034
9月12日、朝
ここ最近は10時頃に起きていたのだが、今日はいつもより早く起きた。俺は3人がまだ寝ている中、部屋で手紙を書いていたのだ。
宛先はもちろんジャンさんたちだ。この街を移動する事や、新たな仲間のシュリカが入った事を書いていた。ハセルとスティナなの事は書いていない。心配させるのも嫌だしな……。
この前出した手紙の返事は来ていないけど、これは俺が自己満足でやっていることだし気にはしない。今回は最後に、『返事はいりません、また手紙を出させてもらうかもしれません』と加えて手紙を書き終えた。
「……よしっ」
書いた手紙を、前に買って余っていた便箋に入れる。
「……コウ様……?」
「うぉ! な、なんだリーゼ?」
不意に呼び掛けられるのは慣れるもんじゃないな。
「いえ、特に用はないのですが……っ!?」
目を擦りながら、リーゼはベッドから降りて何もない所で躓いた。
「だ、だいじょぶか?」
「うぅ~、はぃ~」
ドサッと前から倒れたのだ。寝ぼけているのかも知れないが、今のはどんくさかったぞ。
見た限りだと、倒れたとき先に手が出ていたので顔面は強打しなかったと思うが、どこかを痛めていたらルナに治してもらわないとな。
「痛む所はないか?」
「……はい、大丈夫です」
体を動かして確かめたあと、リーゼはそう教えてくれた。
「なら良かった」
「はいっ、おかげで目も覚めました」
俺は手紙をボックスにしまい、時間を確かめる。
『163年9月12日 8時29分23秒』
「……9時になったら行くか」
「わかりました」
「今回は次の町まで馬車で送ってもらえるかもしれないが、駄目だったら歩くからな」
昨日、食料やら生活用品を買いだめしてからギルドに寄った時、聞いてみたら運搬馬車が出るという事を教えてくれたのだ。
この前のオークションの時は1日で数回馬車が出ていたのだが、その期間でなければ毎日馬車が出ているということがないようだ。それが、人の行かない方面ならなおさらだ。
俺たちの行く方は、人の行き来はあるものの、オークションの帰宅ラッシュで出払ってしまい、今は馬車がない。こういった馬車は乗合馬車と言い、運搬馬車とは違う。1人でも多めのお金を払えば別だが、乗合馬車は人が集まらないと出ないので、これに乗ろうと思ってギルドで聞いのだが、「運搬馬車しか今はいないんですよね……一緒にいいか聞いてみますので、明日の11時にギルドに来てください」と言われたのだ。その時にジャンさんたちに手紙を出そうかなとも思い立った。
「はい」
「緊張しなくても魔物が近かったらルナが教えてくれると思うし、大丈夫だよ」
「はい……ルナ様って何であんなにお強いんですかね? 魔法も色々使えますし」
それは俺も思っていた疑問だが、ルナに聞いてもはぐらかされてしまうんだよな。
「……リーゼの過去に何があったか俺は詳しくは知らない」
「はい?」
「それと一緒だよ。ルナの過去も俺は知らない。でも、今は心を許せる仲間だと思っている。それで良いと俺は思うんだ。言いたくない過去を、人は1つや2つ持っているもんなんだよ」
「う~ん……確かに私もコウ様の過去を知りません……。でも私はコウ様になら何でもお話しますよ?」
「……そ、それは人それぞれってことかな?」
くっ、かっこつけてみたのにリーゼに矛盾させられてしまった。
「そ、それに言いたくない事は忘れているって可能性もあるわけだからな」
「忘れているのも入れれば……確かにありそうですね! 流石コウ様ですっ」
こ、これは褒められているのか? 同情して言ってくれたのか? こんな言い訳じみたことを信じるのですかリーゼさんっ! 私は貴女の将来が心配になりますよ。詐欺に引っかかりそうですよ!
リーゼの目を見つめて真意を探ろうとした。
「………………そ、そろそろ2人を起こそうか」
が、俺にはそんなことはできなかった。
まず、俺がリーゼの目を見たらリーゼも見返してきた。これはまだいいだろう。俺も見られたら何だろうと思い見返すかもしれない。だがそのまま無言の時間が続くのは耐えられない。ずっと耐えられる人がいるのならば素直に感心いたします、にらめっこも強いんじゃないか? その人は。
俺はリーゼから目を離しながら言うと、リーゼは肯定の返事をして、何事もなかったかのように椅子から立ち上がりシュリカを起こしにいった。リーゼさんはにらめっこが強い人だな……うん。
俺もルナを起こすべく、ルナに近づいていつものように、ご飯だぞ~。と囁きかける。これが一番効果的なのだ。
それからちょっとした身支度を済ませ、4人でこの宿での最後の朝食を食べに行く。
「おはようございます」
「おう、おはよー」
降りると受付にマクシさんがいたので、挨拶を交わし食堂の席に着いた。ご飯だけのサービスはリーゼとシュリカの最後のお手伝いの日だった10日に終わっているので、前と同様に閑散とした食堂となっていた。
最終日は凄いにぎやかだったらしい。俺はルナと腕が鈍らないように街から出てすぐの原っぱで素振りや、都合よく落ちていた数本の木の棒でチャンバラをして遊んでいた……ご、ゴホン、鍛錬をしていて、夕方に帰って来たときにはお酒で出来上がっている人が大多数だったのだ。なので俺とルナは外で晩ご飯を食べ、絡まれないようにひっそりと自室に戻ったという事があった。ほとんどの人がその日は下の食堂で寝ていたという。リーゼとシュリカも同様に。
「おおっ! 大盛り! お肉っ! ありがとう!!」
いきなり叫びだしたルナはテンションが上がりまくっている。今にもテーブルの上に乗りだしそうな勢いだ。
「ルナ、反応が早すぎ」
苦笑しながらも2つのトレイを運んできてくれたマクシさんは、一番にルナの前にご飯の盛ってあるトレイを置いた。
あら? マクシさんいつの間にキッチンに行ったのだろうか。俺がぼんやりしているときかな?
続いてミレーナさんがマクシさんと同じように2つ運んできて俺たち4人に行き渡る。
「最後だし、色々手伝ってもらっちゃったからそのお礼も兼ねて豪勢な朝食よ。味わって食べてね」
「あ、ありがとうございます」
これは主食は肉だな。と思わせる程、素晴らしい朝食だ。朝から重たいがそんな事は言ってられない。ルナのご飯は俺たちよりも多めに盛られているのが見てわかるが、こは完食できるのか? ……ルナならできそうだな……。
「で、では食べようか」
いただきます、と全員で言い食べ始める。
他の泊まっているお客もいるみたいだが、今は降りて来ていないのでマクシさんとミレーナさんも俺たちと話していた。
……気持ち程度に付いていた野菜が、こんなに嬉しいと思う事があるとは思わなかったなぁ。
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ご飯を食べ終えてもまだ時間があったので、しばらくはマクシさんたちと話をしていた。この時、マクシさんがルナに再度道を教えてくれていたが、傍で聞いていた俺にはちんぷんかんぷんだった。まず、地理を知らないからな俺は……。
そして10時30分になった時、俺たちは宿の前にいた。
「元気でやれよ」
「また来てくださいね」
「うんっ」
「近くに寄ったらまた来ます」
「お世話になりました」
「……ありがとうございました」
「では、行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
マクシさんとミレーナさんに見送られながら俺たちは歩き出す。
ギルドに着いてから即受付へ。
「すみません、この手紙出したいんですけど」
最初に手紙をボックスから取り出し、受付の人に渡した。
「はい、……イーガルまでですね。誰でもいいでしょうか?」
「はい」
「では、銀貨1枚になります」
一度手紙を出したことのある俺は、言われる前に銀貨を準備して出していた。
手紙や贈り物は手数料というものが当然取られるのだ。遠くに行けばいく程値段は高くなり、荷物が多ければ多いほど高くなる。あとは、運搬登録していた冒険者や運搬を専門にやっている人を指名すれば、その人のランクに応じた報酬を払わなければならなくなるのだ。今の俺のように何も言わなければそっちに用事がある人へとお願いされるので、目的の方面に用のある人がいなければ、届くのが遅くなったりする。頼まれた人はお小遣い程度は稼げるというわけだ。
しかし、道中で運搬中の冒険者や運搬を仕事にしているの人が死なない保証はないので、大切な物はお金をかけてでもギルド一押しの人に頼むのが良いと初めてお願いしたときに言われたな。運び屋が盗難することは、ギルド追放などのリスクがあるため滅多に行われないらしい。
「はい、承りました。他に何かありますか?」
「あと、昨日馬車の人と待ち合わせしたコウなんですが……」
「…………あっ、はい。聞いています! 思い出しました。まだ来ていないので上で待っていてもらえますか」
「わかりました」
この人忘れてたんだな。思い出しました、何て言わなくていいものを。
「どんな人なんでしょうかね」
「怖い人は嫌だなぁ……」
「……私もです」
後ろでリーゼとシュリカが話していた。俺も、というか誰しもが怖い人は嫌だと思いますよ? 怖い人が良いというのならそれは物好きなのでは?
「コウさーんっ! いらっしゃいましたっ!!」
ちょっ!? 少ないとはいえギルド内に人はいるんだぞ。そんな大きな声で呼ばないでくれ、恥ずかしい。
階段を上り始めたときに呼ばれたので、踵を返した。
「こちらの方が冒険者の人たちです」
日焼けした長身の男に受付の人は言う。
「それでこちらがラウルさんです」
ラウルと呼ばれた男にジッと見られる。体の上から下までをだ。
「にいちゃんたち、ランクはいくつだ?」
「ぜ、全員Eですが……」
「そうか、ふむ……次の町までよろしく頼むな」
「はい、こちらこそ……」
値踏みされていたのだろうか。
契約はさらっと進みギルドを後にした。ラウルさんは受付の人に何個か小包と手紙を受け取っていたから、それが運搬物なのだろう。
「馬車は東の入口にもう止めてある。4人だと少し狭いかもしれないが我慢してくれ」
「わかりました」
ギルドを出てから俺たちは東に向かって歩き出す。
「それにしても、若いのにもうランクEなのか。凄いなぁ」
「そう……なんですか?」
「おうとも、にいちゃんたち20いってるのか?」
「いえ、……いってないと……思います」
そういえばルナとシュリカの歳も知らないな。15歳を超えているのは知っているけど。という事で少し濁して答えを返す。
「ランクEは15歳から冒険者を始めても大体20歳前後でなるもんなんだ。見た感じ若いし、全員だと言うから凄いと思ったんだよ」
そうなのか? ……まぁ俺はダンジョンに行ってたしな。戦闘系パーティはこんなもんなんじゃないかな。
無茶はするなよ。とラウルさんに言われた。
この人は俺たちが戦闘をよくしていることがわかったのだろう。ギルドランクの平均値も知っているわけだからな。
「あたしたち強いから大丈夫だよっ」
「そうか、そりゃいらん気遣いだったか。あはははっ」
「うにゃ?」
「そんな強気な奴は久しぶりだ。最近の若いのは謙虚でいけねぇよな」
「は、はぁ」
このパーティでこんな強気なのはルナだけだと思うが、ラウルさんの中で俺たちみんなの株が上がったようだ。
「そうそう、命預けんだ、改めてオレはラウルな。よろしく」
「あっ、自己紹介してませんでしたね、すみません。俺はコウって言います」
契約書にサインしたのは俺だけだ。その時見れば俺の名前はわかったと思うが、他の3人の名前はわかからない。率先してこういう事を言ってくれるなんて、慣れているなぁ。
「あたしはルナ!」
「わ、私はシュリカです」
「リーゼと申します」
よろしくお願いします。と簡単に自己紹介を終える。
「おうっ、頼んだぞ。あっ、見えるか? あれが俺の馬車だ」
東の出入り口、外壁に寄っている1台の馬車と馬がいた。
「悪い、待たせたな」
「いえ、いつもごひいきにして頂いていますから。では、私はこれで」
馬車を見ていた人はそう言うと、俺たちにも一礼をしてその場から去っていった。
「あの人はこの街にオレがいる時、こいつの管理をしてもらってるんだ」
俺が、今去った人を見ていたからか、ラウルさんはどんな関係なのかを教えてくれる。
なるほどね、だからひいきにしてもらってると言っていたのか。
「そうなんですか」
「おう、じゃあさっさと行くか。今日中に次の村はきついから、一夜野宿だぞ」
「了解です」
俺たちは馬車の中に入り、ラウルさんは馬の手綱が握れる馬車の前に座った。
馬車の中は狭いと言っていたが、4人が座れるようになっていたので、窮屈と言えば窮屈だが、丁度いいと言えば丁度いい。5人だったら狭いではなく座れないと言われていただろうな。
他には、小さい、ガラスの付いていない飾り窓から前方が見えるようになっていて、ラウルさんさんとの会話もしやすそうだ。
「では出発!」
と言う掛け声と共に馬車は動き始める。
……よくよく考えると俺ハーレムじゃないかっ。今更ながらこの近距離に、3人がいる空間に座っていて思った。猫耳少女に、従順奴隷に、恥ずかしがりやの娘たち。……うん、悪くないな。てか良すぎる。何だこれ。そのうち酷い事が起こりそうだ……って嫌なフラグだなぁ、おい。
「コウ様、コウ様」
「ん? な、なんだ?」
対面に座っているリーゼに声をかけられ意識を戻した。そう考えてからリーゼを見ると、全面的に俺を信頼してくれているこんな綺麗な娘が俺の奴隷なんて優越感を感じるな。
「荷物がないのに何で私たち必要なんですかね? ウマ1頭で走り抜けたほうが早いと思うんですよ」
……っと、そんなことを今感じている場合じゃないな。えーっと、……何でだろう? それもそうだな。
「リーゼだっけか? その考えは良いんだがな、最近魔物が多くなっていてな、オレは安全第一でやってるから護衛が欲しいんだよ」
聞こえていたらしく、ラウルさんが話に入ってきた。飾り窓があるのだから聞こえるのは当たり前か。
「それでも1人でウマ走らせている奴もいるがな。俺は昔からこのスタイルだけどよ。死にたくねぇからな。あっははは」
「同業者と一緒にやるという方法もあるじゃないですか」
「それだと分け前が半分になっちまうじゃねぇか。冒険者はよく移動をするだろ。その足代わりにタダで護衛してもらうってわけさ。まぁ、俺が一度その人たちを見てどうするか判断するんだけどな」
弱すぎる人だとオレもやられちまうかも知れないからな。とラウルさんは言う。
やっぱり会ったときのあれは値踏みされていたのか。まぁ良いけどね、受け入れてもらえたんだから。
それにしても、お金にがめついのか何というか、凄い考えだな。安全第一と言うのは良い事だと思うが、断られた冒険者の人に恨まれたりしないのだろうか。
「かれこれ10数年やってるが、これでもウェース大陸内での信用は厚いんだぜ」
ラウルさんは運搬業界では有名人なのか! だから断られた冒険者も恨んでも手は出せないという事か? ラウルさんに何かあったら、ラウルさんの馴染の人からの報復が怖いからかな。
「へーっ、どんな所行ったの?」
「ウェース大陸の全街は制覇してるぞ。隅っこの村とか、完全に自給自足していて外からの物を必要としていない村は行ったことないがな」
ルナがラウルさんと話している中、俺は馬車に揺られながらぼーっと話を聞いていた。
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「――様、コ――ま! 起きてくださいっ、コウ様!」
「う、……うぅん? はっ! もしかして俺寝てた?」
「はい、それはもう気持ちよさそうでした」
「……そうか、すまん」
護衛が仕事なのに寝てしまうとは……情けない。でも馬車の揺れって眠くなるんだよな……。
「いえ、何もなかったので大丈夫ですよ。今日はここで野宿だそうですよ」
「…………えっ! 俺が寝ちゃってから結構時間経ってるの!?」
馬車内を見ると、ルナとシュリカの姿が見えなかった。馬車も揺れていないし……。
「はい。もう21時近いですよ」
『163年9月12日 20時52分07秒』
……まじか。
「起こしてくれれば良かったのに……」
「ぐっすり眠っていましたし、ラウル様が寝かせておいて良いと言っていたので起こしませんでした。早く行きましょう、もうすぐご飯です」
「そ、そうか」
リーゼに急かされ俺は馬車の外に出た。
「あっ、コウちゃんおはよ~」
ルナに一番に気づかれたので返事の代わりに手を振り返し、辺りを見る。
辺りには前後左右これといったものはなく、暗くて正確にはわからないが緑色っぽい平地が遠くまで続いている。下に草が生えているのだろう。馬車から降りて正面に少し行くと今まで通ってきたであろう道が焚き火の灯りで見えた。その手前、馬車を降りて数メートル先の所で焚き火と、ルナ、シュリカ、ラウルさんの姿が見える。
後ろを振り向くと、ここも芝生のような草の上に馬車は置かれており、馬は馬車からは外されているが遠くに行かないようにか地面に杭みたいな物が打たれていた。それで馬についている紐を固定しているようだ。杭の横には水と食事もすでに用意されていた。
「おっ、起きたな」
ラウルさんにそう言われ、俺は反射的に謝った。
「す、すみません寝ちゃって」
「いや、いいって。その代わり夜の見張りは頼んだぞ」
……そういう事か!
「了解です」
敬礼のポーズを取り答えた。
パチパチと薪を燃やしながら温もりと灯りを発している焚き火の上には、専用の道具なのか、4つの棒が長方形の形に焚き火を挟んで地面に刺さっている。距離が長い方の棒の先端から先端へとまたもや2本の棒が垂直に横になっていて、その横になっている棒に挟まれるように持ち手みたくなっているでっぱりが引っかかり、底が深い鍋がぶら下がっている。その鍋の中からいい匂いが……。
「ふふっ、ご飯で来てるよ」
木製のお玉で鍋をかき混ぜでいたシュリカが笑いかけてくる。
「やっぱり野宿には鍋だよなぁ」
「そうなの?」
「温まるし、これからの寒くなる季節は最高だな」
「ふぇーっ、いつもお鍋、良いなぁ!」
「コウ様も座ってください」
「お、おう」
素晴らしいくらいのほのぼのした雰囲気になんかいいなぁと思い立ち尽くしていたら、先に座っていたリーゼに言われる。4人は焚き火を囲みようにして座っており1ヶ所開いていたリーゼとラウルさんの間に俺は座った。
「はい、コウ様」
「おっ、ありがと」
木製のお椀に温かい湯気が立ち昇っている。
「ありがとな」
ルナが、シュリカから回ってきたからお椀をラウルさんに渡していた。
「みんなに渡りましたね」
「たべよーっ」
「ではオレが。……目的地まで無事を祈って、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
「ぷはぁー、食った食った。ルナはよく食べるなぁ」
「いつもなんですよ」
あれだけあったお鍋は全て食べつくされていた。みんな2回はおかわりをして、俺は5回おかわりをしたがルナはもっとしていたな。お椀が小さいからというのもあるのだが、そのせいか食べ過ぎた。何か、もっといけると思ってしまったんだよな。4杯にしておけな良かったな……。
「みんなで食べるのはやっぱ美味しいな」
「そうですね」
「うんっ」
片付けをしながら3人で駄弁っていた。
リーゼとシュリカは少し離れた所で生活魔法の水を使い、鍋とお椀と木製スプーンを洗っている。俺たちは鍋を支えるために出していた道具を、新しい薪を出して、その薪で押し倒したりしながら分解していた。
「洗い終わりました!」
「終わりました」
俺たちが道具を1ヶ所にまとめて、冷めるまで置いとこうという話をしていた所にリーゼとシュリカは帰ってきた。
「2人ともありがとう」
「おお、すまんな」
「ありがとうっ」
洗い終わった物も、その横に置いた。
「んじゃ、明日も早いしそろそろ寝るか」
よっ、という声と共にラウルさんは寝袋をボックスから取り出していた。
「嬢ちゃんたちは馬車の中で寝て良いぞ」
「えっ!」
「ふえ?」
「い、良いんですか?」
リーゼは驚き、ルナは良くわかってないような反応をするが、シュリカだけは少し嬉しそうな反応を示した。その後2人の反応を見て、「あっ、えとっ」と、ぼそっと小さい声で可愛らしく顔を赤く染めている。きっと地面が土じゃない床で寝たかったのだろう。初めての野宿らしいし最初は抵抗があるのかも知れないな。ダンジョンとかで休憩のときに横になる事はあっても寝る事はないもんな。慣れないと安眠できない人もいるだろう。
「あっはっはっ、気にしなくていいぞ。明日のために英気を養ってくれ」
「あ、ありがとございます!」
「で、でも護衛は……」
「それは俺がやるから大丈夫だ。何かあったら起こしに行くから、その時は頼むな」
「は、はいっ」
ルナは立ち上がり、リーゼとシュリカは立っていたので俺とラウルさんに向かって、「おやすみ~」「おやすみなさい」「おやすみなさい……です」と言い馬車に向かって歩いて行った。
「おう、おやすみ」
「おやすみ、また明日な」
「……コウ様、何かあったら遠慮せず来てくださいね!」
リーゼは最後に、馬車に入ろうとする前に俺の方を向いてそう言ってきたのだ。
「わかったわかった」
「本当ですね! 絶対ですからね!! では、おやすみなさいませ」
3人が馬車に入ったのを見届けると直後、ラウルさんに話しかけられた。
「ははっ、信用されてねぇんだな」
「そんなこと、……ないと思うんですけどね」
「でも慕われてんだな」
「……はい」
「……んじゃ、オレは寝るから後は頼んだぞ」
「任せてください。昼寝した分頑張りますよ」
「おお、頼もしい事で。危険だと思ったらオレを起こしても良いからな。これでも少しは戦える。どうせコウはあの子たちを起こす気はないんだろ?」
「ま、まぁ魔物が沢山来なければ起こさないですね」
「なるほど、リーゼの気持ちが少しはわかるな」
うん? なにがわかったのだろうか。俺にはさっぱりわからないんですけど。
「じゃ本当に寝るな。おやすみ」
「あっ……おやすみです」
何がどうわかったのか教えてくれないんですね。
「……うぅっ、風が冷たいな」
まだ夏とはいえ夜は冷えた。焚き火にあたっているので温かくて良いのだが、時折吹く風が冷たいのだ。
俺はフード付きローブをボックスから取り出し防具の上からフードは被らずに着る。
服1枚の差だが保温効果は得れたと思える。
寝すぎたおかげか眠たくはならないし、俺は焚き火の番をしながら夜が何事もなく明けるのを待つのだった。




