灯台入口の戦い
「ここだな」
フランツ達3人は灯台の傍に来る。
灯台の入口の前で木箱に身なりの悪い、ボロボロの服を着た男が座っている。横には樵が使うような、戦闘用ではない斧がある。
男は無精髭を生やして背が低い。筋肉質であるが、背骨が曲がっているし、どうみても冒険者や戦士のような実戦で使うような体つきではない。
「あからさまな見張りがいるし、決まりだな」
(けど、酒飲んでる時点で駄目だ)
ライアットが、やや呆れていると、フランツはグビグビ酒を瓶から直接、呷っている見張りに近づく。
「すまないが水の都から宝物を盗んだ盗賊がいるかもしれないので、中を改めさせてもらえないか?」
「あぁ?ダメに決まってんだろ?誰も通すなと言われてんだ」
「この国の大事に関わる事だ、頼む」
「そう言われても、なぁ?」
「フランベルツ・ダイクンの命であるといっても駄目か?」
「は?フランベルツつったら、王子だろ?あんたが?ハハハハハ……、つくならもっとマシな嘘つけよ」
ライアットは、見張りの男にも呆れたが、フランツの実直さに呆れた。
フォイア将軍から見れば、ライアットも充分実直なのだ。そのライアットでも見張りの男を説得しようとは思わない。
ここは明らかに怪しいのだから、ライアットなら見張りの男に事情を説明だけはする。それで、呼びとめるなら押しのけるし、邪魔をするなら倒れていてもらう。フォイア将軍なら、事情説明も名乗るのも全てが終わった後だ。しかもラ自分で説明せずにライアットに後始末を任せる。
「ああ?何言ってんだ?兄ちゃん?」
今度はフランツに顔を近づけて凄む。
「仕方がないな」
フランツは王家の紋章の入った唾を親指で浮かし、鞘から抜いて構える。
ガシャン。
見張りの男は持っていた酒ビンを地面に叩きつると横に立てかけてある斧を持つ。
ライアットが鞘から剣を抜きながら後ろから歩み寄ってくる。
「お前ら手を貸せ!」
見張りの男が叫ぶと、灯台の中や近くに屯していた連中が隈や鋤を手に集まってくる。
「何だ何だ?どうしたよ?」
「ああ、こいつらが勝手に中を調べようとしてんだ」
「ノせばいいんだな?」
見張りの男がこくりと頷く。それを確かめると、フランツ達をぐるりと取り囲むように動き出した。
フランツ達3人は一箇所に固まる。というより魔導師のパーシルを背に庇って固まらざる負えない。壁を背にすれば戦いたいが、それをさせてくれない。
ライアットが、いつでも逃げれるようにチラっと横目に元来た道を見るが、もう相手がいて道を塞いでいる。
(ならず者の集まりなのに、妙に統率がとれてるな)
なら統率している奴がいるはず。そいつを見つけて潰す。
ライアットは戦いながら、統率者を探す。
(あいつは違う。あいつも……)
統率者がそう簡単には見つからなくて、焦れてくる。
しかもフランツ達は、実力のあるライアットとパーシルがいたが徐々に追い詰められていく。
そこへ淡く輝く水色に髪を輝かせて雫が突如、霧が晴れるように空中から現れて、ット、と小さい音を立てフランツ達の前に着地する。
ゆっくりと着地の姿勢から体を起こす。
淡く輝く髪に紋様の浮かぶ服と皮膚をした異質な存在にならず者達の動きが止まる。
「大丈夫か?」
ならず者がすぐ後ろにいるのに雫は、片手を腰に当て悠然と微笑む。これくらいどうにでもなるからできる余裕の態度。
「なんとか、な」
「そう」
そっけなく答えながら、フランツ達3人の様子を確かめる。特に目立つような怪我はしてない。このままでも、まだ戦い続けられそうだ。
(これなら大丈夫そうだ)
雫はゆっくりと振り返り、ならず者達を見る。
(さてと、潰すか)
ライアット同じように潰すという単語を使ったが意味が違う。ライアットは倒すという意味で使い、雫は殺す、蹂躙するという意味で使っている。
雫は適当な相手に狙いを定め、僅かに身を沈める。
「ここは、任せて先に行ってください」
フランツが後ろから雫の横に出てきて、カチャっと剣を構え直す。
「助かる」
ふわっと、滑らかな動きで、ライアットのすぐ横に来る。
「隠れるのが上手い、たぶん暗殺者がいる」
ボソボソと肩を掴むと小さな声で耳打ちすると、くるりと一回転して雫は灯台に向かって飛んだ。
(暗殺者がいるのか、なるほど)
道理でなかなか統率者が見つからないわけだ。
「任せた」
ならず者の上を飛び越える時、小さくそう呟く。
フランツ達は知らない事だが、雫を先に行かせたのは正解だ。
雫が今考えているのは、少しでも早く水の精霊のメイレを助け出す事だ。メイレが苦しむ時間が少しでも減るなら、他の人間なんてどうなってもよかった。
象が蟻1匹を怪我だけさせるのが難しいように、雫には相手を怪我だけですますような手加減は難しい。なんとか手加減できても時間と手間がかかる。だから、邪魔をするなら容赦せず全員潰そうと思っていた。
けど、この場を引き受けてくれるなら、わざわざ潰す必要はない。
ならず者を飛び越え、灯台の外壁を蹴って上の階へと登って行く。
(相変わらずデタラメだな)
ライアットは呆れながら見て、フランツはならず者を警戒しながら、その背を見ていた。
(何もできないのは嫌だ)
フランツが先に行くように言ったのは、あんな美しい女性に助けられるだけの自分が悔しかったからだ。
「ライアット、行くぞ」
「はい」
パーシルも杖を構え直し、ならず者たちに向き合った。
戦闘が再開して、フランツの後ろから襲おうとしていた、ならず者の鋤をライアットが庇って剣で止める。
「気を抜き過ぎです」
「わかった、気をつける」
隙を窺って襲おうとしたならず者が、僅かに前に出た直後、足元に細い雷が一筋落ちる。ならず者は、咄嗟に足を引っ込める。
パーシルの雷の魔法だ。
雷は細い雷を一筋落とす魔法で雷撃より避けられにくいが、威力が低い。
実戦を行う職業でない相手に、下手に雷撃を受けられると、大怪我をするかもしれない。そこで、より、威力の低いD級の魔法を使う事を選んだ。
今のは別にならず者に避けられたのではなく、前衛の2人のためにならず者の包囲網を狭めさせないよう牽制で撃っただけだ。
それでも雫が抜けてしまえば、来る前と同じようにジリ貧になるのは当然だ。また徐々に、押されてきている。けど雫がメイレを助けるまで耐えればいい。
終わりが見えていれば、気の入り方が、さっきまでと違う。
ライアットには余裕ができて、さっきよりも注意深く探す。
てっきり、ならず者の誰かが統率していたと思っていたが、雫に暗殺者がいると聞いて、見つけられない理由に納得した。相手が暗殺者なら、人の中に紛れるだけじゃなくて、物影なんかにいるかもしれない。
それでも、暗殺者の隠れる技能が高くて見つからない。
(見つからなくてもいい。大事なのは不意をつかれない事だ)




