008
森を歩くこと2分。
なぜこうなった?
リザードマン3体と鉢合わせてしまった。
「おら!」
キン!
「矢が来るぞ!」
「――――アイスアロー!」
コルの放った魔法は、矢を打つリザードマンに命中するも倒れない。
敵は弓を使うリザードマンが1体、槍を持つのが2体いた。
「槍相手は戦いずれぇ!」
俺は苦戦中だ。
槍持ちを1体と交戦しているんだが、リーチが長い相手の方が有利だった。
上から剣を振りかざすが、両手で槍を持ち防がれる。
そこで、俺は力を加える。
槍は木製だったので、力を加えれば折れるかもしれないと思ったのだ。
予想通り槍はバキバキと音を出してきた。
そこで、体重も加える。
バキッ
折れた!
「うおりゃ!」
そのまま斬りかかる。
リザードマンは折れた槍をとっさに離して後ろに下がろうとしたが、俺は体重もかけていたんだ。前のめりになった体を1歩進め2撃目を放つ。
スバッとリザードマンを両断した。
「うし。次!」
フェルの方に向かおうとすると、そちらのリザードマンもちょうど粒子になっていた。
「シャー」
息の漏れるような声を上げ、弓のリザードマンも消えていった。
兄妹が倒したみたいだ。
「よし! ここは危ない。早く森を出よう!」
焦った様子でロダが言う。
俺もそう思う。
俺たち4人は、急ぎ足で森を抜けようとした。しかし、そうさせてくれなかった。
「危ない!」
俺はとっさに叫んだ。
「えっ?」
先頭にいたロダが後方に飛んで行った。
いや、飛ばされた。
「ぐはっ!?」
ロダは木にぶつかり止まる。
ロダから見て視界の外からの攻撃だっただろう。俺ですら茂みの奥から腕だけが見えた。皮膚の色が緑だったため森の中に溶け込んでいたのだ。
「グルルル」
低い音を鳴らしている。
ロダを飛ばした正体はリザードマンだった。
だが、姿が普通のとは違う。
普通のリザードマンは人族の成人と同じくらいの身長だが、こいつはその2倍くらいありそうだ。それにダンジョンにいたやつはもっと褐色の肌だったんだが……。
「ま、まさかっ!」
フェルが震えた声を上げた。
「フェル! どうした?」
「こ、こいつ、特異個体かもしれねえぞ!?」
フェルは額に汗を大量に掻いていた。
オーク戦のときは、そんなことはなかったというのにだ。
「リザードマンとのランクが違う! 俺たちじゃかなわないかもしれない。リーダー指示はあるか?」
ロダに目をやるが、ロダは顔が引きつっていた。
「ダメそうだな……」
フェルはそう言うと指示を飛ばす。
「コウ! コル! 逃げるぞ!!」
「ダメ! 周りにリザードマンがいる!」
周りを見ると6、7体のリザードマンが少し遠くから俺たちを囲んでいた。
「やばいぞ……」
「ああ」
まだ相手には動きがないが、これからどうなるかわからない。
「コル、周りの敵を凍らせて動きを封じられるか?」
「そんな魔力もうないわ」
「何体くらいならいけそうか?」
「……3体かしら」
「わかった。……じゃあ後ろ左側方面の3体を凍らして、ロダを連れて逃げれるか?」
「行けると思う……」
「じゃあ、そういう作戦で」
「でも2人が――」
「グラァ!」
特異種のリザードマンが動き出した。
「やってくれ!」
フェルが叫び、コルは詠唱を始める。
「悪いなコウ」
話の流れからわかる。ここを俺とフェルで食い止めろってことだろ。
「気にするなって」
俺とフェルは向かってきた特異種に目を向け武器を構えた。
「――――ブリザード!!!」
コルは魔法を唱えロダの方に向かう。
「お兄ちゃん!?」
コルの声が聞こえ一瞬振り向くと、ロダは凍らしたリザードマンがいる方と反対側に走り出していた。
「あのバカ! コウ1人で抑えられるか?」
ここで無理と言ったら全滅だろう。
「……死ぬ気でやってやるよ」
「ほんと悪いな。帰ったら何かおごるぞ」
フェルはコルの方へ走って行った。
……やばいな。
今こそジャンさんに教わったことを生かすとき!
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「ロダ待てっ!」
ロダを追って俺とコルは走っていた。
「あっ!? フェルドさん! 後ろにリザードマンが!」
「なにっ!」
後ろを見ると3体のリザードマンがいた。
3体はコルの魔法で一時戦闘不能にしているから、周りにいたのは全部で6体だったのか? コウの所にいた奴を全員連れてこれていればいいが。
「魔法はまだ使えるか?」
「アイスアローならあと数回使えます」
「よし、俺はあの3体を倒すから、ロダの野郎を捕まえといてくれ」
しまった、実の妹に兄のことを野郎呼びしてしまった。
「わかりました。……すいません」
コルに謝らせたみたいになってしまったぞ……。
「……コルのせいじゃない。武器は何か持っているか?」
「短剣なら」
魔法が使えなくなったときの武器を貸そうと思ったが、自分の使い慣れた武器が良いだろうな。
「わかった。あと頼む」
俺は振り返り、リザードマンに向かっていった。
先手必勝!
「――槍術、電連槍!!」
俺の射程内に3体が入った瞬間、技を放つ。
槍に電気をまとい、素早く連続で穿つ。
「はぁはぁ」
やっぱりこの技は疲れるな……。
2体は倒せたが、1体仕留めきれなかった。しかし、ダメージは与えている。
「動きが遅いぞ!」
槍で薙ぎ払い残りを片付ける。
「はぁはぁはぁ――」
コルのところに向かわなくては。
俺は走った。
「どこだ!」
見渡すが誰もいない。草木が生い茂っていて見渡しも悪い。
「――るな、あっちへ行け!」
そんな中、声が聞こえた。ロダの声だ。
声のする方に向かう。
行く途中、弓を持つリザードマンが倒れていた。
氷が刺さっているが、仕留めきれなかったのかまだ生きているようだ。
そいつを仕留めて、素早く声の方へ向かう。
リザードマンが1体ロダに詰め寄っていた。その近くで、コルが片手に短剣を持ち、膝を突いて苦しそうにしている。
魔力切れか!
リザードマンはじりじりとロダに迫っている。
「ひぃぃ」
ロダは情けない声を出していた。
リザードマンは立ち止り、手に持っている石の斧をロダに向かって振りかざした。
やばい! 俺の足じゃ間に合わない。
クソ野郎でも死なれるのは困る。
俺は槍を投げようとした。
「ダメ――!!」
コルが叫びに俺は体が一瞬硬直した。そのせいで槍を投げるタイミングを逃してしまった。
コルは叫び、ロダに覆い被さった。
その時、斧が振り下ろされた。
「がはっ」
コルは背中に斧が直撃して血を吐いた。
「うらっ!」
俺は槍を投げずに、近づいてリザードマンを刺し殺す。
「コル大丈夫か?」
治癒魔法を使うが、ちょっとした切り傷しか治せない俺では意味がなかった。
「はっ、あわわわ」
ロダはコルが庇ってくれたことに今気づいたのだろう。目を白黒させている。
「ロダ! お前兄貴だろ! 妹に庇われててどうする!」
「コ、コル。だ、だいじょぶか……?」
体を触り確かめているみたいだ。
「そんなことしている暇が合ったらさっさと森を出るぞ。コルはまだ死んでない。早く町に帰れば助かるんだよ!」
「は、はい」
怯えた様子で俺に返事をする。
ロダにコルを抱えさせ、コルになるべく負担がないように運ぶよう言い、俺たちは森を後にしようと移動を開始した。
「こっちだ!」
俺たちは森を走り、途中、目印となる赤い紐を見つけ、なんとか森から出ることができた。
「あとは1人で行けるな。コルの命がかかってるんだ、油断するなよ」
「フェルドはどうする気だ?」
どうする気だと!?
「コウを助けに行くに決まってるじゃないか!!」
「あんな化け物に勝てっこないって! 一緒に戻ろう!!」
「バカか! あいつはな、お前を逃がすために1人で戦っているんだぞ! お前がな、1人で行動しなければみんなで帰れたかもしれないのに。お前のせいでな!!」
「……すまない」
ロダはシュンとしている。自分の犯したことに気づいたのだろうか。
出会った当初はこんな奴だとは思わなかった。
「フ、フェルさん、お、にいちゃん、がごめん、な、さい。コウさ、んを……」
コルが苦しそうに口を開いた。
「わかったから、無理するな。ロダ早く行け」
「は、はい」
そう言ってロダは町に向かって行った。
ロダが走って行くときに、コルごめん。と言う声が聞こえた。
コウ、今から行くぞ!
俺は森に戻って行った。
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……くそ、攻撃が全然効かねえ。
このリザードマン特異種は、片手に木の槍、片手に木の盾を持っていた。
俺は槍の攻撃を剣で受け流し相手の懐に入るが、そこで盾に防がれてしまい、さっきからずっとダメージを与えられないでいる。
「あーもう、やばいな……」
周りのリザードマンはフェルたちの方へ行ったのだろうか? 動きを封じられていた奴らも、もういなかった。おかげで、敵の援護がないのが救いだ。
「うらあっ!」
俺は特異種に向かって走り出した。
敵の槍が襲い掛かってくる。
「軌道が読みやすいんだ、よっ!!」
襲い掛かってきた槍を剣で流し、外側の方向へと弾く。
「!?」
敵は怯んだ。
「うっしゃ!」
そのまま走る。
「ジャンさん直伝――剣術、一閃!!」
走るスピードが上がり、横薙ぎに斬り払う。
特異種の脇腹に届いた。
入った!
そのまま切り裂こうとするが、特異種は盾の側面でこれ以上の侵入を防いできた。
「なっ!?」
力を加えるもスピードはもうない。
この技は、素早く斬ることで威力を上げている技なのだ。受け止められたらそこで終わってしまう。
入ったと思って油断した。やばい!
特異種が俺の方に盾を向けそのまま盾で殴ってきた。
「ぐっ!」
両手を前でクロスしてダメージ軽減を図ったが、痛いものは痛い。
「ごほっ」
肺の酸素を出されたみたいだ。
……魔物って、スタミナ切れとか起こさないのか?
「そ、そろそろ限界だ……」
あいつらも、もう逃げたよな。俺も逃げるぞ。
特異種と相対しながらじりじりと後ろに下がるが、相手も同じ距離をたまったまま前に出てくる。
……逃げもできないのかよ。後ろを向いたら一刺し貰うだろうな……。
逃げられないならやるしかねえよなぁ。
俺は前に走り出す。
敵の槍を剣で受け流す。流された槍を横に振るって攻撃してきたが、それも姿勢を低くして避ける。盾を前に構えてシールドバッシュをしてくるが、それも左に転がり避ける。
横をとった!
「――連、続、斬り!!」
連で斜めに斬り下ろす、続で横に斬り裂く、斬りで斜めに斬り上げた。たった今、思いついた攻撃だ。
「グルァァ!!」
3撃目で盾を持っていた右手を切り落とせた。
ついに大きいダメージを与えられたようだ。
「はぁはぁ。もう体力が」
逃げよう。
そう考えた時だった。
槍が俺目掛けて飛んできた。
怯まねぇのかよ!?
「くっ!」
転がってよけようとするが、左足に槍が刺さった。
「ぐぁぁぁ!!?」
貫通はしなかったものの、痛みが尋常ではない。
痛い。やばい。俺は死ぬのか?
特異種は俺に刺さった槍を手元に戻し、体勢を整えている。
俺はもう素早く動けない。
剣を杖の代わりにして立ち上がり、その剣を構える。
痛いなぁ……。
倒れた状態で、片足を庇いながら敵の槍を流す。
「…………」
どうしよう。受けてる一方じゃなぁ。
なぜか視界がクリアになっていた。
そういえば、どうしてこんなに受け流せているんだ? 敵の動きがさっきより遅いし……。
走馬灯か? あれは、思い出も見るから違うか……。
そんなことを考えながらも、攻撃を受け流している。
ズサァー、ズサァーと槍と剣のこすれる音が響く。ピキッと変な音も混ざってきた。
剣にひびが入ってきたな。んーどうしよう。
その後、6回ほど受け流していると、剣が真ん中から折れた。
「うぉりやぁぁぁ!!」
そして、特異種の後ろから大きな声が聞こえた。
ドスンと音がする。
特異種はよろけた。
その隙を見て、誰かが俺の所に来た。
「待たせたな! 目をつぶれ!」
フェルがやって来てくれた。
俺は言われた通りに目をつぶる。
「――――フラッシュ!!」
目をつぶっていても眩しいと感じる光があった。
リザードマン特異種の叫びが聞こえる。あの光をまともに受けたのだろう。
「肩を貸す。こっちだ」
その場で槍を振るっているリザードマン特異種を尻目に見ながら、俺はフェルに右肩を借り、足を引きずりながらその場から離れた。
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「助かった」
息を切らしながら俺はそう言う。
「俺たちもだよ」
あの兄妹は、何とか森を出たことを教えてくれた。
「コルが攻撃を受けて重傷だが、ロダが町まで送ってるから大丈夫だろう。それよりコウ、足は大丈夫か?」
「地面につけると痛いかな。あと、熱いな」
「血が結構出てるぞ」
「あー……。グロいの見たくないからな」
「な、じゃねぇよ! ほっておくと足が使えなくなるかもしれないぞ」
バイ菌が入るのはよくないな。
「でも、治療道具持ってないし」
「俺がやってやるよ。周り見とけ」
フェルは包帯やらを出して応急処置をしてくれる。
「悪いな……」
「俺たちの方こそだ。コウを1人にしなければ怪我もせずに済んだのに……」
「コルも怪我しちゃったんだろ? ならフェルが行かなければ2人ともやられていたかもしれないじゃないか。それだったら怪我くらい安いものだ」
ロダが無傷なのはなんか嫌だが、死なれるよりはいい。と付け足す。
「よし、これで大丈夫だろ」
「痛みは変わらんよ?」
「治療じゃないからな」
「そか、ありがとう」
「おう、じゃあ行くぞ。腕を貸せ」
それから、他の敵に襲われることなく森を抜けることができた。
「森から出れたー!」
「よっしゃー!」
2人同時に草むらに倒れ込んだ。
「実を言うと、俺もいっぱいいっぱいだったんだ」
フェルは仰向けになり話し始めた。
「コルとロダを助けるときも、ここを乗り越えればもう大丈夫だと言い聞かせてさ。それから、コウを助けるときだって死も覚悟した。あそこでコウがあいつにダメージを与えていなければ2人でやられていたかもな」
フェルは笑う。
「でもさ、何とか逃げ切れた。命を落とすかもしれない戦いは初めてだったけどさ。正直怖かったけどさ、なんとかなった」
言いたいことは何となくわかるぞ。
フェルが喋ろうとするが、その前に俺が喋る。
「フェル、お前が来てくれなければ俺は死んでいたと思う。ありがとう。そして、無事じゃないがみんな帰って来れた。良かったよな」
「ああ」
俺たちは拳をぶつけ合った。
「おい! あそこに人がいるぞ!」
「本当だ! おーい!」
町の方から誰かが来たみたいだ。
5人の人たちが俺たちの方へ走ってくる。
「おめぇら大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「ひでぇ怪我じゃないか。治癒魔法をしてやってくれ」
話しかけてきた男は魔法使いに頼んでくれた。
「あいよ。にいちゃん、完治させると魔力を結構持っていかれるから止血だけで勘弁な」
「それだけでもありがたいです」
治療をしてもらう。
「そうそう、この森に特異個体が出たと聞いてきたんだが、どこいるかわかんねえよな」
「ダンジョンに行く道の途中にいましたが、今はわからないですね」
「……もしかして、あの兄妹とパーティ組んでいたのはお前らか?」
「コルとロダか?」
フェルが答える。
「確かそんな名前だったはず」
「そうですよ」
俺が答えた。
まじかよ! と男たちが言う。
「良く逃げ切ったな。もうダメかも知れないと言っちまったよ」
「あの兄妹は、絶対生きてるって言ってたけどな」
魔法使いは、俺の治療を終えそう言う。
がははと笑い男は答える。
「そうだな。よーし、おめぇらゴブリンの次はリザードマンだ! 行くぞー」
男たちは各々返事をして森に入って行った。
「……行ったな」
「騒がしかったな」
服装からも思ったが冒険者の人たちだった。さっきのリザードマンを倒しに行くみたいだ。
ロダの奴、ちゃんと報告してくれていたんだな。少しだけ見直したぞ。
「さてと、帰るか。足はどうだ?」
「血は止まってるな。痛みもさっきほどではないが、動くと痛い」
「肩貸すぞ」
「悪いな」
俺たちは町に向かってゆっくりと歩き始めた。
「魔法って凄いな」
道中、俺は話し出す。
「どうした、いきなり?」
「いやー。魔法は凄いよ」
「コウだって使ってるだろ?」
「……ここだけの話、俺は攻撃や回復魔法を使えるほど魔力がないんだよ」
「ほう」
「だから、フェルみたいな槍術的なこともできないし、羨ましい」
「別に槍術は魔力を使わなくてもできるぞ」
「だよね。魔力がないと……えっ!?」
「俺は魔力を使って雷を武器に乗せているから、使うだけであって、無属性ならスタミナだけで使えると思うぞ」
「ほんとか!?」
「ほんとだ」
ということは、ジャンさんから教わった技もスタミナ使ってたのかな。体力作りはどこでもやっておけと言っていたが、そう言うことだったのか。そういえば、さっきも一閃を使ったら一気に疲れた気がしたしな。
「うっへっへ」
「っ! ……気持ち悪いぞ」
フェルに何か言われたが、俺は気にしなかった。
今回、コウ→フェルド→コウと視点が変わります。
わかりにくかったでしょうか……?




