第三話 戦隊長剣崎紅
突如として現れたゴブリンの増援。さらに急に様子の変わった剣崎。その隠された秘密とはー?
「奴らの相手は俺がする」
桐生は今、目の前の光景に疑いを隠せない。弱いよそ者だと思っていた男がたった今、自分達では立っているのがやっとのような殺意を放つ格上の魔物を相手に臆することなく立ちはだかっている。何より、私たちを守ろうとしてくれている。困惑と期待が入り交じった様子でただひたすら彼を...剣崎紅を見ていた。
まったく、面倒なことになった。魔物にはレートと呼ばれる危険度が種族別または、個体別に付けられていて、FからAレートそしてSレート、最高レートのSSレートが存在する。ゴブリンエリートは単体でB、もしくはAレート、ゴブリンロードは...Sレートだ。普通の隊長であればゴブリンエリート4匹の時点で死んでいたかもしれない。でも、俺は一味違う。
「相手が悪かったなゴブリン共。俺じゃなきゃ、作戦は大成功だったろうぜ」
ゴブリンロード達は不機嫌そうに喉を鳴らす。ある程度の知能はあれど、人間との意思疎通を測れるほどの言語能力は持ち合わせていないのだ。
「すぐに終わらせてやる」
そういって俺は、親指を少しかみ切り、傷口を作る。そして、
「スキル『血製武具:血刀』」
血液で刀を創った。俺の異能は『血操者』、血液を自在に操る。自分の血はもちろん、他の生物の血も操れる。ただ、生きている物相手だと集中しないとできない。そして俺は刀を構える。すると、戦鎚持ちのゴブリンエリートが咆哮を上げながら突撃してきた。
「危ない!」
桐生も加勢しようとするが、魔力の残量がほぼない。雑魚狩りに使いすぎたか、と歯噛みしながらも敵は待ってはくれない。見守るしかなかった。
そして戦鎚が剣崎の頭上に振り下ろされる、が刀を使って受け流し、戦鎚は空を切り、地面に叩きつけられた。
「お前らはゆっくり休んどけっての。今は俺に任せろよ」
すると剣崎は刀を構え直す。
「桜流刀剣術『桜牙』」
そしてゴブリンエリートを戦鎚ごと真っ二つに切り伏せた。
「遅せぇなぁ。亀かと思ったぜ。」
桜流とは、《MAA》の前身、魔術軍の時から存在する御三家と言われる優秀な魔術師もしくは異能力者を輩出してきた名家に伝わる流派の1つで、天魔家、速さと一点火力の天魔流、北星家、力と勝利への渇望の北星流、そして桜家、技と心の強さの桜流、の3つが存在する。剣崎も桜流の使い手のようだ。
すると後ろから状況を見ていた弓使いと大剣使いが駆け出した。弓が牽制し、その隙をついて大剣が切り込む。まるで人間のような見事な連携。でもそれも、剣崎紅という男の前では通用しない。ギィン!ギィン!と金属のぶつかり合う音が辺りに響く。始めは互角に見えたが、剣崎が徐々に押し込んでいる。不利を察したかゴブリンエリートは1度引き、体勢を立て直す、しかしその判断が命取りとなった。剣崎は引いたと同時に前に踏み込み、居合のような構えをとる。
「桜流刀剣術:『春風』」
すると刹那、剣崎の姿が消え、変わりに突風が吹いたかと思えば、ゴブリンエリート2匹の体が切り刻まれた。
「雑魚は引っ込んでろ」
そう言い、刀に着いた青紫の血をはらい落とす。
「さあ、あとはてめぇだけだ。」
そういってゴブリンロードに刀を向ける。ゴブリンロードは怒りを露わにして剣崎に向かって魔法を唱えだした。ちなみに魔法と魔術の違いは単純に人間が使うか否かにあり、魔物達は独自の言語を用いて魔法を発動する。そして詠唱が終わり、幾つもの火の玉が、剣崎に襲いかかる。
「桜流刀剣術:『桜吹雪』」
しかし、剣崎の無数の斬撃により、全て撃ち落とされた。そして激しい攻防の末、ゴブリンロードの頭上には巨大な火の玉、いや、もはや隕石とでも言うべき魔法が剣崎に向けられていた。
「最高火力か、いいぜ。ノってやる」
そう言って剣崎は刀を血液に戻し、右手を上に上げる。すると、血液が剣崎の周りに集結し形を成していく。まるで、大きな血の雲のようだった
「散れ。スキル『血ノ雨』」
両者同時に技をぶつける。剣崎の一つ一つが弾丸のような血の雨と、巨大隕石がぶつかり合う。そして...隕石は血の雨に穿たれ、ゴブリンロードの体を貫いた。
「グルァァァァァァァァ!」
そして、ゴブリンロードは断末魔と共にその場に崩れ落ちた。
「これは...一体...?」
唖然とする桐生の元に剣崎は汗を滲ませながら駆け寄ってきた。
「大丈夫か?怪我は?」
俺の問いかけに戸惑いを隠せない様子の桐生が答える。
「あ、いえ私は特に何もありません。桜花が重症ですが命に別状はありません。薫姉は気絶してますが、みんな無事です。」
「そうか、良かった〜。ならとりあえず火村に応急処置を...」
その時後ろから殺気を感じた。振り返り、ギリギリのところで『血刀』で受ける。殺気の正体は...さっき倒したはずの大剣のゴブリンエリートだった。
「チッ、仕留め損ねてたか!」
そう言って再度切り伏せる。見事に首を切り落とした。しかし...ゴブリンエリートは倒れない。
「!?...首を切り落としたのに?!」
すると、後ろで倒れていた双剣使いと戦鎚使い、弓使い、ゴブリンロードもゆっくりと起き上がる。
「どういう事ですか?!さっき死んだはずじゃ...」
さすがの桐生も冷静さを失っている。しかし剣崎は多少表情を曇らせるが、動じない。この能力には覚えがある
「俺の知り合いにも、死体を操るスキルを持つ異能力者がいたな」
「!...では、これはその方の仕業で?」
「いや、そいつの異能力のメインは魂の操作だ。肉体を伴う支配は同時に何体もできるもんじゃないと言っていた。それに...そいつは何年も前から行方不明だ。」
「え、じゃあ、新手...ですか?」
行方不明、という言葉に多少表情を曇らせながらも別の可能性を示した
「ああ、そうだと思いたいな」
桐生もだいぶ冷静さを取り戻してきた。するとゴブリンたちの後ろに人影が見えた。そいつは黒のローブを羽織り、フード深々と被っており、顔は分からない。
「やつがそうでしょうか」
「いや、うっかり森に迷い込んだのかもしれない。」
「...この状況でそれ言います?」
桐生の冷めた目が痛い。桐生は魔力を練り直し、俺はその男に聞いてみる。
「おい、そこのローブの人!無関係ならここは危ないから早く逃げた方がいいぞ!」
すると、その男はボソボソと喋りだした。
「我らは、魔神王様を敬愛し、真祖として崇めるものなり。」
一瞬、何を言っているのか分からなくなった。
魔神王を敬愛している?真祖として崇める?何を言っているんだこいつは?
「魔神王様の復活の時は近い。来るときに備え、我々は準備を進める必要がある。」
つまりは魔神王側に組みする人間ってことか。するとその男はゴブリンロード達を連れて去っていく。
「おい、まさかこのまま帰れると思ってんのか?」
俺は容赦なく剣を向ける。魔神王に組みする時点でそれはもう人類の敵だ。捕縛して情報を聞き出してやる。
「いいのか?大事な仲間を見捨てることになるが」
すると先程殲滅したゴブリンの群れが再び起き上がり、桐生や、倒れている火村に襲いかからんとしていた。
「ッ!...てめぇ、一体何者だ?」
すると男はゆっくりと振り返った
「我らは《影の箱庭》。あとは自身の目で確かめてみよ」
そう言うと男はゴブリンロードとゴブリンエリートを連れて森の闇に消えた。
「チッ、何がどうなってんだよ...」
その後ゴブリンの群れを掃討し、俺たちの初任務は終わった。
それから宿舎に帰宅した一同は、緊急会議を開いていた。宿舎の共用リビングの丸机。桐生、火村、出雲、俺、椿野、神門の順で座り、何となく重々しい空気の中、初めに口を開いたのは桐生だ。
「まずは初任務お疲れ様でした。しかし、話さなければならないことはいくつかあります。」
みなに緊張が走る中俺が神妙な様子で口を開く。
「それって...重症だった火村よりも長いこと寝てた出雲のことか?」
「それ今言わないでよぉ!」
「ま、まあまあ!薫姉も...すごく眠かったのかもしれませんし!」
「芽衣ちゃんのフォローが悲しい!」
おっと桐生がキレそうだ。閑話休題。
「そんなことより、とりあえずは剣崎さん、あなたのことです」
そんなこと?!と、ガーンとなっている出雲を他所に話を進める。
「今回のあなたの戦いぶり、とても二等級には見えませんでした。それにあの判断力で少尉というのも納得いきません。」
桐生が疑いの目を向ける。すると今度は椿野からも指摘が上がる。
「あの、芽衣もそれは思いました。私異能『観測者』は、動体視力なんかも向上するので大抵の動きは見えるのですが、剣崎さんの剣技は全く見えませんでした。」
「わ、私が助けようと、動く、前に、動いてた」
「私も、気づいたら抱えられてたわぁ」
続いて神門と出雲も違和感を口にする。火村は、そっぽを向いて黙っている。まあ、散々見下して、大見得きってこのザマだ。悔しい気持ちも分からなくは無い。
にしても...これは誤魔化すのは無理だな。
「はぁ、まあ、お前達には話すつもりだったしな。」
そう言って俺は隠していたことを打ち明ける。
「俺の今の等階級は仮のもんでな、本当は...特等大佐だ。」
その時全員が目を見開く。驚きのあまり立ち上がる火村。驚きのあまり、いや、ド天然すぎて事態が飲み込めない出雲。そして桐生がまくし立てるように言う
「特等大佐?!大佐なんて前線の実質最高位じゃないですか!それに特等級って...《MAA》全体で見ても数人しかいない大戦時の英雄ですよ?!」
そう、《MAA》には特等級は第二次人魔大戦の英雄である『七聖』の7人と数人のみ。そしてそのほとんどがまだ何かしらの形で健在だ。
「ああ、俺はその中の1人になるな」
すると神門がボソッと喋る。
「《鮮血の桜》...!」
「桃ちゃんそれなあに?」
すると神門は別人のように喋りだした。
「!!大戦の七聖にはそれぞれ二つ名が着いてるの!《不死鳥の天女》とか、《疾風雷神》とか、《鉄血軍神》とか、その中でも最強と言われたのが《鮮血の桜》!彼は血を自在に操り、武器を作ったり、身体能力を爆発的に上昇させたりして!その人が戦ったあとは、敵の血飛沫が舞い散る桜のようになることから《鮮血の桜》って呼ばれるようになったの!」
するとハッと我に返った神門が恥ずかしそうに縮こまってしまった。
「まあ、俺がその《鮮血の桜》だな」
恥ずかしながら、と頭をかきながら言う。すると神門がまた我を忘れた。
「!!本物なの!?すごいすごい!...あ!」
またしても我に返り、椿野の後ろに隠れてしまった。
「すみません、桃寧ちゃんは七聖の大ファンなんです。というか私もファンですし!本物が同じ部隊だなんて夢みたいです!」
そう言われると照れてしまう。とは言っても俺に英雄なんて言われる資格はないのだが、
「なるほど。それならあの強さも納得がいきます。」
「でも、どーして仮の等階級なの?」
そこで俺は自身の醜態を口にする。
「実は魔神王を封印する時に魔神王に呪いをかけられてな...魔力やスキルの七割を封印されたんだ。」
そう、俺が油断したせいで、呪いを受けた。そしてその俺を庇ってアイツは―
「え、封印されててその強さ?どれだけ規格外なんでしょうか...」
「剣崎さん?どうかしたんですか?」
椿野に声をかけられ我に返った。うっかり考えごとをしてしまった。
「いや、なんでもない。まあ、みんなそういうことで俺は今は《鮮血の桜》ではなく、ただの戦隊長だ。そのつもりで接してくれると助かる。」
みんなが納得してくれそうな時、火村が険しい表情で俺を睨みつける
「あんたさえいなければっ...!」
「桜花!どこに行くんですか」
「今日は疲れたからもう休むわ。それから...あんたの事はまだ認めた訳じゃないから」
そう言って出ていってしまった。あの態度、何かわけがありそうだな。何はともあれ今回はこれで無事任務完了だ。さて、これからどうなるのやら。
そして不審に動く影がまたしても第七戦隊に立ちはだかろうとしていた。




