第38話・王国駐在武官ジーク・ラインメタル
アルト・ストラトス王国は、このミリシア王国とほとんど同盟関係にある友邦だ。
こことは別の大陸に存在し、俺の好きな銃器や兵器といったものは、全て向こうから流れ込んできた。
そんな国の偉い駐在武官と俺は、机を挟んで対面に座っていた。
ちなみに、同じソファーの隣にはマスターがいる。
「さっきも言ったが、噂はかねがね聞いているよ。イージスフォードくん」
「それはどうも、一応あなたのことは俺も多少存じてます」
「ほぉ」
ユグドラシルで耳に挟んだことがあった。
このジーク・ラインメタルという大佐は、向こうの大陸で『勇者』と呼ばれていた存在。
魔王軍と呼ばれる軍勢から国を救った、こっちでいうマスター的なポジションの人だ。
「そう言われると照れるね、君やグランくんほど有名人じゃないが……。ところで今日はなんの用事で来たのかな?」
紅茶を啜りながら言う大佐へ、俺は単刀直入に切り出す。
「大佐が俺の学園入学時に、ライフルの使用を許可してくれたのは知ってます」
「あぁ、アレは確かグランくんからせがまれたんだよ。校舎を灰にしたくなかったら許可しろってね……、正直オーバーだなぁとは思ったが」
「要は今回も同じです、近々行われるユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトと俺の公式戦は知ってますよね? その場限りで良いので銃の使用許可をくれませんか?」
ティーカップを置いたラインメタル大佐は、疑わしそうに俺を見た。
「ユリアくんの名は僕も知っている、学園1位の超優等生だ。天才と言っていい––––まさか勝てる自信がないのかい?」
「いえ逆です、もし許可をくれなければ校舎じゃなく彼女を灰にしかねないからです」
「ん? どういうことだい?」
本気で困惑する大佐。
横にいたマスターが紅茶を飲み終わると同時、向かいを見る。
「あぁ〜……そういえば大佐殿は、喫茶店の地下のときも入学試験のときもいませんでしたね」
そうか、そういえばそうだ。
大佐からすれば俺は竜王級とはいえ一介の魔導士、なぜ杖を使わない? っと思うのが自然である。
ならば––––
「ラインメタル大佐、この大使館に銃と射撃場的なのはありますか?」
「もちろん、完備している」
「では少し使用許可を頂けませんか? たぶんそれでわかると思うので」
「ほぅ……それは面白そうだ」
ニヤリと笑った大佐は、ソファーから立った。
「きたまえ」
連れられたのは、大使館地下にある射撃訓練場。
とても広く造られており、誰も使っていないのか妙に空気がシーンとしている。
「せっかくだ、賭けをしよう」
ロッカーから銃を出しながら、大佐は揚々と口を動かす。
「的は全部で20個あって、撃たれれば倒れる仕組みだ。僕が負ければお望み通りライフルの使用許可と……そうだな、秘蔵の葡萄酒をやろう」
マスターが壁のスイッチを押すと、床に寝そべっていた人型の的が一斉に起き上がる。
「ずいぶん自信あるんですね」
「こう見えても大隊長時代は最前線勤務、常在戦場を意識していた。君が負ければ分不相応––––学園特別顧問として銃の使用許可はなしとする」
手渡されたのは、ナイトテーブルの地下で借りたやつと同じKar98K。
7.92ミリ弾を使う、木製のライフルだ。
「じゃあ、私からいかせてもらおう」
クリップ装填で5発一気に弾を押し込んだ大佐は、ボルトを前進。そして構えた。
けたたましい発砲音と同時に、的が倒れる。
「おぉっ」
2つ、3つ、4つと凄まじい勢いで射撃が行われ、的が倒れていく。
5発目が放たれ、命中弾が出た瞬間にタブレットで測っていたマスターが声を出した。
「4秒ジャスト、相変わらず速いですね」
「あぁ、自己ベスト更新だな」
排莢しながら下がる大佐と入れ替わりで、俺が前に出る。
さすがに現役の軍人にして勇者、腕前は凄まじいものだ。
「大佐」
「なんだい?」
箱から出したライフル弾を、俺は1発だけ銃へ押し込む。
「より早く、より少ない弾で、より“多く的を倒した”方が勝ちという認識でいいでしょうか?」
「ん? もちろんだ。全力でやりたまえ」
俺は頬を吊り上げた。
そういうことなら––––ぜひやらせてもらおう。
一応加減はするが、頑丈な造りの大使館ならきっと大丈夫だろう。
「なんか嫌な予感が……」
ブルリと震えるマスター。
俺の全身から赤い魔力が吹き出す、『魔法能力強化』を発動。
Kar98Kへ魔力を流し込んだ。
「あっ! アルスくんちょま––––」
リアとフロントを合わせ、引き金をひく。
マスターの声も何もかもを消し去り、圧倒的な轟音が響いた。
射撃フロアは消し飛び、全ての的は爆風で本来倒れるはずのない方向へ薙ぎ倒された。
「ッ……!?」
土煙で覆われる地下射撃場、大使館内に襲撃を知らせるであろう感じの警報が鳴り響く。
すぐさま頭上に水属性魔法陣が現れ、大量の水を霧状に撒き始めた。
全身ずぶ濡れになりながら、大佐はメガネを指で持ち上げる。
「……なるほど、これは銃の使用許可をやらんと大変なことになるね。上で言ってた意味がよくわかったよ」
「っていうか、全力でやれなんて言うから……」
びしょ濡れの2人が悟ったように会話する。
排莢作業をした俺へ、マスターが近づいてくる。
「こりゃまた上手くやったもんだ、たしかに的へ当てた数じゃなく“倒した数”ならアルスくんの勝ちになる。葡萄酒––––楽しみにしていますよ大佐?」
「も、元勇者に二言はない……。葡萄酒も使用許可もやろうじゃないか」
心なしか、ラインメタル大佐の声は少し震えていた。
銃を返す間際、俺へ一言掛けてくる。
「ただの学生かと思ったが、とんだ食わせ者だったな」
その顔はとても喜んでいるように見えた。




