【追放者サイド】第39話・給料泥棒の公務員が俺たちを殺すつもりか!
王都にあるギルド庁 冒険者ギルド本部、そこに隣接するクエスト受付用ホールで1人の男が叫び散らしていた。
「なんでもいいんだッ!! 採取でも初級クエストでもなんでもいい! 金がいるんだ!!」
彼の名はグリード、数ヶ月前まではギルド・ランキング5位の一流パーティーリーダーを務め、『剣聖』と謳われた男。
かつてユグドラシルの公式チャンネルは120万人の登録者を誇り、このまま王国一の冒険者になるのでは……なんて噂されていた。
だが、受付のお姉さんを困らせていたグリードの姿は『剣聖』とほど遠いものだった……。
「えぇ〜……繰り返しますが、グリード様の所属する『神の矛』には、本庁よりクエスト受注差し止め令が出されております。よってここにいらっしゃられても本窓口では対応が––––」
「だからなんなんだっ! 俺は冒険者だぞ! 貴様らお上が何つったってクエストを受ける権利があるはずだッ!」
黙っていればイケメンの顔が、怒気に塗れながら唾を撒き散らす。
「僭越ながら短期間の内に全滅判定が5回出された場合、そのギルドは王国冒険者管理法に基づき、点数超過ということで、ライセンスが停止される決まりになってまして……」
受付の若いお姉さんは、非常に困った素振りでグリードに説いていた。
ミリシア王国は冒険者を管理するため、キッチリとした法整備を行っている。
総国務省の外局としてギルド庁が存在し、さらにその中で冒険者管理局というものがあった。
クエストを受けるには、発足したパーティーがその冒険者管理局というところへ申請を行い、ギルド庁からの認可が降りれば正式にライセンス発行となる。
「ら、ライセンス停止だと!? 冒険者稼業の俺たちを飢え死にさせるのが役所の仕事なのか!! 聞いてないぞ!」
「いえ、たぶん局がキチンと通告書を発送いたしましたのでそんなはずは。っというよりグリード様のパーティーは……その、あまりにも全滅しすぎたというか」
「侮辱も大概にしろよクソアマっ!! 俺は弱くねえッ、それを証明してやる!!!」
「いやですね、グリード様には今一度冒険者用の規定ガイドラインによく目を通していただいた上、こちらではなく冒険者管理局の是正講習参加窓口へお越しください」
「あ“ぁ”!? だからこっちはクエストを受けさせろつってるだろ! しかも聞いてりゃなんだ? 是正講習なんて必要ねぇッ! 給料泥棒の公務員の分際で調子に乗るんじゃ––––」
そこまでだった。
受付のお姉さんがベルを鳴らすと、私服警備員の魔導士たちが一斉に駆け寄ってきた。
「『バインドロック』!!」
4人掛りの拘束を受けて、グリードは四肢を縛られその場に倒れる。
「がっ……クソっ! なにしやがるッ!!」
「言葉の通じないクレーマーには、当然の処置です。––––つまみ出してください」
警備に担がれ、無様に運ばれる姿を見た冒険者たちは囁く。
「アレが剣聖? なんか一瞬でやられちゃってるけど……」
「元ランキング5位ってのも不正じゃないかともっぱら噂だぜ、あんな弱いヤツがよく今まで生き残れたもんだ」
「受付のお姉さん困らせんなよ……、人として終わってるわ」
警備員たちはグリードを外へ放り出すと、軽蔑の眼差しを向けながら中へ戻った。
「ちくしょう……ッ! ちくしょうッ!! どいつもこいつも好き放題言いやがって」
起き上がり、大通りをトボトボと歩き出す。
もうこうなったらなりふり構ってられない、戻ってもらわなくては本当に詰む。
「無理矢理でもアイツを、アルスを連れ戻してやるッ!!」