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Ep2-14 天使の遺灰

ノクターナルが激しい戦闘を繰り広げる裏で、OZから高次元情報体の真実が語られる――

 ***


「高次元情報体?なんだそりゃ?」

『呼び方はいろいろだから聞き覚えがないかもしれないけれどね。天使や悪魔、妖怪、物ノ怪、旧支配者。そういった超常的な存在の総称さ』

「なんだ。オカルトか」

『その呼称のほうが理解しやすいならそれでもいいよ。さて、その手の技術は科学的手法よりも昔から研鑽が積まれてきたことは知っているね。高次元情報体の存在に気付いた人々はそこから知識と力を引き出す技術を磨き利用してきたんだ。占いや、魔術のような形でね』

「ずいぶん遠回りな話だな」

『あはは、ごめんごめん。ついいつもの悪い癖が出てしまったね。かいつまんでいうと、人間が高次元情報体にアクセスして利用するうちは問題ないんだ。だけどいつの時代も欲をかく人間は現れる。ちまちまとお伺いを立てるより、直接高次元情報体をこの世に呼び込んで利用したほうが早いんじゃないかと』

「それはまた、火遊びが過ぎるな」

『そうだね。高次元情報体自体は生命ではないし人間の理解できるような自我を持ち合わせてはいないけれど、独立して活動できるようになれば人の手に余る存在になる。過去にもそんな簡単なことにすら思い至らない痴れ者がいて、大惨事を引き起こしたんだ。当時の権威者だった教会はその脅威を排除するための技術を開発した。それが……』

「天使の遺灰、か」

『高次元情報体そのものはオカルトの領域だけど、受肉した高次元情報体はもはやエクソシズムの対象ってわけさ』

「だがその技術は教会が秘匿してるんじゃないのか?」

『普通はね。だけど今回のレイド案件はその秘中の秘に直接かかわることだからね。ちょっと探りを入れたら教会の担当者が快く教えてくれたよ』

「そんなわけないじゃん。絶対ハッキングしたんだろう?」

『見える場所に情報を置いておいたんだから、見てもいいってことでしょ?』

「……」

『天使の灰は受肉した高次元情報体の肉体から生命活動に必須の水、すなわち水素原子と酸素原子を完全に分離して活動を停止させる。高次元情報体自体は生命ではないから滅びはしないけれど、少なくとも現世に干渉する力を完全に失う』

「じゃあ、あの祭壇の上にある遺体のようなものは……」

『過去に封じられた高次元情報体そのものだね』

 ひぇっ。いまノクターナルが戦っている敵だけでも厄介なのに、他にも敵が?

『大丈夫だよ。あの状態から高次元情報体が再度肉体を持つことはあり得ない。封印を解けば中身は高次元空間へと戻っていくのさ』

「つまりあの祭壇の遺体の封印を解いて聖遺物を手に入れれば、それを使ってあの化け物を封印できるってことか。まさに失われた遺産(ロスト・アセット)だな」

「でもどうやってそれを実現するんだよ。あんたらがその方法を教えてくれるっていうのか?」

『天使の遺灰の封印を解く術式なら、すでに持ってますよね?』

「なんのこと……って、ちっ。してやられたな」

「カサギさん、何か心当たりがあるんですか?」

「あー、おまえに渡したファイルがあったろ?」

 カサギさんが言いにくそうに顎に手を当てて口元を隠す。

「ええ。今回のレイドで特殊なギミックを解除するカギになるかもって言ってたやつですよね。使用には相当程度の術式適合者が必要だから使い物にならないっていうんで知り合いから買い叩いたって……ああっ!」

 トオノさんがガバッと制御コンソールに飛びついて目まぐるしいスピードでキーボードを叩く。

「やっぱり。このファイルにバックドアが仕込まれてたのか。けど、どういう仕組みで?何度も念入りに調べたはずなんだけど」

『おっと、トオノさん、今はそのファイルを削除しないほうがいいですよ。あなた方にとっても切り札なんですから』

「くっ」

 削除コマンドを打ち込もうとしていたトオノさんの手が止まる。

「なぜこんな回りくどいまねを?」

『OZにはこの術式を起動できるほどの術師がいないんですよ、残念なことです』

 やれやれと肩をすくめるような芝居じみた空気を台詞から感じる。

「なぜ俺たちに?ここにたどり着くとは限らなかっただろう?」

『もちろん、他のチームにもばら撒きましたよ。残念ながらノクターナルには入り込めませんでしたけれどね。やはり一流のチームは一筋縄ではいかないですね』

「それってオレ達が間抜けだって言いたいのか?ああ?」

『いえいえ、ボクたちが完璧ではないだけですよ』

「なんかムカつくな、こいつ」

「ねえ、いつまでも相談している場合じゃないですよ」

 覗き窓から様子を見ていた俺は、リーダーのカサギさんに向かって言った。

 外では白熱の炎が立ち上がり、その中から異形の者が姿を現していた。

「なんだ、アイツ。化け物か?けど、こぶしは効きそうだな」

 へへっとケイタが笑う。

「やりましょう、カサギさん。そのために俺を連れて来たんでしょう?」

「それはそうなんだが。とはいえ、こんなことまでは想定外だしな……」

「なに優柔不断なことを言っているんです?この機を逃したらお宝が手に入るチャンスはなくなりますよ」

「へへへ、いうねぇ、英太。気合入ってるじゃねぇか」

「……ええい。トオノ、いけるか?」

「こんな術式、見たことがないっスからね。バチカン系統の古い形式だってのは想像つくんですが、どのくらい量子結晶を消費するか読めないな。手持ちで足りるのかどうか……」

「量子結晶があればいいんですね?」

 そう聞いて俺は狭い石階段を見回す。

 ピキパキビキバキ

 あった。あるある。ここは量子結晶体の宝庫じゃないか。

 周囲をぐるりをチェックしただけでも相当数の量子結晶体が生えていた。

 数段下の一番大きな群晶から中心にある一握りほどの太さの量子結晶体を折り取ってトオノさんに渡す。

「はい、これで足りますか?」

「……お、おう」

 今のなに?とかなんとかブツブツつぶやきながらもトオノさんが先日アジトで調整していたガジェットにセットする。

 いつの間にかOZのリーダーの小ばかにするような声は聞こえなくなっていた。トオノさんがバックドアを解析して回線を遮断したのだ。

「準備オーケイ。ダメでもともと、やってみよう!」

「はい、いきますっ」

 オーケイなのかダメなのか、いまいちしゃっきりしない合図で渡されたガジェットの大きな丸ボタンを叩き込む。


 手にひらから何かが吸い出されつつ流れ込むような、奇妙な交感を感じる。

 世界が灰色に染まって停止する。

 自分の心音も呼吸音も聞こえない。すべてが氷ついたように動かない世界。

 と、刹那の時間のあと、世界に色彩と喧騒が戻ってきた。


「あっ、崩れた」

 覗き込んでいたケイタの視線の先で、ずっとオブジェのように存在していた天使の遺灰が瞬時に微細な灰に変じ、形を失って祭壇の上に積もる。

「やった!」

 だがそのとき、異形の者がこちらを振り返った。

「そこにも潜んでおったか。要らぬことを」

 閉じた木の扉も石の階段も貫いて、通路の奥に隠れている俺の存在をまっすぐに見つめていることが感じ取れた。


 ***

切り札を起動した英太は、灰羽派の使徒に見つかってしまう。目の前で崩れ落ちた天使の遺灰を見て漣は意外な行動に出る――

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