表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/79

038

「お風呂沸かしておいたから入っちゃいなさい」


 日が傾き始めたので、壮大……でもない雪合戦を終えて家に戻ると、エディタさんにそう言われたのだ。俺は後でいいと言うと、女の子4人は一緒にお風呂へと向かって言った。


「コウさんも一緒に入れば良かったのに」


 いたずらな笑みを浮かべてエディタさんは俺に言ってくる。


「そ、そんなことしたら今度は怪我で動けなくなりそうですよ」


 ……ん? まて、ソイリちゃんはまだ幼いし行ける! ルナも何とかなりそうだし、リーゼは言い包められるとして、シュリカは…………無理だな。うん。


「今、想像したでしょ」


「へっ、いや、し、してませんよ。するわけないじゃないですか!」


 ずずずっと、俺はエディタさんが入れてくれたホットミルクを口に含んだ。


「ふふっ、そういう事にしてあげるわ。みんな出てきたら次はコウさんが入ってね」


「……はい、ありがとうございます」


 何か負けた気分がする……。


「たっだいまー」


「あら、ガヴリが帰ってきたみたいね」


「ふぅ、外は寒いなぁ」


「あなた、おかえり」


「おかえりなさいです」


「おぅ、ただいま。あれ他の皆は?」


 ガヴリさんは辺りを見回すとそう聞いてきた。


「今はお風呂よ。外で元気に遊んでいたからね、温まらないと」


「なるほど……丁度いいですね。話があるんですよ、良ければコウさんにも手伝っていもらいたいんですが」


「もちろん手伝います! 冬の間泊まらせてもらうんですからそれくらいしますよ」


「ま、まだ何にも言っていませんが……ありがとうございます。嫌だったら正直に言ってくださいね」


 苦笑しながらもガヴリさんは俺に拒否権まで与えてくれた。


「本題に入るが、上の方はもう雪が凄いらしい」


「まだ12月なのに!? ということはあれね……」


「そう。今年……いや、来年は数十年に一度起こる大雪になる。雪害が起こるかもしれないから気をつけないといけないわけだ」


「…………」


 話について行けないんですけど。雪がやばいくらいの事しか理解できないぞ。規模がわからない。


「ソイリが生まれてからは初めてね」


「そういえばそうだね。それで、コウさんにお願いしたいのはそんなとき魔物が現れたら討伐を手伝ってほしいのです。あと、誰かに助産を覚えてきてほしいのです。一応僕も覚えますけど、僕1人だとパニックになっちゃいそうで」


 頭を掻きながらガヴリさんは弱気に言った。

 大雪でお医者さんがこれないかもしれないから自分たちでやる、という事なのだと俺は理解した。奥さんが出産するんだもんな。焦るのは当然だろう。

 俺は1回エディタさんを見てからガヴリさんに向きなおす。


「魔物の方は大丈夫です、やります。助産の方は夜聞いてみますね。俺じゃ駄目だと思いますし」


 お医者さんも男だったけどやっぱり女性の方が良いだろうと思ったのだ。お医者さんは昔から同じ人っぽいし、慣れもあるから大丈夫なのかもしれないけど。


「おおっ、ありがとう。助かるよ! もしかしてコウさんたちを見つけたのは神の導きだったのかも知れない」


「そんな、大袈裟ですよ。……あとお、僕も聞きたい事があるんですが」


「ん? 何ですか?」


「お医者さんの料金を払ってくれたって聞いたのですがいくらでしたか? お金払います」


「ああ、それならいらないよ。うちはお金に困ってないし、気にしないでいいですよ」


「ですが……」


「……そうだ、じゃあ今の頼みごとを冒険者さんに依頼したい。という事でどうですか? 報酬は治療費と宿代わりにこの家で暮らす……みたいな感じで」


「……わかりました。仕事を受けさせてもらいます!」


「ははっ、お願いしますよ」


「こちらこそ」


「あら、お風呂から出て来たみたいよ」


 話が終わるのと同じくらいのタイミングで、体から湯気を上げて4人がリビングへと入ってきた。


「じゃあ次はコウさん入ってらっしゃい」


「はい」


 俺は1人風呂場に向かって行った。



 ----



「――というわけで、助産の仕事と村の防衛を頼まれた」


 寝る前に俺は二階の部屋で、風呂に入る前に頼まれたことを話していた。


「りょうかーい」


「でも私、出産に立ち会ったことなんてないですよ!」


「わ、私も」


「さっき聞いたんだけど、俺を診てくれたお医者さんが教えてくれるらしい。明日3人で行ってきてくれないか? ルナが翻訳してくれれば2人もわかるでしょ」


「は、はい」


「わ、わかったわ」


「ルナ頼んだぞ」


「うんっ、任せて」


 そして俺たちは眠りについた。



 翌日

 朝ご飯を食べてから3人はガヴリさんの案内でお医者さんの所に向かう。

 俺はガヴリさんが帰って来るのを、家の中でソイリちゃんと遊びながら待っている。エディタさんの手伝いをしようとも思ったがソイリちゃんに捕まって、更に、「わたしは大丈夫よ」とエディタさん本人に言われてしまったのだ。


 ソイリちゃんにダンジョンの話をしたり、おままごとをやったりと少し恥ずかしかったが遊んでいるとガヴリさんが戻って来た。

 ガヴリさんが帰って来たときにはエディタさんは家事を終わらせていて、3人でおままごとをやっていた。そんな俺をガヴリさんは呼んだ。

 行こうとするが、ソイリちゃんがそれを阻止してくる。エディタさんが「また遊んでもらえるから今は我慢よ」と、ソイリちゃんを捕まえて説得してくれたおかげでガヴリさんのもとへ行くことができた。

 また遊んであげるからね。と心で思いながら今、ガヴリさんの家の前に俺はいた。


「ごめんね。待たせて」


「いえ、気にしないでください」


 俺とガヴリさんの他にこの場には5人の男の人がいた。そのうち2人は俺と歳が近いような気がする。他の2人はどちらかと言うとガヴリさんに歳は近いかな。最後の1人は見るからに年長の人だ。黒い顎鬚を蓄えており、筋肉質な体つきをしている。


「この5人がこの村の警備隊の人たちです」


「あっ、よ、よろしくお願いします」


 俺が頭を下げると、あちらも各々挨拶をしてくれた。


「今顔を合わせてもらったのは、言葉のままだけど顔合わせをしたかったからです。次は村の案内をしますね」


 本当に顔を合わせただけだった。ガヴリさんは警備隊の人たちに「ありがとうございます」と言って別れ、俺を連れて村の案内を開始した。

 この村は森を切って開拓された村であり、村の外れには必ず森とつながっているようだ。今は雪のせいで風景は全体的に白くなってしまっているが、畑や民家の大体の場所をガヴリさんは教えてくれた。村自体はあまり大きくないからすぐに覚えられそうだな。

 村の真ん中にはちょっとした広場もあり、遊んでいる子供たちがいたり、立ち話をしている人たちもいたが、それよりも驚いたことがあった。

 それは俺とガヴリさんが広場に入ったときにかけられた、「あっ、そんちょーこんにちは~」と言う子供の声。

 俺は、村長ってどんな人だろうと子供たちの目線の方を向いた。子供は俺とガヴリさんの方を向いていたので、後ろにいるんだと思って後ろを向いたわけだが、後ろには誰もおらず、俺の隣にいたガヴリさんは、「こんにちは、今日も元気だね」と言っていたのだ。

 俺はその場に立ち止まったが、ガヴリさんはそのまま子供の方に歩いて行き頭をなでていた。そしてガヴリさんの周りの広場にいた子供たちが集まりそんちょー、そんちょーと呼んでいる声が聞こえたのだ。

 ……ガヴリさん村長さんだったの?



「あはははっ、ごめん。言ってなかったっけ?」


「聞いていませんでしたよ。びっくりしました」


 広場を出てから俺は軽く謝られた。


「村長と言っても僕の父がそうで、引き継いだだけなんだけどね」


「……そうなんですか」


 ガヴリさんの父親は今どこに? とかは聞かない方がよさそうだな。


「あっ、今まで通り接してくれて構わないからね。僕が村長と知って変に取り繕うとする人もいるんだけど、そういうのあんまり好きじゃないからさ」


「了解です」


「はは、ありがとう。要所は回ったから後1ヶ所だね」



 そう言って俺を案内してくれた場所はこれまた村の外れだった。

 俺とガヴリさんが通ってきた道以外には行き道はなく、木が周りを囲んでいる。近くには民家も畑もない広まった空間。そこに家を出たときに挨拶をした警備隊の人たちが3人、2人が木剣を使って訓練していて、もう1人は指導をしているようだ。


「ご苦労様です」


 ガヴリさんがそう投げかけると警備隊の人たちはこちらを振り向き軽く頭を下げてきた。

 指導をしていた1人の、この警備隊の中で最年長であろう筋肉質の体をした黒い顎鬚を蓄えた男は、訓練中の2人に何かを喋ってから俺とガヴリさんの方に歩いてくる。

 ガヴリさんは、「少し待ってて」と俺に言い、歩いて来る男の方に向かって言った。

 ガヴリさんと男は、俺には聞き取れなかったが何かを話して再び元いた方へと向かっていく。

 振り向いて戻るとき、ちらっと顎髭の男の表情が見えたのだが、何か面白い事を聞いたようなニヤッとした表情だったのが見えた。

 ……何を話したのだろうかガヴリさんは……。


「お待たせ、許可をもらえたからやるよ」


 案の定、意味が伝わりきらない事を話される。


「……なにをですか?」


「ん? ああ、模擬戦を、ですよ」


 模擬戦を……誰がっ!?


「コウさんがやるんですよ」


 俺の心を見透かしたようにガヴリさんが答えていた。



「では、これより模擬戦を開始する。両者、練習だが全力でやるように。――始め!」


 筋肉質の顎鬚を蓄えたおじさんが音頭を取っていた。


「よろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いします」


 相手にお辞儀をされ反射的に俺も返してしまう。

 俺は木剣を持たされ、頭の上にあるとんがったキツネっぽい耳が特徴的な茶髪の男と向かい合っていた。何歳かは聞いていないが、この人は警備隊の中で一番の若手らしい。

 ……何でこうなったんだろう。

 そんなことを考えながら剣を構え、俺は相手の動きを見ることにした。

 相手もまだ動かずお互い見合っている状態だ。

 よしっ。

 俺は気持ちを切り替えて戦闘モードに入る。


「うおォォ――」


 すると、丁度相手が走りだした。木剣を左方に俺の方へと突撃してきたのだ。


「うらァ!」


 相手が左方からの一撃を放とうとした瞬間。俺は一歩前に出て相手の木剣を自分の木剣で抑え込む。


「なっ!?」


 力比べとなるが立ち位置的に俺の方が有利だ。相手は木剣を振り切る前に俺が抑えたのだ。普段よりは力が入れられないはず。


「うっりゃぁ!!」


 俺は力任せに相手の木剣を押し切った。


「くっ」


 体をのけぞらし、雪のせいか足を滑らして倒れた相手の首元に俺はさっと木剣を置く。


「勝負あり!!」


 再びおじさんの声であっという間に模擬戦は終了する。


「コウさんお疲れ様」


 俺の所へと寄ってガヴリさんは来た。


「なかなか楽しいですね、こういうのも」


 木剣だから試せるという事もあるからな。真剣だったら俺は斬りかかってくる相手に向かって一歩前に出ることなんて出来ないだろう。


「そうかい? 最初は嫌そうな顔していたのにねぇ」


 からかうようにガヴリさんは言ってきた。


「それは唐突だったからですよ」


 本心、最初はめんどくさいと思ってたんだけどね。ルナともたまにチャンバラはやるけどここまで真剣にやらないからな。


「あ、あの、手合せありがとうございました」


「えっ、あ、こ、こちらこそ……です」


 対戦者の人から話しかけられたのだ。


「ガッハハハハ。惨敗だったからな、もっと精進する事だな」


「隊長、それさっきも聞きました……」


 さっきとは試合終わってすぐのことだろう。隊長と呼ばれたおじさんは、「すまんすまん」と軽く謝っていた。


「それにしても、にいちゃん……コウだっけ? 強いな」


「は、はい。これでも冒険者を名乗っていますから」


「ふむ? 村長に聞いた話じゃ戦えない冒険者もいると言っていたが……」


 ……確かに! 俺には冒険者は戦えるというイメージが染みついていているんだな。


「あっ、えーと、街の手伝い依頼専門の冒険者とかもいるんですけど、おっ、僕たちはダンジョンとか入ってるんで戦えるんです」


「他にも、身分証明として冒険者になる人もいますけどね。冒険者の括りは広いですからね。コウさんの中では戦えるイメージがあるのですよ、ね」


 ガヴリさんが補足してくれた。


「なるほどな。用は色々な人がいるというわけだ」


「そうです」


「まぁ、それにしても予想より早く終わっちまったな。コウ、少し練習して行くか?」


「はい?」


 いきなりのお誘いだったので戸惑い、ガヴリさんの方を向くと、「大丈夫ですよ。ここで案内は最後ですから」と言われたので少し一緒に練習して行くことに。

 ガヴリさんとはここで別れ、素振りやらを、俺を含め4人で順番に模擬戦を行ったり、おじさんもとい隊長にこうした方が良いなどのご教示を受け、気づけば日は傾いていたのだった。

 流石に隊長には勝てなかったが、他の2人には数回模擬戦を行ったが勝ちの方が多い。模擬戦って勝てれば結構自信がつくものなのを俺は知ったのだった。



「デン、コウを送ってもらってもいいか?」


 デンと呼ばれた、一番初めに俺と模擬戦を行った相手は、「わかりました」とガヴリさんの家まで俺を送ってくれた。

 その時、気になったので聞いたのだが、ここにいない2人は村の警備をしているそうだ。聞いときながら返って来た答えに、そりゃそうだ! と思ったが口にはだしませんよ。


 家先でデンさんと別れた俺は、玄関のドアを開け家の中に入った。


「ただいま」


「お帰りなさいませっ」


 リーゼが小走りで玄関に来て出迎えてくれる。

 俺より帰るのが早かったか。ルナとシュリカも一緒だからもう帰っているのだろう。


「お疲れ様です……あれ、ガヴリ様は一緒じゃないんですか?」


「うん。途中で別れたんだよ」


 リーゼの口ぶりからしてガヴリさんはまだ帰って来てないみたいだ。


「それより、どうだったの?」


「あっ、はい。難しそうですけどエディタ様のためにも頑張ります! 明日もルナ様とシュリカ様と一緒にお医者様の所に行くんですけど……」


「ん? ああ。俺の事は気にしないでいいよ。行っておいで」


「すみません。コウ様のために何もできなくて」


「いいから、いいから」


 そう言いながら2人でリビングに入る。リビングには誰もおらず、キッチンにいるエディタさんの姿しか見えなかった。


「あれ? 他のみんなは?」


「ルナ様たちはお風呂を沸かしています。私はさっきまで片付けをしていて、お風呂も私がやるといったんですけど、大丈夫って言われちゃったんですよ。これからエディタ様と晩ご飯を作りますのでコウ様はゆっくりくつろいでいてくださいね」


 そう言ってキッチンへと向かっていく。

 …………取り敢えず座るか。

 俺は椅子に腰掛けテーブルに両腕を置きリーゼの後ろ姿を眺める。ガヴリさん宅はリビングからキッチンが、キッチンからもリビングが見える構造なのだ。


「おわったよ~。あっ、コウちゃんお帰り」


 ルナたちがリビングへと入ってきた。


「ただいま」


「あっ、お風呂ありがとね、先に入っちゃっていいわよ」


「はーいっ」


「は~いっ」


 リーゼと一緒にキッチンにいたエディタさんに言われ、ルナとソイリちゃんはほとんど同時に返事をしていた。


「シュリカちゃんも一緒に入ろう」


「あっ、コウさ――きゃっ!? わ、わかったから、入るから引っ張らないでぇっ」


「ソイリちゃんはリーゼちゃんを連れて来て!」


「うんっ」


 リビングにに入ってきたばかりのシュリカは、ルナに引っ張られて行ってしまった。

 シュリカに俺の名前を呼ばれたような気がしたけど……気のせいかな?


「リーゼお姉ちゃん。えっと……」


「一緒に入ろう。よ」


 ソイリちゃんが言葉に詰まったところでエディタさんが教えていた。きっと人族語がわからなかったんだろう。


「いっしょ、に、はいろっ!」


「えっ、えっと、でもご飯の準備を……」


 俺はここで立ち上がりキッチンまで行く。


「あとは俺が手伝うから行っておいで」


「そ、それは尚更ダメです! コウ様の手を煩わすなんて」


「んー……、」


 リーゼも結構頑固だからな。


「よし、じゃあ命令だ。リーゼは一緒にお風呂に行ってきなさい」


 リーゼにしか聞こえないように小さめの声で俺は話した。エディタさんとソイリちゃんがリーゼの事を奴隷と知っているかはわからないが、大っぴらにはしない方がいいと思ったからだ。


「うっ! ううっ、……わ、わかりました。あとはお願いします」


 少しばかり悔しそうな顔を俺に向けてから、ソイリちゃんに手を引っ張られリーゼは連れて行かれた。

 良いなこの作戦。主人という立場を使えば良かったのか! これからは、どうしようもない時に使おうと心に誓った俺であった。


「コウさんも座っていて大丈夫ですよ」


「いえ、このくらいは手伝いますよ」


「リーゼさんに後で何か言われるかもしれないから?」


「はい……ってそんなことは! ……あるかも知れないですけど、手伝うのは自分の意思でですよ」


 確かにこれで俺が何もしなかったらリーゼが怒るだろうな。でも、リーゼがいたからさっきまで俺は座っていたのだ。いなかったらすでに手伝っていたと思うぞ?


「ふふっ、そうですか。ありがとう。あと1つ聞きたい事があるのだけど」


「なんですか?」


「前から疑問に思っていたんだけどね、リーゼさんたちと話しているときはコウさんが話す言葉はわかるのに、リーゼさんが話している言葉は人族語なのよね。でもリーゼさんは理解しているみたいだし……という事は、コウさんは何語を喋っているの?」


 …………バレた?

 ま、まぁバレてもいいのだけど説明がめんどくさいんだよね。何て言おう……呪いと言ったらこの家から追い出されるかも知れないよな? どうする? どうしよう……。


「えーっと、ですね。これは特殊能力的なものですね。俺にも良くわかりゃないんですよ」


 か、噛んでしまった。


「ぷっ、そ、そうなんですか」


 唐突に俺が噛んだからか、エディタさんは吹き出しそうになっていた。


「だからあまり公言しないでくれると嬉しいです」


「わ、わかったわ。ふふふっ、……わかりゃないなんて可愛い……」


「…………」


 わかってはもらえたようだ。よかったよかった。

 話を誤魔化せた? 代償に、無性に顔が熱くなっているのを気にしないようにしながら俺は手を動かしていた。



「ただいま帰った~」


 数十分後、料理が出来上がったころにガヴリさんが帰って来た声が聞こえる。


「ちょっとお願いしてもいいかしら」


「はいもちろんです」


 エディタさんは、「ありがとう」と言いながらガヴリさんの方に向かっていった。

 やっぱりお出迎えというのはされて嬉しいからな。

 1人頷きながら俺はテーブルへと食事を運んでいた。


 ルナたちもガヴリさんが帰って来てからすぐに風呂から出て来たので、そのままご飯を食べ、食べ終わってから片付けはリーゼに任せて俺は1人で風呂に入る。


「ふぅ」


 寒い日はお風呂で温まるのが一番だよな。これからはもっと寒くなるみたいだし……毎日風呂に入るわけではないからは入れるときを楽しまないとな。

 ……っと待て、お湯が冷める前に上がらないと生活魔法がろくに使えないのだから、水を温められない俺にはきついじゃないか!

 そう思い出し颯爽と風呂から上がった。


「お風呂頂きましたー。お湯が冷めてきてるかもしれません」


「ん、わかった。僕が入る前に温めるから気にしないでいよ。それよりコウさん、これは何だかわかる?」


 ガヴリさんは角が丸まった楕円のような長方形の、木の素材で出来ている2つの物を見せてきた。2つとも同じような形をしており、楕円のような長方形の、直線が長い方の側面に2ヶ所、右側と左側をぐるぐると太い紐が巻かれていた。この2つは、大きさはあまり大きくなく掌2つ3つ分くらいだ。


「……何ですかこれ?」


 似たような物を見たことはあるような気がする。……でもこっちに来てからじゃないな。日本にいた頃だ。う~ん……。


「あたしはわかるよっ。使ったことあるもんね!」


「そっか、ルナちゃんはノス大陸出身だもんね」


「うんっ」


 ……そうだったのかルナはこの北の大陸生まれなのか。そういえば北から旅に出って言ってたっけ。……おっと、今はそれよりこれの正体を考えなくては。


「ソイリちゃんまだ言っちゃダメだからね」


「うん」


 ルナがソイリちゃんにそんな事を言っていた。


「……シュリカはわかったか?」


 座っているシュリカに、俺も隣の空いていた椅子に腰掛けながら聞いてみる。


「ううん、わからなかったよ。だから諦めて答えを教えてもらったの。あっ、教えないからね」


「そ、そうか……」


 シュリカの笑顔にドキッとしてしまったことを隠しながら俺は考える。

 今、無意識に話しかけてしまったけど、この前の告白の返事をしなくちゃな……なんて答えよう……。っとこれじゃない、これはまだだ。あと少し先だよ! 今はこの物についてをだな……ん? 北の大陸だからルナは使ったことがある? さっきシュリカはそう言っていたよな。という事は寒い地域か? でも、こんな平べったい楕円形に丸めた木みたいなものと紐だけで防寒はできないし、紐の所以外は何もついていないわけだから盾としても使えないよな……。それにしてもよく折らずに丸くしてあるなぁ。


「コウさん降参ですか?」


 ……今のくだらないダジャレは昔よく言われたっけ。ガヴリさんはわざとじゃないんだろうし、もう慣れたから良いんだけどね。


「い、いえ、もう少し待ってください! なんか、なんか出てきそうな予感が……」


「ノス大陸出身の人じゃないとあまり見ないかも、ねー」


「ね~」


 ヒントらしい言葉をくれてソイリちゃんと共感しているルナであった。

 北大陸……寒い……ゆき? 雪で使うのか? 雪かき道具にはなりそうに……っ! わかったぞ!!


「わかりましたっ、わかりましたよガヴリさん!」


「ほう、それで何というアイテムで?」


「……な、名前はわかりませんが、雪の上を歩く道具ですね!」


「「おー」」


 ルナ、ソイリちゃんの方から感心したような声が上がった。


「さすがコウさん!」


 シュリカからもだ。


「ふふふ、正解です。いやー、ほんと流石ですね。見たことない人は普通はわからないものなんですけど」


「る、ルナのヒントのおかげですよ」


 昔、テレビで似たようなのを見たことがあるなんて言えないしな。


「そうですか。それでも凄い。名前はかんじきと言いますね、付け方は後日教えますね」


 かんじき……やっぱり覚えてないや。使い方しか記憶になかったというわけか。雪の上を歩くとかかっこいいもんな。だから使い方しか覚えてなかったのだろう。忍者が水の上をアメンボ見たく滑る道具もこんなのだったよな。本当に滑れたのかは知らないけど。


「そうそう、あとこれ」


 そう言ってガヴリさんはボックスから銅鑼(どら)のような物を取り出していた。


「昼間言い忘れたんですが、魔物が出たときはこれを鳴らして場所を知らせますので」


 ガヴリさんが軽く銅鑼を叩くと、ゴ~~ンと小さく部屋になり響く。


「わかりました」


「い、今の音は何ですか?」


 丁度やって来たリーゼに、簡単に今の話をして今日は寝ることにした。



「あっ、えっとシュリカ、ちょっといいか?」


「は、はい、うん、だ、だだだ大丈夫っ」


 部屋に戻る前にシュリカだけを捕まえて、人がこなそうな玄関へと誘導する。


「あの、だな……前に言っていた話なんだけど……」


「……うん」


 俺は考えたんだ。いや、考える前からシュリカの事が好きだという事はわかっていた。しかし、ルナとリーゼの事も俺は好きだ。友人としての好きなのか恋人にしたい好きなのかはいまいちよくわかっていないが、俺は決めたのだ。卑怯かもしれないが、せっかく好きと言ってもらえたのだから、正直な気持ちを話してシュリカに決めてもらおうと。


「俺もシュリカの事は好きだ。でもこの気持ちが恋かどうかはわからない。お、俺誰とも付き合った経験がなくてさ、そう言うのよくわかってないんだと思う……こんな俺でも良かったらさ、……えっと……お、俺と付き合ってもらえないでしょうか!?」


「………………」


 心臓がバクバク鳴っているのがわかるぞ。魔物と戦う時とは違う緊張感がっ! なにこれ、やだ、俺変なこと言っちゃってた? シュリカさん何か! 何でもいいから喋ってください!!


「……も、もちろん! 私も初めてだから……えっと、よ、よろしくお願いします」


 ぺこっとシュリカは頭を下げてきた。


「こ、こちらこそ」


「……えへへっ」


 顔を上げると同時に見せてきた、真っ赤に染めながら笑う顔を見て俺は何とも言えない気持ちとなり、心の中で悶えていた。


閲覧ありがとうございます!

何とか間に合いました。いつ遅れるかわかりませんが、これからもよろしくお願いします。

ウラスタ「ゲームやる時間減らせばいいんじゃない?」

っ!? ご、ごもっとも……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ