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039

 俺とシュリカが付き合い始めてから約2ヶ月。今日は164年の2月14日だ。

 164年に入りまた1つ歳を重ねたわけだが……うん、何も変わらないな。

 そしてシュリカと付き合い始めているわけなのだが、そう言っても何をするわけでもなく、たまに一緒に散歩に行ったりしたぐらいだ。手は繋ぎましたよ。そ、それ以上は聞かないでほしいかな。えっ? ああ、聞いてないですかすみません。……あー駄目だ、恥ずかしいなぁ。考えているだけなのに、誰に言い訳しているんだ俺は。あれ以来2人でいる時はぎこちなくなってしまう。みんなと一緒なら大丈夫なのに。

 ルナとリーゼには、シュリカと付き合い始めたとそこはかとなく伝えたが、あまり何も言ってこないので理解しているかは謎だ。まぁ冷やかされることがないから良いんだけどね。

 ま、というわけで、この約2ヶ月間、それほど進展せずにでも満足して生活しているのですよ。まだ魔物が現れる事もないしね。だって外は大雪ですもの。未だに降っているんですもの。ここ最近は、というか2月に入ってからは一歩も外に出ずに生活をしているのです。

 1月の時はここまでじゃなかったから普通に外を出歩いて、警備隊の手伝いなどもしていたのだけど1月末あたりから雪が降り続き、たまに風も混ざり吹雪のようになっているのだ。

 俺たちは家事の手伝いやソイリちゃんと遊んだり、ガヴリさんエディタさんと話したりして過ごしていたわけだ。


「それにしても凄い雪ですね……」


 リーゼが外を見ながら一言呟いた。

 一階の窓は雪が覆い尽くしていて外の風景が見えなくなっていたのだ。


「ときどきなるんだよね大雪に!」


「ルナ様は経験がおありで?」


「もちろん! 雪が止んだ時を見計らって雪かきとかしないと、家が重みに耐えられなくなっちゃって大変なんだよ!」


「そうなんですよね。そろそろ止んでもらわないと屋根が壊れるかもしれないですね」


 テーブルに突っ伏して寝てしまっていたエディタさんを、椅子を並べて簡易ベッドを作り、横にしてあげ、毛布を掛けながらガヴリさんは答えていた。


「「えっ!?」」


 リーゼとシュリカが同時にガヴリさんの方を向いた。


「こ、壊れるんですか!? 家が!!」


 リーゼに同調してコクンコクンと首を縦に振るシュリカ。


「はははっ、そう簡単には壊れないけどね。もしもの話だよ。前に来た大雪の時は大丈夫だったし……問題は大雪後の魔物の方なんだけどね」


「魔物ですか?」


「餌が雪のせいで取れなくなったりするから、村とかが襲われやすくなっちゃうんだよ」


 俺の質問にはルナが答えてくれた。


「なるほど」


 だから1人でも多く護衛が欲しくてガヴリさんは俺にお願いしたのかな?


「っと、そろそろ夕飯の支度でもしようか」


「あっ、私やります」


「ありがとう、お願いするよ。なんせ僕は料理のレパートリーが少ないからね」


「わたしもー」


 リーゼとガヴリさん、ソイリちゃんはキッチンへと向かった。


『164年2月14日 18時17分09秒』


 ……もうこんな時間だったのか。今日も寒いし……。


「俺たちは風呂掃除でも行くか」


「うん」


「おーっ」



 ----



「うへぇ~、濡れた……」


 脱衣所で上着を脱ぎ、違う服をボックスから取り出した。

 ……ルナめ思いっきり水をかけやがって……いや、お湯……というかぬるま湯だったけどさ。


 女の子4人で入れるのだからガヴリさんの家の風呂場は案外広い。俺は浴槽にルナが溜めた水を使い、浴槽の内側をバチャバチャとやり、汚れているかはわからなかったけど掃除をして水を流し、あとはルナとシュリカにバトンタッチして、生活魔法で水を入れお湯に変えてもらっていたのだ。ここまでは普通に、何もなく、無事に終わったのだけど、問題は次に起こった。




 俺が丁度浴槽を背にしていた時。


「あっ、ちょっとルナちゃん!?」


 と言うシュリカの声が聞こえたのだ。

 何事かと思って振り向こうとしたらビシャっと温かい、人肌ほどの水が俺の上半身に直撃した。


「ぬぉっ、つめっ! ……たくない?」


 丁度良い温度の水が顔を、体を滴り落ちる。上着はもちろんズボンまで水は侵食してきていた。


「こ、コウさん大丈夫?」


「…………」


 シュリカの言葉にニコッと無言で頷き、俺は浴槽の中に手を入れた。俺にかかった時よりも暖かくなっていた水を辺りにぶちまけるために。


「うぁぅ!?」


「きゃ!?」


 ルナと、無関係な、心配してくれたシュリカにまでぶっかけた。




 と、まあ俺もふざけすぎたな。

 反省しつつ俺は上着を脱ぎ捨てた。


「なんか賑やかだねぇ」


 ガラッと脱衣所の扉が開けられ、ガヴリさんが現れる。


「!?」


 よ、よかった下を脱ぐ前で……。

 ズボンにかけていた手を離してガヴリさんの方を向いた。


「う、うるさかったですか?」


「いんや、大丈夫だよ。それよりどうしたのその格好は?」


 掃除してくると言ったのに濡れたまま上半身裸で脱衣所にいるのだから、そう聞かれるのは無理もないかな。


「こ、これはちょっとふざけてたらみんな濡れちゃって、ルナとシュリカは今風呂に入ってもらってま……クシュッ」


「っと、大丈夫かい? コウさんも一緒に入ったらいいのに」


「えっ!? だ、大丈夫ですよこれくらい」


「いやいや、遠慮しなくてもいいんだからね」


 いや、俺はガヴリさんに遠慮しているわけではないのですが……。

 ガヴリさんは、「目隠ししてはいれば大丈夫だよ」と言いながら風呂場の扉の前に立つ。


「シュリカさん、ルナさん。コウさんが寒そうだから入れてもらっていいかな? 風邪引かれても困るし。目隠しはつけさせるから」


 扉をノックしてからそう言った。


「えっ、は、はい……ルナちゃんは良い?」


 ガヴリさんが脱衣所に来てから今まで、静かになっていた風呂場からシュリカの声が聞こえる。


「あたしは良いよ~」


 軽いな!!?


「本当かい! ありがとう。コウさん、風邪ひかないように温まって来るんだよ」


「は、はぁ」


 どうにでもなれと流れに身を任せた俺は、腰に1枚タオルを巻き、顔にも1枚、目を隠すようにタオルを細長く折り、ハチマキのように巻かれた。


「準備はできたよ、僕は出て行くからあとはコウさんをお願い」


 とガヴリさんは言い、更に、「この前見ちゃったんだけどさ、シュリカさんといちゃいちゃしてきちゃいなよ。ルナさんは長風呂が苦手みたいだからさ」と耳打ちしてきた。


「ほぁ!? み、見てたん――」


「じゃ、そゆことで」


 後ろで扉の閉まった音がした……。

 み、見られていたのかあの現場を……。くっ。す、過ぎた事は気にするわけにはいかないな……。……恥ずかしすぎるだろ……。


「コウちゃん、おいで~」


「うぁっ!」


 ガヴリさんの言葉で頭の中がいっぱいになっており、風呂場の扉が開いた音が耳に入ってこなかった。そのためいきなりルナの声が聞こえ驚いたのだ。


「うん?」


「いや、な、なんでもないぞ。ただ近くから声が聞こえたからびっくりしただけだ」


「そっか。こっちだよ」


 手を引っ張られながら風呂場へと案内される。

 湯気のおかげか風呂場の中は温かい。しかし、何がどこにあるかは目に巻かれたタオルのせいで全くわから――


「――りゃないっ!!?」


「ふにゃ!?」


 体を熱めのお湯が流れたようだ。いきなりかけるなんて驚くだろ普通。


「び、びっくりしたなぁ、コウちゃんいきなり声上げないでよね」


「お、お湯をかけてくれたのは嬉しいが、いきなりかけられるとこっちもびっくりするんだよ」


「あっ……そっか見えてないんだもんね、ごめんね」


「ふむ、わかってくれて嬉しいぞ」


「ふふふ」


 微かにだがシュリカの笑い声が聞こえたような……。


「ここに浴槽があるからね、気をつけて入ってね」


 俺の手を浴槽のふちと思われる場所に置いてくれた。


「ありがとう」


「いえいえ、じゃ、あたしはもう温まったから先に上がるね」


「「へっ!?」」


「シュリカちゃん、コウちゃんを頼んだよ!」


 扉の閉まる音が聞こえると、辺りは水滴が落ちる微かな音とシュリカの吐息、俺の鼓動の音、遠くから聞こえる何かが擦れている音のみとなった。

 えっ? ど、どうしろとういうんですかこの状況……。ヘルプッ、誰かヘルプミーッ!!


「……こ、コウさん、取り敢えずお湯に浸かりませんか?」


「お、おう、そうだな……」


 シュリカの声で俺は少し冷静になれた。

 そうだよ、慌てることはないよな。落ち着いていればいいんだ。


「あ!! ちょっとストップ!」


「ん?」


 足を上げで浴槽の壁を跨ごうとしたがシュリカに止められる。……なぜ?


「は、反対の足から入ってください。で、でないと、その……み、見えちゃいそうですから!」


「えっ?」


 …………! 


「ご、ごめん。声で場所が大体わかるのにこっちから足あげちゃって」


「い、いえ、そうだっ、私が手伝えばいいんだ」


 バシャという音がして俺の腕に柔らかく温かいものが触れた。


「あ……」


 えーっと、ここは風呂だよ? そしてここには俺とシュリカしかいない。一糸まとわぬ姿のシュリカが俺の傍に……というか俺に触れている!?

 やばい、やばいやばいやばい。息子よ! 今はその時ではない!! 鎮まれ、鎮まりたまええぇぇ!!!


「ど、どうしたの?」


 ま、まさか俺の異変に気づいたのか!?


「い、いやぁ何でもないよ、あはははは」


「……? 変なコウさん」


 そう言いながらシュリカは丁寧に、腰を曲げていて変な格好をしていたかもしれない俺を浴槽に浸からしてくれた。どうやら気づいてはいなかったようだ。ただ俺の挙動が変なのが気になったのんだよね? そうだよね?


「ありがとう」


 そんなこと聞けるわけもなく、俺はただお礼を言うだけなのだけどね。


「いえいえ……なんか変な感じだよね」


「そ、そうだね、目隠しでお風呂に入るのなんて初めてだから俺も変な感じだよ。目を隠されているのに裸ってなんかな」


 こうして俺を変な性癖に目覚めさせようと……!! ガヴリさんめ何て策士だ! ……まぁ違うと思うけどな。


「ふふふっ、それはコウさんだけだよ。私はつけてないもん」


「あっ、それもそうだ。……じゃあ何が変な感じなんだ?」


 それともあれか、実はさっきの俺の変な体勢の事を言っているのか!? やめて! あの体勢の事は触れないで!! 男の(さが)ってやつなんですから!


「それはね、男の人と初めて一緒に入ったからかな。しかも好きな人となんて……」


 最後の方、シュリカの声が小さくなっていくも全て聞き取ることができた。

 は、恥ずかしい事を言ってくれるじゃないですか。俺の予想とは全然違ったけど。むしろ違って良かったんだけど!


「あ、ありがとう」


 違う意味でも恥ずかしくなった俺は、何て返していいか言葉が見つからなかったので、お礼を言ってしまった。


「「………………」」


 し、しまった! やっぱりもっと気の利いたことを言った方が良かったのか!? 俺もだよ。とか、……これしか思いつかん! しかも今更思いついた所でどうしろってんだ!


「……コウさん、前から気になっていたんだけど、そのペンダントずっとつけてるよね」


「ん? こ、これ?」


 無言から解放されたことにホッとしながらも、首から下げていた物を掴もうとした。が、見えないせいで最初掴もうとしたとき見事に違う所を触っていた。


「ここにあるよ」


 シュリカが動いたようで、風呂のお湯が波となり俺の方へ優しくあたってくる。そして次に俺のではない手のような温かいものが俺の胸部に触れた。前が見れればまじかにシュリカがいる。感覚でそれはわかった。

 俺は内心どぎまぎとしながらも、表には出さないように努める。


「これは旅に出る前に妹たちに貰ったものなんだ」


「そうなんだ! コウさんって妹がいたんだね」


「まぁ……妹はいるんだけど、これをくれたのは血が繋がってないけど俺の事を家族同然に接してくれた家の娘さんなんだよ」


 言いながらカレンとハンナの面影を思い出す。


「へぇ~、綺麗だね。指輪はもちろん、この両側についている黒色と白色の玉も汚れもなくて」


「ちょくちょく手入れしてるから」


「ふふっ、コウさんの宝物なんだね」


「そう……だな」


 そうだ、大切な物だ。つけてないと落ち着かなくなるほどに。このネックレスはもう自分の体の一部みたいなものなのかもしれない。


「いいなぁ、私も兄弟欲しかったんだ」


「仲が良いと嬉しいかもしれないけど、仲が悪いと最悪だよ」


 日本にいた頃の妹を思い出し俺は答えた。ほんと、小さい時は仲良かったんだけどなぁ……。


「それでもよ。1人よりは心の支えになるでしょ?」


 ……そうだった、シュリカは両親が……。


「そう……かもしれないな」


 俺はこの言葉以外言えなかった。シュリカの境遇は本人か、似た体験をした人にしかわからないんだから。


「ふふっ。お湯が冷めてきたね、一旦温めてから出よっか」


「お、おう」


 付き合い始めてからの2人っきりの中で、一番しっくりできている時間かもしれない。いつもはなぜか緊張しちゃって話が弾まなかったからなぁ。恥ずかしいには恥ずかしいけど、これがお風呂の力なのか? 温まったおかげでリラックスができているのかな?

 そう考えていると胸に小さい感触が戻った。シュリカが触っていたネックレスを離したのだろう。


「ちょっと待っててね温め――キャっ!?」


「ん?」


 バシャっという音と波立つ湯船。 


「うぉっ!!?」


 そして柔らかい感触が俺の右胸辺りに出現した。

 どうやらシュリカが浴槽についていた部分のどこかを滑らせて俺の方へと倒れ掛かってきたようだ。

 その衝撃で目につけていたタオルがずれ左目だけ視界が開いた。

 何が起こったのかと下を見ると、湯船から出るか出ないかの所に見えた白く透き通った肌をした背中。少し首を上げると2つに割れている桃の割れ目が……。

 首を下に向けると濡れてしっとりとしている綺麗な赤髪。


「ちゅっご、ごめんなさいコウさん! 大丈夫で……す……か?」


 最初の音は俺の体から顔が離れたときに聞こえた。シュリカの唇がついていたのだろうか……? パッとシュリカの頭のあった所を見るが特に変化はなかったのでわからない。


「…………だ、大丈夫だよ。ほら」


 俺は顔を上げ、わけもなく両手を湯船から出してグーパーと繰り返す。その時、シュリカと俺のタオルから出ていた左目が合う。


「――えっ!? あ、あぅ……あぁっ、ぅぅぅ」


 バシャっと身を翻し俺から距離を取ってうずくまってしまった。

 声を出されてビンタされる。このシチュエーションはそういうものだと昔いた世界(日本)(マンガ)で学んでいた俺は歯を食いしばって待っていたのだが、そんなことはなかったみたいだ。でも距離を取られるのは違う意味でダメージがあることを知る……。


「ご、ごめんなさい、今お湯を温めますね」


 シュリカは小さく両膝を抱えながらもお湯を温めてくれていた。

 薪で火を起こさないお風呂を生活魔法で温める方法は、体の一部を水の中に入れて火を出すイメージをすればいいらしい。なので魔力は相当消費するけど簡単に温められるらしい、のだが……やばくないかこれ。シュリカさん無言なんですけど。今回は目を隠してないからシュリカの仕草や表情が見えてしまっているのでわかる。何かやばい雰囲気がする。今更目隠しし直しても遅いかな? と、取り敢えず何か話そう。打開策は話しながら考えよう!


「あ、あの~シュリカさん?」


「…………」


 無言で潤んだ目を俺の方に向けてきた。


「あ、あのですね。私今から目隠しをしようと思いますので、……ほ、ほらこれでもう見えません。だから、あの……ごめんなさい」


 目を隠し直す以外の行動を見つけることができなかった……。


「……なんで、コウさんが謝るの?」


「いや、それは……ほら、不可抗力とはいえ私もすぐに直せばよかったのにしなかったから……かな?」


「疑問形なんだ」


「あっ、わ、私が悪かったです! すみませんごめんなさい」


 俺は前が見えないながらも頭を下げた。

 なぜ平謝りをしているかって? それは俺も知りたい。でも謝ることが和解への一歩につながると思うんだ。


「……ふふふっ」


 動かないでいると、俺の額にこつんと感触が。


「う、動かないでね」


「はっ、はい!」


 近くで聞こえたシュリカ様のお言葉により、俺の体は更に硬直した。


「そ、そんなに硬くならなくても」


 と言いながらシュリカは俺の上半身に何かを密着させ、首元から背中にまでそれを回してくる。


「…………」


 俺は言われた通り動かずに、更に何か正体のわからない柔らかくてもちっとした、それでいてすべっともしているものが体についていたため少し恐怖を感じ無言になる。


「コウさ……こ、コウくんって呼んでもいいかな……?」


 耳元で恥じらいの入っている囁きが聞こえる。


「ひゃい! もちろんですともっ」


「ぷっ、はははっ、ありがとう。……コウくんってこんなにたくましい体してたんだね」


 シュリカが喋った後、俺の背中についていたものが動いた。


「し、下は見ないでね」


 そう言われると同時に、目を覆っていたタオルの感触が消える。


「あれっ、お、俺取ってないですよ!」


「動かないで!」


 俺は慌ててつけ直そうと、タオルを探そうと顔を動かしたがシュリカがそれを制した。


「はいっ!」


 今、この場において、シュリカ様の言葉は絶対である。


「わ、私が取ったの」


 そう言われたとき気づいた、シュリカの頭が俺の真横にあることに。


「あ、あれ?」


「………………え、えいっ」


 顔は見えないが耳は真っ赤に染めているシュリカは、可愛らしい声を上げて更に俺に密着してきた。

 どうやらさっきまではシュリカが俺の顔の下に肩を置き、軽く体を密着させて抱きついていたようだ。そして今、密着度は高まりシュリカの両腕はぎゅっと俺の体を包み、さっきまでは触れていなかったシュリカの体の部分、お腹や胸までもが俺の体に密着していた。

 な、なんだこれ!? 嬉しいけど危ないっ!

 運良くお湯に浸かっていた俺の片手が大事な所の暴走を抑えることに成功していたが、これが解き放たれてシュリカに触れてしまっていたらどうなっていただろうか……今度こそ叫ばれて、叩かれるかもしれないな、うん。


「こ、これならコウくんは私の体をジロジロ見ることができないでしょ? だから目隠しを外したの」


「そ、そうだったの……」


 いや、これはこれで俺は嬉しいですよ! シュリカの顔は俺の肩に乗っているため見れないが、髪の毛からいい香りがするし……くそっ両手が使えたら俺もぎゅってしたい!

 片手は水中で動かぜず、もう片方はシュリカの脇に挟まれていて動かしずらかったのだ。動かすとほら、シュリカさんの体を擦るわけだから何か粗相をしてしまいますかも知れませんし……。しかし、くん呼びをされ、親密度が上がった感じがして俺は幸せを感じていた。


「……コウくん、私と付き合うって言ってくれてありがとう。実は、初めて会った時から気になっていたの。助けてくれた時かっこよかったから」


 助けるって、あれは本当に成り行きだったんだけど。しかも俺ほとんど何もしてないし……あれ? シュリカってハセルの事が好きだったのではないのか……?


「そ、そうだったんだ」


 体の力を抜きつつも動かずに、考えるが答えは出なく、俺はそうとしか言えなかった。


「うん。今まで言えなかったんだけど、プレゼントも嬉しかったよ」


 プレゼントとは矢の事だろう。ハセルの奴め俺からだって言ってたのか、別に良かったのに。

 俺の顔の横でシュリカが動いたので、俺も顔をそっちに向けると目が合った。


「ありがとう、ちゅっ」


 シュリカの顔が更に近づいて来たと思ったら、しっとりとした柔らかい感触が俺の頬に触れる。


「………………!!?」


 俺の思考は少し遅れて動き出した。

 えっ!? ちょっ!!? 今のキス!? っていうかシュリカって最初から俺の事が好きだったってこと? なのに俺は勘違いしてたの? なにそれ恥ずかしい。知識ではなく、恋愛の知ったかぶりってやつか? いや、こんな言葉ないよなっ。ただ俺が鈍感で勘違いやろうなだけか。そもそも、そんな素振り――


「ちょっとごめんね」


「うぁっ!」


 絞ってはあったが、お湯がしみ込んだため温かくなっていたタオルを目のラインで突然巻かれ、思考を中断させられる。


「まだ恥ずかしいからお風呂出るまで……ごめんね」


「いゃぁ、ダイジョブっす! 気にしないで!!」


 そう、2度も謝らなくていいんですよ。気にしませんから!

 湯に波を立てながらシュリカは動き、体と体が密着していた温かさは消えてしまう。そして、たったったっ、バンッと言う音の後に、「もう取っても大丈夫だよ」という声が聞こえた。

 俺はさっき考えていたことなど忘れ、密着した感触を思い出し、名残惜しみながらも目隠しを外した。


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