第四話 七聖と武闘大会
謎は残りつつもひと段落した剣崎一行。各々が思い思いに過ごす中、MAA武闘大会という催しの知らせが届く。
一体何が待ち受けているのだろうか。
初任務から数週間、俺たちはなんて事ない普通の日々を過ごしていた。ゴブリンの1件を上に報告した際、その辺の調査を2、3度依頼されたぐらいでこれといった任務もなく、各々過ごしていた。
もちろんこの数週間でみんなとの親密度は向上した。椿野は家事全般をやってくれているのだがたまに俺も手伝うようになってから仲良くなった。
神門はまだ照れが残るのか避けられ気味ではあるが、仲良くなれている。
出雲はこの中で1番俺に歳が近く、話も合うのでよく話すようになった。まあ、ド天然過ぎて会話が成立しないことが多いが。
桐生も相変わらずクールだが、少しづつ会話の端々の棘は無くなっていった。
ただ、火村に関しては、まだあまり話せていない。かなり避けられているし、他の4人に聞いても、あんな桜花は初めて見た、との事。しかも俺以外にはいつも通りなようだ。
どうしようかと悩んでいた時、司令部から1枚のチラシが届いた。
「MAA武闘大会のお知らせ?」
桐生と出雲が不思議そうに首を傾げる。俺も業務連絡の時に上官から少し聞いていたが、新しく導入されたイベントのようで、なんでも個人戦と団体戦に別れており、個人戦は各戦隊から3名、団体戦は各戦隊から3名の計6名で出場するトーナメント式の模擬戦のようなものらしい
「なるほど。隊員同士の親睦や戦力増強をはかるわけですね。」
さすがだ。理解が早い。
「でもこーくん、これ私たち人数足りなくない?」
珍しく出雲が鋭い。春なのに雪でも降るのか?
「今すっごい失礼なこと考えてない?」
バレてたか
「そんなことないって。んで、人数のことだが、どーしても参加人数が足りん場合は重複出場も許可されてるらしい。うちも、芽衣ちゃんの枠が1つ余るからな」
「芽衣が戦えないばっかりに申し訳ないです」
「だ、大丈夫。芽衣ちゃんが、き、気にすること、ない」
みんなも芽衣のフォローをする。
「では誰かが団体戦と個人戦どちらも出るのですね...剣崎さんでいいのでは?」
「そんなあっさり?!」
桐生が相変わらず冷たい。でもそんな俺を見てフフッ
と笑う。初めに比べるとだいぶ表情も柔らかくなったな。火村も、もう少し心を開いてくれたらいいんだけど。
「ということで今からエントリーをしに行く。みんなで遠出だ」
「へ?どこに?」
「決まってんだろ?《MAA》の心臓だよ」
《MAA》の司令系統としては各戦隊長から各戦隊別の司令部、各戦線の総合司令部と上に続き、最後に《MAA》の最高指揮官達が集い、組織全体を指揮する機関、中央統制司令本部、通称『MAAの心臓』だ。
「いやー久しぶりに来るとやっぱすごいな、ここ」
中央統制司令本部は《MAA》の総本山ということもあり、色々な設備が整っている。
模擬訓練場や体育館、トレーニングルーム、魔力測定器(魔力の量や適性を測る機器)、図書館に博物館、購買に、簡単な娯楽施設まで兼ね備えている。結構なんでもありな所なのだ。もちろん、そんなところに来て落ち着いていられるやつはここにいない。
「菫!見て見て!でっかい魔物の骨!何の魔物かな」
「それはサイクロプスという昔いた大型の魔物です。ってか桜花はしゃぎすぎ。」
「うわぁ!美味しそうなご飯がたくさん!どれから食べようかなぁ」
「はわわわ!図書館!...『七聖』の資料大量!」
「あ!ゲームセンターまでありますよ!」
第七戦隊の面々は今年から配属された、いわば新人だ。初めてきたのだろう。とは言え...
「もうちょい大人しくしてくれよお前ら...」
俺はもう既に疲れきっていた。
そしてやっとの事で(出雲がパフェを食べたいとだだをこねた)エントリーを済ませるべく受付に向かった。いくつも並ぶ受付のうちの1つの前に行くと、明るい茶髪のお姉さんが笑顔で丁寧な対応をする。
「皆様お疲れ様です。本日はどういったご要件でしょうか?」
「ああ、俺らは西部戦線第七戦隊の所属なんだけど、武闘大会のエントリーに来たんだがここで合ってるか?」
「はい!大会のエントリーですね。こちらが用紙になります。必要事項を記入して人数分持ってきてください」
受付嬢のお姉さんは最後まで丁寧な対応をしてくれた。すると出雲が後ろからむぅとした表情でつっついてきた。
「...出雲?どした?」
「...べっつにぃ」
さっきまであんなにご機嫌だったのに急にどうしたんだ?
そして俺たちは近くのイスに座ってエントリー用紙を書き始めた。すると不意に桐生が口を開いた。
「剣崎さん、やけに人が多いですがいつもこうなんですか?」
「いや、確かにいつもも多いがここまでじゃない。たぶん俺たちと同じ感じだろう。」
周りを見渡すと、俺たちのようにエントリーにきた隊員が大勢いるようだ。というか、これ全部隊いるんじゃないか?
とか思っていると何やら他の隊員たちの騒がしい声が聞こえてきた、
「おい、あれ見ろよ。」
「すげぇ!《不死鳥の天女》本物かよ。初めて見たぜ」
野次馬の視線の先にいたのは、燃え盛る炎のようなオレンジ色のロングの髪をたなびかせ、まるでドレスのような隊服に真っ赤なローブを身にまとい、悠々と歩く美女がいた。西部戦線第一戦隊戦隊長、《不死鳥の天女》柊朱音。大戦の英雄こと『七聖』のうちの1人だ。
「はわわわ!《不死鳥の天女》!本物初めて見た!」
うちの七聖オタクも反応してしまった。
どうしたものか。一応俺が《鮮血の桜》であることは秘密と言うほどでもないが、なるべく言わないようにしてもらっている。今となっては他の『七聖』たち程の力はないのに持ち上げられると面倒だからだ。しかしもちろん『七聖』は俺の顔と名前を知っているわけで。
「おい!あっちには《疾風雷神》がいるぞ!」
「こっちは《鉄血軍神》だ!」
おい、これ生きてる七聖は全員集まるんじゃねぇか?なんて思っていると《不死鳥の天女》こと、柊と目が合った。すると柊は大きく目を見開いたまま固まってしまった。あ、これはまずい。俺は桐生にボソッと耳打ちした
「悪い、少し外す。何かあったら連絡してくれ」
「?はい、わかりました」
少し不思議そうに頷く桐生を他所に、俺はその場を早足で離れることにした。
剣崎が立ち去ってすぐ、桐生の元に柊が近づいてきた。
「こんにちは。突然ごめんなさい。今いいかしら?」
上品な透き通った声が桐生に話しかける。
「!はい、大丈夫です。」
「ありがとう。それで、単刀直入に聞くのだけれど、先程話していた白髪の男の人とはお知り合いなのかしら?」
何を聞かれるかと身構えたがなんだそんなことか、と思いかけてハッとなる。剣崎は、なるべく自分が『七聖』であることを隠したい。そして柊はその『七聖』の1人。なるほど、そういう事か。
「まあ、顔を知っている程度ですね。さっきもお手洗いの場所を聞かれたので答えただけです。」
平静を装い、普通に答える。しかし、柊は上品そうに笑う。
「フフッ、嘘がお上手なのね。でも残念、私には通用しないわよ。」
すると柊の真紅の目が薄く光っているのに気づいた。なにかする気なのかと、警戒を強める。
「魔力が発見されてからはね、特異体質と言って、生まれつき不思議な能力を持っている者がいるの。私もその1人で、相手の感情なんかが色で見えるの。あなたからは今、嘘をついた人の色が見えた」
特異体質。原因は不明だが、生まれつき何か特殊な力を持っているという話は確かに聞いたことがあるが、何せ前例が少なすぎてまさか実在するとは思ってなかった。
「それで?どこに行ったか教えてくれるかしら?」
やはり、英雄には敵わないかと観念し、剣崎には心の中で謝罪しながら白状した。
「はぁ、なんでいるんだよ」
ため息をつきながら俺は外廊下で1人愚痴ていた。七聖は全員旧知の仲だ。もちろん仲はいいしそれはあの時から変わってないはずだ。でも、
「今更どんな顔して会えばいいんだよ」
そんなことを考えていると後ろから呼び止められた。
「そこの白髪のあなた」
このよく通る透き通った声には聞き覚えがある。
桐生のやつしくじったな?
「はい、何か御用ですか?」
俺は観念し、わざとらしく振り返る。
すると柊は驚いて目を見開く
「久しぶり、だな。朱音」
気づけば俺はその名を口にしていた。




