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ダンジョン内で使ったルナの魔法を氷から雷撃に変更しました。

 

 8月9日 0時32分


「お嬢様! お逃げになってください!!」


 なかなか寝付けづにベッドで転がっていたら、いきなりドアが開いて同時に声が聞こえた。


「な、なによユリーナ。部屋に入るときはノックぐら……」


「早く!!」


 ユリーナは私の言葉を遮り急かす。いつもなら、この時間に起きていたら怒ってくるのに。


「だ、だからどうしたのよ? 落ち着いて」


「落ち着いてなんていられません! 早く逃げないとお嬢様が」


 ユリーナがここまで慌てるのは珍しい。普段の彼女は冷静な方なのだから。

 昔から面倒を見てくれている一番の側近で、一番の友人だと私は思っている。

 その一番の友人が、どうしたことか私に逃げろと言っている。


「何があったの? 説明してくれなきゃ私は動かないわ」


「わ、わかりました。簡単に説明しますから、聞いたらすぐお逃げになってくださいよ」


 ユリーナは私の性格を知っている。だからこそ話さないと動いてくれないと思ったのだろう。


「……お嬢様は売られました」


 ユリーナは言いにくそうに、しかし真剣な眼差しでそう言ったのだった。



 ----



 起きて時間を確認。


『163年8月10日 9時06分55秒』


 まあまあの時間に起きれたな。

 隣のベッドを見ると、ルナはまだ寝ていた。

 俺は顔を洗いに洗面所に行く。それから部屋を出て食堂に。


「おはようございます」


「あ、おはようございます」


 宿の女将さんはもう働いていた。


「ご飯ですか?」


「はい。お願いしようと思って」


「あと盛り付けだけですから、待っていてもらえます?」


「そうなんですか。もう1人呼んできます」


 頼んでから作るのかと思っていたら、もう作ってくれていたみたいだ。


「はい、テーブルに置いておきますね」


「ありがとうございます」


 俺は三階まで駆け上がり、ルナを起こす。


「ふにゃ。コウにゃん、おはよう」


 ルナは寝ぼけていたり驚いたりすると語尾に「にゃ」がつくみたいだ。

 ……不意打ちはやめてほしい。


「起きろー。ご飯が冷めちまうぞ」


「にゃ~……」


 お金は払っているが、せっかく作ってもらったんだ。温かいうちに食べたい。

 寝ぼけているルナを引きずりながら一階の食堂まで行く。

 2人分のご飯が置いてあるテーブルに着き、食べ始めた。

 ルナは未だ寝ぼけまなこだ。


 ご飯を食べ終わるころにはルナは完全に目覚めたようだ。


「んじゃ、取り敢えずギルド行くか」


「うん!」


 食器を返却して宿を出た。


「道、わかるか?」


「うん。大丈夫」


 これはもう迷わなくて済むかもしれない。

 ルナの方向感覚は凄いな。初めて来た街で、1回通るだけで道を覚えてしまうとは。

 俺だって数回通れば覚えれる。決して方向音痴ではない。初めて通る道だから迷うのであるよ。


「そういえば、ルナは登録したばかりだからGランクだよな」


「うん?」


「Gランクだと討伐依頼は受けられないんだよ。説明聞いてなかったのか?」


「うん! 全然!」


 ……良い返事だ。長い話なのは認めるが、全然聞いてないとは。

 ルナの実力だと、採取依頼をやるよりダンジョン攻略で上げた方がいいかもしれないな。


「地道に採取してランク上げるのと、ダンジョンに入ってランク上げるのとどっちがいい? ちなみに俺は前者で、1ヶ月くらいかかってランクを上げたぞ」


「ダンジョンがいい」


 そうだよな。実力があれば俺もダンジョンが良かったと思っている。ダンジョンはランク関係なし、冒険者も関係なしに入れるのだから。

 ……これってパワーレベリングと一緒か? でもCランクから上に上がるのは難しいって聞いているし、最初だけできる技かな。

 でも、実力がないとランク上げて依頼受けても返り討ちにあいそうだし……流行らないな。

 よし、ダンジョンの場所を聞こう。

 ギルドに向かっている途中で、俺はそう考えた。


 ギルドに近づくにつれて、宿屋が増えているのに気づく。

 昨日は迷ったせいで、ギルドに着いたのが嬉しくなり、周りを見ていなかったから気づかなかったな。こんなに宿があったとは。これじゃあ遠くに泊まる必要ないよな。


 ルナの案内でギルドに着き、中に入ると話しかけられた。


「おー、昨日はありがとね」


 うん? 何のことだろう?


「えーっと……」


「あ、覚えてない? 昨日宿を進めたんだけど……」


 話しかけて来た人がおずおずと言ってくる。

 昨日の受付の人か!


「あ、すみません。昨日はありがとうございました」


「いえいえ。本当に泊まってくれたって聞いたからさ、僕も嬉しくてね」


「良い宿ですよ。あそこ気に入りました」


「本当かい!? 良かった!」


 この人、自分の事のように喜んでいるな。


「あの、何でそんなに喜んで……?」


「え? ああ、あの宿、僕の妻がやってるからさ」


「そうな……えっ!」


「あはは。驚くよね。私的なおすすめをしていたというわけさ。だから嬉しくてね」


 彼は恥ずかしそうに言った。

 そういうことだったのか。まあ、気に入ったから良いのだけれど。


「そうそう。うちの嫁も驚いていたよ。1ヶ月分を一括で払うなんて。とね」


「それはいいんですよ。長期滞在するかもしれないですし。それより、宿の手伝いはしなくても大丈夫なんですか?」


「本業はもちろん宿だよ。でも、この時期は人が少なくてねバイトとして受付の仕事をしてるってわけ」


 小さい声で、「でも、泊まってくれてるし今年はもうやらなくてもいいのかな……」と呟いていたが、俺はそれを無視して話しかけた。


「そうだ、俺はこの辺りのダンジョンを聞きに来たんでした」


「お、ごめん。僕の事なんて聞いても面白くなかったよね」


 ははは、と笑ったあと俺の質問に答えてくれた。


「えっと、この辺りには3つあるよ。そして遠くにもいくつかある。中級が2つと初級が1つだね。遠くにあるのはほとんど上級だよ」


「……中級について教えてください」


 ルナは強いし中級でも大丈夫だろう。


「1つ目はアーントという魔物の巣窟となっているダンジョンだよ」


「アーント?」


「そう、見たことないかな? 1体1体は弱いんだけどチームワークが良くてね、ダンジョン内でも数体で動いてることが多いから注意が必要だよ。このダンジョンは最下層が20だね」


「もう1つは?」


「もう1個の方は、15層まである王道ダンジョンと言ってもいいダンジョンだよ。冒険者も結構出入りしている。魔物はコボルトやゴブリン、バッドかな。ダンジョン内の魔物はそれほどでもないけどボスが厄介なんだ」


「そんなに強いんですか?」


「僕は戦わないから知らないけど、聞いた話だと空は飛ぶし魔法も少し使って来るらしい」


 魔法を使う魔物……やっぱりいるのか。


「どんな名前ですか?」


「ハーピーという名だよ。こいつが2体待ち構えている」


 ハーピーというとあれか、鳥と人が合成した感じの奴か?


「そうですか」


「君たちは2人パーティだよね? だったらハーピーがいる方のダンジョンの方が安全かもしれない。アーントダンジョンは4人以上が望ましいんだ」


「ついでに初級も聞いていいですか?」


「もちろんだよ。初級はコボルトとバッドがいて、ボスはオークだよ。階層は2層となってる」


 2層で終わりか……初級は行かなくていいか。中級にしよう。


「ハーピーのダンジョンまでの道教えてくれませんか」


「……ところで、昨日冒険者になったばかりの方もいるけど大丈夫なのかい?」


 心配してくれているのだろう。だけどルナは強いから大丈夫。

 そう受付の人に伝えると、気をつけるんよ。と言ってくれた。止められるかとも思ったがそれはなかった。多分そういう事は自己責任なのだろう。


「あと、ダンジョン内ボスまでの地図売ってるけど、どうだい?」


 有料なのか。おじさんはくれたのに……。


「おいくらで?」


「銀貨2枚だよ」


 買うべきか……でも、今はボス攻略というより力試しとか一緒に戦う練習をしたいからまだいいかな。ボス倒さなくてもランク上がるし。


「あとで買うかもしれないです」


「そうかい? 残念。ダンジョンまでの道はね――――」


 道を教えてもらいギルドを後にする。



 西にあると言われ、俺たちは歩いて行く。西方面は街を出てからすぐ山道となっていた。

 歩いていると、他の冒険者とすれ違うからダンジョンは結構人がいそうだな。


「ルナー、こっちでいいんだよね」


 分かれ道の右を差して聞く。


「そうだよ」


 案内はルナ任せでございます。


「あ、コウちゃん行き過ぎ。こっちだと思う」


 そう言い、ルナはけもの道に入って行く。


「そ、そういえば、途中でけもの道に入るって言ってたもんな」


 そんな言い訳をして俺も続く。


「そうだよー。まっすぐ行くと初級ダンジョンに着くって言ってたじゃん」


 ルナにそんなことを言われながら進むと、切り立った崖が見え、洞穴を発見した。


「ここがダンジョンの入口だね」


 ダンジョンの周りには休憩してるのか、座っている人や話し合っている人がちらほらと見える。


「……行くか!」


「うん!」


 ここで、少しでも活躍してルナに見直させよう。道は分からなくとも戦える。そう思ってもらおう。と俺は甘い考えを持っていた。




「…………」


 俺は今、敵が燃え尽きるのを見ている。

 なぜかだって? そりゃルナさんが一撃で葬ってしまうからさ。




 ダンジョンに入り最初に遭遇した魔物はコボルト1体だった。

 コボルトを見つけ、「俺が切り込むから援護を」と言おうとした矢先の出来事だ。

 ルナが無詠唱で火の魔法を放ったのだ。

 コボルトは燃え尽き消えた。

 1体だったからだと俺は思い、先に進んだ。

 次はバッド2体コボルト1体が現れた。バッドはコウモリのような魔物だった。

 飛んでいるバッドをルナに任せ、俺はコボルトに突撃する。

 コボルトはもう余裕だ。それ以上の恐怖と戦ったからな。

 俺はコボルトに斬りかかると、いつも通り避けられる。だが、そんなことは気にしない。コボルトは俺の攻撃を避けて、俺に隙ができたとでも思ったのだろう、俺に向かって攻撃しようと突っ込んでくる。

 その攻撃を俺は華麗にかわす。そして斬り裂こうと剣を振るう。

 その瞬間。

 コボルトに雷撃が当たり消滅。

 ルナがバッドを倒してから援護してくれたみたいだ。

 ま、まぁこんなこともあるだろう。


 ダンジョン探索再開。

 少ししてゴブリン3体と遭遇。

 3体が同時に俺たちの方に向かってくる。

 俺は足止めをと思い3体に突撃。


「っ!?」


 横から熱気を受ける。


「…………」


 俺は今、敵が燃え尽きるのを見ている。

 ゴブリン3体が近くにいたせいか、ルナが強いせいか一気に3体とも燃えてしまった。


「……俺の出番がない!!」


「うにゃ!?」


 いきなり叫んだせいかルナが驚く。


「ルナさん、俺にも活躍の場を……」


「コウちゃんは活躍したいの?」


「もちろん。それに何もやらないと腕が鈍っちゃう」


「わかった。1体は残すようにする」


「ありがとう。で、でも俺がピンチそうだったら助けてね?」


「……わかった」


 そ、そんな冷たい目で見ないでくれ。


 またまたダンジョン探索を再開。

 少し進むと辺りが明るくなった。


「なんだ?」


「うん?」


 周りを見る。周りも同じくらい明るい。

 これは……!


「誰かがボスを倒したみたいだな」


「そうなの?」


「うん。ボスを倒すとダンジョン内が普段より明るくなるって言ってたし、実際に見たことあるからな」


「へぇー。だから何も……」


「うん?」


 後半ルナの言葉が聞き取れなかった。


「何でもないよー」


「そうか……。この状態だと、倒しても魔物が復活しないからダンジョン探索にはもってこいなんだが……」


 こんな低い層じゃもうアイテムなんて見つかりそうもないしな。


「どうしたの?」


 話を途中で切ったから、どうしたのかとルナに聞かれた。


「ん? これからどうしようかなと考えててさ」


 今日は帰って明日の朝早くに来れば結構下まで行けて、更に敵もいないではないか!

 日時魔法発動!


『163年8月10日 13時47分11秒』


「今日は帰ろっか」


 時間を覚え帰ることにする。


「は~い」


「帰りにまたギルド寄って行ってもいい?」


「おっけー」


 ダンジョンから抜け出し街に戻る。



 ----



 何事もなく街に到着。

 ギルドはこの大通りを一直線に行けば着いたはずだ。


「ルナって相当魔力ある?」


 歩いている途中俺は聞いてみた。

 無詠唱でバンバン使っていたのだもの、気になってしょうがない。


「うん。そこらの魔法使いには負けないよ!」


 プライドの高い魔法使いが聞いたら逆上しそうな言葉を簡単に使うなんて……。


「それは頼りになる。明日深くまで潜ろうと思うから頼んだよ」


「……潜る?」


「ダンジョンの下の層にいくってこと……だよ?」


 あれ? 普通に使ってたけどこの世界ではそう言わないのかな?


「へー、そうなんだ」


 まあいいか。


「だからさ、魔力が半分になったら教えてね」


「なんでー?」


「帰りもあるからだよ。ルナが頼りだって言ったじゃん」


「そっかー。えへへ」


 耳をピコっとさせながら笑うルナ。俺も癒されます。

 これが母性本能なのか……?

 しかし俺は男だ。この感じは何なのだ? 守りたくなるこの笑顔。


 正体不明の感情を抱いていたらギルドに着いていた。


「あら? お帰り。早かったね」


 依頼の張替えをしている人に話しかけられる。朝の受付の人だ。


「ボスが倒されちゃったからね」


「ならダンジョン探索してくればいいのに」


「上の層じゃもうアイテムなんてないでしょ」


「そうかもしれないね……フレンドリーな話し方になったじゃん。僕は気にしないからその喋り方でいいよ」


 ……そういえば敬語じゃなかったな。あの感情のせいで何も考えていなかった。


「わかった。気軽にいかせてもらう」


「おっ、そう来たか。てっきり敬語に直すと思ったんだけどな」


「敬語の方がいいですか?」


「いや、何でもいいよ。僕はそういうのは気にしない方だから。たまに年上を敬えとか言って、尊敬もできないのに敬語を使わせようとする人がいるけどね」


 苦笑しながらそんなことを教えてくれた。


「そうなんだ……」


「それで、何しに来たの?」


 目的を忘れていた。


「地図を買いに、あとアイテムの換金を」


「はい、まず地図ね。銀貨2枚となります」


 お金を渡す。

 受付に戻り地図を貰う。


「まいどー。結局買うんだね」


「う、うるせー」


 正直、朝いらないと言っておいて同じ日に来て買うのは恥ずかしかった。


「ははは。あとアイテムね」


「これだ、今日出たバッドの羽やら今まで溜めてた物」


 そう言っても数個しかないが。それを机に出す。


「ちょっと待っててねー」


 そう言うと裏に入ってしまう。


「ごめんな、ルナ。暇でしょ? ギルドの中ふらふらしててもいいよ。問題を起こさなければ」


「うん」


 ……ルナは依頼ボードに行ってしまった。気になってたのかな?


「おまたせー。凄いじゃないか!」


「うん?」


「このアイテムどこで手に入れた?」


 小声で話しかけてくる。


「どこって、スライム倒してですけど……」


「本当かい?」


「ええ」


「ギルドカードを貸してくれ」


「なんで?」


「ランク上がっていると思う。こいつはスライム特異個体からしか出ない幻と言ってもいいかもしれないアイテムだ。ギルドで売るよりオークションで売った方がいい」


 ドロップアイテムが複数ある魔物もいることは知っていた。スライムの特異個体もそうらしいのだ。その中で滅多に出ないアイテムがこれらしい。

 ギルドカードを渡すとEランクになっていた。

 俺が倒したわけじゃないんだけどな……。


「9月1日に大きなオークション会がウェルシリアで行われるんだ。これは5大都市で毎年同じ日にやっている。そこでこれを出品すると大金持ちになれるぞ。質素に暮らすなら一生暮らせるかもしれない大金だ」


「そ、そんなに!」


 例えが何か貧乏チックだが、相当な大金ということはわかる。オークション会があるという事にも驚きだが。


「ああ。これで作る装備は何かしらの良いスキルがつくと言われている。これで武器を作ってもらうのもありだよ。冒険者には良い装備が必要だからね」


 そういう考えもあるのか。


「教えてくれてありがとう。考えとくよ」


「そうしな。それを売って違う素材を買い、装備造りもできるし夢が広がるってもんだ」


 アイテムを受け取る。


「他のは換金していいよな」


「珍しいのがなければ」


「なかったよ。安いのばっかだ」


 お金の袋を俺に渡す。


「銅貨84枚だ」


 ……本当に少ないな。ありがたく頂くけどね。


「じゃ、俺はこれで」


「うん、また」


 ルナを探すため辺りを見るとまだ依頼を見ていた。


「ルナー、終わったぞー。何か面白い依頼でも見つけたか?」


「ううん、特にないかな。あっ、この依頼は報酬高いよ」


 逃げ出した少女を捕まえてほしい 金貨1枚


 依頼はそう書いてあった。

 ……また金貨1枚か。

 似顔絵と特徴も載っていた。

 髪色がブロンドで肩より少し長い。年齢は15歳だそうだ。

 絵が下手だと思う……。こんなんじゃ見つからないぞ。


「こんな絵じゃ見つからないよね」


 ルナはそう言う。

 俺と同じことを思っていたようだ。


「そうだよな」


 誰でも受けられる依頼だから探している人はいそうだけどな。俺も気にはしておくか。

 そう考え、2人で帰路に着いた。



 泊まっている宿は大通りから少し離れている。

 俺たちは脇道に入りもうすぐ宿に着くというところだった。


「ルナ、こっちでいいんだよな」


「そうだよ~」


「俺も道覚えて、うおっ!?」


 ドン

 角を曲がろうとしたら人とぶつかってしまった。

 俺は尻餅をついた。


「いてて」


「コウちゃん、だいじょぶ?」


「ああ」


 立ち上がりぶつかった人に謝る。


「す、すみません。大丈夫ですか?」


 相手も俺と同様に尻餅をついていた。

 ぶつかった相手は、ローブを着て顔もローブについているフードを深くかぶり隠しているが、薄茶色っぽい髪の毛が見える。更に俺を見上げたとき、ちらっと顔も見えた。

 ……一瞬だったが綺麗な顔をしていたな。

 俺は手を差し伸べて起こしてあげようとした。

 彼女は俺に手を伸ばして来る。


「あっ……」


 彼女はぼそっと口を動かすと、伸ばしてきた手が途中で止まった。そして、急に首を動かし辺りを確認し、フードを深くかぶり直して走り去ってしまった。


「…………」


 俺はこの手をどうしたらいいのだろう……。


「あの人、どうしたんだろね。あれ? コウちゃーん。おーい」


 その場に固まった俺を呼んでいる声がした。


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