040
二階の窓のカーテンの隙間から差し込む朝日で俺は目を覚ました。
今日は久方ぶりの晴天だったのだ。
「……良い天気だ」
カーテンを開けながら俺は1人呟く。
「う、んんんっ……」
光を部屋に入れたことにより、誰かの眠たそうな声が聞こえた。
声のした方を振り向くと、窓から入ってきた光が直接顔にあたっていたリーゼが寝ていたのだ。
「……っうぅぅ? …………」
目を開けたリーゼだが、眩しかったのか手で影を作りそのままボーっとしていた。
「お――」
――バンッ!!
「おはよーっ!」
「にゃっ!?」
「きゃっ!?」
「わっ!?」
俺が、おはようと言おうとしたが、その前にソイリちゃんがドアを開け放ち入って来た声により、みんなはビクッと体を動かして、各々驚いた声を出す。俺もドアが開いた音には驚いたけど、すぐ状況がわかったので声を上げずにすんだ。うん、ビクッとはなったけどね。
「お兄ちゃん、おはよう」
「お、おはよ、ソイリちゃんは朝から元気だねぇ」
「うん、久しぶりの天気だもんっ。おとーさんがお外で遊んでいいって言ってからあそぼーっ」
「そのまえにみんな起こしてご飯を食べないと、お腹空いて騒ぎ出す人がいるからね」
ルナとかルナとか、特にルナとかね。
「うんっ」
ソイリちゃんと一緒に驚いていた3人を連れてリビングへ。
いつもならリーゼは起きている時間だったのに珍しく今日は寝ていため、いつも朝食を作るのを手伝っていた人がいなく、少し遅めの朝ご飯となった。
「す、すみません、寝坊してしまいまして」
「リーゼさんは気にしなくてもいいのよ、いつも手伝ってもらってるんだから。たまにはゆっくり寝なさいな」
「はぃ、すみません。ありがとうございます……」
そう言うエディタさんのお腹は、当たり前だが去年よりも大きくなっており、お医者さんが言うには、「2月ごろじゃ」ということなのであまり無理はさせられない。
誰も口には出さないがそういう考えを持っているのはわかった。もちろん俺もだ。だからリーゼはいつも以上に申し訳なさそうにしているのだろう。
「……? ガヴリさんどうしたんですか?」
なぜかずっと俺の方を向いていたのだ。
「あーいや、何でもないよ。……しいて言えば雪かき手伝ってほしいなぁ、なんて思っていたり」
「そのくらいやりますよ」
「本当かい! いやー助かるよ。食べ終わったら早速お願いしても良いかい?」
「了解です」
「えーっ、お兄ちゃんはわたしと遊ぶって言ってたのにー」
ぶーぶー、という感じでソイリちゃんはガヴリさんに異議を申している。
そうだった。遊ぼうと言っていたんだった……。即答で返事をしてしまったがこれは申し訳ない。
「ソイリちゃん、あたしとあそぼ?」
「えっいいの!? うん!!」
機嫌はすぐに直ったようだ。ありがとうルナさん。でも、後でソイリちゃんに埋め合わせをしないとな。
朝食が終わってから防寒のため何重にも重ね着をして、ガヴリさんに雪かき用の木製スコップを借り玄関のドアに手をかける。
「あっ、コウさんそっちじゃないです」
が、途中で止められた。
「靴だけ持ってきてください」
ガヴリさん宅は玄関で靴を脱ぐので、俺は自分の靴を脱ぎガヴリさんに続く。
自分の靴を持ってどうしてか二階に上がるガヴリさんに俺はついて行った。
「雪のせいで玄関が開かないんですよ」
そう言いながら二階のベランダへと通される。
「あら……」
ここ二階だよ……な?
ベランダから辺りを見ると、家の一階はほとんど雪に埋もれているのが見えた。という事は家の下も……。
そう思いながら見ると、予想通りあと数十センチ積もっていたらベランダまで届くかもしれない程近くに雪の地面があった。カーテンを開けたときは空しか見ていなかったから、気づかなかった。
「ここからジャンプしても痛くないんですよ」
笑いながらガヴリさんは言う。
雪がクッションになってくれますもんね。近いですし。
口には出さずに俺はそう思った。
北大陸では普通らしいのだが、民家などの家は大抵雪かきのため、屋根に上れるように梯子のような物がついているのだそうだ。ガヴリさんちはそれがこのベランダについている。
付け方を教わっていたかんじきを屋根に上ってから装着して、俺は積もった雪との格闘を始めた。
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「ふぅ、このくらいでいいかな」
大体の雪は落とせた。屋根は斜めになっているから下の所を少し落とすだけで滑り落ちてくれて意外と楽だった。気をつける事は下に人がいないかどうかだ。屋根には人が歩けるようにか段差もあり、そこで詰まってしまう雪もあるがそれは俺が落としに行けばいいのだから。
『164年2月15日 14時09分10秒』
……まだ午後の2時か。
俺は屋根の上から、屋根にのぼった方のベランダ側の雪面にジャンプして降りる。
ボスンっとおしりから着地。微かに痛かったが怪我はない。凄いな雪、自然のクッションかぁ。
「……やるかっ」
俺は自分のおしりの近くから雪を集め、ベランダの近くに溜め始めた。
雪を溜めること30分程で、てっぺんが自分の身長ほどにまでなった。斜面が緩やかな山が完成する。
あとは周りを固めて掘るだけだな。
「あっコウちゃん、何やってるの?」
「お兄ちゃん、なにしてるの?」
戻って来た2人から同じ質問をされる。ルナとソイリちゃんは俺が屋根に上っているときに、「ちょっと行ってくるー」と2人でどこかに行っていたのだ。
「お帰り。今朝ソイリちゃんに悪い事しちゃったからな、かまくらでも作ろうかとね」
「かまくら?」
ソイリちゃんは疑問の声を出し、ルナは首を傾げていた。
「あれ、知らない? 雪で作った部屋みたいなのだけど」
雪だるまを知っているならこれもわかると思ったんだけどな。
「……あっ、ゆきぐらの事だね!」
「……ゆきぐら?」
今度は俺の方が疑問を浮かべた。
「かまくら? ゆきぐら?」
ルナは終始疑問を抱いているようだ。
「うんっ、雪を山にして中に入れるように掘ったものだよ」
……それをかまくらと言うんじゃ……! そっか呼び方が違うんだね、あっちとここじゃ。
「なるほどね。呼び方が違ったのかぁ」
「それ雪洞じゃんっ!」
俺が納得していた横でルナが声を上げた。
「うぉっ、せ、せつどう?」
「うんっ、雪で作ったの家ことだよ」
……この世界にも色々な呼び方があるみたいですね。
「ま、まぁ、呼び方なんて色々あるよな。出来たら呼ぶから部屋で温まっておいで」
「わたしもやりたい~」
しかし、ソイリちゃんがそう言ってきた。
う~ん、スコップはこれしかないし……予備はどこにあるかもわからないし……。
「……よしきた! ルナ、エディタさんにスコップまだあるか聞いて来てもらえないか?」
俺は一緒に作ることに決めた。
「あーい」
ルナは返事をして家に入って行く。
「では、今から周りを叩いたりして固めます。このスコップ扱えるかな……?」
「うんっやる!」
ソイリちゃんは自分の身長よりほんの少し低い長さの、俺が使っていたスコップを受け取ると、「うんしょうんしょ」と言いながら一生懸命に山をペシペシと叩き始める。
うむ、可愛いな。この一生懸命感がたまらない……あっ別に俺ロリコンじゃありませんよ。可愛いは正義じゃないですか。可愛いものは素晴らしい! それに俺には愛しのシュリカちゃんがいますしね。
「疲れたりしたら変わるから言ってね」
「は~い」
俺も借りている手袋を装着している両手で、雪の山を押し固める。
「あったよー」
少ししてルナが帰って来た。
「おお、ありがとう。ルナもやるか?」
「ううん。あたしは見てるー」
そう言いながらボックスからソイリちゃんが持っているのと同じスコップを出してくれた。
「了解。やりたくなったら代わるからなー」
「うん」
固め作業も結構やったし、次は掘るか!
「では、そろそろ穴を掘ろうと思います。最初は俺が開けるからそこからどんどん掘ってください」
「はーい」
ソイリちゃんが一旦俺の後ろに下がったのを見てから、山の横にスコップを突き刺した。
固めたことにより、俺の肩の高さほどになった半円を描いている雪の山の側面を、まずは人が入れるくらいの大きさで掘っていく。
……あれ、これって下は雪なわけだから、斜め下方向に掘って行けば大きい空間が作れるんじゃ……。
そんな事を考えながら入口となる部分の形を掘り終える。
「ここから反対側に貫通しないように中を掘っていきましょう! 斜め下に掘っていくと良いかもしれません」
別にそんな大きいの作らなくてもいいよな。作ってみたいという気持ちはあるけど、取り敢えずはソイリちゃんとルナが入れる大きさが目標だ。
と、決めてソイリちゃんと一緒に掘り始めた。
ソイリちゃんが雪の山を掘り、邪魔になった雪を俺がどかすというコンビネーションだ。
ルナは屋根に上り座って俺たちの事を見ていた。今は落ちても、運が悪くない限りは雪が守ってくれるし大丈夫だろうと俺は気にする事なく作業を続ける。
時折作業を代わり、俺が穴を掘りソイリちゃんは小休憩という形で1時間程掘っていた。ルナさんにも聞いたが、「あたしはいいや」と言われるだけであった。
そして、作り始めて約2時間後――
「で、出来た! こんな感じで良いんじゃないか!?」
始めて作ったかまくらがこんなに綺麗にできるなんて……!
見た目は綺麗な半円のかまくらだ。
「完成? やったぁ!」
「できたのー?」
ソイリちゃんがはしゃいで小ジャンプをしているとき、ルナは屋根の上から華麗に飛び降りてきた。
「おう。2人で入ってみなよ」
俺が頭だけを突っ込んだ感じだと、見た目より広く感じたから2人が入っても余裕だろう。下方面にも結構掘っちゃったからな。いやー、凝りだすと止まらなくなりそうですな。1人で作っていたらきっと止まらなかったでしょう。
「おおっ、初めて入ったけど温かい気がする!」
「お姉ちゃんがそばにいるからあったかいんだよっ」
よしよし、2人とも小柄だから余裕だったな。
「そ、そう? えへへぇ」
「うんっ。お兄ちゃんも一緒にはいろっ」
「えっ……俺も……ですか」
外で見ていたら誘われてしまった……どうする俺?
「うんっ」
「そうだよ! コウちゃんも一緒に作ってたんだからさ」
「みんなで入ればもっとあったかいと思うよ?」
……2人とも眩しい目をしている。純粋に楽しんでいる目だな。わかる、自称少年の心を持っている俺にはそれがわかるぞぉっ。
「そこまで言われたら入るしかないな。ちょっと失礼」
中にいた2人が寄って、開けてくれたスペースに俺は体を入り込ませる。
「おっ、入れるものだね」
「あったかいでしょ?」
「そうだね。風が通らないからかな?」
3人が入っても、ルナたちくらいの身長の子ならあと1人は入れるくらいの場所があった。
予想以上に広いんだな。
自分でも掘っていたのにも関わらずそんな感想が頭によぎるのだった。
ゴ~~~~ン、ゴ~~~~ン、ゴ~~~~ン
「………………ん?」
ゴ~~~~ン、ゴ~~~~ン
「んんっ!? 何か鳴ってないか?」
「前に、魔物が来たとき鳴らすって言っていた銅鑼みたいな音かな?」
「なるほど。あの時の音か…………ってやばいじゃん! 俺、行かなきゃ!!」
ルナが冷静に言うものだから、何だあの音か。ってスルーするところだったじゃないか!
「こ、コウくん! どこにいるの!? ルナちゃーん、コウくーんっ!」
ベランダから俺を呼ぶ声がっ!
「ここにッ……い、以外と天井固いんだな……」
俺を呼ぶ声のもとに行こうと、立ち上がろうとしたとき頭をぶつけた。しっかり固められているのがわかった。うん、流石ソイリちゃん、上手に出来ているよ。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「うん、ありがと」
ソイリちゃんの手が俺の頭をさすってくれていた。優しいなぁ、ソイリちゃんは。ルナはと言うと、ひょいっと身軽にかまくらの中から先に出ていた。
「あっルナちゃん! コウくん見なかった?」
「コウちゃんならそこにいるよ」
ソイリちゃんと一緒に出て来た俺に、シュリカはベランダから降りて駆け寄って来る。
「どうした? 魔物なら俺も音が聞こえた。今からそっちに向かおうと――」
「そ、それもあるんだけど、エディタさんが、エディタさんがっ!」
俺の服を握り揺さぶってくるシュリカさん。
「ちょ、ちょっと、落ち着いて! ど、どうしたの? エディタさんに何かあったの!?」
「あ、あの、エディタさんとリーゼちゃんと話していたんだけどそしたら、そしたら――」
ぎゅっと強く服を握り締め、シュリカは言った。
「――急に倒れちゃったの!!」
「リーゼ!」
俺は急いでリビングに向かったが、そこには誰もいなかった。
「コウくん、こっちっ」
どうやら倒れてすぐにリーゼとシュリカが寝室までエディタさんを運んだらしい。
「リーゼ! エディタさんはっ?」
「おかーさんっ!?」
俺の言葉と同時にソイリちゃんがエディタさんに駆け寄った。
「コウ様っ! エディタ様は大丈夫です! 違うっ、大丈夫なんですけど、もうなんです!!」
「もうって何がだ!?」
もうって、……あれか!? 出産か!!?
「い、今陣痛が始まったみたいなんです!」
まじかよ! こんなタイミングで……。魔物も出ているのにっ。ガヴリさんはきっと魔物の対処に行ってると思うし。
「あたし先生呼んでくるから、シュリカちゃんはお湯を用意して! ソイリちゃんはお母さんの手を握って安心させて! リーゼちゃんはタオルの準備お願い!」
ルナの掛け声によりみんなが一斉に動き出した。
「コウちゃんは魔物の所に行って! こっちはあたしたちが何とかするから!!」
「わ、わかった! 頼む」
俺がいたって何もできないからルナに感謝だ。シュリカが俺を頼ってくれた事は嬉しいが、出産の知識なんて俺には皆無と言ってもいい。ルナが指揮してくれてほんと良かった。
ルナと一緒に今の仮の玄関、二階のベランダまで移動し、ここでお医者さんを呼びに行くルナと別れる。
俺は防具を身に纏い、武器を装備して外へと飛び出した。
「さ、さむっ。でも我慢だっ。た、確か……あっちの方からだったよな」
銅鑼の鳴った方角を思い出し俺は雪道を走る。靴はいつも同じのを使っているのでかんじきは装着済みだ。走りにくいが転びにくくなるのだから我慢しなくては。
ゴ~~ン、ゴ~~ン、ゴ~~ン、ゴ~~ン
「なっ!」
さっきとは違う方向から銅鑼の音が聞こえた。
こっちの方が近いな。……さっき鳴った方は警備隊の誰かがもう行ってると思うし、俺はこっちに行くか!
そう決意して目的地を変え俺は再び走り出す。
走って着いた先は雪で白く染まった畑のある場所だった。
「あっ、冒険者……さん?」
魔物はどこかと探していると、後ろから声をかけられる。見ると、うさぎの耳がぴょこっとついているお婆さんだ。
お婆さんは俺と面識がないはずだ、初対面なのだから。見慣れない顔で、村長の家に冒険者が来ているというのを知っていたからそう聞かれたのだろう。
「はい。銅鑼の音が聞こえてきたのですが……」
「助かったわ、畑の上に魔物がいるのよ。何か右往左往していているのよ。銅鑼の音で数体は逃げ出したのだけどまだ残っていてね」
畑の上にいると言われても俺には白い雪しか見えない。どこにいるんだ? …………あっ。
「も、もしかして魔物も白色ですか?」
「そうなのよ、見にくいかもしれないけど3体いるわ。お願いできるかしら」
「わかりました、どこら辺にいるかわかります? 1体は見つけたのですけど……」
「3体とも近くに固まっているわ、真ん中より右の方にいたと思うのだけど」
「了解です」
そう言い、目を凝らしながら畑へと近づく。
1体は動いたから見えたのだ。その方向へと歩いて行く。
目に捉えていた1体の近くで、動くものを2つ発見できた。
魔物は顔を上げたのか長細い耳をぴょこぴょこと動かしている。その耳とはさっきのお婆さんと似たようなのもだった。
うさぎの魔物か!
見た目はうさぎだが大きさが違う。日本にいた頃よくテレビなどで見た一般的なうさぎより一回りも二回りも大きい。こいつらが伏せていたせいで毛の色と同じ雪で保護色となり、わからなかったのだ。
「でも見つけてしまえばこっちのもんだな」
ぼそっと呟いて俺は剣を構えた。
まずは1体。
そう考え後ろを向いている奴に近づき斬りかかった。
が、うさぎの魔物は俺の動きを読んでいたらしい。
後ろ足で雪を蹴り上げていたのだ。
「ぬっ!?」
顔にはあたらなかったものの、剣を振り、斬ることを阻害された。
「ぐぁッ」
そして俺の脇腹にダメージが入る。
見ると、狙った奴と違う白いうさぎの魔物が体当たりをしてきていた。
油断して直撃を食らったが、そのくらいの衝撃でどうにかなる俺ではないっ。
体当たりの衝撃に体をよろけさせることなく、俺に攻撃してきた奴を斬り倒した。
白い雪に魔物の血が飛び、魔物は粒子となり消えて行く。
あと2体! 余裕だな。
今倒した手応えでそう感じ、残りの魔物を探す。
「あっ!」
1体は森の方へとすでに走っていた。
まぁ、帰ってくれるのに越したことはない。もう来ないでくれよ。と心で言い最後の1体と俺は対峙した。
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楽勝! ちょっとすばしっこかったけど俺の敵ではないね。
5分もかけずに最後の1体を始末した俺はさっきのお婆さんがいる方へと向かった。
「終わりました」
「見てたわぁ、ありがとう。被害が出なくて良かった。もう1ヶ所の方は大丈夫なのかしらね」
手を頬にあてながらお婆さんは言う。
「遅いですけど今から行こうと思ってます。あっち方向でしたよね?」
「ええ、たぶん警備隊の練習場の方よ」
「そうですか! ありがとうございます」
場所がわかったので俺は向かおうと足を動かした。
「あら、あれは……なに?」
その後ろでお婆さんの声。
何だろうと振り向くと、白いものが灰色のものに追われていた。
白いのはうさぎの魔物だ。さっき逃げた奴かな? その後ろで追ってるのは……オオカミ!?
「まさか、ハイロウルグ? こんなとこまで来ているの……!」
お婆さんが言ったハイロウルグと言うのはあのオオカミの名だろう。しかもそのオオカミ、うさぎを追っているハイロウルグは1体ではなかった。
「ちょっ、3体もいるの!? 今度はオオカミが!」
どうする? 1体ならいけると思うが3体はきついぞ。……取り敢えず……
「俺が引き付けますのでお婆さんは避難してください!」
うさぎよりも凶暴だろう。もしかすると俺を抜かれて村に1体入ってしまうという事もある。その時まだお婆さんがここにいたらやられてしまう。
「わ、わかったわ。力になれなくてごめんなさい」
「気になさらず」
お婆さんはそう言うと近くにあった民家に入っていった。こんな家が近かったのか! っとそんなことはどうでも良いな。今のうちにッ。
畑内をまだ逃げていたうさぎに気を取られている隙に1体殺ってやる。
剣を片手にハイロウルグに向かって俺は動きだした。




