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012

 

 村の兵士2人の案内で、森の入口まで来ていた。

 イーガルの北の森より暗い感じがする。あっちより木が多いせいなのか。


「気を引き締めて行きましょう」


 剣士がそう言い森に入って行く。

 俺もそれに続く。

 あてもなく適当に森をさまよい、探すこと約1時間。


 俺たちは、スライム数体と出会っただけだった。


 スライムは魔法が弱点だそうだ。体の中に小さい丸いものが動いており、それがスライムのコア、心臓部分だ。それを壊すか、スライムを再生できないというほど細かくしない限り、再生するらしい。少しずつ斬り刻み、スライムの体を小さくしていくよりも魔法でコアを一撃で壊した方が簡単という訳だ。


 俺には不利な魔物だな……。しかも、スライム強くないか? この世界では雑魚キャラではないみたいだ。


 村の兵士の1人、ローブを着ている人は魔法使いなので、俺ともう1人の剣士がスライムを引きつけ、コア破壊は魔法使いに任せている。とどめをさせなくても魔法を受けるとスライムの体が飛び散るので、再生する前にコアを剣で壊せばいい。出来なければ、もう一度魔法をお願いすればいいだろう。


「スライム以外、何もいないみたいですね。と言うか、木を切り行くとき危ないんじゃないですか?」


 俺は、兵士2人に話しかける。


「スライムが、ですか?」


「そうです。この森に結構いるじゃないですか」


「大丈夫ですよ。木を切りに行くときは、魔法使いが1人以上同行していますから」


「と言っても、今魔法使いの人たちが帰って来ないから、人が足りなくなってしまっているんですけどね。あいつらどこで油を売っているのやら」


 魔法使いの言葉に剣士が付け足す。やっぱり心配だよな。死んでいるとも考えたくないだろうし……。

 そう考えていると、ガサガサと突然後方から不自然な草の揺れる音が聞こえた。


「っ!? 誰だ!!」


 魔法使いは叫んだ。


「ニャー」


「「「…………」」」


 俺と一緒にいた薄紫色の猫だった。

 どうやら、ついて来てしまったようだ。


「ニャーニャー」


 猫はそう鳴くと、草むらに入っていった。


「ネコ! 待て」


 俺は猫を追いかけた。


「冒険者さん!?」


「ちょっと!」


 兵士2人は俺を呼び止めていたが、気にせず猫を追いかけた。


「ニャ~」


 猫に追いつくと、あっちを見ろと言わんばかりの行動を取っていた。


「冒険者さん、ネコなんていいじゃないですか」


「一旦帰りましょうって……!!」


 魔法使いは固まっていた。


「おい、どうした?」


 剣士も魔法使いが見ていた方を見る。

 俺もそちらを見た。猫が指していた方向だ。


「……ま、マジかよ」


 赤くでかいスライムがそこにはいた。

 スライムの色は魔法耐性のある色となるらしい。例えば、緑のスライムは風魔法に強く、青は水魔法に強い。

 前にいるスライムは赤だ。と言うことは、火の魔法に強いということになる。他の属性の魔法は全部効くみたいだ。


「風よ。我が呼び声に答え、敵を吹き飛ばせ! ――エアカッター!!」


 魔法使いはいきなり、作戦も何も立てずに攻撃を放ってしまった。


「バカッ!」


 俺は小さく呟く。

 普通のスライムを倒してきた魔法だが、何倍もでかいスライムには効かない。ゼリー状の体を少し抉り取るが、それだけだった。


「何で攻撃し――」


 後ろを向くと兵士の2人はもういなかった。


「……へっ?」


 間抜けな声が戦場になり得る場所で木霊した。



 ----



 何で、またこういうことになるんだよ!!

 兵士2人はいきなり消え、俺はスライムと戦う羽目になる。


 スライムを斬っては離れてを繰り返している。

 斬ってもすぐ再生を繰り返される。

 何分経ったのだろうか。時間がわからないが、相当な時間粘っている気もするし、全然経っていないような気もする。


 ……埒が明かない。

 逃げようと下がるが、スライムは体の一部分を伸ばして触手のように使い、俺を捕まえようとしてくる。

 体が大きいからこんなことができるのか! どうする? どうすれば逃げ切れる!?


 今回、フェルはいない。助けてくれそうな人もいない。自分の力でこの状況から抜け出さなくてはいけない。

 もう戦っても勝てないとは悟っている。逃げようと策を考えるが、なにも思いつかない。


 体を触手みたいにして、攻撃してくるスライム。その触手を斬りながら、一歩後ろに下がる俺。


 また一歩下がる。横にあの猫がいることに俺は気づいた。


「なっ! 逃げてなかったのか!!」


「ンニャ!」


 のんきに声をあげている。


「ネコ、逃げろ。死ぬぞ!」


 そう言うが、猫は何故か俺の前に出てきた。


「バカ野郎!!」


 猫を捕まえようと、前に出る。襲いかかってくる触手を斬りながら。


「あっ!? しまった!!」


 猫に手を伸ばしたその手をスライムに取られてしまった。

 2本目の触手に反対の手も捕まり、剣を振るえなくなる。


「くそっ、はなせっ!」


 体を動かし、抵抗するが引きずられる。

 猫を跨いでどんどんスライムに近づいて行く。

 手も触手から送られてくるスライムの体のせいで、腕全体を捕らえられていた。

 そして、スライム本体の前まで来させられると、そのままスライムに呑み込まれていく。


 くっ。


「ボコ」


 しゃべろうとするとスライムの体が俺の口に入ってくる。

 俺は完全にスライムの中だ。体を動かしても、この中からは出れない。泳ぐようにしても移動ができないのだ。


 どうする俺。やばいぞ。息もできない……今回こそ終わったか……。

 いや、何か方法があるかもしれない、考えろ、考えるんだ。


 ボンッ!


 いきなり良い音がした。

 ん!?

 音がした方、さっきまで自分がいた方を見る。すると、猫がいた所に煙が上がった。

 なんだ!?

 俺は猫がいた場所、煙が上がっている場所をじっと見る。

 煙が晴れてきた。


 ――そこにいたのは、小さい女の子だった。

 薄紫色の髪の毛、そして、頭に2つの耳。服装もオーバーオールみたいな感じのを履いていて、上は俺の防具と似たような軽めの装備だった。その恰好は可愛らしい。オーバーオールに尻尾用の穴があいているみたいで、尾てい骨辺りから出ている髪の色と同じ尻尾……。

 耳と尻尾!?


「ボコボコ」


 なんだ! 誰なんだ?

 耳と尻尾がある女の子は、俺を見て笑顔を向けると右手を前にだす。拳銃みたいにして、スライムに向けた。


 次の瞬間、その指から何かが出てスライムのコアを撃ち抜いた。

 体の中で時折動いているスライムのコアを、一撃でだ。


 スライムは粒子となり消え、中にいた俺はその場に崩れ落ちた。


「ごっほ、ごほっ」


「大丈夫?」


 女の子は俺にそう言った。


「な、なんとか……助けてくれてありがとう」


「んーん。美味しいご飯貰ったりしたからね。気にしないで」


 ご飯?

 俺がご飯をあげたのは、この村に来てからはあの猫だけだぞ。


「もしかして、君は……」


「あっ! わかった? そう、あたしはルナ。獣人だよ!」


 ドドーン。と効果音が聞こえた気がした……。

 あの猫なのか? と聞こうとしたら名前を教えてくれたよ。獣人かぁ。初めて見たな……猫耳、良いな……尻尾も……。はっ!

 いかんいかん。命の恩人に対して俺は何を考えてるんだ。


「えっと、俺はコウって言うんだ。ルナ、ほんとにありがとう」


「気にしないでいいってば。これ、あのスライムが落としたよ」


 はい、とルナは渡してくる。


「倒したのルナなんだから、それはルナの物だよ。それに、このスライムが特異種だったら高く売れるよ」


 ルナは少し考えた様子だ。


「あたしは要らないからあげる」


 屈託のない笑みでルナは言う。


「そ、そう? そう言うなら……」


 俺はそれを貰うことにした。



 ----



 村に戻る。

 ルナが道を教えてくれたので難なく帰れた。

 ルナには猫の姿になってもらっている。獣人だとばれると、めんどいことになりそうだからな。


「疲れたな」


「ニャ!」


 猫の姿だと人語は喋れないらしい。人語じゃなければ俺も理解はできない。

 そのまま村長の家に向かう。


「すいませーん」


 おばあちゃんがいつものように開けてくれた。


「あら! ……冒険者さん」


 その様子は驚いたようであった。


「……どうぞこちらへ」


 俺は応接室へと通される。ルナには外で待っててもらう。


「なっ!?」


 応接室に入ると、いきなり消えた兵士2人が村長と話していた。

 最初から原因を見つけて冒険者を囮にして戻ってこい、とでも言われていたのか? 調査で金貨1枚は太っ腹だと思っていたんだ。俺が死ねば報酬は払わなくてもいいもんな。

 俺の中に黒い感情が……。


「あっ、冒険者さん……」


 剣士の人が俺に気づく。

 そういえば、この人たちの名前も知らないな。俺の名前も教えてないし。やっぱり最初から……。


「村長、人がいなくなる原因と思われるスライムは倒してきました。なので、報酬を頂きたい。倒したのだから金貨1枚と+αでお願いする」


 俺は苛立ったまま言う。


「よ、よくぞ帰って来てくれた冒険者さん。ち、ちゅぅ、ちょっとまま待っておくれ」


 村長、何か焦っているな。後半ちゃんと喋れてないぞ。兵士2人も驚いた顔をしているし。


「村長、どうしたんですか? 焦っているみたいですが」


「そんなことはないぞ? 冒険者さんがこの2人を逃がして、1人残ったという話を聞いていたから驚いてるだけだわい」


「俺は逃がしていませんよ? 2人は気づいたらいなくなってました。……村長が俺を囮にして調査しろとでも言ったんじゃないですか?」


 距離を詰め、俺は腰にある短剣を抜き村長に突きつける。


「ひぃ!」


「動くな!」


 村長の体を押さえ、首元に短剣を突きつける。そして、戦闘態勢に入ろうとした兵士2人に言う。


「動くと村長が死ぬぞ」


「くっ」


「卑怯者め」


 2人は攻撃するのを諦めたようだ。


「卑怯者……だと……。お前らの方が卑怯じゃないか! 俺を囮にして、死んだら報酬は払わなくてもいいから報酬額を高くしやがって。お前ら、原因知ってたろ!!」


「……そうじゃ。知っておったわい」


 村長は体の力を抜き、語りだした。諦めがついたのだろうか。


「森に行った人たちが帰ってこないということで、最初、若者数名が調査に行ったのだ。だが、帰って来たのは1人だけじゃった。どうしたのか聞くが、スライムが、スライムが。としか言わない。最近、特異種が多いと聞いていたから、もしかしてと思ったのだわい。ギルドに依頼を出したいが、帰って来た若者じゃ話にならない。特異種討伐の依頼は、特異種を見て、見た人が申請しなければギルドからの討伐報酬が出ないのじゃ。その時、丁度おぬしが来た。そこで、今の作戦を思いついたという訳なのじゃ」


「……話はわかった。しかし、俺は許さないぞ。そうならそうと言えばいいだろうに、何故そうしなかった?」


「特異種がいるかもしれないなんて言ったら、普通の冒険者は行かないと言い出すからに決まっておろうが。もう、村人を失いたくなかったんじゃ!」


 村長も村を守ろうと考えて行動していたのか……でも、それはそれだ。


「俺、これから都市に行こうと思ってるんですよね」


「そ、それがなんじゃ?」


「村長ならわかるんじゃないですか? 都市に行く前にも1つ街がありますよね。そこで俺がこの村の人は平気で村の外から来る人を騙し、時には殺そうとまですると言いふらしたら……」


 この村は信用がなくなるわけだ。取引してくれるところも減る。もしくは無くなるのではないだろうか。


「そそ、それは……」


 村長は声が引きつっている。


「なら、わかりますよね」


 俺は短剣をしまい、村長を開放する。


「ま、待っていておくれ」


 村長は、兵士2人に何か言い、慌てた様子で部屋から出て行った。


「卑怯だぞ! あんなの脅しじゃないか!」


 剣士が言う。魔法使いはさっきから黙ったままだった。


「そうだぞ。さっき俺が卑怯者と言われて否定したか? それに俺は死にかけたんだ。それくらい良いだろ……なんならお前たちもあの状況を味わってみるか? あの森からこの村まで俺がスライム大量に連れてきてあげよう。特異個体までは強くないが、周りを見なきゃいけないのは大変だからな」


 後半、ドスの利いた声で言う。


「うっ」


 剣士はそれ以降黙り込んでしまった。


「冒険者さん、これで手を打ってはくれないだろうか」


 村長が戻って俺に袋を渡して言う。

 俺は中身をさっと確認した。


「……いいだろう。明日にはこの村を出る。もう俺に関わらないでくれ」


 そう言い、村長宅を後にした。


「待たせたな」


「ニャー」


 俺はルナと宿に向かおうと歩きだした。


「――――」


 後ろで何か聞こえた。

 ルナはいきなり人型となり、後ろを向いて手を前に出した。


 村長の家の前には魔法使いが立っていた。


 ……俺たちと魔法使いの間で、凄まじい風の音が聞こえるのだが。


 そんなことを思っていると、魔法使いが独りでに吹き飛び、村長の家のドアを壊して家の中まで転がっていくのが見えた。


「…………」


 ルナはもう猫に戻っている。


「俺、襲われかけた?」


「ニァ~」


「守ってくれたの?」


「ニャ~」


 ルナは肯定しているような返事をする。

 すぐに猫にならなくても……まぁ、俺が村にいるときは猫になっててとは言ったけどさ。


「……ありがとう」


 ルナにお礼を言い、今度こそ宿に向かう。



 ----



 宿に帰って来た。

 泊まるのを明日まで延長して部屋に戻る。

 部屋に戻ってから村長から貰った物をしっかりとチェックする。


「18、19、20……20枚もある」


「ニャ?」


 ルナは首をかしげている。


「いや、報酬金貨1枚から20枚になって驚いたんだ」


 こんなに貰えているとは。最初から俺に頼まないでギルドに依頼した方が良かったのではないか?

 気にしても仕方ないな。貰った物は俺の物だ。

 ……魔物はルナが倒したんだよな。


「ルナ、ちょっといいか?」


「ニャ?」


「えーっと……人型になってくれないか?」


 すると、体が光ってすぐに猫耳少女になる。

 そういえば、初めて変身を見た時は煙が舞ってなかったか?


「あれは演出だよ」


 聞くと、そう言ってのけやがった。なんというエンターテイナーだろうか……。

 まぁいい。気にせずに行こう。


「その変身も魔法なのか?」


「そうだよ。この魔法はね、獣人しか使えないんだよ!」


 変身の魔法は、体の獣の部分と同じ動物になることしかできず、しかも覚えるのは難しいらしい。魔力が普通に生活していく人では足りないそうだ。使えても、獣の部分が弱かったりしたら戦力にもならないので、需要もあまりなく、今や覚える人が減り、この魔法を知らない獣人も多いんだよ。とルナは教えてくれた。


「へぇー。じゃあルナは魔法使いなんだ」


「え! どうしてわかったの!!」


 ……本気で驚いているようだった。


「俺がスライムに襲われているとき助けてくれた技も、村長の家にあの魔法使いをぶっ飛ばしたのもルナでしょ? あの時は助かったよ。改めてありがとう」


「コウちゃんから貰ったご飯、美味しかったからね。そのお礼。あと、あたしを大事にしてくれたし」


 屈託のない笑みを浮かべてルナは言う。

 コウちゃんって……いいけどさ。


「そうか」


 俺はルナの頭をなでた。

 ハンナとカレンよりは少し身長が高い。12、3歳くらいだろうか? 成長真っ盛りだな。

 頭もなでやすい位置だったのだ。ついなでてしまった。


「ご、ごめんね。つ、つい」


 これはもう癖になってるな。


「いいよ。はい」


 そう言って、猫耳もとい頭を向けてくる。

 俺は遠慮なく猫耳を堪能させてもらいました。良いね。柔らかいし、ふにふにしてるし。

 尻尾も触ってみたかったがそこは堪えることにした……。


「猫なのに語尾に、ニャ。とかつけないの」


 何となく聞いてみた。


「ん? コウちゃんは、この喋り方の方がいいのかにゃ?」


「…………」


「コウにゃん?」


「…………」


「おーい。大丈夫かにゃ~」


 グハッ!?

 コ、コウにゃんだと!! 何という破壊力だ……本物は最強だな。


「る、ルナ、やっぱり楽な喋り方でいいぞ」


「そう? じゃあ戻すね」


 そうだ! 俺が言いたいのは報酬のことだった。話がそれてしまった。


「村長から貰った報酬なんだけど……」


「報酬?」


「そう、さっき言った時、貰ったんだ。金貨20枚も」


「へー、そうなんだ」


「だから、ルナと分けようと思ってさ」


「お金は要らないよ」


 金貨を10枚を渡そうとすると、そう言われた。


「え?」


「あたし、お金は要らない。食べ物なら欲しい!」


 そう言って、結局ルナは報酬を受け取らなかった。

 本人がいいなら良いんだけど……。何かあったら俺が出せばいいか。


「あっ、ご飯、まだだったよな」


 最後の2個となるノナンさん弁当を出す。


「これが最後だから、味わって食べるように」


 そう言って、ルナに1つお弁当を渡す。


「わー、ありがとう!」


 さっきと違い、喜んで受け取ってくれた。

 そういえば、猫って食べたら体に悪いものとかあったよな……。

 お弁当を美味しそうに食べているけど大丈夫かな。


「ルナって嫌いな食べ物とかある?」


「うにゃ? 特にないよ」


 獣人だし世界が違うから大丈夫なのかな。

 疑問だか答えはわからなかった。ルナが大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。


 そうして、夜は更けていく。



 ----



「ん~……く、くるしぃ」


 俺は胸に苦しさを感じ目を覚ました。

 体が動かんぞ? 金縛りか!?

 金縛りなんて一度もなったことなかったのに。


「スピー、スピー」


「ん?」


 寝息が聞こえるぞ。俺の腹部から……。

 冷静になると、俺は手が動くことに気づいた。足も動く。


「ういしょっと」


 両手両足を使い、体を起こすことに成功した。

 ころころと横に転がる物体を見る。


「苦しさの正体はお前か!」


 その物体を指で突く。

 俺の上でルナが寝ていたのだった。


「うにゃ~。コウちゃんおはよう」


「うにゃ~じゃない、うにゃ~じゃ! 何で俺の上に乗っているんだ?」


「気持ち良かったから」


 何で聞いてくるのって顔だな……。


「気持ち良かったって、何がだ?」


「昨日、コウちゃんの上に乗って寝たら気持ちよかったの」


 いつの間に上に乗っていたんだ……。それに、


「今は猫じゃないだろ」


「そうだった!」


 てへへ。とルナは言う。


「そのせいで俺は苦しかったぞ」


「コウちゃん、ごめんね」


 ……そんなうるうるした目で見つめないでほしい。


「わ、わかった。わざとじゃなければいいよ」


 そう言うしかなかった。


「そうだ、俺は今日この村出るけど、ルナはどうするんだ?」


 目が覚めてしまったので、これからどうするかルナに聞いてみる。


「んー? 行く当てもないし、コウちゃんについて行ってもいい?」


 1人は寂しいから俺は大歓迎だ。口には出さないが。


「ルナって冒険者?」


「ちがうよー」


 登録してないのか! 強いからてっきりランク高い人かと。


「俺と来るのは全然良いんだが、俺は一応冒険者だからルナも登録してくれると嬉しい……無理にとは言わないけど」


「登録してもいいよ。あたしも、やることなくて、世界を回ってただけだから」


 ……やることないからって世界を回るのか? 凄い発想と行動力だな。


「じゃ、次の街で登録しよう」


「うん」


 俺たちは9時頃に宿を出て食料を調達し、ご飯をたらふく食べてから村を出た。


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