第24話・悪いけど、贋作に負けるつもりはないから
時刻はアルスが外会場に出たのとほぼ同時.、マンガ本を販売していたフロアはパニックに陥っていた。
床を破って現れた巨大なツルが、手当たり次第に周囲を薙ぎ払ったからだ。
「なんなのよこれ……!」
間一髪で攻撃を受けずにすんだミライは、砂埃の中でゆっくり体を起こした。
軽い擦り傷はあるが現状問題ない。
いや、それより––––
「なんでわたしほぼ無傷なの? 確か……」
ぼんやりとした記憶を辿る、そうだ……わたしは攻撃を避けていない。
あの子が、友達がツルの当たる直前で突き飛ばしてくれたからだ!
「アリサちゃん!!」
立ち上がって周囲を見渡す。
自分のブースから10メートルほど離れた場所に、アリサは倒れていた。
急いで駆け寄る。
「あ、ミライさん、無事で良かった……」
弱々しい声。
当然だ、コンクリート壁を粉々に砕くツルの攻撃をミライの代わりに身代わりとなって受けたのだから。
おまけに全身を床へ叩きつけたせいか、意識は途切れかけている。
「あぁぁ〜、キモい文化迎合者の祭典をぶっ壊すのは快感極まるぜぇ」
振り向くと、砂塵の奥に男が立っていた。
短い緑髪をしており、全身をコートで包んでいる。
そばには、会場をこんなにしたツルがうごめく。
「やぁお嬢さん方、俺の植物操作魔法はどうだったよ? 驚きだぜ……無能の俺がここまでできるなんて」
「アンタ、何者よ」
ミライの怒気が籠った問いに、男は高笑いしながら答えた。
「お前ら汚れた思想の持ち主に教える名前なんてないなぁ、強いて言うならオタク文化というクソキメェものを許さない正義の団体様だ」
「意味わかんない、こんな行為を本当に正義とか言うわけ? 通じるわけないじゃない!」
「社会の是正、更生には犠牲がつきものだ。お前らオタクが将来にどれだけの性犯罪を起こすか、いや……てめえらの存在そのものが社会の害悪なんだから当然の報いだろ」
話にならない。
一連の会話で、ミライはこの男が非常に危険な思想を持っていることだけはわかった。
己を絶対正義と妄信し、他者のことなど鑑みない身勝手な行動。
会場を、文化を––––アリサを、わたしが守らないと!
ミライは瓦礫の中から魔法杖を拾い握った。
これはナースコスをしていたアリサが、巨大注射器の中に仕込んでいたものだ。
あくまで扮装用なので、性能は知れているがないよりマシである。
杖を向け、アリサから離れながら聞く。
「アンタ、本物の魔導士じゃないでしょ」
「ひっはっはっは! 鋭いじゃねえか、政府の奴らは俺たちみたいな人間を『魔導士モドキ』とか呼んでるよ。弱者のひがみだな」
「魔導士モドキ……? ウケる、アンタみたいなバカが能力を持ったらこうなるって神様はちゃんとわかってたのね」
「あ“ぁ”?」
血管を浮き上がらせた魔導士モドキは、魔力を溢れさせた。
さらに複数のツルが地面を破って出てくる。
「ぶっ殺す!!」
極太のツルが、一斉にミライへ襲いかかった。
全速力で走りながら避けると、杖へ魔力を込める。
「『光属性攻撃魔法』!!」
錬成された光の矢が、魔導士モドキへ向かう。
「ちぃッ!!」
舌打ちしながらツルでガード。
だが、そのせいで男の視界からミライは外れた。
彼女はその一瞬とも言える隙を逃さず突っ込んだ。
「『高速化魔法』!!」
弾丸のような速度まで加速したミライは、勢いそのままに魔導士モドキへ蹴りを浴びせた。
「ゴッフ!?」
速度の乗った一撃に、敵は吹っ飛んで瓦礫を撒き散らす。
ミライ・ブラッドフォードは学園ランキング8位の実力者だ。
正面からやり合ってそうそう負ける人間ではない。
「悪いけど贋作には負けないよ、能力的にはわたしと同じエルフ王級だろうけど––––アルスが来るのを待つ必要もない」
砂塵を破って、再びツルが向かってくる。
今度は避けず、光属性魔法で全てのツルを斬り伏せた。
バラバラになって辺りへ散らばる。
「ひっはっは、クソオタク女のくせに強えじゃねえか。引きこもりの陰キャかと思ったら普通に動けるし参ったな」
「悪いことは言わない、このまま大人しく警務隊に自首して。わたしはアリサの治療もしなきゃいけないし」
「友達想いは大変結構だ、けどなぁ」
魔導士モドキは、血だらけの顔で下卑た笑みを浮かべた。
「せっかく大金で能力を買ったんだ、お前らを生かして戦果なしのまま帰るなんてできねぇんだわ」
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