第三十二話 裏切りの正体
マモンと再び対峙した桜隊。そんな時、裏切り者がついに正体を現わす────
愁翠がその場に倒れ、十四郎は、冷淡にそれを見つめる
その時、彼の脳裏には愛する人、尊敬する義兄、そして自分をまるで本当の兄かのように慕う義妹との、幸せだった記憶が呼び起こされるが、すぐに霞みがかってはっきりと思い出せなくなる。
──────はたして、私の愛した人達は、どんな顔で笑っていたのだろうか
その時、十四郎の後ろから叫び声に混じり青い炎が襲いかかる
「どうして!?あなたは愁翠さんを慕っていたんじゃなかったの!?」
十四郎は、淡々と告げる
「もちろん、義兄として先立として、尊敬している。それは今でも変わらない。」
「だったら────グハッ!」
その時、十四郎の足元から黒鉄色の触手が飛び出し、朱音を弾き飛ばす。
「でも私は、目的のためであれば手段は問わない。」
「たとえそれが、敵の肩を持つことであっても、ですか?」
瑛介が歩み寄る。その時、朱音になにか耳打ちしたと思ったら朱音は、森に向かって駆け出した。インカムは島中に電磁阻害によって使い物にならない。直接他の班に伝えに言ったのだと、十四郎は簡単に見当がつく。しかし、
「...君は確か支援系の異能力だろう?彼女なしでは接近戦で私には勝てな───」
すると、どこから出したのか、瑛介の手には日本のものにしては矛先が少し大きめの、白銀に輝く槍が握られていた
「僕の異能力はご存じですよね。『先導者』は、将棋の駒モチーフの兵を召喚したり、味方を駒に見立てて支援をするスキルです。ので、僕は指揮に徹するのが1番いいんですが、やはり頭の回るものは、対集団戦においてはまず指揮官を狙います。だから、そういう奴らを返り討ちにするために、僕自身も戦えるようにしたんです。」
すると瑛介はフッと笑う
「指揮官は戦えないと、誰が決めたんですか?」
そして槍を片手に踏み込み、十四郎に刺突を繰り出す
(早い...!桜流と天魔流をかじっているのか。かなりの熟練度だな。それにこの感じ...)
「《古代遺物》か」
瑛介は、槍を構え直す
「ええ。僕は自分で攻撃するスキルがないので、こっちで攻めさせてもらいます。」
すると、瑛介の槍が魔力を帯びる
「神槍『天穿の槍』」
槍の矛先が3つに割れ、十字架をもした白銀の十文字槍という本来の姿を現した。
「あなたは僕が、ここで止める。」
ジリジリと、お互いに睨み合う。するとマモンが十四郎に声をかける
「おいおい、いつまでてこずってんだよ。さっさと終わらせろ。仲間だから手は出せねぇってか?」
すると、十四郎はマモンを思いきり睨め付ける
「...貴様には関係ない。」
するとマモンは、ゲラゲラと下品に笑う
「いいのかー?そんな口聞いて、大事な嫁と妹がどうなっても知らねぇぞー?」
少し距離の遠い瑛介は、マモンが何を言ったのかは聞き取れていない。しかしその言葉を皮切りに、十四郎の雰囲気がガラリと変わったのは明らかだった。息をするのも忘れるほどの、鋭い殺気。瑛介は、相手を改めて認識する。
(これが、世界最高峰にして最強の異能力者たち、その第七席...!様子見なんて言ってられない...先手をとる!)
そして瑛介は勢いよくかけ出す。勢いそのままに、無数の突きを放つ。しかし
「な...!?」
十四郎の体には、傷ひとつついていない。
「そういえば、私の異能は話していなかったな。まあ、大したものでもないのだが」
するとつい先程朱音を弾き飛ばした黒鉄色の触手がまたしても出てきて、瑛介に襲いかかる
「この程度、どうってことはない!」
襲い来る触手に、槍を振り下ろす。しかし、
───カァァン!
瑛介の槍は、甲高い音と共に火花を散らし、大きく弾かれる
(見た目に反して硬い!ただの触手じゃなかったのか!)
瑛介は、触手になぎ払われ大きく後ろに飛ばされる
「私の異能力は『錬金者』。物体を加工、操作する異能だ。そういうと聞こえはいいが、物体に作用するのは条件が多かったり、無から生み出すことはできないなどと、使い勝手の悪い異能だ。使い方次第で化ける、とも言えるがな」
すると十四郎は、刀を構える
「異能を使う以上、ここからは私も本気だ。出来れば殺したくはないが...」
瑛介が、苦悶の表情で奥歯を噛み締め吠える
「舐めるな!ここで引くわけがないだろう!」
槍を持ち、十四郎に突進する
「私はな、体内の筋組織に至るまで操作することが可能だ。このように、身体を鋼鉄のごとくすることも容易い。単純な物理攻撃は効かないよ」
しかし、瑛介は攻め手を緩めない
「忘れていませんか?これは《古代遺物》ですよ」
すると天穿の槍の矛先に魔力が収束する。
「『天穴』!」
《古代遺物》には、個人に宿る異能力のように技能が備わっていることがある。神槍『天穿の槍』に備わっているのは『魔力の超圧縮』である。
収束した高密度の魔力を刺突と共に解放する。
「これなら多少はダメージが...!?」
しかしそこにはほぼ無傷の十四郎がたっていた
「確かに魔力そのものによる攻撃は鋼鉄では防ぎきれない、その着眼点は素晴らしい。であればどうするか。簡単だ。対魔力に特化した素材を使えばいい。」
すると十四郎は懐から手のひらほどの鉱石を取り出した。
「それはまさか...ミスリル鉱石...!?」
魔術やスキルを放った時や、魔物、魔族の死骸から空気中魔力が僅かに漂うことがある。これを『魔素』と呼び、この魔素の濃度の濃い場所で稀に発見される鉱石がミスリル鉱石である。この鉱石は、鋼鉄より少し硬い程度の硬度だが、魔力を吸収するという特性がある。故に魔導具制作などに使用される鉱石だ。オリハルコンと呼ばれるダイヤモンド以上の硬度もあり、魔力を吸い込み無効化する世界最強の希少鉱石に比べれば含有量は多いが、それでも鉱脈で年に数キロ取れるかどうかと言う希少鉱石である。
「よく知っているな。そう。これはミスリル鉱石。今しがた私の身体をこれに変質させた。故に先の攻撃は吸収した。」
すると十四郎は、手元のミスリルを変質させていく。
「悪いが、これ以上時間はかけられない。終わりにしよう。」
本能的に危機を感じ取った瑛介は、咄嗟に飛び退こうとするが、体中に黒鉄の触手が絡みついて身動きが取れない。
「チッ...!やられた!」
十四郎は技の準備を終える
「スキル『不等価錬金:魔鉱槍』」
ミスリル鉱石で生成された数本の槍が、瑛介の魔力による防御を無視して貫く。そしてミスリルの槍はボロボロと朽ちて崩れた。
「物体の質量を無視して無理やり変質させる技だ。威力はあるが、物体はすぐに朽ちて無くなる。まあ、一撃必殺には丁度いい技だよ。」
瑛介はその場に頽れる
「ま、て、まだ...」
そして意識を失い、倒れ込む。
「やっと終わったかよ。ったく時間のかかるやつだなぁ。さっさと行くぞ」
マモンに連れられ十四郎は踵を返す
「...すまない」
マモンは愚痴をブツブツ言っていて、十四郎の独り言は聞いていない
「でも私は...やらなければならないんだ」




