だ。
「さて、もう少しで後夜祭のパーティに差し掛かるよ。シャワー浴びたり色々と準備もあるだろうから、片桐君は僕に任せてそろそろ行った方がいいよ」
「そうですね。では、片桐さんをお願いします」
「あいあーい」
晴馬は少し重い足取りで、治療室を後にした。その後ろ姿を見て「やれやれ」と言った具合でため息を吐く葉乙女であった。
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後夜祭のパーティ会場には、すでに相応の人数が集まっていた。戦闘での面識がある者や、惜しくも縁がなかった者まで、思い思いに交流を楽しんでいる。
そこに到着する本部所属の面々。尤も、メンツは4分の2だが。
「わぁー!料理いっぱい!華やかー!」
「ええ…!実に品位がありますねぇ…!」
アリサと統が先に会場へ赴き、まずは目の前の光景を楽しんでいた。
「ヤッホー!犯罪的にお疲れ様!二人ともー!」
「僕は無罪でお疲れ〜」
第三支部所属の侑蓮と、第二支部所属の宙良大河。各々が戦闘の疲れを感じさせずにアリサと統の元へと赴いた。
まだ人数は揃っていない感じはするが、それぞれグラスを持ち「かんぱーい!」と、音頭を始める。各々実際に戦闘をした者同士、健闘を称え合っているところだが、そこに新たな参加者が加わる。
「お、やってんな、お前ら」
「おー、親弥くーん……びゃッッ!!??」
第二支部、特進科教師、宝生親弥。担任教師である彼の来訪に応じた侑だったが、宝生と共に後夜祭に参加しに来た晴馬の顔を見るなり、奇声を上げてアリサの背後に隠れた。
「あえ?どしたの蓮ちゃん?」
「ハル様ハル様ハル様ハル様ハル様ハル様ハル様ハル様」
まるで推しのアイドルを前に縮こまるファンのよう。アリサの背中で震える侑を見て、何かに気が付く統と宙良。
(宙良君……、これって……)
(……みたいだね~)
漢気を胸に、行動に移す男性陣。
「あ~、あっちにおいしそうなりょうり~」
「ほんとですー。じつにひんいがありますー」
棒読みとまさしくこのこと。
「さて、行きますよアリサ」
「え?あ、ちょっと!」
バリケードと化していたアリサの腕を統が掴み、侑、晴馬、宝生の元を去っていく一行。
(……アイツら演技下手か!
けど、感謝するぜ……!)
なんとなく統や宙良の思惑を察し、心の中で少し頭を抱える宝生。だが、チャンスは無駄にはしないと誓い、若き雄姿達に親指を立てる。
「……急にどうしたんですかね」
「さーな。よっぽどの好物でも並んでたんだろうよ」
晴馬の疑問に対してどこ吹く風を装い、壁を失ってタジタジの侑の隣へ歩み寄る。
「さて、改めて紹介させるな。コイツがウチの生徒の侑れn
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイハル様ハル様ハル様ハル様マジ犯罪カッコイイマジ犯罪まぶいマジ犯罪犯罪犯罪犯罪犯罪犯罪犯罪犯罪犯罪犯罪犯罪犯罪」
宝生の紹介を覆い隠す、背後に隠れた侑の念仏のような呟き。
「おい、その辺にしとけ。晴馬の罪状がとんでもないことになるぞ。……ったく、いつもギャル1000%みたいな感じなのに、なんでこうなるかな……」
「は?なんで犯罪者扱いになってるんです?」
「あー、すまんすまん。口癖レベルMaxってところだ。あまり気にすんな」
「はぁ……」
色々と気になる晴馬だが、軽く一蹴される。
「おい蓮。お前の気持ちもわからくはないが、他校の先生だぞ。キッチリ挨拶するのは当然の礼儀じゃないか?」
「うぐっ……。あい……」
宝生のド正論に、恐る恐る宝生の正面に出てくる侑。ただ、晴馬とは中々目が合わない。
「犯罪的にお初にかかるますあそばせ候……」
「……お前、何言ってんだ?」
侑による、壊滅的な言語の挨拶が炸裂。
なんとも言い難い晴馬。
教え子だというのに、若干引いている宝生。
一応、挨拶ということは伝わってきたため、晴馬から仕掛けることに。
「こちらこそ、お初にお目にかかります。本部特進科の担任教師をしております、天津晴馬です」
「……犯罪的に存じておるますです候」
「時代劇にでもハマってんのか」
「親弥君うるさい……!」
教え子の右拳が宝生の左わき腹を直撃、絵に描いたような悶絶。なにがなんだかよくわからない晴馬だったが、気まずい状況はごめん被る。会話を続けることに。
「新星祭ではお見事なご活躍でしたね。さすがは特進科の生徒さんです」
「いえ……!犯罪的に頑張りました……!」
ここで悶絶中の宝生が、晴馬にとある目配せをする。
(晴馬……)
(分かってますよ)
それは、新星祭前に宝生と晴馬が交わした約束。今が絶好のチャンスだった。
「今後も本部の生徒と任務を共にすることもあるかとは思いますので、これからもよろしくお願いしますね。えーっと……《蓮さん》」
営業スマイルで口にした侑の名前。そう、苗字ではなく名前。その音を聞き、一時的に侑の心身機能が全停止する。
蓮さん……
蓮さん……?
蓮さん……??
蓮さん……!?
「……蓮さん。どうしましたか……?」
「あっ……、かっ……無理ィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」
突如として走り出し、会場を後にする侑。台風一過ならぬ侑一過。
「私……、何かしました……?」
侑の心境や事情をよく知らない晴馬からすれば、本気で心配になる光景。ただただ挨拶をし、宝生との約束を果たした末に逃亡とあってはどうしたって心配になる。
「……大丈夫、お前は何も悪くない。……まぁ、なんだ、若気の至りとして大目に見てやってくれ。後で礼儀はしっかり言い聞かせるから」
(ちょっとやりすぎたか……?若者の下世話なんて慣れないことやるんじゃなかったか……)
悶絶する左わき腹を抑え、少しの後悔と共に晴馬をフォローする宝生。その後、テーブルに置かれている色とりどりの料理やノンアルコールシャンパンをお供に雑談へと移行した。
「にしても、アリサと統は半年前と比べて、随分と戦闘の質が上がっているじゃんか。どんな教育したんだ?」
「別に特別なことはしてませんよ。それぞれに合った練習メニューを提案しているだけです」
「だけってお前、それであんな成果が出るような練習メニューを作れる教師がどれだけいると思ってんだよ」
「そんなこと言われましても……。先生だって、私が養成機関に在籍中は親身になって授業をしてくれたじゃないですか。その背中を真似しただけです」
「その生徒が、歴代最速の在籍期間の半年で卒業するとは思わないけどな」
「……先生ってそんなに口の減らない方でしたっけ」
「まだ20歳にもなっていない元教え子が、俺を超える教師ぶりをしているのが複雑なだけだ」
少し冷や汗をかきそうな本音の言い合い。それでもあくまで雑談テイストとなっているのは、互いの事をよく知り、純粋に尊敬と少しの卑下、それらを遠慮なく言い合える関係だからである。
「ま、アリサと統は元々のポテンシャルは高いからな。それはそれとして、あれが噂の新人か」
その対象は言うまでもなく片桐のことだ。一応、片桐の身体に魔属の一部があることは口外を禁止されていない。下手に情報統制をしようとすれば、変に騒ぎ出す連中もいるからだ。あえて統制をせずに普通に生活させることで、伏魔師として通常に近い形で活動できることへのアピールともなる。
尤も、変に騒いで混乱を招こうとする輩がいれば、然るべき場所から沙汰が下されるが。
「ええ。まだまだ発展途上ですけど」
「みたいだな。でも、あの新波に対して一撃入れたのは大したもんだ。経験の浅さと未熟さをカバーする、自己犠牲と創意工夫での戦い方。俺は嫌いじゃないな」
まるでかの三神と片桐の戦闘を肴にして、ノンアルコールシャンパンを愉しむ宝生。そんな宝生を後目に、晴馬はグラスをテーブルに置く。
「……聞かないんですか?魔属の一部について」
晴馬の問いに、宝生はため息を吐いてグラスをテーブルに置いた。
「……最後に見せたデカい水の練気だろ?まぁ、気にならないっていったら嘘にはなる。でも、今のところ俺から首を突っ込む理由はないな。色々と複雑だろうし。仮に首を突っ込むとしたら、他の生徒に危害を加えるようになったらだ。仮にそうなっても、俺が見ている範囲であれば力づくでどうにかする。少なくともそれが、今の片桐に思うところだ」
やや思うところはありつつも、割とアッサリとした回答と雰囲気の宝生。色々とつっつかれることを覚悟していた晴馬は、少し毒気を抜かれたようにキョトンとした。
その後、テーブルの上のノンアルコールシャンパンの瓶を手に取る。
「先生には敵わないですね」
テーブルの上に置かれていた宝生のワイングラスへ、新たに飲み物を注いだ。少し微笑み、どこか疲労と安堵感を感じさせる表情。
これまで見たことのない元教え子の表情を見て、少し複雑な心境になる宝生。
伏魔師という道での教師という役割と難しさは、宝生がよく知っている。ましてや、のちに《異端》と称されることとなる、稀代のダイヤモンドの原石の教師をしてきた男だ。
その元教え子の現在は、ダイヤモンドというには濁り、疲れ切った人間の成れの果てというにはまだ輝きを残す表情をしていた。
色々と晴馬に対しても思うところがある宝生は、心中の様々な懸念雑念を振り払い、現在の晴馬に対するスタンスを決める。
「バーカ。お酌なんで10年早いんだよ」
いつものように少し微笑み、晴馬から優しく瓶を奪い取る。そして、テーブルの上にあった晴馬のワイングラスへ飲み物を注ぐ。
いつも通り
そのスタンスで救われる心境の人間は意外と多い。晴馬も間違いなくその内の一人だった。
「ま、色々とあるけどよ、伏魔師の世界なんだから今更だ。今はとりあえず、新生祭で死者や重症者が出なかったことを、教師同士祝おうや」
かつての教壇の時と変わらぬ微笑みで、ワイングラスを持つ宝生。晴馬も少し疲れた表情でワイングラスを持つ。
「「乾杯」」
二人は優しく、ワイングラス同士をぶつけ合った。
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後夜祭も佳境。最後にはメインの表彰式となる。多くの生徒や関係者が見守る中、そのステージに登壇したのは、
「イエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェィ!!!後夜祭楽しんでるかエブリイバディィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!」
相変わらずなビートのDJフレイム。尚、片桐と三神との戦闘において、思わずその光景に見とれて途中から実況と終わりのゴングを忘れていたのは内緒である。
「さぁさぁさぁさぁ!!イかれたバスターズの祭典の最後にゃ、キッチリ表彰といこうぜぁぁぁぁぁ!!」
フレイムの熱量とは打って変わって、会場からは上品かつまばらな拍手が送られる。少し温度差はありつつも、フレイムは「コホン」とわざとらしい咳払いで場を整える。
「エブリバディ知っての通り、表彰は上位三名が対象となるぜ!勝ち星が最優先で、戦闘の内容から総合的に判断されることとなる!
では早速、三位からの発表といこうぜぁぁぁぁ!!」
それこそ表彰の場でありそうなドラマロールと暗転の演出が入り、会場の雰囲気を温める。
そして、絵に描いたような「デン!」という音でドラムロールが止まった。
「第二支部代表、《サンシャイン・ヴァルキュリア》!
侑蓮!」
今し方、晴馬からの逃亡から会場に戻ってきていた侑にスポットライトが当たる。
「え?アタシ!?イェーイ!!」
順応早く、喝采を浴びて喜びを隠さない侑。色々と察し、晴馬と宝生は近づかずに見守る。その代わり、アリサが「レンちゃんおめー!!」と抱きついた。
「さぁさぁさぁさぁ!お次は二位の発表だぜ!!」
同じくドラムロールなどの流れへ突入。
「第一支部代表、《タイガ・ザ・シューティングスター》!
宙良大河!」
「お〜!俺だ〜!シューティングスタ〜!」
気だるげな声色はそのままに、両手を広げて喜ぶ宙良。フレイムがつけた二つ名を割と気に入っているようで、フレイムも少しドヤ顔であった。
「さぁさぁさぁさぁ!!!最後は第一位!優勝者の発表だぜ!!」
これまでより長めのドラムロールが流れ、会場の緊張もより高まっている。そして、ドラムロールが止まる。
「第一支部代表!《大自在天》!
三神新波!!!!」
スポットライトと大合唱が当たった先には、一人料理を頬張る三神。
「へ?」
どうやら自分が表彰されたことに気が付かなかったらしい。その後、しっかりと表彰と喝采を受けると、すぐに再び料理へと手を伸ばす。
その光景を見ていた宝生と晴馬は、
「もう少しTPOを意識した方がいいんじゃないか、アイツ……」
「いえ、料理に夢中なあの姿、彼はこれからも伸びます間違いありません」
「そうだった。お前も同類だった」
なんで会話が繰り広げられ、TPOを意識してあまり食べていなかった晴馬(本人比)の口からはヨダレが少し出ていた。
「やー、お疲れ様ですー」
晴馬と宝生の元は歩み寄る、軽いノリの男性の声。伏魔師の黒い軍服とは反対の白い軍服を見に纏い、綺麗な銀髪の男。
保安局伏魔課、朝希首竜。
監査の時に晴馬へ予告していた通り、新星祭を見にきていたのだった。
その姿を見るなり、明らかにげんなりしている晴馬。
「……おい、晴馬。少しは取り繕えよ」
「……はい」
恐らく、料理を食べようとしたところを実質的に止められた+あまり会いたくない人との出会いによるダブルコンボで、げんなりを隠さない晴馬が完成した模様。
なんとか顔を営業用(真顔)に戻す。
「宝生先生、お久しぶりです」
「おう、元気そうだな、朝希」
丁寧に頭を下げて挨拶する朝希に、笑顔で応じる宝生。三者を交えて雑談する流れになりそうな時、宝生の携帯電話のバイブが響く。
「おっと失礼、席を外すな。悪い朝希、しっかりとした挨拶はまた今度」
「どうぞお気になさらず」
急いで会場を後にする宝生へ、営業スマイルで送る朝希。そして当然、晴馬と朝希の二人となる。
「新星祭お疲れ様、晴馬君」
「どうも。というか、本当にお疲れ様は生徒たちですけど」
「それはそうだけど、教師もイベントごとは疲れるものだろう?」
「……まぁ、はい」
疲れること自体は至極同意の晴馬。現在進行形で経験しているのだから間違いない。
「にしても、鴉間君は残念だったね。いい戦いぶりをしたんだけど、新星祭のシステム上、全勝しないと表彰は絶望的だからね」
新星祭は全二戦。一つ一つの勝ち星が大きく影響してくる。今回の上位三名も全勝かつ、それぞれの戦闘内容で判断されている。
統やアリサは一戦落としているため、その時点で表彰は望めなかった。
「でも、あの戦闘内容なら4位か5位には入ってくるでしょう。色々と振り切れて、新たな戦い方も見えてきたことでしょうし、表彰と同等の成長内容は手にできたんじゃないですか?」
「それなんだが、晴馬君も意地悪だなぁと思ってね」
「はい?」
突然の身に覚えのない容疑に、思わず怪訝に反応してしまう。
「いやね、鴉間君もそうだが、後の二人もこの間の監査やそれ以前の調査では見ることのできなかった、新たな戦い方をしているなと思ってね。あの様子だと、監査で僕が彼らを評価した時には、今回の戦い方はもう形になっていたと思うんだが」
「……まぁ、そうですね」
厳密には、晴馬がしっかりテコ入れをしたのは新剣術を提案したアリサのみ。フィジカルトレーニングという意味では確かに晴馬の手腕ではあるが、統の模倣や、ましてや片桐の膨大な水の練気を晴馬は知らなかった。
ただ、朝希相手に説明するのも面倒なので、ひとまず肯定しておくことに。
「知った上で僕の評価を請い、反論せずに聞いていたワケだろう?その点が少し意地悪だなと思ったのさ。誤解のないよう言っておくけど、君にも可愛げがあるといういい意味での意地悪ってことだからね」
正直、晴馬にしてみれば「言われてみれば」レベルであり、特段意識したわけではない。
「滅相もありませんよ。あの時にも言いましたが、教師として客観的評価を聞いておくべきだと思ったからです。心理的な罠を仕掛けたつもりはありませんので」
「そうかい?まぁ、君から心理戦を仕掛けられたら、それはそれで大歓迎なんだけどね」
(色々と無敵か?この人)
心の中で少しドン引きし、朝希を見ずに「光栄です」と、もはや適しているかどうか分からず上の空で答える。だが、せっかくなので意地悪という評価を有効活用してみることに。
「それで、如何でしたか?本部代表の面々の評価は。監査の時と比べて変わりましたか?」
ボロクソに言ってくれた監査の時の評価。晴馬が意地になることもないが、忘れたわけではない。
「そうだね。確かにそれぞれが着実にレベルアップしている。新しい戦闘スタイルもあるが、そもそもベースのレベルが上がった感じだ。恐らく、フィジカルトレーニングの成果だろうね」
意外にも高評価。いや、そもそも最初から事実しか言っていない。言い方はアレだが、単純にリアリストなだけである。
「だが、勘違いしないでくれ。少なくとも、僕の部下に鴉間君以外はいらない。言っただろう?品格が足りないと。仮に新たな戦闘スタイルを確立しても、制御できずに遊ばせているようでは明確に評価は変わらないな」
部下云々や品格云々は晴馬にとってはどうでもいいとして、制御しきれていない点はやはり同意だ。
統は模倣のための練気管理にやや課題が残るが、使い方自体は見事なものだった。完全に制御できているかは断定できないが、及第点はある。恐らく、以前から有してはいた能力だったのだろうと予想する晴馬。
対して、アリサの新たな剣術、都牟狩も火力は一品級。だが、一回も当たらなかった。
片桐も、水の練気の増加が制御という点においては不完全もいいところ。なんなら暴走に近い。
ある程度の評価や雑談が終わったところで、朝希は腕時計に目を移す。
「さて、表彰式も終わったことだし、僕はこれでお暇するとしよう。この間も言ったが、保安官になりたければいつでも連絡してくれ。君のためならいくらでも時間を作るし、どんな席でも用意しよう」
「……お疲れ様でございました」
色々と癖はあるが、最後の最後でスカウト活動も忘れない職務に忠実な男である。
実際、保安官としての能力は高く、市民からの知名度や信頼も厚い。リアリストではあるが、無情ではないのである。
尤も、晴馬は「どうでもいい」という心理状態で料理に舌鼓を打つのであった。
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後夜祭も終わり、時刻は20時。新星祭本戦と後夜祭は一日で終わるが、各伏魔師協会へ戻るのは翌日となっている。疲労を考えれば、無理に日帰りする必要もないからだ。それまでは、各人に用意された宿泊部屋にて一夜を過ごすことになる。
晴馬も後夜祭の料理を遠慮なく食い、確かな満足で部屋に戻ろうとしていた。
「天津先生」
部屋に向かう途中の廊下で、不意に後ろから男性の声がかかる。振り返った先にいたのは、第三支部の三神だった。
「なんでしょう」
「少し、お時間をよろしいですか?」
思わぬ人物からの接触に、驚きがあったことは事実。ただ、警戒や怪訝さを表す理由もない。
片桐との戦闘などで見せた自信にあふれた表情とは違い、やや思いつめた表情の三神。それが嘘偽りや、晴馬にとって面倒ごととなるような予感はさせなかったからだ。
「……ええ」
個人的に三神に興味があった晴馬は、真剣な心構えと少しの好奇心を胸に、三神の誘いに応じたのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
新星祭の後夜祭はどうでしたか?
我ながら、久々のDJフレイムの出番でしたね。一応、三神VS片桐の際には忘れていたわけではなくて、空気感に合わせた結果、少し静かにしてもらいました。尚、三神VS片桐の決着のコールはしていませんでした。戦闘に見惚れて忘れていたそうです。仕事はちゃんとやりましょう。
第19話 お疲れ様でした。




